第1話

文字数 772文字

 昼休み。窓際一番後ろの席とその前の席。
 俺と加藤は最高の立地で昼飯を食べていた。
「お前さ」
「おう」
「朝何で起きる?」
「何で、って、目覚まし時計だろ」
「それがさ、俺目覚ましで起きられないんだよ」
「は?」
 目の前で白飯を頬張りながら、意味不明なことをのたまう加藤。
「あ、その卵焼きちょうだい」
「お、おう」
「いやさ、朝日の出とともに目覚める、みたいな人もいるじゃん?」
 卵焼きを爪楊枝でつまみながら話す加藤。
「お前はそうなの?」
「違うけど」
「違うのかよ」
 まあそうだろうな。そんな丁寧な暮らしみたいなのしてるイメージないもん。とは流石に言わないけれど。
「俺さ、いつもチョコに起こしてもらうんだよね」
「チョコレート?」
「いや違う違う、猫」
「猫?」
 チョコは犬だろ、なんていうのも偏見だろうか。
「そう。起こしてくれんの」
「どうやって?」
「腹に飛び乗ってくんの」
「アグレッシブだなぁ」
「結構痛いぜ」
「だろうな」
 朝。痛みにのたうつ加藤を想像すると笑えてきた。
「そのトマトもちょうだい」
「いいけど」
 また爪楊枝でトマトをさらう加藤。
「たまにさ、股間にも来たりするわけ」
「おおお」
「壮絶だろ」
「いやもうそれ普通に目覚ましで起きろよ」
 突っ込まずにはいられなかった。
「あ、あとそのウィンナーも」
「それはだめ」
「しれっともらったらいけるかと思ったがダメだったか」
「バレるわ」
「くそー」
 窓の外。青い空。
「いい天気だな」
 思わず呟いてしまった。
「突然なんだよ」
「これなら、朝日と共に目覚められたりして」
「やっぱり俺はチョコのアグレッシブ目覚ましだな」
「それ本当の話なのか?」
「こんなしょうもない嘘つくわけなかろうが」
「弁当かっさらうための与太話かと」
「チョコの話はホント」
「かーっ」
 眩しい光に照らされながら、こうして貴重な昼休みは、だらだらとすぎていくのだった。
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