文字数 3,129文字

【レイヴン】
カラスの一種で、別名【ワタリガラス】
そのレイヴンとして生きている一匹のカラスは、今現在、とある人間を殺したが、レイヴンとしては、別にどうって事も無い、人間を崖に誘導したが、勝手に人間が付いてきて、人間が勝手に崖から滑り落ちただけだ。
レイヴンには、その人間がどうなろうと関係ない。
そもそも、その人間は、レイヴンから見て、嫌な人間だった。
自分が好きだった人間、二人を殺し、生き残らせた人間の少女の前で、さも良い人のように振舞っていたからだ。
少女に名前はない。
森の中にある家で、人里離れてひっそりと暮らしている。
本来なら、両親と三人暮らしをしているはずだったが、少女が赤ん坊だった時に、レイヴンが今、殺した男が、その少女の両親を殺したのだ。
理由は、男が女に惚れたが、女には好きな男がいて、その男と結婚し、子供を産んだからだ。
勝手に男は嫉妬を募らせて、自分を選ばなかった女を殺し、同時に一番憎たらしい男も殺した。
子供が生まれたばかりの夫婦だったが、男は残った赤ん坊を育てる事にした。
勝手に、死んだ母親と同じ名前にし、三歳くらいまでは傍で面倒をみていた。
それ以降は、ちょくちょく食料や衣料品を届けに、その家に尋ねた。
子供には、両親は里の人間から嫌われていたから死んだと話し、自分はその近くの里に住んでいると話した。
実際、両親はその近くの里に住む人間から嫌われていた。
だから、森の奥に家を建てて暮らしていたのだ。
子供が里に男を訪ねた所、その夫婦の子供と分かると、ここから今すぐ出ていけと怒鳴り、その場所から追い出した。
男は近くで見ていて、その光景がとても愉快だった。
夫婦がこの里から嫌われるようにしたのも、この男が嘘の噂を流したせいだ。
女と誰にも邪魔されずに暮らす為、自分だけが理解者だと、思わせたかったのだ。
しかし、それは失敗してしまったが。
男は自分を裏切り、別の男を愛した女が許せなかった。
それで、娘くらいは、好きにさせてもらおうと考えたのだ。
娘はすっかり人間嫌いになったが、男の誤算は、男にも懐かず、一匹のカラスにだけ心を開いた事だった。
感謝はしてくれるものの、自分の思い通りに育たなかったのだ。
そこで男は、カラスを殺そうと考えたが、逆にそのカラスに殺された…という運命を辿った。



十三歳になった少女は、色白の肌に、瞳は黒に近いダークブラウンだが、遠めからだと黒い瞳にしか見えない。
黒髪は腰まで伸びている。
髪を切ってオシャレするという概念が無い為、邪魔だと思ったら、ナイフでバッサリと切っている。
魔女と呼ばれてもおかしくない恰好をしている。
両親の事は、知らずに育ったが、少女は占いなどを好み、家にあった物を使い、毎日、色んな事を占っている。
里の人からは、魔女の子供と呼ばれているが、少女には魔女は悪い者とは思えなかった。
確かに悪魔やそういった者達は怖い存在と思っているが、占い師でさえ、魔女だと言われているのを聞いて、それは違うと思っている。
不思議な力が宿っていると、どこか恐れられていたという母親。
それが本当なら、自分もその血を継いでいるのだろうと、思っている。
今は恐れられ、忌み嫌らわれているなら、むやみに里へ近付くことはしないでいる。
家で一人、暮らしていても、全く寂しさは無い。
寂しいという感情がない訳ではないが、最初から一人だった為、誰かが傍にいるという感覚が分からないのだ。
たまに男が訪ねてきて、名前を呼ぶが、昔から少女にはそれが自分の名前とは思えなかった。
読み書きはなんとかその男から教えてもらったが、家にある本などを読んでいるうちに、それは母親の名前だと気付いた。
自分が生まれてすぐ、両親は殺されたと聞いている。
だから自分には名前が無いのだ。
それでも自分以外の人間は、ここにはいない為に、名前が無くても困る事は無い為、そのままで暮らしている。



レイヴンは、そんな少女の元へと、戻って来た。
少女はそのカラスの事を、家にある物から、レイヴンという名前の生き物であると知った。
なぜだかこのレイヴンだけは、信じられる。
「おかえり、レイヴン」
レイヴンは、返事などしないが、なんとなくその言葉の意味は、理解しているようだ。
少女の顔を見た。
動物は、目を合わせてくる奴は好きではない。
人間とは違うから、しょうがない事なのだが、ジロジロと見つめてくる者は敵のように見えていた。
ただし、少女だけは黒く見える瞳や、髪の毛がどことなくカラスのようで、なんだか好きだった。
母親にも似ているし、ちゃんと父親にも似ている。
二人の良い所を取った見た目をしていて、オシャレをしたら、その輝きはまさに、勝てるものはいないだろう、という見た目だ。
今はボサボサ頭に、化粧や装飾品など付けてないが、それでも内面からなのか、純粋無垢な所が外ににじみ出て、それなりに美少女と呼ばれてもおかしくない見た目だ。
着飾るオシャレというものをしなくても、充分美しい少女ではあるのだが、愛嬌も無ければ、表情も乏しい為、パッと見は、忌み嫌われる見た目なのは間違いない。
レイヴンは、人間ではない為、人間の価値観で物を見る訳ではない。
カラスとして、人間の少女と認識して、少女の元へ一緒にいるが、レイヴンからしてみれば、少女の見た目は好きだった。
逆にこの少女以外の人間は好かないので、この少女は、レイヴンにとって、珍しい人間だった。
元は、少女の両親がレイヴンに対して、餌をくれたり、雨宿りさせてくれたりと、居場所を提供してくれたから、「ワタリガラス」としては、本来森林には、生息していないのだが、この一羽だけは、珍しくここで生息しているのだが、そんな両親の血を継いだ少女は、大切な人間だ。
だからこそ、男の存在は憎たらしかった。
“消えてくれて、せいせいした”
レイヴンはそう思った。
家の中でのレイヴンの位置は、昔から変わらない。
大きな本棚の上にある、木の枝で作った自作の巣だ。
そこで体を休めている。
少女は、紙に自分で考えた物語を書いている。
家にある本しか読んだことは無いが、本を読みたくても、里では本を売ってくれないので、仕方なく、自分で勝手に物語を書いている。
自分で書いて、自分で読んでいる。
自分がそれで良ければ、それで良いのだ。
誰に読ませる訳ではない為、好きに書いている。
知っている世界は、ものすごく狭い為に、分からない所は想像で補っている。
または、自分で一から世界を作り、この世に無いものでも、想像を膨らませてあったら良いなというものを作り出し、物語の中ではそれをつかっていたりする。
そんな感じで、自由に発想して書いているのだ。
「あぁ、レイヴンと話が出来る物があれば良いのに」
そう独り言を呟いた少女は、レイヴンを見た。
「今日は、外でどんな事をしてきたの?」
その質問に、レイヴンが答える事はない。
「楽しかった?辛かった?」
その言葉にも答えない。
「じゃあ、嬉しかった?」
その言葉には、鳴き声を出した。
「そっか、楽しかったんだ、良いなぁ、羨ましい」
少女の家に通う男がレイヴンによって殺されたとは知らず、少女はレイヴンに言った。
レイヴンと少女は、人間とカラスである以上、言葉を交わす事は出来ないが、相手の事は何となくではあるが、意思疎通が出来た。
少女は特別な力が宿っているようだった。
「レイヴン、あなたが嬉しいなら、私も嬉しいよ」
レイヴンは少女を見つめた。
レイヴンの羽根と同じような瞳が、レイヴンを見つめている。
“あの男は、自ら落ちて行っただけだ、私は何もしていない”
レイヴンも少女を見つめた。
少女は不気味な笑みを浮かべ、「ありがとう」と呟いた。
レイヴンはその言葉の意味を知らないが、悪い言葉ではないと受け取った。

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