「いいね」依存症なんて、もう古い!! これからは「死ね」依存症!!

文字数 1,845文字

「私自身にも、何故、そうなるか、理由は判らないんです……。でも、子供の頃から、こうだったんです」
 参考人と称する事実上の犯人は、涼しい表情と落ち着いた口調で、そう語った。
「私をいじめた同級生も……私を叱った先生も……次々と怪我をしたり病気になった。中学になって体育会系の部活に入ったら……半年で、部が崩壊しましたよ。顧問や先輩が、次から次へと……」
 何の感情も感じられない。冷静で理性的だ。……自分が圧倒的な強者である事が、あまりにも「当り前」であり続けたが故の冷静さなのかも知れない。
「どうやら……私に悪意を抱いた人間が居たら……その『悪意』が何十倍・何百倍にもなって、その人自身に返される。そして、それは、自分では制御出来ない、無意識の内に発動し続けている『能力』だ。……そう思うようになったんですよ」
 もし、こいつが言っている事が本当なら……俺だって、今のこいつみたいなクソ野郎にならずに済む自信は無い。裁かれるべきヤツなのに、裁く為の法律も、裁く手段も無い。
「最初は恐くなりましたよ。そして、他人との対立を避けるようになった。でもね……何をやっても無駄だった、私の能力は……『軽蔑』も、逆に『嫉妬』も……相手に返すんです。そして……私の力は……どんどん強くなっていった」
「や……やめろ……やめて……」
「あの……刑事さん……。私に対して『このクソ野郎、死んじまえ』なんて思わない方がいいですよ」
 俺の体は……取調べ室の壁から生えた大小さまざまな……無数の腕によって拘束されていた。
 ある腕は、頭を……ある腕は喉笛を……別の腕は……金玉や竿を……握り潰そうとしていた。それどころか……もっと酷い、口に出すのも憚られるような真似を目論んでいるらしい腕さえ何本も有った。
 この国の多くの人間が使っている、あるSNS……そこに、ある日、あまりにも変な機能が追加された。
 「死ね」ボタンだ。
 気に入らない事を言ったヤツに「死ね」を送る事が出来る……そんなロクデモない機能だ。
 SNSでの「炎上」は更に激化する。
 誰もが、そう予測した。
 だが……「炎上」が多発したのは、最初の数日だけで……その機能が追加されてから、半月後には、ある噂が広まった。
 「呪詛返し」……そう呼ばれる噂だった。
 どうやら、この世界には、誰かが自分を「呪った」場合、その「呪い」を何倍にもして、相手に返す事が出来るヤツが居る……そして、その「呪詛返し」の能力を持つ者に、うかつに「死ね」を送ったとしたら……。
「お前……何のつもりで、こんな真似をした?」
 そして、「呪詛返し」の能力の持ち主は……少なくとも1人、この世界に実在した。
 若くして、そのSNSの運営会社の重役になった男だった。
「判りませんかね?……私には、友達も恋人も居ないんですよ」
 待て……何を言っている?
「友情も恋も同格の相手との間に成立するものだ……。けど……私にとっては、身の回りの人間は……誰であれ……いつ自滅して死んでしまうか知れたモノじゃない……ひ弱で愚かな下等生物だった」
 ようやく、この男の顔に感情が浮かんだ……。微かなものではあるが……悲しみと自嘲。
「けれど……あの『死ね』ボタンを実装して、どうやら、私のような能力を持つ者は……思っていたより多い事が判ってきた……」
「ふ……ふざけんじゃねぇ……」
「ようやく……ようやくなんですよ……。貴方達、下等生物からすれば、私のやった事は大量虐殺でしょう……。しかし……私が、それを、後悔し……自分の罪の深さに恐れ(おのの)く為の『人間性』を得る事が出来るのは……私と同じ『呪詛返し』の能力の持ち主だけで構成される社会……それが実現してからなんですよ」
 あの「死ね」ボタンが出来てから……ほんの半年で、この国の人口の三分の一が死に絶え……その大半が「不審死」だ。
 そして、今も死者は増え続けていた。
 どうやら……訳も判らぬまま人間だらけの世界に放り込まれてしまった「神」は……いつしか「厄病神」と化し……そして、その「厄病神」が最後に求めたのは、自分が蔑んでいる下等な人間どもはいとも容易く得られているのに、当の自分は今まで手にする事が出来なかったモノ……「同胞」だったらしい。
 まるで、あの有名格闘マンガだ……。「地上最強」と言われたヤツが最後に求めたのは……「『壊さない』気遣いなど不要な本気でジャレつく事が出来る相手」。
「どうします? 私に罰を与えたいのなら……更なる『大量虐殺』が必要なんですけどね」
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