大人気YouTuber 61(ロクイチ)さん 独占インタビュー

文字数 2,266文字

 YouTubeチャンネルの登録者が70万人。精錬されたシュールなギャク、本格ミステリーを彷彿とさせる大胆かつ繊細なトリック。若者の間で人気急上昇中の61さんは、『YouTuberらしからぬYouTuber』として動画を投稿し続けている。


            はじめは自己満足でした


「YouTubeを始めたきっかけは単純で、動画を撮りたくなったから。ただそれだけです。完全に自分の趣味でしたね。自己満足(笑)。だからこんなに皆に観てもらえるとは、正直いってまったく予想していませんでした。実際、投稿をはじめてから一、二年は見向きもされませんでした」

 動画のスタイルは、ミステリードラマ的な構成だ。殺人事件を探偵役とワトソン役が解決に導く刑事ドラマの王道ストーリーをなぞり、十分程度の動画時間で収めている。もちろん、これだけの要素で彼がトップクリエイターになったわけではない。アイデアマンといわれるほどの巧妙なトリックや伏線が散りばめられ、視聴者をあっといわせる。さらに、それが一つの動画単体として終わるのではなく、別動画の伏線としても回収されることがある。

「僕は本格ミステリーが好きなんです。綾辻行人先生や京極夏彦先生の作品は、親の影響で小さい頃から読んでいました。それ以外にも、ドラマや映画のような映像作品から影響を受けていますね。実は、YouTubeはこれまでの人生であまり観ていないんですよ(笑)。だから、他の方と違うのは当たり前っていうか、そうなってしまうよなって感じで(笑)。
 あと最近は、海外のアニメ作品を多く観ています。何言ってるか分かりませんけど、部分部分の英単語を聞きとってなんとかストーリーに置いてかれないようにしていますね」

 異色、そして独特な世界観を持った61さんに向けたファン愛は根強い。高評価はもちろんだが、低評価が二桁代で収束しているのは、登録者70万人の規模で考えれば驚異的な数値である。約95%以上の視聴者がグッドボタンを押している異次元の高評価率は、彼が丹精込めて練り上げてきた作品への嬉しいご褒美だろうか。

「ありがたいことに、僕の動画を観て『救われた』とか『死のうとしてたけど、まだ生きてみようと思った』みたいなメッセージが来たことがあるんですよね。いや、『なわけあるか』って。『んなわけあるか』って。思っていますけどね。恵まれていますね。僕は視聴者さんに」


              ファンの力を糧に


 進化し続ける61さんの動画は、著しい。特に最近は、ユニークで実験的な動画の内容が増えてきた。白い画面が三十秒映るだけの動画――これを一週間、同じ内容を投稿し、視聴者の中でも強い関心と興味が集められている。非常にシンプルかつ大胆な動画だが、再生数と高評価の多さは変動していない。

「登録者が増えてきたある時期から、視聴者のコメント欄で動画の内容が独り歩きし始めたんです。悪い意味じゃなくて、むしろこっちが凝った動画を作らなくても視聴者さん達側が勝手に考察してくれるので、楽なんですよね。そういうトリックを含んだ動画を作る必要性もなくなったし。今回も、『真っ白な動画を上げた9/21~27 の間が数年後に太陽暦から消滅するという警告をしている』みたいなコメントがあって、『へぇ~、こんな考え方もあるんだ~』って、こっちが感心したぐらいで(笑)。
 他には、ずっと突っ立ってピースをするだけの動画とか、日の丸だけを映した動画も上げましたね。前者の動画では、『ピースサインは第二次世界大戦時に大英帝国を率いたウィンストン・チャーチルの象徴的なポーズ。これはイギリスが近々戦争を起こす、アフガニスタンの内戦に参戦してくるというメッセージだ』との考察に多くいいねが付いていましたね。
 後者のような政治とか右翼左翼のネタは、ネットの人たちを釣りやすいからやりました。特に深い意味はありません(笑)」


 視聴者に身を委ね、動画の行先を決めてもらう。送り手と受け手の距離が近い、インターネットだからこそ実現できる斬新な作品制作だろう。新時代的で、クリエイターの仕事の軽量化とともにファン同士が作品を押し進めていくのだ。

「僕は適当な画像や動画を投げておくだけでいいですから。最初はね、勝手に内容がどんどん置いてかれるのは嫌だったんですけど、もう止まることのない流れだなって分かって。変に知識があると厄介で面倒くさい。だからそれを利用しようって気持ちを切り替えたら、だいぶ作品制作が穏やかになりました」

 
                気長な動画作りを      


 今後の目標、そして展望について質問すると、「そうですねぇ……」と61さんは困ったような笑みを見せた。

「動画はもちろんなんですけど、本を出したいですね。いつYouTubeが潰れるか分かりませんし、いろんなメディアに顔を出して繋がりを持っていこうと考えていますね。一兎だけでなく、二兎も三兎も狙っていこうかなと。
 YouTube自体は……あんまり。まあ、気長に(笑)。自由にやっていきたいですね。また新しいアイデアとしては、もっと積極的な内容でもいいのかと。『樹液に酢酸混ぜて虫殺してみた』とか、『代々木の日本共産党本部にドローン飛ばしてみた』とか(笑)。今までのストーリー形式からはみだした動画にもどんどんチャレンジしてみたいですね。
 これまでと同じように皆さん同じように喜んでくれると思いますよ。えぇ。きっと」    (記・木下俊樹 撮影・橋岡薫)






 
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