ヨン話 臨兵闘者皆陣列在前(りんびょうとうしゃかいじんれつざいぜん)

文字数 2,569文字

アキラはとっさに後退(あとずさ)りをした。

男の子は右手に持っていた切断された手を

ボトッと、地面に落とした。切断されたその手は黒穢魔(クロエマ)を握ったままだった。

男の子は両手が自由になると

ケンジの首を、

イッキに

ガッ!と

絞め始めた。

「ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐっっっっっっううううううううう、、、、、、、、、」

息を堰き止められた喉の奥からかろうじて聞こえる、『死ぬ!死ぬ!死ぬ!』としか聞こえないその音。

タダゴトではない。

アキラ

の手に、

何かがあたった。

反射的に

ギュッとそれを握った。

「ウッ、ウアオッアァァアアああーーーーーっ!!!!!!!!!ああーーーーーっ!!!!」

とアキラは断末魔の叫び声を挙げると、

握ったものを盲滅法(めくらめっぽう)にぶんっ!ぶんっ!と振り回した。

それはナタだった。

男の子目掛けて振り回す!

振り回す!

アキラは恐ろしさのあまり、

完全に狂った。

ナタを振り回す!

何度も

振り回す!

何度も

振り回す!

ケンジを巻き添えに

男の子を、キリ裂キ殺そうとする。

ケンジは瞳孔が完全におかしくなって、

目の焦点が左右バラバラになっている。

もうあらぬ方向を見ている。

それでもアキラが振り回すナタから

かろうじて逃げている。

よく見ると、

男の子が、

ケンジを操り人形のように

操って動かしているようにも見えた。

ケンジはもう意識がなくなっていた。

「臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前」

と突然、くぐもった声で何かが聞こえてきた。

ケンジにしがみついている男の子の、

あの口のあたりにある目が

グルンッ!と一回転した。

白目からガラス玉のような瞳らしきものがあらわれ、

ジロッと、

声の方を向いた。

女が立っていた。

「臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前」

となおも文句を続けている。

何も動じず、

左手の人差し指を軽く額にあてて、

ぶつくさと

ぶつくさと

ひたすたらに

「臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前臨兵闘者皆陣列在前」

と続ける。

男の子はまた白目になり、

グルッグルッグルッグルッグルッグルッグルッグルッグルッグルッグルッグルッ

目玉が回転すると、

するルルルルルルルルっと

ケンジの上半身からすべりおり、

地面に着いた。

「オッ、オッ、オッ、オェェェェェッッッッッッ!!!!オッ、オッ、オッ、オェェェェェッッッッッッ!!!!オッ、オッ、オッ、オェェェェェッッッッッッ!!!!オッ、オッ、オッ、オェェェェェッッッッッッ!!!!オッ、オッ、オッ、オェェェェェッッッッッッ!!!!オッ、オッ、オッ、オェェェェェッッッッッッ!!!!オッ、オッ、オッ、オェェェェェッッッッッッ!!!!オッ、オッ、オッ、オェェェェェッッッッッッ!!!!」

と叫んだかと思うと

頭がふたつに割れ、

どばどばどばどばどばどばどばどばどばどばどばどばどばどばどばと

吐瀉物が吹き出し、それが地面にこぼれ落ちた。

異様なニオイがあたりに漂った。

男の子は四つん這いになり

よろよろとしていた。

落ちた、切断された手をなんとか取ろうとした。

すると、

女が、額にあてていた人差し指をそこに差した。

女の足もとにはジッと(まと)うように

白い狐が佇んでいた。

女のその指差す行為を見るやいなや、

白い狐はヒュッと風を切った音をさせると

あっという間に切断された手を

口にくわえた。

そして

鋭い牙で

ガブリッと、

噛み(チギ)ッたかと思うと、

ガツガツと噛み砕き、

咀嚼(そしゃく)し、

ゴクリと、

飲んだ。

そしていつの間にか、

また女の足もとに

(まと)うように佇んでいた。

その口には黒穢魔(クロエマ)をくわえていた。

男の子は

よろよろとしていたが、

すぐさま、

ベタベタベタベタベタベタベタベタベタと

這いつくばって、

四つん這いのまま、

走り去って見えなくなった。

……………………………………………………

アキラはナタを手から落とした。

地面にそれは落ちた。

少し正気を取り戻した。

ケンジはその場に倒れていた。

アキラはあわてて、近寄り、ケンジが生きているか確かめた。

息があった。

アキラはケンジの側でへたり込んだ。

女が近寄ってきた。

白い狐もピタリと付いてきた。

女は、

美しい黒髪で、前髪を眉が隠れるあたりでバッサリ真っ直ぐに切っていて、

横と後ろ髪を肩のあたりまで長くしていた。

よく見ると、

美しい少女だった。

真っ白いシャツに黒のプリーツスカートを履いていた。

その目は細長く、黒目が黒曜石のようでキラキラしている。

しかしそれは時に鋭く尖って光る。

肌は透き通るほど白く、

触れることは一切許されない、

貴賓と、

聖と

恐怖と

死が

見え隠れしていた。

真っ赤な小さな、

鬼灯(ほおずき)ような

唇が開くと

か細く、澄んだ声で

こう言った。

「おまえら、

  なにしにきた」

「殺すぞ」

……………………………………………………
黒絵馬(クロエマ)/黒穢魔(クロエマ) 続。
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