第1話

文字数 2,137文字

おねえちゃんとちぃちゃんへ
パパはもうすぐですこの世からいなくなります。お医者さんもママももう、みんな分かっています。これは、どうしようもない事です。
だから最後に、パパがおねえちゃんとちぃちゃんに、どういう気持ちで接していたか、それを簡単にまとめて最後のお手紙としたいと思います。

パパは小学校の頃は漫画家とかになりたくて、中学くらいからは小説家とか映像作家とか、とにかく何か創造的な仕事をしてクリエーターと呼ばれたいと考えていたと思います(平成末の今なら厨二病とかイタイ感じとか意識高い系とか不思議ちゃんとか、いろいろな言葉があるけど、当時はそんな言葉はなかったかな)。まあ、あんまり極端じゃないにしても、その方向性の男子でした。

だから自分の将来像で、きちんと勤め人になって、きちんと家庭を築いているとか、全然イメージができていませんでした。創造的な?クリエイティブな?仕事をフリーランスでやって、自分の創造物でこの世に爪痕を残すような、そんな何か…クリエイター的なものにならなければ、自分の人生に意味なんかないんだ、とか思っていたと思います。それで、貧乏で生活できなくなったらまあふらっとこの世からいなくなるような、そんな人生を夢想していて、30過ぎの自分をイメージしたこともなかったと思います。

だから高校で絵を描いたり映画をとったり、大学で文学部に進んだりしたわけですけど…まあ、今ならよーく分かります。ちょっと不思議ちゃんになりたいだけのハンパ者で、ちっとも本気ではやっていませんでした。

結局パパは、ちゃんとした創作活動をすることも、プロになるために具体的な活動をすることもなく、普通に大学を4年間で卒業して、会社員として就職しました。
で、就職した会社でもいつもなんとなく手応えがなくて、何のために働いてるんだろう、自分の人生に何の意味や価値があるんだろう、なんて考えたり悩んだりしていました。

その後ママと知り合い、紆余曲折を経て結婚し、ついに第一子としておねえちゃんが生まれることになります。
パパはおねえちゃんが生まれる前は、父親になれる自信が全くなくて、子供が子供を育てるようなもんだ、大丈夫なのか?とやっぱり悩んでいたと思います。

でもおねえちゃんが生まれて、2年後にはちぃちゃんも家族になって、生活も考え方もがガラッと変わります。
もう四の五の言ってる暇はありません。働く理由とかそんなもの、とてもシンプルに感じられるようになりました。「一生懸命働かなければこの子が飢える」。人生の意義とか、父になる不安とか苦悩とかはもう二の次。悩んでる暇なんかなくなりました。
とにかく子どもたちと暮らしていると、人生とか生きることって、とてもシンプルで簡単で、そしてとても価値があって意味があることだと、本当に心から思えるようになりました。

おねえちゃんとちぃちゃんの赤ちゃんから幼少期にかけて、パパはちゃんと「父親」でしたでしょうか?ママには、パパにこんなに父親の才能があるとは意外な発見だったと言われましたけど、パパは自分ではあんまり自覚がなくて、とにかくおねえちゃんとちぃちゃんが人として大切なことをしっかりと心に感じて、真っ直ぐに育ってくれるように考えていました。実際は、どうだったろう?

価値も生き方も多様化している今、おねえちゃんとちぃちゃんがどういう人生を歩むのか、想像もできません。子供はいてもいなくてもいいと思います。
でもお父さんは、おねえちゃんとちぃちゃんのおかげで、すっかり10代・20代の頃の悩みや迷いが馬鹿みたいだと思えるようになりました。

パパとママはおねえちゃんとちぃちゃんをこの世に生み出したわけで、これはもうすごい話です。一大事業を成し遂げたわけです。もうこれだけで十分すぎるほどパパの人生に意味がありました。

そして、おねえちゃんとちぃちゃんの根を太くし、深くしっかりと地面に根ざすように育てていく…小学校の頃のおねえちゃんとちぃちゃんにはそういう気持ちで接していましたけど、どうでしたでしょう?小学校のときにそれができれば、あとは自然と大きくなっていくと、パパはそういうふうに考えていましたけど、そうなっていますか?

とにかくおねえちゃんとちぃちゃんが成人して独立できる状況になるまでは、働いて稼いで学校に行かせて、と思っていました…10代の頃と違って、今のお父さんには、それはなんて意味と価値のある人生なのかと、心から思えます。

だから、それがもう叶えられないのかと思うと、悲しい。
パパは少しだけの貯えを残して、もう行かなければいけなくなりました。
でも、きっとおねえちゃんとちぃちゃんの根は、しっかりと大地に根ざしたと思っています。
もうパパがいなくても、絶対に大丈夫。

だから、最後にあらためて書きます。
おねえちゃんとちぃちゃんはパパの宝物です。心から愛しています。
なんとなくピンぼけだったパパの人生は、おねえちゃんとちぃちゃんのおかげで、揺るぎなく意味も価値もある人生に変わりました。
心から感謝します。本当にありがとう。
お元気で。

2019年3月 平成最後の年にパパより
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