第1話

文字数 1,387文字

「誰だよ、すき焼きだって言ったのにナルトをカゴに入れたのは」
「は?ナルト入れるでしょ、バカだね飯塚は。」
 天野と上田とうちですき焼きを食おうって話になったのはなんでだったんだか、もう思い出せない。寒いし、3人とも大学入ってからは一人暮らしだし、みんなで鍋食いたいという話はぽろっとした気がする。4限の後に俺は上田と買い出しに来た。天野はバイトが終わってから合流するらしい。
「高いアイス入れんなよ、予算オーバーするから。」
「じゃあ、でっかいポテチ買いたいんだけど。」
「こないだ食べきれなかったじゃねえか。違うやつにするぞ。」
 何かと脱線しようとする上田との攻防を終え、うちで野菜を切っていると、
「すき焼きのたれ足りないんだけど、どうすんのこれ?」
上田が悩み始めていた。
「検索しろよ、醤油と砂糖でどうにかするんだよ。」
「濃くない?これ味大丈夫なの?」
初心者丸出しのグダグダ感で支度は進み、煮るところまでどうにかこぎつけると天野が来た。
「おつかれー。」
「はい、これ差し入れな。油あげ。」
天野は飲み物と油あげを持って来た。
「すき焼きに入れんの?」
「...?入れるだろすき焼きなんだから。」
天野は理解不能という顔をしていた。すき焼きの具にもいろいろあるようだ。鍋ひとつで異文化交流になるとは思わなかった。もらった油あげも切って鍋に放り込んだ。
 そうこうしているうちにすき焼きが出来上がった。3人でコタツを囲む。とき玉子をときほぐしていると
「飯塚、玉子に七味ふるの?珍しくない?」
と天野にツッコまれた。最近はちょっと辛い方がおいしい気がしてずっとこの食べ方だ。珍しいとは思わなかった。
なんとなく、それぞれがいただきますと言って箸をつけ始める。たまたま学生番号が近くて、偶然近くにいただけの俺たちは、今ではすっかり一緒にいる時間が多くなった。もくもくと手と口を動かす。時折「うまい」と「あったかい」をつぶやくだけのロボットになっていた。出会った頃より口数は減ったが、2人と囲む卓は居心地がいい。やはりできたての鍋はうまい。ひと切れだって肉はたくさん食べたいのに。
「いや肉足りなくないか?」
おかしい。1人8切れずつのはずなのに6切れ取ったところで肉が残ってない。
「春菊とか白菜食べときなよ。もう出かけたくないんだよ俺は。」
上田よ、だから一緒に考えて買い出しをしただろうが。お前は肉と野菜の価値が同等だと考えているのか?
「おいお前ら肉何枚食べた?」
「食べたいだけ?」
「そんなの数えないだろ。」
信じられない。天野も上田も何考えてんだ。
「なんで数えてないんだよバカ。」
「だからナルト買っただろ?うどんもあるじゃん。バカは飯塚だよ。」
 上田よ、それは理由にならないぞ。すき焼きのメインは肉だ。当然各自配分を考えるものである。もういい、俺をバカとか言いやがって。俺はこいつらを信じない。こうなったら家主特権だ。
 具がまばらになった鍋をコンロへ持っていき、冷凍しておいた豚肉とななめ切りにしたナルト、それにうどんをぶち込んで煮る。ネギも実家からめちゃくちゃ届いたのでじゃんじゃん入れた。すき焼き第2弾である。
「俺、肉いっぱい取るから邪魔すんなよ。」
 そう言ったところで聞くようなやつらではないが、2人が選んだ具材はおいしかったしちょっとくらいは分けてやろう。食べ終わったら麻雀もするし、楽しい夜は長い。




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