第1話

文字数 20,234文字

パチンコ屋の喧騒の中一人の男がいら立ちを隠せずタバコを吸いながら貧乏ゆすりをしていた。どうやらハマっているようだ。暫くして台の回転数が1000を超え男は台を叩き始めた。近くにいた店員が飛んでくる。
「ちょっと止めて下さいよ茜さん。先月も台壊したの忘れたんですか!?」
「出さねーからだろうが。このクソ台が!」茜という男は先月も同じパチンコ屋で出なかった台のガラスを割っていた。そのせいで3万円も払う羽目になったが全く懲りてないようだ。
「もういい。帰るわ。」
「今度壊したら出禁ですよ!またのお越しを!」
 ここは東北の地方都市。人口減、少子高齢化に苦しみ不景気でろくな仕事もない。栄えてるのは飲み屋とパチンコ屋位だ。駅前もほとんど人がいない。24歳の茜はそんな田舎で建設作業員として働いていた。建設業の派遣、いわゆる人夫出しだ。社長はヤクザやヤクザ関係者が多い。違法だが捕まったなんて話は聞いた事がない。
茜の働く会社の社長も日本最大のヤクザ組織山影会の関係者でまだ若くしかも茜の1コ下の後輩だった。1年前に人夫出しを始めその時暇をしていた茜を誘った。日給は8500円と普通の人夫出しに比べて1000~1500円程良い。後輩の下で働くのは癪だが給料が良かったので結局働くことにしたという感じだった。それから鳶の手元で足場材を運んだり土方の穴掘りなどして働いた。パチンコで負けた茜はパチンコ屋の近くのサラ金のatmに向かった。
 atmには先客がいた。車で少し待って先客が出ていってから中に入る。とりあえず負けた金額と今日遊ぶ金で5万円借りた。限度額は50万円ですでに25万円借りてる。給料は月20万円程貰っているがパチンコで負けて足りなくなり借りる事が多い。土曜の夜8時。明日は仕事が休みなので飲みに行こうかと思ったがある事を思い付き電話をかけ始めた。
「もしもし、竜二さん?何してました?」「おう、茜か。一発キメてたわ。」
「そうですか。キマってるとこ悪いんですけど俺にもシャブ売ってくれませんか?」
「おう、いいぜ。0.3位で1万円だ。取りに来てくれるか?」
「はい。今から向かっていいですか?」
「おう、いいぜ。」
「じゃ、今から向かいますんで。失礼しまーす。」いきなり電話して売ってくれるんだからいい先輩だな。そう思いながら茜は足取りも軽くウキウキしながら先輩の竜二の家に向かった。途中コンビニに寄り水とストロー付きの飲み物を買った。10分程車で走り住宅街に着いた。普通の一軒家の前で車を止め電話を掛ける。
「もしもし、着きました。」
「おう、今行くわ。」
少しして竜二が上半身裸で出てきた。両腕の7分目から胸にかけて龍の刺青が入っている
。竜二の瞳孔は開いて真っ黒だった。
「お疲れ様です。」
「おう、今女とちちくりあってたとこや。いいネタやぞー。ほれ。」
竜二が2cm幅程の小さいパケを茜に渡す。
「どうも。じゃ、1万円で。またお願いします。それじゃ失礼します。」
「またな。」
茜は胸がハカハカして便意を催したがアパートまで我慢する事にした。
20分後部屋に着くなりトイレに入り大便をぶちまけた。シャブをじらされるといつもこうだ。我慢できないので早速準備して左腕の静脈に打った。物凄い快感が背中から上がってきた。
「うお・・・。」
耐えきれない程の快感の溢れと戦っていると少し落ち着いてきた。力が漲るようだ。猛烈に何かをしたい衝動に駆られた茜はなんと部屋の掃除をし始めた。ゴミを分別し、掃除機をかけ、フローリングを水拭き、乾拭きした
。それだけで2時間近く経ち時間は11時をまわっていた。
その後旨いタバコを吸いそろそろデリヘルでも呼ぶかと思い夜のタウン情報誌を手に取る
。デリヘルのページをめくっていくといい身体をしている女の子を見つけた。顔も良さそうだ。
「もしもし、女の子一人お願い。のぞみちゃん。一時間かかる?別にいいよ。それじゃ頼むよ。」
女の子が来るまで音楽でも聴こうと思いユーチューブでテクノを検索してみた。アシッドテクノが良かった。イヤホンは付けずそのまま聴き始めた。早いテンポの四つ打ちのバスドラがテンションを上げてゆく。あっという間に1時間が経ちちょうどチャイムが鳴った。玄関に行きドアを開ける。
「こんばんわ~。のぞみで~す。」
そこにはギャル姿ののぞみが立っていた。のぞみを見た瞬間茜は覚醒した。無機質な背景の中のぞみだけがリアルで他の事はどうでもよくなった。気付けばのぞみを見つめてボーっとしていた。
「どうかしました?」
「いや、なんでもない。可愛いね。いくらだっけ?」
「1時間で13000円です。」
財布からお金を出して渡した。
「はい、確かに。じゃあお邪魔しまーす。」これから始まる事への期待で童貞の様に心臓はバクバクと脈打っていた。
「ガンジャでも吸わない?」
「え?そういうのはちょっと・・・。」
「いいじゃん。忙しいでしょ?少しゆっくりしていきなよ。」
「えー、じゃあちょっとだけ・・・。」
部屋の奥に行き手早くジョイントを巻いて持っていく。
「いいやつだから。」
ジョイントに火を点け深く吸い込み息を止めてから一気に吐き出す。
「ゲホゲホッ。効く~。はいどうぞ。」
「どうも。」
のぞみも深く吸い込みそのまま吐き出す。
「ケホッケホ。すご~い。こんなの初めて。

そんな調子でで1本吸い終わる頃には2人ともガンギマっていた。
「じゃ、シャワー浴びようか。」
「は~い。」
茜は楽しい時間を過ごした。
のぞみが帰ってからは音楽を聴いたりしていたらあっという間に10時間が過ぎて効き目が切れてきた。血管が細くなってたので水パイプでガンジャをブクブクと吸ってあり合わせの朝飯を食う。美味かった。シャブをもう一発いきたい所だが明日は仕事なのでメモリ1だけ炙る。効き目が切れてきた頃には夕方だったので晩酌をするため近所のスーパーに出かけた。
スーパーでは寿司と氷と緑茶を買った。アパートに戻り発泡酒を開ける。寂しいが一人暮らしも4年も越えてもう慣れた。冷たい寿司を食べると家族との楽しい時間が蘇る。父と母、それに弟。捕まったら悲しませるかなと思ったが茜には麻薬を止める程の決意はない
。キマってたのでスーパーの寿司でも美味しかった。発泡酒を飲み終わると焼酎の緑茶割りを飲み始めた。
明日仕事かと思うと憂鬱になる。後輩の社長のタカシも悩みの種だ。いちおう敬語だが完全に舐めきってる。大体後輩なら入ってくる金を丸々くれても良さそうなものだ。先輩に対する敬意が足りない。会社を変えるべきだろうか。人夫出しやバイトでばかり働いてきたので手元や初歩的な作業は出来るが専門的なのはさっぱりだ。ここらで専門的な職業に就くか。しかし人夫出しだとある程度好きに休みをとれるしあまり態度が良くなくても文句を言われないという利点があった。明るく元気よく前向きになんて無理だ。
「はぁ。」
思わずため息を吐いていた。明日から新しい現場で火力発電所で設備の点検と設備の機械磨きだ。タカシは15000円は貰っているだろう。気が重い。せめて後輩じゃなければいいが。8500円に釣られたのが運の尽きか。発電所の仕事は高崎さんという人に貰ったらしく高崎さんも貰った仕事らしい。ややこしいことだ。何でもシャチハタでいいのでハンコを持ってこいという事だった。発電所の近くの大型スーパーで7時に待ち合わせだ。他にタカシの知り合いの県南のヤクザの会社から1人来るらしい。昨日は寝ていないので早めに切り上げて寝ることにした。
 朝。夏だが長袖の作業着を着て超超ロングのニッカを履きキャップを被った俺はアパートを出た。
6時50分位にスーパーに着いた俺は紺色のカローラワゴンを探した。ちょうど駐車場の真ん中にあった。近付くと大柄なのと小柄なのと男が2人いた。
「おはようございます。高崎さんですか?タカシのとこの茜です。」大柄な方の男が応える。
「おはよう。ハンコ持ってきたか?」
「はい。持ってきました。」
「じゃあいいや。もう1人来るから車で待っててよ。」
「はい。」
5分程すると軽トラが入ってきてカローラワゴンの隣に止まりニッカを履いたツンツン頭が出てきた。怒声が聞こえる。
「ハンコ持ってこいって言っただろう!。」
高崎さんの怒鳴り声が聞こえてくる。ツンツン頭がハンコを忘れてきたらしい。よく見ると軽トラの車検も切れている。人の事は言えないがチンピラ丸出しだ。気を悪くしたのかツンツン頭が唾を吐いた。すると高崎さんが袖を捲り上げた。10分袖の洋彫りのタトゥ
ーが顔を出す。それを見たツンツン頭は頭を下げた。高崎さんがクラクションを鳴らす。付いてこいという事らしい。カローラワゴンに軽トラとワゴンRが連なって走り始めた。5分程すると大帝建設という会社に着いた。高崎さんと小柄な男が車から出て中に入っていったので茜とツンツン頭も車を降り付いていく。
「ここでツナギに着替えるから。適当にあそこから探して。」そう言って部屋の隅を指す。その時部屋の扉が開いた。
「おう高崎。ハンコ持ってこさせたか?」
「城島さん。このツンツン頭、田中っていうんですけど忘れたらしいです。」
「なにぃ?100均もやってねえしな。ま、いいや。明日必ず持って来いよ。」
「申し訳ないっす。明日必ず持ってきます。」田中が答える。
田中という名前らしい。すっかり大人しくなったようだ。俺に話しかけてくる。
「田中といいます。何さんですか?」
「茜でいいよ。田中は何歳?」
「21です。何歳ですか?ハンコ持ってきました?」
「持ってきたよ。あんま怒らせんなよ。あの人達多分山影会の関係者だぜ。」
「うちの社長もっす。まあ1コ下なんすけどね。」
「お前のとこもか。うちの社長も1コ下で山王会だよ。むかつくよな。」
「本当っすよ!車検切れの車で1時間半も走ってきたんですよ!しかもこれから毎日。むかつきますよ。いつか金属バットでぶん殴ってやる・・。」
「はは。」
「冗談じゃないっすよ。」
「わかったわかった。さっさと着替えよう。」そこに高崎さんが話しかけてくる。
「おい田中、お前の軽トラ車検切れてんの?」
「はい。会社の車です。」
「発電所には入れねーな。茜、乗せてってやれ。これからスーパーで待ち合わせして毎日な。」
「はい。わかりました。」
とんだ災難だ。まあ大人しくなったことだしいいか。皆で着替えて近くの発電所に向かう。発電所の入り口では守衛が立っていて守衛所が建っていた。どうやらそこで何か記入するらしい。高崎さんの車が中に入っていき自分達の番になった。車から降り守衛所のカウンターの様な場所に向かうと紙が置いてあった。来訪理由、車のナンバー、会社名、名前を書いて車に戻り発電所の中に入っていく。中は徐行で一時停止が多かった。
大帝建設の社員に連れていかれ会社ごとの事務所でタイムカードを押した。その後休憩所に入ると新規入場の紙を書いた。その時高崎さんと一緒にいた小柄な男の顔が目入った。どこかで見たような・・。
「あの、もしかしてサムワンにいました?」
「え、働いてたけど・・ああ!」
「覚えてますか?半年程いた茜です。国岡さんですよね?」
「思い出したよ。懐かしいね。今どこで働いてるの?」
「後輩のタカシって奴の会社です。」
「ああタカシか。会社始めたんだ。」
「はい。1年位前に。こき使われてますよ。」
「はは。タカシだったら気楽でしょ。」
「まあそうですけど。」
大帝建設の社員が話しかけてきた。
「あんまそういう話すんな。」
「あ、はい。すんません。」
そうこうしているうちに朝礼の時間だった。現場の方の休憩所に歩いて向かう。すでに100人位集まっていた。大帝建設の社員について並ぶ。ラジオ体操をし、お偉いさんの話を聞いて、班長達が今日の仕事を言っていく。朝礼が終わるとグループ毎に集まり茜達の班長、火力設備の社員が話し始めた。
「班長の溝口だ。今日は小型機械設備の一部分解と汚れ落とし、研磨だ。3つのグループに別れてやる。うちの河合と大帝建設の伊藤、村田。同じくうちの近藤と大帝建設の高崎、国岡。俺と大帝建設の佐藤、田中、以上だ。それでは仕事に向かうぞ。」
俺は班長と田中と一緒だった。面倒くさそうだ。安全帯をガチャガチャいわせながら発電所に入っていく。5分程歩くと東側1階のちょっとしたスペースに着いた。そこには既に分解した機械の部品がズラッと並んであった。
「佐藤はここで汚れ落としだ。研磨は後だ。田中は分解した機械の部品運びだ。この台車を押しながらついてこい。」
田中はプラスチックの大きな箱が載った台車を押して溝口についてエレベーターで8階に上がっていった。
1人で作業なんてラッキーだ。初めての作業なのでゆっくりやっても怒られないだろう。茜は黒い油の入ったプラスチックの箱の中で金属のブラシを使い部品の汚れをゆっくり丁寧に落としていった。          
1時間程経って田中がガムテープで数字をあてられた部品を箱にいっぱい入れ持ってきた。「茜さんは楽でいいっすねー。床、あみあみのスケスケででこぼこして台車押しにくいんすよ。」
「こっちは単調な作業で参ってるよ。どっちもどっちだろ。」
「そんなもんすかね。」
田中は銀色のトレイに数字ごとに部品まとめて置いていく。今の時点で15個の大小の部品が載ったトレイが30枚はある。気力を使う仕事だ。
また1時間程経って今度は溝口も一緒に戻ってきた。
「一服だ。ついてこい。」
3階の喫煙所に連れてていかれた。
「奢るのは最初だけだぞ。」
そう言って溝口は喫煙所の隣にある自動販売機で缶コーヒーを買ってくれた。
「「いただきます。」」
2人してそう言って喫煙所に入っていく。
「慣れると楽勝っすね。」
「俺はいくらやっても疲れるよ。お前の方が良かったかもしれないな。」
「へへ。替わりませんよ。」
「別にいいよ。1人で気が楽っちゃ楽だ。」
「そんなもんすかね。所で茜さんは給料幾ら貰ってるんですか?」
「8500円だよ。」
「え、そんなにっすか!?俺なんて7000円っすよ!磯部の野郎ぼったくりやがって!」どうやら田中の会社の社長は磯部というらしい。変わった名字だ。
「普通より安く請け負ってるのかもしれないな。だから安いんじゃないか?てか普通だろ?俺が高いのかもしれないな。」
「そういえばそうすよね。人夫出しで8500円なんて聞いた時ないっすよ。なんか資格も持ってるんですか?」
「ガス溶接だろ、後は小型車輌に玉掛け位かな。」
「結構持ってますね。普通の会社で働いた方いいんじゃないっすか?」
「まあそうだけど色々面倒くさいからな。」
「もったいないっすね。俺も資格取ろうかなー。」
「持ってて損はないぜ。」
タバコを吸い終わり喫煙所を出て休憩所の椅子に座る。
「吸い終わったか。始めるぞ。」
「えっ!はい。」
まだ30分経ってないのにと思いながら仕事に戻る。結局この日はみっちり5時前まで汚れ落としだった。
帰り道この仕事が1ヶ月続くのかと思うとうんざりしたが俺には麻薬がついている。家に着くと落ち着く間もなく早速メモリ1打った。メモリ1でもラッシュがあった。水パイプでガンジャも吸う。もう気分は最高だ。洗濯をしてシャワーを浴び今日もデリヘルを呼ぶか迷っていると女友達の恵子から電話がかかってきた。
「もしもし、何してた?飲みに行かない?」
「仕事から帰ってきた所だよ。別にいいけど他に誰行くんだ?」
「2人っきりでよ。ふふ。飲みに行きたいんだけど平日だし誰も捕まらないの。どこかいい飲み屋ない?」
「ああ、いい所あるよ。海川の白木屋の前にそうだな、7時でどう?」
「オッケー。じゃ、また後でね。」
ヤれたらラッキーだな。そんな事を考えながら着替え匂いでバレない様に香水をつけ車で出かけた。いつもは友達数人で駅前のチェーン店で飲むことが多いが今日は2人なので海川だ。海川とは県で1番の繁華街で山影会のシマだ。最近は暴対法の強化でみかじめ料を払う店は減ってきているがお姉ちゃんのいる店は山影会絡みだと思っていいだろう。
有料パーキングに車を止め外に出る。平日でも海川は賑わっていた。白木屋の前に行くと既に恵子がいた。
「早く来ちゃった。」
「ごめんごめん。俺ももう少し早く来れば良かったよ。」下心が見え隠れするような甘ったるい優しさが顔を出す。
「エッチな事考えてる?」
「んなわけねーだろ。」
「ならいいけど。」
「さ、行こう。すぐ近くだよ。」内心ドキッとしたが平静を装った。女はこういう所が鋭い。胸を見るとすぐ分かるというし下心に敏感な生き物だ。友達といる時はあまり考えなかったが改めて見ると恵子は中々いい女だ。今日是が非でもヤりたくなってきた。美味しいものでも食べればまた展開は変わるだろう。2,3分歩いて目的の店に着いた。茂助という小料理屋だ。以前竜二さんに連れてきてもらって美味しかったので女を口説く時によく使っている。
「ここだよ。。」
「へー。美味しそうな店構えだね。」
「何でも美味いけど特に魚が美味いよ。刺身なんて全然違うぜ。」
「楽しみ!早く入ろう!」
「おう。」店はそこそこ混んでいたが席が無いという事はなかった。奥座敷の上りのテーブル席に2人は座った。
「何飲む?ビールでいい?」
「うん。」
「すいませーん!生中2つ!」
「はーい!」アルバイトだろう若いお姉ちゃんが返事をする。2分もしないうちにお通しの肉じゃがとビールが運ばれてきた。ビールはエビスビールだ。
「何か食べたいのある?」
「うーん。カキフライかな。」
「了解。すいません、カキフライと刺身盛り合わせ、金目の煮つけ下さい。」
「カキフライ、刺身盛り合わせ、金目の煮つけですね。わかりましたー。」
「乾杯。」「かんぱーい。」
2人してゴクゴクとビールを飲む。
「エビスじゃん。いいね!」
「だろ。肉じゃが食ってみろよ。」
「うん。」恵子がジャガイモを頬張る。
「おいしー!丁度いい味付け!これは他の料理も期待できそうね!どうやってこの店見つけたの?」
「先輩に連れてきてもらったんだよ。美味しいよな。」こうして2人はしばし舌鼓を打った。しばらくして・・
「すいません。鍛高譚ボトルと氷と水下さい。後漬物盛り合わせ。」
「鍛高譚好き。漬物なんて渋いね。」   「もうおなか一杯なってきただろ。」
「そうね。全部美味しかった。ねえ、何回か茜とも飲んだ由美っているじゃない?」
「ああ。覚えてるよ。どうかした?」
「由美、テキ屋と付き合い始めたらしいの。それが普通のテキ屋だったらいいんだけど真桜会のヤクザみたいなのよ。心配で。」
真桜会とは東日本最大のテキ屋組織だ。祭りで店を出したり露店を仕切ったりしている。
「ヤクザっていっても人によるだろ。女遊びが激しい奴なのか?」
「そこまでは分かんないけど・・茜、真桜会に知り合いとかいない?」
「前の会社で弟さんが真桜会のヤクザだって人いたな。由美の彼氏は名前なんて言うの?」
「光一っていうみたい。ね、どんな人か聞いてみて!お願い!」
「まあ恵子がそこまで言うなら。後で連絡するよ。」
「ありがとう!茜って頼りになるね。」酔いも相まって恵子の目がとろーんとなってきた。
今日はいけるかも、茜はそう思い始めた。
「任せとけよ!だてにこの仕事長くやってねーって!ほら、飲んで飲んで。」
「はーい。酔っぱらってきたなー。でもまだ飲む!ふふ。」
結局その後もう一軒ハシゴして2人はラブホテルに入っていった。
「ねえ、付き合う?付き合うならヤらしてあげる。ふふ。」
「ああ付き合おう。だからな、いいだろ?」
「いいでしょう!」
2人は絡み合った。暫くたってギンギンなのに中々イかない茜を不審に思った恵子が聞いてきた。
「茜、何かやってるでしょ?何やってるの?」
「なんもやってないよ。俺遅漏なんだ。気にすんなよ。」
「ウソ!絶対薬やってる!私、分かるんだから!ねえ私もやりたい!」
予想外の展開だ。てっきり怒って帰るかと思ったが私もやりたいとは。
「恵子薬やった時あるの?」
「昔ちょっとね。ね、いいでしょ?シャブ?タマ?」
「シャブだよ。今手元に無いから俺の家行く?」
「行く行く!久しぶりにキメセクしたい!」どうやら少々飲ませ過ぎたようだが好都合だ。シャワーを浴び服を着るとラブホテルを出て駐車場に向かった。
「キマってお酒って飲めるの?」
「いいネタだとね。酔いはしなくなるけど。」
「運転大丈夫?捕まったりしないかな?」
「大丈夫だよ。いつもだけど捕まった時なんてないから。それより明日仕事だろ?少なめにしとこうぜ。」
「はーい。慣れてるね。女の子といっぱいキメセクしたの?」
「そんな事ねーよ。キマって風俗行ったりする位だよ。普通の娘とはした時ねーよ。俺が奥手なの知ってるだろ。」
「そうなんだ。そうだよね。ねえ、私達付き合ったの覚えてる?」
「ああ。よろしくな。」
「よろしい!付き合ったからキメセクさしてあげるんだからね。私そんな軽い女じゃないんだから。」明日になって何か言うかもしれないが今日はノリでヤっちまおうと思った。家に着くと早速シャブを出した。
「シャブやる前にガンジャ吸うか?」
「いい。シャブやる。」
「炙りでいいだろ?ほら。」ガラスパイプにメモリ1程のネタを入れ渡す。
「煙が出てから吸うんだぞ。」
「らじゃ。」そういって恵子はシャブを炙り始める。
「効くー!前やったのと全然違う!気持ちよくなってきちゃった。」吸い終わる頃にはバッチリキマっていた。
「なんだか酔いも醒めたみたい。ガンジャも吸っていい?」
「いいぞ。ほれ。」水パイプを渡す。ブクブクブク。
「あー、最高の気分。ハマっちゃいそう!」茜もメモリ1分炙った。
「時間もないし、そろそろ・・」
「いいわよ。優しくしてね。」
2人は朝日が昇るまで獣のように激しく交わりあった。朝方、2人でガンジャを吸ってまったりしていると恵子が何か作ると言い始めたが材料が卵位しかなかったので俺が作ると言った。ご飯を炊いて目玉焼きを作りインスタントの味噌汁をいれた。
「いただきます。」
「いただきまーす。」
「目玉焼きに何かける?俺はソース派なんだよね。」
「珍しいね。私は醤油よ。ケチャップかける人もいるんだって。」他愛もないことを話しながら朝飯を食べた。6時頃になると恵子が帰ると言った。
「じゃ、由美の彼氏の事お願い。後毎日連絡してね。私が薬やったのは秘密よ。機嫌良かったらまたキメセクさしてあげる。またね!」
「ああ、わかってるよ。またな。」
成り行きで付き合う事になったが薬についても何も言わないしいい女だ。茜も準備して仕事に向かった。
仕事は昨日と一緒だった。田中と合流して発電所に向かい朝礼をして後はひたすら部品の汚れ落とし。変わった所といえば高崎さんと国岡さんに携帯の番号を聞かれた事位だ。仕事は何事もなく終わった。帰りにスーパーに寄り湯豆腐の材料を買った。
洗濯をしてガンジャを吸い一息ついた所で前の会社の同僚の中島さんに電話をかけた。
「もしもし、こんばんわ。茜です今大丈夫ですか?」
「おー久しぶり。大丈夫だぞ。どうした?」
「実は彼女の友達が真桜会の人と付き合い始めたらしくてどんな人かって心配してるんですよ。中島さんの弟さん真桜会でしたよね?光一って人の事知りませんか?」
「おー光一か。光一なら俺も分かるぞ。19歳で最近テキ屋始めたばっかだ。高卒の高学歴だわ。はは。まだ何もできないからかき氷やらせてるらしいんだ。真面目だって話だけどな。」
「そうなんですか。仕事は真面目ってだけでも分かって良かったです。ありがとうございます。」
「いいってことよ。最近は何してるんだ?」
「後輩の会社で人夫出しです。雑用みたいな仕事ばっかりですよ。」
「俺とそんな変わんねーな。最近はテキ屋忙しくてよ。夏だろ?祭りばっかで飲みに行く暇もねーよ。」
「大変そうですね。」
「お前も休み取れるならテキ屋やんねーか?かき氷なら誰でもできるぞ。街商組合に登録しなきゃなんねーがな。」
「仕事忙しくてとてもじゃないですけど無理ですよ。」
「そうか?まあ考えとけよ。行くとこなくなったらうちに来いや。」
「はは。ありがとうございます。」
「じゃあ今飯の支度してる所だからよ。またな。」
「はい。失礼します。」
本気で言ってるのかわからない毎度のテキ屋の誘いを断りホッとした。真桜会は過去に山影会の系列組織と抗争を起こしている。竜二さんやタカシに何を言われるかわかったもんじゃない。テキ屋もいいかもしれないが仕事をしながらだとネタをやる時間が無くなってしまうので現実的ではない。専業だと休みも結構あるみたいだが。竜二さんやタカシと揉めたらやってみようと思った。まあそんな事はないだろうが。
聞いた事を教えようと恵子に電話してみたが出なかった。仕事だろうか。とりあえず夕飯を食べる事にした。小さい鍋に水を入れ木綿豆腐、白菜、豚肉を入れて沸騰させ灰汁を取って湯豆腐の出来上がりだ。発泡酒を開けグイっといく。ポン酢が無かったのでめんつゆで食べる。めんつゆも結構いける。気付いたら発泡酒350缶2本と残っていたすだち酎をロックで半分位飲んでいた。だいぶ酔っぱらってネタをやりたくなったが昨日寝てないので今日はネタは無しだ。代わりにガンジャをガンギマリになるまで吸った。酒の酔いと相まってグラグラする。ボブマーリーを聴いてゆっくりしてると8時頃になって恵子から電話がかかってきた。
「もしもし?ごめん仕事から帰ってきて寝ちゃった。今日は昼頃からずっと眠たかったの。茜は大丈夫だった?」
「そうなのか。俺は慣れてるからな。それより光一て奴の事聞いたぞ。19歳らしいじゃないか。」
「若いってだけ言ってたけどそんなに若いんだ。どんな子だって?」
「最近テキ屋になったばかりでかき氷やってるらしいけど仕事は真面目らしいぞ。ジャラ銭パクるような奴じゃないらしい。」
「女関係は?」
「さあな。仕事は真面目にやってるみたいだし根が真面目なんじゃないか?」自分の彼氏は薬中なのにおかしな女だ。浮気はしない方が良さそうだ。
「そっかー。テキ屋って女の子によく声かけられたりするでしょう?光一君、いい男らしいし。でも真面目なら安心かな。由美にも真面目に仕事してるって教えてあげよう。」 「そうしとけよ。」
「なんか活舌悪いわね。ガンジャやってる?」
「ああ。それに酔っぱらってるよ。」
「今日は行かない方が良さそうね。すぐ寝ちゃうでしょ?」
「そうかもな。昨日寝てないし。また今度だな。」
「分かった。じゃまたね。ありがとう。」
「おう。またな。」
電話を切ると喋ったせいか更にキマってしまった。目を開けていられなくなり布団に飛び込む。眠りもまた快感だった。次の日の仕事で10時の一服がなく11時30分頃から朝礼をする事務所の休憩所で皆で昼まで休んでいた時の事だった。
「茜、真面目に仕事してるみたいだな。」
高崎さんが話しかけてきた。
「はい。まあ単純作業ですしね。」
「そうか。いきなりだけどうちで働かないか?タカシは後輩だし不満もあるだろう。お前もその方がいいんじゃないか?」
「はあ。そうですね・・。」
確かに後輩の会社で働いてるというのは微妙な気持ちだ。思い切って高崎さんの会社に入った方がいいのかもしれない。
「タカシには話つけとくからよ。ここの仕事が終わってからでいいぞ。」
「分かりました。よろしくお願いします。」
「色々と話もあるし今日海川に飲みに行くぞ。大丈夫だろ?」
「はい。」
「じゃあ8時にファミリーマートの前な。」「分かりました。」
「よし、昼飯にしよう。」
ちょうど12時になった所だった。田中と車に戻り昼飯を食べ始めた。
「高崎さんの所で働くんすか?」
「ああ。いつまでも後輩の会社にいるのもなんだからな。」
「短気そうだから気を付けた方いいっすよ。給料は幾らになるんすか?」
「それは今日飲みに行った時話すだろう。多少下がるんじゃないかな。」
「高崎さんに言われたら断れないすよね。俺も会社変えますかねー。磯部にお礼参りしてから。へへ。」
「前も言ってたよな。ヤられちまうぞ。」
「大丈夫っすよ。なんだかんだいっても後輩ですから。」
「そんなもんか?まあいいけど。」
飯を食い終わって2人して後部座席に移ってタバコを吸った。休憩所以外でタバコを吸うと出禁になるが面倒くさいので車で吸っていた。1人見つかって出禁になったらしいが巡回員なんて見たことがなかった。この日も何事もなく仕事は終わった。
薬をやりたかったが高崎さんと会うのでネタもガンジャも我慢だ。帰りにサラ金でいちお1万円借りてきた。給料日まであと少しだ。洗濯してシャワーを浴びネタをやっていないのでいい服を着ていこうと思った。ヴィンテージのAC/DCのtシャツにスキニーのジーパンを履いてヴィトンの財布を後ろポケットに突っ込みパチンコで連勝した時に買ったロレックスをつける。香水は無しだ。元々ネタのにおい消し位にしか使った時がない。ラフな格好だがいいだろう。恵子に会社を変える事、高崎さんと飲みに行く事をメールした。飲み過ぎないでねとの返信がすぐきた。部屋に鍵をかけ海川に向かった。
ファミリーマートには7時45分位に着いた。雑誌を立ち読みしてると高崎さんが来た。タトゥーを出しレゲエ系のゆったりした格好で現場での姿とはギャップがあった。
「待ったか?」
「いいえ。さっき来た所です。」
「じゃあ行くか。」
そういって歩き出した。ついていくとガールズ居酒屋と看板が出ている店に入っていった。「ここよく来るんだよ。」
「意外ですね。もっとこう料亭とか好きなのかと思いました。」
「お前も言うねぇ。話し相手がいていいんだよ。またきたぞー。」
カウンターの中の店員に話しかける。
「いらっしゃい!今日は男連れ?珍しいね。」
「まあな。生中2つとオススメの料理3つ位出してくれ。」
「はーい。」
カウンター席に隣り合って座る。
「お前いい時計してるじゃねえか。パチモンか?」
「いちお本物ですよ。パチンコで勝った時に買ったんです。」
「パチンコやるのか。打ち子使ってるのか?」
「いえ、1人です。暇な時に行く位です。」
「そうか。稼ぐ奴は稼ぐからな。とりあえず乾杯するか。」
「はい。」2人は乾杯して飲み始めた。  
「それで給料だけど今幾ら貰ってる?」
「今8500円です。」
「結構貰ってるな。国岡で9000円だからまあいいか。8500円やるよ。」
「本当ですか?タカシに気使ってもらってこの金額だったんですけど。」
「資格あるんだろ?」
「はい。持ってるのはガス溶接、小型車輌、玉掛け、石綿取り扱い、ゴンドラ特別教育ですね。」
「使うのはガス溶接、小型車輌、玉掛け位だ。石綿はちょっと前なら仕事あったけどな。うん、やっぱ8500円でいいわ。末締め翌月末払いだ。最初は前借りしてもいいぞ。」
「わかりました。高崎さんの所は何人位働いてるんですか?」
「今は俺と国岡と60手前のおっさんとお前だけだ。ちなみにおっさんは入院してる。」
「そうなんですか。もっといるのかと思いました。」
「昔は沢山人がいた。鳶の会社やってたんだけどな。万亀会の会長の合川さんに可愛がられてよ。仕事回してもらってたんだ。年商だって1億いった時あるぞ。でも忙しいのが嫌になっちまってな。規模を小さくしていったら今に至ると。景気良い時の蓄えがあるし今少人数でも俺も現場に出てるから食うには困らねえ。飲むにもな。発電所は1ヶ月丸々出るが普段は月の半分位だ。まあ発電所は土日休みだけどな。土曜日は他の現場あるのか?」万亀会とは地元の山影会の下部組織だ。
「分かりません。無いとは思いますけど。」
「タカシもまだそんな現場取れないからな。」「そうみたいですね。」
「はいお待ち。出汁巻き卵にピーマンの肉詰め、ハムカツだよ。」店員のお姉ちゃんが料理をまとめて出してきた。話が一段落するのを待ってたようだ。
「まだ熱々だから。」
「さあ食おう。」
そうして1軒目は軽く食事して終わった。
「ごちそうさまです。ところで高崎さんって何歳なんですか?」
「36だ。気持ちは若いけどな。という事でキャバクラでも行くか。国岡も呼ぼう。あいつんち海川の中にあるんだ。」そういって電話をかける。
「おう。今何してる?」
「ダーツしてたよ。」
「今茜と海川で飲んでてキャバクラ行くからお前も来いよ。」
「奢り?」
「ああ。」
「どこにいるの?」
「ガールズ居酒屋って看板出てる所あるだろ?そこだ。」
「すぐ近くじゃん。今行くよ。」国岡さんが来ることになった。
「少し待つか。」
「はい。」
「所でお前竜二と仲良いんだろ?気を付けろよ。」
「え!はい・・」薬の事だろう。考えてみれば竜二さんは鳶で山影会関係だから知っててもおかしくない。少しヒヤヒヤした。5分程待つと国岡さんがやってきた。国岡さんの右腕には10分袖の刺青が入っていた。
「国岡さんも刺青入ってたんですね。」
「ああ、昔いれたんだ。海の家にも入れないよ。んでどこ行く?」
「ちょっと歩くか。」少し歩くとデジャヴという看板が見えてきた。看板の前に店の人間が立っている。
「おう。」
「おー高崎!飲んでいかねーか?最初の90分2500円でいいぜ。」
「じゃあここにするか。」
「3名様ごあんなーい!」
店に入っていくと奥の席に案内された。すぐ女の子が3人つく。俺の隣はまだ明らかに10代の娘だった。
「初めまして。るなです。」
「おう。何か飲む?」
「ありがとう。じゃあビールを。」
ボーイに合図してビールを持ってこさせる。
「かんぱーい。」
「乾杯。」
「茜、じゃんじゃん飲ませていいぞ。」
「はは。分かりました。」
「時計、ロレックスですか?」
「ああ。安物だけどね。」
「そんな事ないですよ。すごーい。」
「もっと高い時計見た時あるだろ?」
「私働き始めたばっかりで。名前なんていうんですか?」
「茜っていうんだ。
「仕事は何してるんですか?」
「建設業かな。そこの人の会社に入るんだ。」
「すごい刺青。茜さんはいれてるんですか?」
「俺はいれてないよ。まあ先は分かんないけどね。こういう業界だから。」
「いれたら見せに来てね。待ってるから。」
「ああ、分かったよ。それより何歳?若いでしょ?」
「茜さんは何歳なんですか?」
「俺は24だよ。」
「24よりは若いです。後は秘密。」
「もったいぶって。まあいいけど。」
その後楽しく飲み続け時間が過ぎていった。「明日も仕事だしこの辺にしとくか!国岡、茜、行くぞ!」
「はい!じゃまたね。」
「また来てください。」
名刺を渡された。恵子にはバレない様にしないといけないがまあ男の付き合いだし仕方ないだろう。解散しようかとした時知らない番号から電話がかかってきた。
「んあ?電話。知らない番号だ。」
「構わない。出てみろ。」        
「もしもし?」
「お前が茜か?」
「そうだけど誰だよ?」
「俺の事嗅ぎまわってるらしいな。やめとけよ。いい事ないぜ。」
「ん?もしかして光一か!?」
「やっとわかったか。嗅ぎまわるのはよせ。」「嗅ぎまわったっていうかお前の彼女と俺の彼女が友達でそれで・・」
「なんだ!?あ?俺の事狙ってんのかよ?上等じゃねーか!そっちがその気ならこっちにだって考えがある。真桜会舐めんなよ!」
「何言ってんだ?ちょっと待てよ!話を聞け!おい!切りやがった・・。」
「でかい声出して。揉め事か?」
「はあ。真桜会の若い奴が俺が自分の事狙ってるって勘違いしたみたいで。彼女の友達の彼氏で光一って奴なんですけど。そっちがそうならこっちにも考えがあるって。一体どうなってるのか・・」
「穏やかじゃねーな。国岡、光一って知ってるか?」
「いや、聞いた時ないなー。」
「まだ19でテキ屋始めたばっかなんですよ。」「確か真桜会系の龍尾会だったか。万亀会と仲は良くないがいちお合川さんに言ってみるか。」
「本当ですか?ありがとうございます!こっちでも誤解が解けないかやってみます!」
「そうしとけ。今日はもう遅い。解散するぞ。明日遅刻するなよ。」
「気を付けてね。」
「はい。じゃ明日また。失礼します。」
「代行呼べよ。」
「わかりました。」
この日は代行で帰路についた。アパートに着くと11時半だったが恵子に電話をかけた。
話し中で暫く経っても同じだった。光一の事で話があるとメールしておいた。光一にも電話をかけたが出なかった。気を落ち着けるためガンジャを吸うと自然と眠くなってきた。酔いもあって茜は深い眠りについた。次の日発電所で高崎さんと会った。
「合川さんには話しといたよ。真桜会に狙われてると勘違いしてる奴がいるって。真桜会に知り合いのいる奴に話してみるってよ。」
「そうですか。ありがとうございます。光一は結局電話出ませんでした。」
「そうか。ま、諦めないで電話してみろよ。」
「そうします。」
昼休みに恵子から電話がきた。慌てて車から出る。
「もしもし?昨日はごめん。由美が光一君と別れたのよ。別れたっていうか一方的に理由もなく捨てられたみたいなの。それで話聞いてて。」
「そうか・・。光一は何考えてるんだ?」
「それが別れ際光一君の腕に注射痕があったらしいの。シャブで頭おかしくなってるんじゃないのかしら?」
「やりたてならもしかしてあり得るかも。積み立て相手となると厄介だな。シャブが抜けるのを待つしかないか。でも高崎さんが万亀会の会長に話しちゃったんだよな。」
「大丈夫なの?本当に狙われちゃったりしない?」
「分からない。真桜会に知り合いのいる人に話してみるって話だから荒っぽい事にはならないと思うが・・」
「分からないって・・。由美、まだ諦めてないわよ。とにかく変な事にならない様にして!」
「分かったよ。取り合えず由美に光一に電話に出るように言ってくれって。それからだ。」
「分かった。じゃまたね。」
「ああ。またな。」
車に戻ると田中が話しかけてくる。
「どうかしたっすか?大きい声出してましたけど。」
「ちょっとな。軽い揉め事だよ。お前こそ今日は大人しいじゃないか。」
「それが給料6500円に下げられたんすよ。仕事8000円で貰ってるって言うんですけど嘘ですよね。もう完全にキレたっすよ。」
こっちはこっちで大変そうだ・・。その夜。
高崎さんから電話がかかってきた。
「おう。」
「何か進展ありましたか?」
「その件じゃない。田中がやらかしやがった。社長をバットで殴り殺したらしい。」
「は?マジすか?普段から言ってましたけどまさか本当に・・。そういえば今日給料下げられてキレたって言ってました。」
「じゃあそれが原因だろうな。とにかくニュースになれば発電所の仕事は無くなるだろう。磯部は山影会だからな。帝都建設のお偉いさんに明日から来るなって言われちまったよ。タカシに電話しとくから来週からうちの現場で働け。ったく田中の野郎。」
「分かりました。失礼します。」
まだ信じられない気分だ。やるといっても殴って会社を辞める位だと思っていたのにまさか殺すとは。茜は光一の事を考えた。光一はシャブで狂ってる。もしかしたら俺を殺そうとするかもしれない。タカシから電話だ。
「茜さん?とんだ災難っすよ。あと20日位は行けたかもしれないのに。」
「はは。高崎さんから話は聞いたか?」
「はい。今までありがとうございました。たまには飲みに行きましょーよ。」
「ああ、そうだな。」
「ところで茜さんも災難らしいじゃないすか。真桜会に狙われてるって。大丈夫ですか?」「今の所大丈夫だ。高崎さんが合川さんに話してくれたしな。」
「そうなんすか。じゃあ大丈夫ですね。じゃ現場取らないと行けないんで。失礼しまーす。」「またな。」
来週まで休みになった。恵子と会いたかったが今日は木曜日で恵子は明日も仕事だろう。いちお光一に電話をかけてみる。暫くかけてみたがやはり出ない。仕方ないので恵子に電話した。
「もしもし?月曜日まで休みになったよ。」
「どうしたの?」
「別の会社だけど一緒に働いてた奴が人殺したんだ。殺したのは会社の社長で不満が爆発したらしい。」
「こわーい。それで仕事無くなっちゃったの?」
「その殺された社長が山影会で大きい現場だからまずいってなって仕事くれた会社から明日から来るなって言われたんだとさ。」
「ふーん。それで、したいんでしょ?」
「何がだよ。」
「明日も休みだからしたいんでしょ?」
「恵子は明日仕事だろ?」
「私は別にいいのよ。茜もいつ真桜会に殺されちゃうか分からないし。」
「おい!変な冗談はやめろ。」
「だってそうでしょ?可能性は否定できないんじゃない?」
「それは・・」
「ね?だからいいわよ。もうちょっとしたら行くね。」
「ああ。」
何ていい女なんだろうと思った。最初はヤりたいだけだったが今は好きという気持ちがある。光一の事はとんだバッドイベントだが2人の絆が強くなった気がする。暫くすると恵子が来た。
「まだ生きてるみたいね。」
「はは。そう簡単に死なないよ。」
「今日は打って。ゴムも要らない。」
「いいのかよ。」
「さっきも言ったでしょ。いいの。」
「ああ。じゃあ・・」
茜は注射器にメモリ2入れ水を吸うと空気を抜いた。
「腕、出せよ。」
恵子は注射の跡を見られるのが嫌なのか長袖を着ていた。
「分からない所とかないの?」
「そっか。もっとめくって二の腕出せよ。内側に血管あるはずだから。」
「うん。」
そう言ってもうひとまくりする。
「あったあった。」
ベルトで恵子の二の腕の上の方を縛った。
「いくぞ。ビックリするなよ・・」
恵子の腕にスッと針を入れると血が逆流してくる。少し吸って血を入れてから一気に入れ
る。注射器を抜いて水を吸って出してを繰り返す。
「どうだ?」
「あっ!すごい!なにこれ!頭おかしくなりそう!」
「ちょっと入れ過ぎたかな。待ってろ。」風呂場に行き洗面器に水とタオルを入れ持っていく。濡れたタオルを絞って恵子の首元に当てる。
「落ち着いたか?」
「はあ・・うん。シャブって凄いのね。炙るのとは全然違う。」
「初めては特にな。さて俺も。」
茜もメモリ2入れてシャブを打った。
「くぅー!」
テンションの上がった茜はテクノをかけた。
「何これ?いいね。」
「キマッた時にいいんだよ。」
そう言って恵子を押し倒す。
「待って服脱ぐ。後エアコンつけて。汗かいてきちゃった。」
「分かった。汗は多分シャブのせいだよ。軽くつけとくよ。」
「ありがと。どうしよう、今茜の事がすごい好き。」
「俺もだよ。恵子が好きだ。」
薬のせいもあるが2人はどうしようもない位お互いへの愛で溢れていた。何もかも忘れて一つになるのはごく自然な事だった。
恵子が朝帰ると近くのコンビニに行った。何か見られているような気がして辺りを見渡すが学校へ向かう小学生しかいなかった。気味が悪かったのでコンビニで買い物を済ますと急いでアパートに戻った。シャブの副作用だろうか。焦ってガンジャを吸った。すると気分が落ち着いてきた。恵子にもガンジャを吸わせておいたが心配になったので何か変わった事はないかメールする。すぐ返事が来た。変わった事はないみたいだ。しかしアパートが張られているのかもしれない。警察か?真桜会か?どちらもあり得るが気のせいだと思う事にした。その時電話がなった。光一だ!
「もしもし?」
「彼女とお楽しみだったみたいですねー。はは。せいぜい気を付けな。」
「おいっ!待てよ!どういうことだ!?」
電話は切れた。確信した。光一は狂ってる。シャブだけでこうもなるものだろうか?しかしやはり見張られていたようだ。恵子に見張られていた事をメールする。気を付けてねと返事が来た。お前もなと返した。今日は給料日だったが取りに行くのはまずいかもしれない。タカシに電話した。
「もしもし?ちょっと家から出れない理由が出来てな。悪いが給料持ってきてくれないか?」
「そうなんすか。いいですよ。今から行って大丈夫ですか?」
「ああ。頼む。」
「じゃあ向かいますね。それじゃ。」
「待ってるよ。」
しばらくするとうるさい車がアパートの前に止まった。タカシだ。部屋まで上がってくる。
「悪いな。」
「いえいえこの位全然ですよ。何かあったんですか?」
「どうも真桜会の奴に見張られてるらしいんだ。つけられてタカシの家までバレたらヤバイだろ。」
「本当ですか!?真桜会は本気みたいですね。」
「真桜会というか光一って若い奴なんだがシャブでイカれてるらしいんだ。彼女といる所も見られたみたいだし参ったよ。」
「気を付けて下さいよ。これ、給料です。高崎さんに連絡しといた方いいですよ。じゃ。」
「ああ。またな。」
ちょっとするとタカシの怒鳴り声が聞こえてきた。
「なんだてめーは!おう!?」
揉み合う音も聞こえてきた。急いで外に出る。
「どうしたタカシ!?」
「茜さん!こいつが俺の車になんかしてたんですよ!」
「うるせえ!あかねぇ!許さねーぞ!」
目の周りがげっそり窪んでいるがまだ若そうな男だった。
「お前、もしかして光一か!?タカシ、捕まえるぞ!」
「はい!」
背後に回り両腕を捕まえるとタカシが光一の腹に一発お見舞いした。その一発でタカシは
気絶した。
「さすがだな。」
「いちおインターハイまで行きましたからね。こいつどうします?」
「部屋まで運ぼう。お前暇か?」
「とくに用事はないですけど。」
「じゃあお前も居てくれ。」
「分かりました。」
「すまないな。頼むよ。」
光一を部屋に運び込むと顔に水を少しかけて起こした。
「うーん。ここは?」
「起きたか。ここは俺んちだよ。まあ吸えよ。」
光一にガンジャを渡す。
「変な物じゃないだろうな?」
どうやら先ほどよりは落ち着いてるようだがまだ警戒してるようだ。
「お前はシャブのやり過ぎでおかしくなってるんだよ。吸えば落ち着くぞ。」
光一は恐る恐る水パイプに火を点けた。
「ゲホゲホっ。なんだこりゃ。ボーっとする・・」
「これも飲め。」
精神安定剤のデパスを渡す。
「これは?」
「精神安定剤だ。いいから飲め。」
「はぁ・・」
ガンジャでだいぶ落ち着いたみたいだ。黙って安定剤を飲む。
「落ち着いたみたいだな。30分もすれば薬も効いてくる。誰からシャブ買ってたんだ?」
「先輩から、です。」
「何にも教えないで、面白がってやらせてたんじゃないか?由美とは連絡取ってるのか?」
「いえ、シカトしてます。」
「今すぐ謝って薬でおかしくなってたって連絡しろ。心配してるぞ。」
「はぁ。分かりました。」        
少し放心状態のようだ。ガンジャは初めてだったのかもしれない。何も教えないで売りっ
ぱなしの先輩とやらに怒りが湧いてきた。
「茜さん、薬やるんすねー。」
忘れてた、タカシだ。
「ああ、ちょっとな。」
「俺もガンジャ位なら吸いますよ。吸っていいですか?」
「ああ、いいぜ。」
「じゃ遠慮なく。」
ブクブク、タカシが煙を深く吸い込む。
「ゲホゲホっ。こりゃ良いガンジャだ。もう一服。」本当に遠慮のない奴だ。
「光一、お前ももっと吸えよ。」
「はい。でもなんだかボーっとして。」
「効いてるんだよ。ほれ。」
光一に水パイプを渡す。
「ピザでもとらないですか?」
タカシはマンチーのスイッチが入ったようだ。
「そうだな。光一、最近何か食ったか?」
「3日前にカップラーメン食いました。」
「そうか。じゃあピザ頼むか。何がいい?」
ピザ屋のチラシを渡す。
「いいんすか?俺、金無くて・・」
「気にすんな。そこにいる社長が奢ってくれるってさ。」
「俺すか?まあ別にいいですけど。」
「はは。嘘だよ俺が出すよ。」
「なんだ。俺はシーフードがいいですねぇ。」
「俺はマルゲリータで。」
「どっちもLでいいだろ?もしもし・・・30分位で届くってよ。光一、牛乳飲んどけ。胃に膜張らないといきなりピザはキツイだろ。冷蔵庫に入ってるから飲めよ。」
「分かりました。」
そう言って冷蔵庫から牛乳を取り出し飲んだ。
「ま、これで一件落着かな。」
「色々迷惑かけてすいませんでした。シャブやったの初めてで俺よく分からなくなって。」
「よく考えないでやったお前も悪いけど何も教えないで売った奴はもっと悪い。気にすんな。」
30分程してピザが届いた。
「さ、食うか。」
「「いただきます。」」
あっという間にピザを平らげると茜たちはまたガンジャを吸った。
「落ち着いた事だし高崎さんに電話するか。」
「それがいいですよ。」
「お願いします。」
高崎さんに電話をかける。
「もしもし?高崎さん?例の件解決しましたよ。今光一が俺んちにいます。シャブでおかしくなってたみたいなんですよ。」
「そうなのか。解決したとこ悪いんだけどよ、こっちはまだ解決してねーんだ。合川さんが強気にでたら龍尾会も強気にでてきてよ。ちょっと揉めてるみたいなんだ。どっちも身柄引き渡せってなってるから光一の事もすぐ帰せ。1回だけ見逃してやる。」
「そんな!せっかく解決したのに。そんな事って・・・」
「しょうがねーだろ。組の問題だ。諦めろ。」
「分かりました・・・お疲れ様です。」
そう言って電話を切る。
「光一、組同士で揉めてるらしい。俺たちの身柄を引き渡せってなってるみたいだ。見逃してやるから気を付けて帰れ。」
「そんな!?マジですか?俺のせいで・・・すみません!」
「いいから。しょうがないだろ。上に行った俺も軽率だったよ。シャブはしばらくやるなよ。じゃあな。」
「はい。」
「ビックリな展開ですねー。事務所に連れて行けばお手柄なんだけど、茜さんに免じて見逃してやるか。気を付けろよ。」
「ありがとうございます。それじゃ自分は行きます。お世話になりました。」
光一は茜の家から出て行った。
「どうしたもんかなー。」
「組が動いてるっていう事は前より気を付けた方がいいですよ。俺も行きますね。っとその前にもう一服。」
「はは。じゃあな。」
「失礼します。」
タカシも出て行った。高崎さんに電話をかける。
「もしもし?お疲れ様です。光一もタカシも帰りました。」
「タカシもいたのか?」
「はい。給料を届けに。その時ちょうど光一が来て。」
「そうか。この土日で片つけれるようにするからあんま家から出るなよ。わかったな?」
「分かりました。失礼します。」
「おう。じゃあな。」
この日からシャブをやらずサブスクで映画を見て過ごした。 

          終
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