第1話

文字数 1,107文字

◎20XX年5月4日未明 某所
暖冬に似合わぬ雨が降り続いている。
どれほど走ってきただろうか。
一身しか持っていないカービンを背負い直す。出てきた時に持っていた8個の弾倉はもう3個しか腰に巻きついていない。
鉄条網を手に掛ける。疲労で硬直する腕に鞭を打ち最上部を掴む。
「あ゙あ゙!」
まだこんな声が残っていた自分に驚く。防水紙の地図を取り出す。コードG32Y7。管制塔はここからまだ遠い。
エンジン音で顔を上げた。航空警備隊か。信号塔に身を隠す。微かに靴の先端が写る。サーチライト、それもハイビームだ。まだ、鉄条網沿いだ。ほぼ平面の海面では反射は見えずらい。
はずだ。
壁?おかしい。俺の背後には海上構造物はなかったはず。坂といえる反射でもない。やっぱり壁だ。船にしては不動過ぎる。黄色反射か。気を取られている内に足元が浸かる感覚を覚える。水溜りがその深さを確実に増やしている。装備を着直すために物陰に目を移した時、私の影は二つになっていた。
「誰だ!」
そう叫ぶのはほぼ同時だった。
だが引き金を引くのは俺が先だ。
カービンの指二つ分の口径が火を吹く。
まずい。勘づかれた。戦闘が露呈するのは時間の問題だ。
通り過ぎた装甲車が引き返してくる。生憎RPG(※対戦車ロケットランチャー)は持っていない。走るしかない。この豪雨で航空機の離発着はない。やりたくないが滑走路を横切るしかない。曝露した姿に気づいた装甲車が向きを変える。どの道倒すしかないか。猛スピードで突っ込んで来る。知のある隊員なら轢くのではなく眼前で止まる。
行ける。ガンスコープから彼らを見る暇は無い。目視照準で人影を捉える。
ダダダダダッという音を連れて、10発の弾丸が一斉に飛び立つ。二人仕留めた。まだだ。後続の隊員も、悪いがここで葬らせてもらう。全員やった。いや一人生きている。
「まて!お前は…!」
「悪く思うな。」
ダカカカッ
これで全員仕留めた。後は管制塔目指して走るだけだ。元「同僚」たちには申し訳ないが、さっきまで彼らが乗っていた装甲車のハンドルに手をかける。よし。そう言ってアクセルを踏むのと、民間機では無い爆音が轟いたのは数秒も違わなかった。
「戦闘機?」
フロントガラスを覗き込む。「それ」を認識するのには一瞬で事足りた。
「通常爆弾!?」
間に合わない。クソッ。友軍のはずでは。
「曲がれっ!!」
ハンドルを切ると同時に、俺の視界は閃光に包まれた。
◎同日 某所上空 
「こちらナトラル01。当該目標の排除を確認。」
「ナトラル01、こちらCP。了解、ミッション達成、RTB(※)。」
「ウィルコ。帰投する。」
長い1日が始まった。


※Return To Base 基地へ帰投せよ、の意。
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