レッドサークル・ブレイブハート・マイクスタイル

文字数 2,565文字

『すべての始まりは、貴方の終りでした』



 平々凡々な成績、中の中、家庭も中流階級と言ってもいいだろう。そんな、どこにでも居るような平均的な俺。そんな俺は昔から正義に憧れていた。正義のヒーロー、そんなものに。だけどそれはエゴだ。自分の価値観を押し付けているに過ぎない。どれが正義?どれが悪?人間の定めた法律が全て?それが善悪を分かつ基準なの?じゃあ、日本の法律を守れば海外では許されるの?海外の法律で違反していることを海外で行えば悪?善とは何?悪とは何?人を殺したら悪?人を救ったら正義?でも、海外だったら、自分の宗教が全てで、敵を殺すのが正義だよね?じゃあ、人を殺してもいいの?法律っていい加減だよね。守る必要ってあるのかな?それがあるから自由って言うけどさ、束縛されて雁字搦めになって、生きてて楽しいのかな?正義って何だろうね。悪って何だろうね。


「ぼくのしょうらいのゆめはけいさつかんになることです!わるいやつらからみんなをまもる!」
「そうね、それじゃあたくさん勉強して、たくさん運動して、頑張らないとね!」
「うん!」


 パシン!と乾いた音がする。
「やめて!痛い!痛い!」
「そんな言い訳をするんじゃないの!警察官になるんでしょ!」
「でもぉ」
「でもじゃありません、こんなの微分積分の基礎じゃないですか!ちゃんとやりなさい!」
「ママ……痛っ」

 僕はまた平手打ちを食らった。

「貴方はもう10歳でしょ!それくらい出来ないでどうするの!それに、ママじゃなくお母様でしょ!」
「でも、学校ではこんなことやってないよ?」
「警察官になりたくないの?」
「……なりたい」
「だったらやりなさい!」
「……はい」


「何度言えば分かるの!今日の成績は一体何!?勉強はまぁいいでしょう。でも、体育の評価が4じゃないの!どういうことか説明しなさい!」
「俺、球技苦手なんだよ」

 パシンと乾いた音がする。

「そんな情けないこと言わないの!貴方は警察官になるんでしょ!」
「……ああ」
「次こんなことがあったら母さんは許しませんからね」
「わかったよ」
「ちょっと待ちなさい。なんですかその口の訊き方は。私はそのように育てた覚えはありませんよ!」
「……失礼しました。お母様」
「はい。よろしい。それでは今日は球技の練習をしましょうか。課題は何だったの?」
「バレーボールです」
「そう、じゃあ、練習できるように体育館に行きましょう。どこかのグループがやってるかもしれませんし、最悪、一人でも出来ますよね?」
「……はい」
「それでは行きましょうか」


ゴッ。鈍い音が聞こえる。

「何度言ったら!分かるって!言うの!……はぁ、はぁ、はぁ」
「ごめんなさい」
「最近貴方ごめんなさいばかりよね?成績まで下がって、何のために貴方を育ててきたのかわからないわ!」
「申し訳ございません。お母様」
「警察官になるんでしょ!これくらいでへこたれていてどうするの!シャンとしなさい!」
「わかりました。お母様」


 ゴッ。鈍い音が聞こえる。

「どうして国公立の大学に入れないの!貴方は頭がいいでしょ!私の息子なんだから!あの人の血が入っているのが悪いのかしら!?」
「ごめんなさい」
「ごめんなさいで済む問題なの?違うでしょ!?貴方をここまで育ててきたのは私よ!私が間違ってるとでも言うの!この親不孝者!」
「申し訳ございません。」
「こんなことで警察官になれるとでも思ってるの!」
「精進いたします」
「そんなことを言って、煙に巻くつもりでしょうがね、そうは行かないわよ!」
「そのようなつもりは決してありません」
「私立に入れるのにどれだけお金がかかるかわかってるの!?」
「本当に申し訳ございません」
「学費は自分ではらいなさい」
「わかりました」
「奨学金のための書類は書いてあげる」
「ありがとうございます」


 やっとの事で俺は大学に入れた。そして、性格が歪んだ俺はここでも弾きものにされた。校舎の屋上へ連れて行かれ、集団リンチ。その後はパシリだ。バイトで稼いだ金も、奨学金も、全部吸い取られる。いよいよもって、生活すら困難になった俺は……


「誰か!救急車を!」
「人が屋上から降ってきた!」


 気がついたのは病院だった。そして、絶望した。

(ああ、俺は死ねなかったのか……)

 途方もない絶望。そして、身体が動かなかった。医者が言うには後遺症らしい。そして、母親がものすごい勢いで殴りかかろうとしたため、面会謝絶にした。部屋はそろそろ集中治療室から普通の病室に移っていい頃合いだと言われた。数日後、個室へ入れた。

「こんにちは。庭の桜を見ましたか?綺麗ですよね?」
「そうですね。俺、大学どうなったんだろうか」
「……確か君は警察官になろうとしてたんだったね?」
「はい。後ろ向きなことを考えすぎて、正直疲れました」
「……非常に残念なお知らせを君にしないといけない」
「……何でしょう」
「未遂とは言え、自殺しようとした君は、もう警察官にはなれないらしいよ」

 俺の頭は真っ白になった。

「……は?」
「非常に残念だが、自殺歴は残ってしまうんだ。それがあると、警察官には慣れないんだよね」

 頭が追いつかない。何に?何が?どうして?は?意味がわからない。ゲシュタルト崩壊?違う、なんか違う。だけど、そんな感じ。説明出来ない。世界がぐるぐる回ってる。


 イヤダイヤダイヤダイヤダ。ケイサツカンニナレナイノハイヤダ。

「あっ、あ、ああ、ああああああああああああああ!!!!!」

 周りから医者や看護師たちが一生懸命俺を押さえる。が、俺はそれでも暴れようとする。


 その後、俺は精神病とへ入れられた。そして、しばらく隔離するとのこと。隔離病室へ入れられた。自殺できないように。

「は、ははは、あはははは」

 俺は狂ったかのように嗤い続けた。そして、ひとしきり笑った後。

「許さない。大学の連中も、母親も、絶対に許さない。復讐してやる。絶対に!絶対にだ!」

 と俺は叫んだ。


 俺の人生は、これで終りじゃない。そう。

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