彼女のバイオグラフィー 

文字数 1,540文字

今日、良いことがあった。 
職場の上司がとても親身になって、私のキャリアプランを一緒に考えてくれた。  
パワフルで偉い人なのに、私のような下っ端職員にもフレンドリーに話してくれる気持ちの良い人だ。上司との話し合いの後で私は、「よし、大変かもしれないけれど、頑張ってみようかな。」とすごく元気をもらえた。   

その上司は、今活躍しているあの人も、この人も、私と同じ立場から、一念発起してキャリア形成に向けて頑張ったのだと教えてくれた。また、私と同じ立場の人の中にも、頑張りたいと思っている人がいるから、連絡を取って一緒に情報交換するといいよ、とアドバイスをくれた。  

なぜ上司のアドバイスは、私の胸にこんなに響くのだろう。それはやはり、彼女が女性だからなのかもしれない。

女性であることは時々、人生をややこしくすると思う。仕事、夢、収入、結婚、家庭、出産、子育て。どこまで頑張ればいいのか、ある程度折り合いをつけて何かを諦めた方がいいのか、わからなくなることがある。 

そんな中で、「こんな道もあるよ。やる気があるなら頑張りなさい。あなたならできるよ。」と先駆者の一人から背中を押してもらえたことが、私の心の奥深い部分に触れたのだ。       


ふと、四年前の夏を思い出した。  

大学院時代で、ちょうど修士論文を書き終わった頃だ。 
アイルランドでは珍しく、天気の良い日だった。     
私は広いキャンパス内を、同じクラスの友達と一緒に歩いていた。  
院生用自習棟の前を通りかかると、そこで休憩をしていた別の友達二人に会った。      
一人の子は、白い布に、青い鳥の刺繍をしていた。
夏らしいワンピ―スから出ている白い腕が眩しかった。この子は私と同じプログラムにいる子だった。
  
もう一人の子は、同じ学科だけれど違うプログラムだったので、普段あまり話す機会がなかったが、彼女とはいつもなんとなく話してみたいと思っていた。その子が、大きめの口で笑う時、内面の豊かさが外にこぼれ出ているような感じだったから。 

私は彼女の隣に腰かけて、卒業後の事について聞いた。    

彼女が言った。 

「私が今一番やりたいことは、英語で本を出版することなんだ。自伝的な小説を書いているんだけれど、この本は、女性を中心にした本でね。女性って言っても、ステレオタイプ的な、嫉妬とか、そういう事を書きたいんじゃないの。私の人生の大きな分かれ目の時に、私の母親とか、尊敬すべき女性が私の事を助けてくれたの。そういう、インスピレーションをくれるような女性について書きたいの。」 

それはすごくいいなぁ、と思った。

でも、その時なんだか、その自伝的小説の哲学に素直に賛成できない自分もいた。偶然かもしれないが、それまでの人生で、本当の意味で同性の有難さを実感することがなかった。

女友達は、一緒にいて話していると楽しいけれど、こっちの人生が上手くいっている時に足を引っ張ってくる事もあるし、何より、気になる男子がいると私の事なんか置いてけぼりだよねって。  

同性に対しての私の気持ちはそんな風だった。


もしかしたら、必要以上に深い結びつきを求め、期待しすぎていたのかもしれないが。  


でも今日ふと、上司との話し合いの後で、四年前に彼女が話していたことがわかった気がした。あの時の私は幼かったなぁ。あれから四年間が経ったけど、確かにそうだね。もちろん男性もだけれど、私を励まし、勇気づけてくれる素晴らしい女性たちがいたし、今もそんな尊敬すべき人たちが周りにいるなぁって、思うことができた。  


彼女は本を出版できたのだろうか。
夢に向かって頑張る彼女に、幸運が訪れることを祈る。


私もいつか誰かを励ませるような存在になれればいいなぁ。


  


 




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