第1話

文字数 960文字

あなたが仕事の関係でTOEICを受けると言う。
そうなんだ!頑張れ!と伝えた翌日、"短期集中TOEIC880点"と書かれたテキストを購入して2ヶ月間必死に勉強をした。おかげで私は睡眠不足に陥ったが上司にはしっかり褒めてもらえた。

あなたがボーナスでDiorのネクタイを購入すると言う。いいね!絶対似合うよ!と伝えた翌日、引き落としが終わったばかりのクレジットカードでDiorのネックレスを買った。細いシルバーのチェーンはどんな服にでもよく合う。

あなたが今日の夕飯は牛丼を食べたと言う。私も牛丼好きだよ。と言った直後、吉野家に駆け込み、牛丼並み汁だくをテイクアウトして、スキップしながらアパートの階段を駆け上がった。紅生姜と七味唐辛子だって忘れない。

紙タバコ一筋だったあなたがアイコスを買ったと言う。1時間後にAmazonでピンクのアイコスを購入し、2日後に届く。アイコス特有のスモーキーな香りにむせ返った。あなたは説明書なんて読まないだろうと思ったから私も読まなかった。おかげで全く使いこなせていない。

思えば初めてのデートの日、わざわざあなたと同じロエベの香水を買い、首筋に3プッシュも振りかけたこと、あなたは「うわ、すごい偶然!俺もその香水好きなんだよ。」なんて言ってたけど、私が前もってあなたの友人に聞いて用意したものだって、あなたはまだ知らない。

あなたの友人に見せてもらった写真の中でハイボール片手に気怠そうにカメラに視線を落とすあなたを見て以来、毎晩苦い!と顔を渋めながら無理矢理ハイボールを飲むようになったので、居酒屋では一杯目から"同じので"と言えたことも、あなたはまだ知らない。

今日も私はあなたと同じくらい英語ができて、あなたと同じようにDiorの小物を身に纏い、あなたが好きな牛丼を夕飯にして、あなたみたいにアイコスの充電に痺れを切らしながら生きている。

あなたの知らないところで、あなたが私に運命を感じてくれるように、私自身をゆっくりあなたに傾ける。あなたとの"おそろい"が増えていく。この仕組まれた運命に私自身も騙されて、夢を見て、あなたと一緒に二人の未来に前進したいから。

次はなにを"おそろい"にできるだろうか?
"苗字"なんて、言っていいだろうか?
ねえ、お願い。来年の私の誕生日にはあなたの苗字を下さい。
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