第2話 プロット

文字数 1,962文字

(プロローグ)
「火事だ!」
その声に触発されて少女は建物の二階に駆けあがった。何故だか分からないけれど、幼いころから火事と聞くと体がムズムズしてどうにも我慢できない。
「炎の中に隠れている龍を見つけることが出来たら願いが叶う。」父親からそう聞かされていたから。
「とうとう龍を見つけた!あたしの願いは父さんみたいな立派な絵描きに……。」と思った瞬間、床が焼け落ち少女は炎の中に消えていった。

(起)
私、中学2年生の相原夢奈(あいはらゆめな)はシングルマザーのママと二人暮らし。
超恋愛体質のママは、目下恋人のマンションに行きっぱなし。なので私は、ほぼ一人暮らし状態。もう慣れっこなので、全然平気……。
マンガ好きで妄想好きな私は、マンガ家になりたいって思ったこともあったけど、絵が超下手クソなので絶対ムリ。

ある日の学校帰り、近道の林を通っていると、突然、私の目の前に少女が落ちてきた。少女の顔は煤で真っ黒、衣類も髪の毛も焦げてぼろぼろのチリチリ、しかも気を失っている。
放っておけないので、通りかかったアパートの隣人で高校生1年生の関根北斗に手伝ってもらい、とりあえずうちに運び込んだ。彼女はケガもなく、すぐに意識を取り戻したけれど、記憶を失っていた。
私はいつもの癖で「悪の組織に誘拐されて逃げ出してきたのかも」なんて妄想しちゃって、「私に任せて!」とうちにかくまってあげることにした。
自分の名前さえ憶えていないうえに、古臭くて男みたいな言葉遣いをする彼女に、私の妄想中のヒーロー、ドラゴンの化身の「リュウ」と名付けた。

(承)
リュウはマンガやアニメに強い興味を持って、一日中テレビやビデオを見っぱなし。そのうち、マンガのキャラクターの模写を始めた。それが上手いのなんのって!
そこで私はひらめいた。
「私がストーリーを考えてリュウがマンガを描けばいいんだ!」
私とリュウはマンガの競作を始めた。けれど、リュウはとんでもなく頑固者で、私の意見を全く聞かず、二人は喧嘩ばかり。マンガ制作は思うように進まない。
ついにキレた私は、「言う通りにしないのなら私の家を出て行って!」と怒鳴ってしまう。
 
(転)
翌日、猛反省した私は、リュウに謝る決心をして学校から帰ってくると、リュウが家からいなくなっていた。
喧嘩ばかりしてたけど、リュウがいなくなって初めて彼女の存在が私を孤独から救ってくれていたんだと思い知らされる。
リュウを探す私に北斗が「あのコなら、『葛飾北斎展』というチラシを俺に見せて「これ、どこで見られるんだい!?」って聞くから、美術館の場所を教えてやった」と答える。
「なんで葛飾北斎展?」と思いつつ、私は北斗と一緒に美術館に向かう。
美術館では「葛飾北斎 幻の肉筆画展」をやっていた。

その頃、記憶を取り戻したリュウは絵画贋作のシンジケートに捕まっていた。組織のアジトに連れて行かれたリュウは組織に絵を描かされていた父親と再会。
リュウの父親はあの『葛飾北斎』で『お栄』がリュウの本当の名だった。
江戸の大火災の中から娘を助けようとした北斎は炎にまかれ、そこに生じた時空のゆがみに父と娘は飲み込まれ、タイムスリップしてしまったのだ。
北斎は贋作組織に監禁され、絵を描かされていた。北斎の真筆肉筆画、それも新発見ともなれば一枚数億、数十億の価値がある。

(結)
私は北斗に協力してもらって、リュウの行方を探した。そして組織に監禁されていたリュウと彼女の父親を発見。二人をアジトから助け出すことに成功した。
リュウの話では大火事に巻き込まれて気付いたらこの時代いたのだという。
歴史オタクでファンタジー好きの北斗は「そんなのよくあることだよ」と真顔で語る。
逃げ出した途端、アジトから火の手が上がり、瞬く間に燃え広がった。
「わしの絵が燃えてしまう!」北斎さんが建物に戻っていき、「父さん!」とリュウは止める私の手を振り払い北斎さんの後を追って建物の中に…。
二人が建物の中に消えた瞬間、大きな火の手が上がり建物は燃え堕ちた。

消防員の話だと建物の中には人はおらず、犠牲者は出なかったという。
「リュウと北斎さんはどこに消えたんだろう?」と聞く私に「二人が元の時代に戻ってなかったら、歴史が変わってしまうかもな」と北斗は答えた。

その後、私と北斗は美術館で開かれた「葛飾北斎父娘展」を見に行った。
北斎さんの晩年の作品とリュウ……じゃなくてお栄さんの作品が展示されていた。
北斎展には北斎さんのスケッチ集ともいえる『北斎漫画』も展示されていた。
『漫画』と名付けたのはリュウなんだと私は確信した。
「元の時代に戻れたんだね、リュウ」
彼女の絵に描かれた女性の顔が、私と一緒に作ったマンガのキャラクターにどこか似ている気がした。

                                         了

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