君へ

文字数 2,971文字

 下駄箱を開けて手紙なんかはいっていたら、誰でもラブレターかと思っちゃうよね。うん、正解です。ラブレターです。名前は書かないけど、君なら字を見たらきっとわかっちゃうよね。ちょっとだけ悔しいから、左手で書いてます。汚くて読めなかったらごめんなさい。
 今、雨が降ってます。どしゃぶりです。世界の終わりみたいです。そして、あの日に似ています。私の人生に光が差し込んだ、あの日です。一年前、私はある男の子に救われました。兄と妹を事故で失って、悲しみのあまり、どしゃぶりの外を傘もささずに歩いていた私に、知らない男の子が声をかけてくれました。なんとその子は私に傘を差しだしてくれたのです。思い返してみても、女の子が憧れる白馬的な展開でした。うーん、ロミオ的展開かな……?まあどっちでもいいや!!そしてその後、お風呂に入れてくれただけじゃなく、家に泊めてくれました。でも、「お化けみたいな顔してた」なんて言ったあの子は、男の子として失格です。女の子になんてこというんですか。ポイント低すぎです。あと、弱っている女の子を家に泊めるとか、もっとポイント低いです。…………って、君との馴れ初めなんて書いたら私の正体わかっちゃうよね。左手が疲れたので右手に変えます。
 君はお化けとかユウレイって信じますか?私は信じます。だって、もし私が死んだ後にユウレイになれなかったら寂しいもん。幽霊になって、君にちょっかいかけて驚かすのが私の夢です。お化け屋敷にすら入れない君の事です。今ごろ、「ゆ、ユウレイなんていないし!」とか威張ってるんでしょうね。でも安心してください。もし怪奇現象が起きたら、それはきっと私の仕業です。あ、着替えの時とかはちゃんと目をつむるから、脱ぐときは「脱ぐよー」って一言声をかけてくださいね。
 私達の関係って、なんなんでしょうか?恋人でもないし、友達って言うのもなんか違う気がします。歳は私が一個上だから、先輩後輩?でも、君は私を先輩って呼ばないから、先輩って感じしないんですよね。君はもっと私に敬意を払うべきです。私をなおざりにしたこと、きっとそのうち後悔しますよ。(先輩らしく、なおざりとかちょっと難しい言葉つかってみました)
 君は友達が少ないから、私は心配です。私がいなくなっても、ちゃんとやっていけますか?勉強も一人でできますか?なんて言ったら、君は子ども扱いするなと怒りそうですね。そのちょっとすねた顔が見たくて、いつもいじわるしちゃいます。
 たくさん友達をつくってください。たくさんの人の優しさに触れてください。君は、ダメダメさんですから、私がいなくなったらまた殻の中に閉じこもって自分から友達なんてつくろうとしないですよね。でも、いきなり友達つくれなんて言われても困ると思うから、私の唯一の友達に、君と友達になってくれるように頼んでおいたよ。その子の名前は藤沢サキ。ちょっとつんつんしてるけど、とてもやさしい子だから、絶対仲良くなれると思うんだ。サキのこと、頼んだよ!
 今思えば、君ともっと旅行に行きたかったなって後悔しています。あ、でもね、君と二人でいった夏祭り、とても楽しかった。まさか君に射的なんて特技があったなんて、意外でした。今でも思い出します。あの時の自慢げな君の表情。
「俺には〝テキ屋のテキ〟という異名があるんで」
 うん、一年たってもやっぱダサいよね(笑)
 しかも、自分で名付けた異名だなんて。君らしいといえば君らしいですけどね。その射的の才能、将来わるいことに活かしちゃだめですよ?活かすときはちゃんと私も誘ってくださいね。もちろん冗談ですけど、君とならそれもアリかななんて思っちゃった私は少し危ない子かもしれません。君とどこかへ行ったのって、その夏祭りくらいでしたよね。日本の観光名所とか、海外にも行ってみたかったです。君はインドアですから、ちょっとくらい外の美味しい空気を吸ったほうがいいですよ。世界はこんなにも広いんですから。というか、デートのお誘いとか、普通男の子からすべきだったんじゃないですか?夏祭りの時も私からだったし。私、一度も君に誘われてないです。君はヘタレです。
 …………と、君との思い出を書き続けていたらキリがないですよね。手紙の枚数にも限りがあるので、本題に入ります。
 君にお願いがあります。とてもとても大切なお願いです。明日から、君に日記を書いてほしいのです。毎日じゃなくても構いません。なにかすごいことが起きた時とか、君の心を動かす人に出会えた時に、日記を書いてほしいのです。私は、もう長くは生きられなさそうです。。まだ18年しか生きていない私に、君と出会ってから一年しかたっていない私に、未来の出来事を教えてください。君の未来を教えてください。だから、たくさん友達をつくってください。いろんなところへ行ってください。君が面白いと思ったこと、君が悲しくなったこと、君が感じたことを、書いてください。どんなことでもいいです。「今日のご飯はお寿司だった。わさびが辛かった。でも美味しかった」とか。「天気がとてもよかった。溶けそうなくらい暑かったけど、俺は溶けなかった。持ってたアイスクリームは溶けた」とか。なんか小学生の夏休みの絵日記みたいですね。あ、でも、「彼女ができました」とかは書かなくていいです。それは私に内緒で楽しくやってください。サキだったら、許せるかな。私は心が広いですからね。
 急に何言ってんだよって思うかもしれません。だから、私のお願いを聞いてくれなくてもいいです。そのかわり!もし願いを聞いてくれなかったら怪奇現象8割増しです。だから叶えてくれなくてもいいですよ。着替えの時も目をつむってあげませんが叶えてくれなくてもいいです。めんどくさい女だって思うかもしれません。わがままな女だって思うかもしれません。でも、こんなわがままを聞いてくれる人なんて、君しかいないです。…………少しだけ嘘をつきました。こんなわがままを聞いてほしいと思えるのは、君しかいないんです。めんどくさい私にかまってほしいって思えるのは、君しかいないんです。他の誰かじゃダメなんです。君がいい。君に、語りかけてほしいです。私の耳元で、ささやいてほしいです。ちょっとぶっきらぼうで、つんつんしてて、それでも、優しくてあたたかいあの声で。でも、そんな声ももう聴けないのかな。ちょっと、名残惜しいです。この手紙を書いた後、君に電話しようかな。うん、する。ちょうど金曜日なので、今日は寝かさないです。ぶっきらぼうな、「もう寝かせてくださいよ」なんてすねた声を聞けると思うと、わくわくします。私が生きている間の、最後のわがままになると思います。しっかり最後まで、私のわがままを聞いてもらいますからね。
 ラブレターって、こんな感じでいいのかな?なんか、思ってたのと違うけど、これも私達らしいのかな?

 雨、やみました。とても晴れています。太陽がまぶしいです。世界の始まりみたいです。窓を開けていたせいで、ところどころ、手紙が濡れちゃってますが、ご理解お願いしますね。
 
 最後になります。

 好きです。君のことが好きです。大好きです。愛しています。どうか、お元気で。 
 
 
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み