第1話

文字数 815文字

久しぶりの定時退社。
何ヶ月ぶりだろう。外はまだ明るい。このまま家路につくのが勿体なく感じてしまう。
そういえば仕事帰りに飲み屋に寄るなんていつ以来だったかな。
職場から駅までの途中、居酒屋、焼き鳥屋、おでん。お好み焼き屋なんていうのも。うーん。イタリアンな雰囲気のトラットリアやスペイン風のバルなんかも良いな。
歩くたびに店の看板が目に飛び込んでくるので、気持ちは完全に飲んで帰るモードになった。
昔は一人で飲み屋に入ることに抵抗があったけど、歳のせいなのかスマホのお陰なのか、気づいたらそんな抵抗はなくなっていたな。
よし、この店にしよう。そう思って店のドアを開けようとした時。携帯電話が鳴った。イヤな予感しかしない。発信番号は得意先だとスマホの画面が告げている。
「はい」
得意先の担当は心の籠もっていないお詫びの言葉を早口で言い、その後は自分勝手な理屈で明日の朝までに間にこの作業をして欲しい。そのことだけを何度も何度も繰り返していた。電話に出た時点で負けだという事はわかってた。
すると、店の入り口を塞ぐようにで電話をしていた私に、後から来たカップルが不機嫌そうな目を向けてきた。「本当だったら私はとっくに店に入っていたのに……」そう思いながらその場をどき、急いで会社に戻った。頼まれた作業の時間を軽く見積もると、頑張れば終電で帰れそうだった。それが唯一の救いだ。

ようやく仕事を終え、駅に向かう。時間はもう11時を回っていたけど、終電より結構早く帰れるのは少し嬉しい。最寄りの駅に着いた時、駅前のスーパーの灯りは煌々とついていた。夕食の時間はとっくに過ぎている。つまみになりそうなお惣菜とアルコールを何本か買ってから帰った。
空腹を我慢しながら先にシャワーを済ませ、髪を乾かした。
準備万端だ。そう思って床に腰を下ろした瞬間、睡魔が襲ってきた。せっかく買ってきたのに。でも。ああ、むり無理ムリ。
最後の力を振り絞り、ベッドに入る。
明日こそ……。


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み