あなたも幻

文字数 644文字

わたしがお気に入りのドレスに
袖を通したある日の午後、
あなたは居なくなった。

太陽が頂点に昇った時刻、
あの人はたしかに満面の笑みでわらっていた。

そして、
日が西の地平線へゆっくり沈んでいくなか、
彼の姿も消しごむで消されていくように
徐々に徐々に消えていった。

わたしの元には
あなたがいいねと言った緑のドレスと
そのときの笑顔の残像だけが残っていた。


あなたが消えた日の夜、

わたしは、自分の足元に広がる影を見つめながら、
あなたが消えてしまった世界との接点だと思うことにした。

あなたは影の向こうの世界へ行き、
わたしたちは、カードの表と裏のように繋がっているんだと。

でもそれは、妙にわたしを居心地悪くしたの。

真夜中、わたしの生きている世界は、
紺色のスカーフにすっぽりと包まれた。

その日の夜から、
あなたはわたしの夢の中に毎晩出てきた。
そして朝になると、あなたは同時に消えた。

目が覚めて、なお、あなたに会いたいとか、
もっとあなたといたいとは思わなかった。

あなたを 明るい日差しのような人だと思っていたから。
なのに太陽の下で生きられないなら、
それはもう、きっと、あなたではないから。

そこでわたしはやっと、
あなたを愛していなかったと分かったのだった。
あなたの笑顔の残像も、あなたの輪郭も、
本当にそれは存在(あった)のかしらと思えてしまうほど。

昼の世界はあかるいから、
それは夢ではなくて真実だと思ってしまう。

でもそうではなかった。

真昼も夜々中も、
わたしが思いたいように思っている世界が
ただ目の前に、繰り広げられているだけだった。
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