東の魔王

文字数 712文字

サマルカンド
14世紀、ティムール帝国。
シャー・ルフは果樹園の木陰で本を読んでいた。目の前には整えられた水路がある。ここには草原の乾燥や砂漠の熱気と程遠い清浄な空気があった。

そこに、父のティムールが現れる。彼は白い杖をついていた。

よぉ、ルフ。
父上、
ルフは顔を上げた。
読書も良いが、運動してるのか?

あまり体を動かさないのも良くないぞ。

はぁ。

ところで、父上がご自身の棺に刻まれた言葉って、何でしたっけ。

え……

「墓を暴いた者は、私よりも恐ろしい侵略者を解き放つ」、「私が死の眠りから起きた時、世界は恐怖に見舞われるだろう」だけど……

いくら墓を守るためとはいえ、大袈裟ですね。
フ、と彼は苦笑した。
やめてくれよ……

何で言わせたんだ……

ところで、何故こちらに?
あ、ああ。

別に用があるわけではない。

ただ顔を見に来ただけだな。

ティムールはルフの隣に腰掛けた。この頃、体の節々が痛むらしい。

少し、沈黙が流れる。

御自身の後がご心配ですか?
ルフが口火を切った。
まぁな。

お前もまだ若い。やっていけそうか?

自信はありませんね。

ただ、我々は孤立無援ではない。

敵は多いですが、うまくやりましょう。

ティムールは笑った。
素直なやつだな。

ミーラーンの奴が気になるが、なんとかやれよ。

ミーラーン・シャーはティムールの三男で、一度反乱を起こしたことがあった。

長男と次男は既に亡く、次男の子ピール・ムハンマドが後継者に指名されている。

モスクからアザーンが流れる。
おや、礼拝の時間ですね。

それでは。

シャー・ルフは立ち上がって、その場を去った。
ティムールは座ったまま、息子の背中を見送った。
コラッ!

なんで反乱する!

いてっ!

ゴメーン☆

次回はミーラーン・シャーの狂気について。
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登場人物紹介

ティムール


14世紀に中央アジアで帝国を築いた。普段は目にハイライトがない。が、息子相手だとツッコミに回る。

シャー・ルフ


ティムールの末子。父の死後、紆余曲折あって後継者に。敬虔なイスラム教徒。素直クール。

ミーラーン・シャー


ティムールの三男。気が狂って(?)反乱を起こしたが、許された。「余は世界最強の人間の息子だ」とかいう。

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