第1話

文字数 504文字

死にたい朝、目覚ましなんかかけない。  
いや、僕はいつからか目覚ましをかけなくなった。
明日が来なければ良い、とか、明日目が覚めなければ良い、とか。
そんな後ろ向きな理由からでは、ない。
目覚ましは止める為に鳴る。
止めたら目的達成。
また眠る。
本来の意味はすっかり見失われている。
ハッ、いけね、こんな時間。
あれ?目覚まし鳴らなかったんか?
あるいはかけ忘れたとか。
「起きなかった自分」を「起きられなかった」事にして、その理由を擦り付ける。
けたたましい目覚ましの中眠り続ける人。
どんなに揺すっても起きない人。
あなたも見たことあるはずだ。
そして、起きる時間を決めて寝ると、ちゃんと起きる自分に気付く。
フロイトの錯誤行為、忘れ物は忘れちゃいけないプレッシャーから逃れたくてわざと忘れる、って仮説を思い出す。
30年くらい普通に生きてれば、だいたいそうなるんじゃないだろうか。
利便性により喪われていく人間に備わっていた能力。
そこに無自覚に、目の前にある「モノ」の性能や使途を盲信する自分を疑わない。
それが、現代的な怠惰の定義のひとつであり、目覚まし時計はその象徴のひとつだ。
目覚ましへの依存は、ただ眠りを引きのばす。
それだけだ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み