愛し子(いとしご)

文字数 2,061文字

新帝国の理事種族アミーの代表人格は、
人類の先進種族認定に際して、かく語れり。
『現皇帝種族サタンは、全ての種族に対し愛情厚き種族なれども、
特に汝等人類に対しては、格別な感情を抱けるが如し。 
その理由には次の三つが考えられん』

『第一は、汝等が彼女と同様に、
樹上生活を営む雑食動物から進化せし種族なるがゆえなり。
そのため彼女は、汝等の文明に対する支援において、
自らの歴史上得たる、あらゆる知識や教訓を適用せり。
彼女自身はその人格群を量子頭脳に移して結びつける以前、
茶色の毛皮と美しき角に似たる耳殻、青き血液を有する、
猫と蝙蝠(こうもり)の合いの子の如き種族なりき。
しかし、かかる相違は帝国種族の多様性や、
量子化種族の特性からみれば些細(ささい)なものなり。
彼女が汝等を自らの愛児の如く慈しむ心情もまた、
無理なきことならん』

『第二は汝等が、彼女の考案せる、
秘密観察による文明支援方式の対象種族なりしがゆえなり。
彼女は、従来帝国と接触せる発展途上種族が、
先進技術の急激な導入から、過剰依存や士気阻喪、
さらには技術の悪用・誤用による荒廃や自滅に陥る危険性が高きことを発見せり。
そこで彼女は、一定の発展段階に至るまでは公式の接触を避け、
隠密裏に支援を行う手法を採用せり。
すでに大いなる発展を遂げたる汝等には、
もはやかかる恐れは皆無なれども、
その発展が余りにも急速なりしがゆえに、
慎重なる性格の彼女としてはなお、目を離し得ざらん』

『第三は汝等が、帝国の体制を模し、彼女が悪役を演じたる
〝神話〟による文明支援方式の、最大の成功例なるがゆえなり。
この〝神話〟に基づく文明活動とは、
超自然的な人格や法則に対する活動が好悪の結果を招くという、
科学的に実証し得ざる〝空想〟に基づく活動なり。
この〝空想〟は時に副作用を伴うも、
科学・技術における推論や、制度・政策における法律概念・貨幣価値、
そして文化活動など経済・社会活動の基礎となる、
文明活動にとりて必然的、かつ有益な活動なり。
従って、〝空想〟に基づく〝神話〟による活動もまた、
初期文明への支援には特に有効な手法なり』

『汝等は〝神話〟の弊害を克服しつつ、
福祉・教育など行政・社会活動の増進や、
建築・印刷など技術の開発・普及、
あるいは芸術・知的遊戯・体育運動など文化活動の振興に活用せり。
また、後には産業の奨励や政教分離など教義の修正も行いて、
さらなる政治・経済の発展に貢献せしめ、
自らの知性と徳性を以てこの支援手法を制御することにより、
偉大なる文明を建設せり』

『中枢種族〝慈愛の王〟が〝聖霊〟、
すなわち先帝種族の生存人格群が宿る量子頭脳を地球に秘匿(ひとく)し、
最終的にはサタンがそれを保護し得たる歴史の因縁(いんねん)も、
かかる事情と全く無関係には非ざらん。
ゆえに汝等の存在は、敬愛する先帝からの正統性を重視せる彼女にとり、
一段と重要性を帯びたり』

『しかし我はまた、帝国には皇帝種族以外にも、
様々な種族が共存せることを強調せざるを得ず。
我等理事種族は、他種族への威圧的印象を除き、親近感を得るべく、
相手方種族の基本的遺伝子型を有する性別の、
愛らしき若年個体の姿を借りて活動する場合が多きことは事実なり。
この分離個体はまた、種族や個体の同一性を失わざるよう、
同様の特徴を有することが通例なり。
先般の祝賀式典に出席せるサタンの代表人格もまた、
栗色の御河童頭をせる、優しげな少女の形態を採用せり』

『しかしながら彼女に随行し、
共に〝史上最も愛らしき異星人〟として人気を博したる
二つ編み(ツインテール)〟や金髪の美少女達は、
皇帝種族には(あら)ず。
実は彼女達はサタンの護衛役を務める、
旧親衛軍種族のグラシャラボラスと
バールゼブルの偽装戦闘用分離個体にして、
各自が主力戦車に匹敵する戦闘能力を有せり。
彼女達の基本形態は大きな耳を持つ有翼の犬、
あるいは金色と黒色の蜜蜂に似たる姿なれども、
その性格は純真かつ忠良、
あるいは強き責任感と克己心を以て知られたり』

『帝国種族はその外面的属性も内面的性質も、まことに千差万別なり。
今後は汝等人類もまた、
サタンのみならず多種多様なる他種族との交流に臨み、
相互の文化を尊重しつつ、良好なる競争的協調関係を築くことにより、
星間社会の発展に貢献し続けられんことを、
我はここに強く願うものなり』と。

最後に彼女は放送映像への加工を解除して、
悪戯気(いたずらげ)な笑みを浮かべたる愛嬌と元気に溢れる少女から、
同様の微笑を浮かべつつも屈強にして壮健なる、
海豹(あざらし)の如き分離個体の姿に変身し、視聴者を驚愕(きょうがく)せしめたり。
ヴォラクの代表人格は、高度な知性と共に知られる彼女の種族的な個性、
すなわち時には批判を受けつつも憎めざる、
過激な諧謔(かいぎゃく)の精神を遺憾なく発揮せり。
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