第3話 フミ・テア・ゼガの天恵

文字数 4,543文字


「ああ、 そうか!今日はシフィの『天恵の日』か!!」
 まるで自分のように喜んでくれるゼガ。
 厳しいことをいう一面もあるけれど、 実はめちゃくちゃ良い奴で、 僕のことを弟分として可愛がってくれていると思う。

「『天恵』かぁ……なんの才能を女神さまはくれるんだろうね~、 『植物を育てる才能』みたいなのがシルくんには合ってるとフミは思うな~」

 小柄な僕をぬいぐるみのように抱え込み、 フミがいう。

「あたしらはすごく普通の『天恵』だったからさ、 ゼガとリーダーみたいにA級の才能が羨ましいって思うんだよね。 だからせめてシルフィーだけでも……」

 ぐへへへ、 と悪い顔をしながら手をワキワキさせて僕に近づいてくるのはテア。

「私の『巫女』って確かに珍しいけど……日常生活じゃやっぱ役に立たないことの方が多いし……珍しいだけだから、 フミとテアの方がいいなぁって思うよ」
 長く伸びた髪をくるくるしながら、 フミに抱えられた僕をちらちらとみる。

 おや、 おねぇさん。,嫉妬かな?

 正直なところ、 どこかとは言わないけれど、 まだまったく成長していないフミに抱っこされるより、 もう完全に服の上からでも起伏が分かる程度に成長して頂いているフリュに抱っこされる方が僕としては嬉しいんだけどね。

 エルフの女の子って、ボディケアは元より、 石鹸なんてほとんど使わないというのに、 物凄いいい匂いがする。
 森に生えた一面の花畑とおひさまのにおいがする。

「フリュの『巫女』は『女神さまと話ができる才能』だけど、 ゼガとフミとテアの『天恵』って具体的にどんな才能なの?」
 フミに抱えられつつ、 両足をテアの脇に挟まれ、 空中にあおむけ状態の僕である。

「なあに?フミの話が聴きたいのかなぁ?」
「顔が近いよ、 フミ」
「おやおや、 テアおねぇさんのお話に興味があると~!」
「そこはもう足じゃなくてお尻だよ、 テア」
 僕が小柄で軽いことを良いことに、 完全におもちゃにされる。

「俺の才に興味があるのか!!もし一緒ならビシビシ鍛えてやるからな!」
「目が怖いよゼガ」
 赤い髪が相まって、 目が燃えているように見えるのは幻覚だろうか。

 基本的にこの3人は、 男兄弟がいないためか非常に僕のことを可愛がってくれるのだが、 その押しが非常に強い傾向がある。

「俺の才はAランクの『天恵』で『戦人(せんじん)』さ。 名前は普通だけど、 戦うこと全般、 つまり剣にも弓にも体術にも優れた適正のあるめちゃくちゃ応用の利く才能なんだぜ? 扱ったことは無いけど、 銃や刀、 爆発物の取り扱いもできるらしい。 ……まあこの森にいる限り、 狩りにしか使えない才能だけどな」
ニコリと笑うゼガ。 エルフ族にとって非常に珍しい(というか彼の一族だけの特徴)赤い髪が光を反射してイケメンに見える。
というか彼は少年エルフの中でもかなりのイケメンだ。
すくなくとも、 僕みたいなくたびれた顔をしたエルフよりは。

 戦士の才。 身体能力に長け、 視野は広く、 痛みに強くなる才能。
 並外れた努力では生涯その才能を活かしきることができないと言われているもの。

「もしも戦争が起こったときは、 『狩人』や『鍛冶師』『武道家』『騎士』なんかの才能よりも活躍できるって話だけど、 正直俺にもよくわからん」

「この村で『戦士』の才をもらっているのは、 村長とゼガだけだからね~。 ここ数百年はこの『ジュブネッタ大森林』で戦争が起こったって記録はないし」
 口元に人差し指を当てながらうーんと考えるフリュ。

「戦争なんて死ぬまで起きなければいいけどさ。 何かあったら俺がお前たちを絶対に守るからさ! 安心してくれ!」

 ゼガお兄ちゃんマジイケメンです。
掴まれた両足の力が緩んだと思い、 ちらりとテアの方を見ると顔が真っ赤になっている。

男勝りな性格にかなり短く切った髪がテアをボーイッシュに見せるが、 実をいうと間違いなく乙女度でいえばフリュやフミよりテアの方が乙女なのだ。
フリュは全体的にふにゃんとしているが、 乙女というより大人の女性と評価する方がしっくりくる場合が多い。 いろんな意味で。

一方でフミもまたおとなしい性格をしているが、 未だに異性の前で服を脱ぐことにためらいがなかったり、 いろいろと大雑把だったりと、 乙女というにはすこし疑問がある少女だった。

「……ありがと」
ぼそりとテアがつぶやいたのを僕だけが聞いた。「え~、 ゼガくんに守ってもらうのは心配だなぁ~!」と容赦なく切り捨てる姉のフミの声にかき消されてしまったからだ。

「ちょっ……おまえ! 俺一応、 村長の息子として一人前になれるように頑張ってるんだからそういうこと言うのやめろよ! 悲しい気持ちになるだろ!」
「だってゼガくん、 前にフルウと勝負して負けちゃったんだからさぁ」
「それは! それは……そうだけど……」
 ああ!頑張れゼガおにいちゃん。 君は少年ながらエルフを纏めるほどの心意気を持っている男の子のはずだぞ。
「…………もっと修行します」
 ゼガは言い訳の一つもせずに自分の負けを認めた。

今から数か月前、 フリュとゼガが勝負した。
同じAランクの『天恵』でどちらが強いのか、 とフミが言い出したのがきっかけだった。
 テアは危ないからやめようと言っていたのだが、 思いのほかフリュが乗り気でゼガもまた自分の力がどれほどなのかを知りたいと思っていたのだ。

 結果はフリュの圧勝。

 もちろんお互いに怪我をしない様にと、 『戦人(せんじん)』の才をもつゼガは本物の剣ではなく、 近くに落ちていた棒を魔法で強化したもののみを使うこととし、 『巫女(みこ)』の才を持つフルウは非殺傷能力の青魔法に限定した勝負だったのだが……。

 フルウは一番最初に青魔法“水の羽衣(はごろも)”によって自分の周囲に水の防御を固め、 次に青魔法“海(うみ)兎(うさぎ)の加護”によって機動力を確保、 その後青魔法“水聖連覇(フルウ・マジック)”とかいう水の壁を相手に叩きつけ続けるという鬼畜戦法をとった。

 『戦人』の才をもつゼガは魔法のかかっていない木の棒で“水の羽衣”を弾き飛ばし、 “海兎の加護”と同じ速度で移動することができるが、 それを同時に繰り出せるとは想定できず、 さらにフルウのオリジナル魔法といえる“水聖連覇(フルウ・マジック)”に圧倒されてしまったのだ。

「でもゼガも強かったし!」
 今度は強気に言い切ったテア。
「リーダーの使った水の壁を何枚かは切ってたし!」
「何枚かしか切れなかったともいえるけどねぇ~」
「フミはなんでそうやってゼガを馬鹿にするの!」
「馬鹿になんてしてないわ~」
「次やれば絶対ゼガが勝つし!」
「リーダーに勝てるわけないでしょ~」
グルルル、 とうなるように姉に反論するも、 フミにニコニコと返されるテアだ。

「いや、 俺がフルウに負けたのは完全に俺の実力不足だったし、 少なくとも今の実力じゃどんな戦略を立てても勝てないと思うぞ!」
 なぜかテアに対して説得するゼガだった。

この双子の姉妹がフリュのことをリーダーと呼ぶのは、 何か理由があるらしいのだが、 僕も詳しくは知らない。
ただ、 僕がこのグループに入るようになるずっと前からこの双子はフリュをリーダーと呼んでいたらしい。

「3人とも~喧嘩したらダメだよ~」
「そうだよ、 主に僕を上下で引っ張るのは僕としては看過できないよ」
未だに双子の姉妹に掴まれている僕は、 姉のフミと妹のテアに引っ張られるような形で宙に浮いた状態になっている。
それは別に構わないんだけど、 服が脱げてパンツが見えそうになっているのをフリュが隠そうともせずにガン見してきているのを僕は看過できない。


「それで、 フミとテアの2人はどうなの?」
喧嘩、 というよりちょっとしたおふざけも落ち着き、 僕は改めて仕切り直した。
今は僕の誕生から12年と半年にある『天恵の日』だから、 みんなの『天恵』を詳しく知りたいという話だったはずなのに、 だいぶ話が逸れている。

「「あたし(フミ)は『鑑定士』だよ」」
 双子らしく声をそろえて言った。

「Bランクの才能『鑑定士』は日常生活で結構便利だけどさ」
「すごく地味なんだよね~」
「この果樹園から出荷されるピアの出来栄えをチェックして適正な価格をつける」
「もしくはお買い物の時に適正な価格化を見ることができる」
「そういったところでは便利なのだけれど」
「だからと言って積極的に欲しかった才能化と言われたら」
「「ねぇ~」」

 さっきまで言い争いをしていたのは何だったのかと思う程、 ニコニコと息をそろえて話を進める。

「おとうさんの持つAクラス『審(しん)眼(がん)』の方がよっぽどほしかったし」
「カッコいいと私たちは思うんだよねー」
「ねー」

本当にこの二人は仲がいい。
喧嘩も良くするけれど、 絶対に相手が傷つくようなことまでは言わないあたりに姉妹愛を感じる。
「『審眼』と『鑑定士』って何が違うの?」
才能の上位互換のようなものなのだろうか。

「フミたちの『鑑定士』はあくまでもその素材や状態に対して価値を見出すって才能なの。 だから例えば高名な画家の描いた絵なら紙の素材と絵具の価値は分かるし、 絵の状態から価値を推測することができるんだけど」
「でも実質的な芸術性の判断はできないの。 おとうさんの『審眼』はそれを描いたのが誰なのかってことや、 将来的にどれほどの価値を持つのかっていうことまでもわかるんだ」
「もっというならフミたちが病気になったとき、 どの食べ物を食べれば病気の直りが早いか、 みたいなのも見てたみたいだし、 やっぱりできることが『審眼』の方が多いの」

 天恵によって得られる才能は個人の努力や経験によって、 その結果的な能力には差が出る。 ということはフミとテアの父親、 クグディミルさんも相当な努力をした結果それほど使いこなせているのかもしれない。

「ふうん……。 僕の『天恵』がなんなのか、 たぶん今日中にわかると思うけれど、 そんなに派手な才能はいらないなぁ……」
 Cクラスの天恵『裁縫』や『盆栽』とかなら家でゆっくりできるしほしいんだけど。

「シフィくんの才能はAクラス『植栽師』か『審眼』」
「シフィの才能は俺と同じAクラス『戦人』かBクラス『騎士』か『守人』」
「シフィはあたしと同じ『鑑定士』でいいと思う」

フミはなぜか僕にこの果樹園を継がせようとするし、 ゼガは僕と戦おうとするし、 テアはほとんど何も考えずに流れで僕の才能を決めようとしていた。

「え~じゃあシフィは私と同じ『巫女』で……「僕は女の子じゃないから巫女にはなれないよフリュ」

 とりあえず巫女以外でゆっくり出来そうな天恵がいいな。
 そう思いながら僕は相変わらずフミに抱き着かれているのだった。

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