第15話【難敵と復讐完了】

文字数 9,305文字

 次の日、俺は昼過ぎまで寝てしまい、下に降りると皆は昼食を済ませた後らしく、お茶を飲みながら談笑していた。
「あれ、すまない。帰って来たのが四時くらいだったから・・・」
「ごはんあるよ。食べる?」
 たかこが声をかけてくれたので俺は洗面所に顔を洗いに行って、遅い朝食をとることにした。
りんの復讐について皆に相談しようと思っていたので急いで食べる。そんなに急がないでいいと皆が言ってくれたが、何となく急ぎたかった。
 そして、食事が終わりお茶を一口飲んでから皆に話した。
「剣くんの復讐もできることは終わって、いよいよりんの復讐に入るんだけど、今度の相手は芸能関係ってことでさ、なかなか困難だと思う。ターゲットは芸人の富谷健二と大御所の宇川瑞枝、そして番組プロデューサー村尾茂の三人。で、富谷と宇川には一度番組を全て降板するくらいのダメージを与えて自動的にそのダメージが村尾まで行くという感じで行きたいんだけど。どうしようかと思ってさ・・・」
 皆が黙るなか、剣が一番に口を開いた。
「まず、その具体的なダメージの内容を決めた方がいいと思う。例えば富谷は芸人だから、やはり監視したりスマホを遠隔操作したりして、また不倫とか不祥事を見つけて週刊誌か事務所に送るってのが無難だと思うな。で、宇川瑞枝だけど、あのクラスになると監視してもそういう不祥事が出てこないと思うから・・・えっと・・・」
 剣はここで言葉に詰まり黙ってしまった。次に卓三が口を開いた。
「そうだ、あの人何か酒癖が悪いとかネタにしているよね?だったらそういう系では何か出るかもしれないよ。とりあえずプライベートを徹底的に監視して、恥ずかしい映像とか外に出しちゃまずい映像とかが出てきたらネットで流しちゃおう!海外を経由して複雑な回線にしたサイトから出せば出所はわからないからね」
「すごい!それだ。それで行こうよ!」
 剣が興奮して言い、皆も賛成した。俺も基本的には賛成。しかし、すぐに冷静になる。
「ちょっと待って。俺も凄い良い考えだと思うんだけど、今回はどうやって監視する?相手は芸能人だから、今までみたいに近寄れないと思うんだけど・・・」
「あぁそうか・・・どうするかね・・・」
 卓三が同調し、またみんなで考え始めた。長く沈黙が続き、再び卓三が口を開く。
「まずは、生放送とかの出演の際にテレビ局で張って、後をつけて自宅を特定することからスタートかな・・・」
 ちょっと地味だが同感。
まずは自宅を特定し、そこからどうするかは状況によってまた考えようということになった。一応村尾の自宅やらの情報も調べておこうということになった。
 富谷と宇川の公式ホームページにアクセスすると、二人の出演番組や生放送の収録場所が記載されていた。しかし、今日はすでに夕方。二人の生放送の番組が夕方にはなかったため、今日のところは色々調べたり、準備に当てたりすることにした。
 そして次の日。この日は富谷とその相方が出演する生放送の情報番組があった。富谷の後をつけて自宅を特定するチャンスだ。
しかし、三崎についての情報が入るかもしれないのと、村尾や宇川の情報を引き続き調べてもらいたいと思ったので、剣と卓三には家に居てもらうことにした。
何か情報がわかれば逐一教えてもらうことにして、たかこと二人で出発しようとすると、りんが自分も行くと駄々をこねだした。
今日はたかこと二人きりになりたいとも思ったし、もし奴の姿を見て感情的にでもなられたらと困るので、俺は断固拒否。といっても最後は「家に居て家事をしていてください」と土下座をした。
 そんなこんなで俺とたかこは朝八時過ぎに家を出た。生放送は十二時から十四時で、大体二時間前にはテレビ局に入るとのことだったので、十時前には現場に到着しなければならない。
 あらかじめ調べておいた関係者の駐車場の入口付近に車を停めて富谷が来たら車の車種とナンバーを特定し、帰りにその車を追って自宅まで尾行するという今日の作戦。
俺は、富谷は自分の愛車でテレビ局に来ると予想していた。なぜなら、富谷のSNSで以前富谷自身が仕事帰りに週刊誌の記者に追われたことが載せられていて、自分自身の運転で記者を巻いたと書かれていたからだ。
また、車種は白のポルシェか黒のベンツと確信している。理由は、動画サイトで何年か前の番組を見つけ、その中で「白のポルシェを乗っていたら、後輩に『誰々も同じ車を乗っていた』と指摘されたので、今度は黒のベンツにしようと思う」と発言していたからだ。
 今回はド素人の方法での調査のため、時間がかかることも覚悟しながら運転していた。
車は井の頭通りに出て吉祥寺を通り過ぎる所に差し掛かる。
 俺はたかこと二人で時間を共にするのは初めてで、なんとなく緊張していた。それを察したのか、たかこが話しかけてきた。
「なんか連くんとこうして二人で出かけるの初だよね?」
「そうだね・・・」
「あれ?なんか緊張してない?」
 俺は図星だったので、持ってきた缶コーヒーを飲みながら正直に答える。
「うん。実はなんか緊張っていうか、そんな感じだね。なんでだろう?りんとはそんなんないのに・・・」
 たかこはフフフと笑った。
「それはね、連くんがりんちゃんのこと好きだからだよ」
 俺は口に含んだコーヒーを吹き出しそうになる。
「好きって・・・っていうかさ、好きってどういうこと?よくわからんのよ」
「出たよ。これだから恋愛ド素人は。えっとね、その人を好きかどうかの判断は男なら簡単。その人を性の対象として見ているかどうか。要はその人とセックスがしたいかしたくないか。あとは自慰行為をした後、すっきりした状態でもその人を心から愛おしく思えるかだね。自慰してどうでもよくなったら、それはその人を性のはけ口でしか思っていない証拠だよ」
「なるほど・・・」
 俺はちょっと考えて、二つともクリアしていることに気づく。
「うん。好きですわ」
 たかこは、今度はアハハと笑った。
「っていうか逆になんでそんなにまっすぐなの?よくそう自分の思ったことをはっきり人に言えるよね?」
 俺は以前りんにも同じようなことを言われ、言えなかったことをたかこに言ってみる。
「それは、俺が童貞だからじゃないですかね?」
 たかこは大爆笑した。そして笑い終えたたかこは、ドキッとするようなことを聞いてきた。
「ところで、りんちゃんには想いは伝えたの?」
「え?いや、でも可愛いとか綺麗とかは、思った時にその都度言ってはいるけど、はっきり好きとかは言ってない・・・」
「何で言わないの?」
 俺は困惑した。
好きという感情がわからなかったり、ただ単に恥ずかしかったりっていうのもあるが、何より、りんの復讐が終わったらみんなと別れて自分の復讐を一人で果たし、一人で自爆しようと決めている身。そうなると告白をしてもしょうがないと思っているからだ。
 でも今ここで、それを言うわけにはいかない。
「えっと・・・まぁなんていうか、もし今回の復讐がうまくいったら俺はりんにも死なずに、できたら芸能界に戻って欲しいと思っているんだよね。そうなったら例えば告白しても後々お互い困ることにからね・・・」
 助手席に居るたかこが一瞬こちらを向いた。意外な答えに驚いたのだろう。
「そんなこと考えてたんだ・・・そうなんだ。っていうかもしかして私を含めてみんなのことをそういう風に考えてくれてたの?」
「え?あぁ、いやいや、皆には生きてて欲しいってのはもちろんあって、できることは全部やろうとは思ってたけど、生きる生きないの選択はみんなの考えというか、意志で決めてもらうことだからね。たまたま流れがそういう感じになったんだと思うよ」
「そうなんだ・・・」
 俺は、たかこに俺自身のことを聞かれる前に話を変えようと瞬時に思った。
「それよりさ、田中とはどうなの?ことは上手く進んでるん?」
 たかこは嬉しそうに上手くいっていることを話してくれた。
しかし、田中と妻との間に小さい娘がいるため慰謝料についての話し合いが上手くいかず、時間がかかっているとのことだった。
たかこ自身も援助したいと思ってはいるが自分も火咲に貢いだ借金があるため、なかなか厳しいとのこと。
その話を聞き、俺はたかこと二人きりになりたかった理由を思い出し、たかこに後ろにあるカバンの中の封筒を受け取ってくれと言った。
 たかこがそれを手に取り、中を見た瞬間驚いた。
「何このお金・・・」
「5百万入ってる。それは手伝ってくれた給料みたいなものだよ。それで借金返してさ、田中との幸せな時間を早くゲットしなよ」
「え?いやいやこんなの受け取れないよ」
 たかこは断固とした態度で言ったが、こちらとしても引き下がる気はまったくない。
「いやいやいや、貰ってもらわなきゃ困るよ。凄い働いてくれたしさ、卓三さんにもあげたし、他のみんなにもあげるつもりだから。全然遠慮はしないで大丈夫。当たり前の報酬だからね」
「でも・・・」
 最終的には一応たかこも折れてくれた。
俺はたかこに封筒をしまうように言い、この話を切り上げると丁度テレビ局の近くに到着した。
 時刻は九時四十分。事前に調べておいた関係者が出入りする駐車場口の向かいに車を停める。
しかし沿道にある木々が邪魔して、よく見えなかった。
 そこで俺は、たかこには車に残ってもらい俺が駐車場の入口で張ることを提案したが、たかこが待ったをかける。
「ちょっと見て。あそこに結構人がいるよ。あれ多分タレントの入り待ちで待っているんだよ。連くんが行くと不自然だから私が行くよ。私のこのなりは誰かのファンって感じだからね。連くんはここから色々指示を出してよ」
 見ると、確かに駐車場の入口の付近には女性ばかりが何人か待っている。俺は了承して、カメラが仕込んであるバッグやインカムを付けさせて、たかこを送り出した。
信号を渡りたかこがその場に到着すると、たかこはすぐに場に馴染み、ぶっちゃけどこに居るのかさえわからなかった。
 時計の針が十時を少し回った頃、お目当てである黒のベンツが駐車場の入口に近づいた。
 俺はすかさず、たかこに指示を出す。
「たかこさん、黒のベンツがそっちに行くよ。運転席をよく見てて。できればカバンのカメラも車に向けてほしい。ナンバーが撮れたら万々歳。でも、失敗してもまだチャンスはいくらでもあるから、気軽によろしく」
 たかこと組んでやるのは初めてなので一応フォローも忘れない。
たかこは「了解」とだけ言ったが、その声からは若干の緊張感が伝わってきた。
車は駐車場へと向かい左折して入口へと入る。
 モニターを確認すると、はっきりとナンバーが映っていて、「よしっ」と思ったと同時にたかこの声が飛び込んできた。
「違う。運転手は富谷じゃない!」
 俺は外れたかと思い、すぐに切り替えて指示を出す。
「そうか。了解。じゃ後は白いポルシェだけ待って、それが違ったら今日の所は引き上げよう」
 もし白いポルシェも違ったら一から調べなおしだと思い、卓三へと電話をつなぐ。卓三に黒いベンツは外れたことと、引き続き様々な角度から調べて欲しいとの旨を伝えて電話を切ろうとすると、卓三が待ったをかけ興奮気味に言った。
「連くん速報見た?小門が警察に連れて行かれたよ」
「マジ?了解。ありがとう。また連絡するわ」
 電話を切りスマホのニュースアプリを開くと、トップに小門が大麻所持の疑いで警察に連行され逮捕されたという記事が載っていた。
俺がポストに入れたのが、一昨日の夜中。それにしては警察の行動が早くないかと思い、もしかしたら大麻の件は、俺たちが調べる前に警察も目をつけていたのかもしれないと思った。
 強制性交等罪と淫行でも調べられるのは時間の問題。今回の逮捕で三崎にはどのくらいのダメージはあるのだろうかと考えていると、たかこの声が耳に入って来た。
「あれ白のポルシェじゃない?」
 俺は慌てて窓から覗くと、白いポルシェが丁度駐車場の入口へと入る所だった。
「ごめん。卓三さんと話してた。それだ。それ。できたら運転手とナンバーも確認して」
 たかこからの応答は無く、モニターを確認していると駐車場に入る時にギリ後ろのナンバーの撮影に成功したことはわかりほっとしたが、運転手はわからない。
 しばらくして、たかこの興奮した声が飛び込んできた。
「ビンゴだよ!運転していたのは間違いなく富谷だった!写真も撮ったけど、ちょっとぼけちゃった。でも間違いなく富谷だったからさ!これから戻るね!」
 俺は再び集中してなかったことを詫び、礼を言った。
たかこが戻って来て写真を見せてもらったが、やはりわかりづらかったので卓三に送って写真の解析をしてもらうことに。
 その後、たかこがため息をついて明らかに疲れた表情を見せたので、俺は言った。
「っていうか疲れたでしょう?ここから四時間くらい時間があるし、あとは俺一人でも大丈夫だからさ、帰ろうかね?」
 たかこは申し訳なさそうに「うん。いい?」とだけ言った。
帰り道ドライブスルーに寄りハンバーガーを買って、運転しながら腹ごしらえをしなたら家に到着。
 たかこを降ろしてそのまますぐに出発しようとすると、卓三が車に飛び乗ってきた。
「ごめん。連くんちょっと話もあるし同行させて」
 俺は心強かったが、剣を一人にして大丈夫かと卓三に聞いた。その瞬間俺のスマホが鳴り、画面を見ると剣だった。
「剣です。っていうか連くん今、僕一人で家に残って大丈夫かとか思わなかった?」
「いきなり何をおしゃる。そんなん思っていませんよ」
 卓三がフフフと笑い、俺は『お前は男なのに女の第六感を身に付けているんか!』と心の中で突っ込んだが、すぐに剣の心は女だと気づいて、自分の中で勝手に反省。何かあったら連絡する旨を伝えて電話を切った。
 車は再び井の頭街道に出て環八を目指す。
卓三によると剣は覚えが早く、すでに自分と同じくらいにコンピューターマニアになっているらしい。
 そして、俺が話って何かと聞くと、卓三は急に声のトーンを落として話し始めた。
「実は小門が捕まっても三崎はあまりというか、ほとんどダメージを受けないかもしれないよ」
 卓三によると、どうやら三崎は小門の火遊び、特に薬物には早くから気づいていたらしく、極秘に契約解除に動いていたという。しかも、大麻に関しては三崎が警察にタレ込んだとのことだった。
卓三は、剣がそれを知ってもリアクションが薄かったのにも違和感を覚えたという。
 俺はどうするものかと若干考えたが、剣の将来を考えても職場に推薦してくれた卓三には全てを話し、なんとか納得してもらわなければいけないと思った。
「実はさ、知ってるかどうかはわからないけど、剣くんさ、何ていうか体は男だけど心は女なんだよね」
「え?!そうなの?」
「うん。で元々専門学校の頃に三崎に惚れてたらしくてさ。でも死ぬくらいの凄いひどいことされて復讐のターゲットにはしたけど、やはり好きだったことがあるから、そっちの想いが勝っちゃって、復讐もその程度でいいって感じだったんだよね」
「あぁ、そうなんだ・・・そうかぁ・・・」
 俺はその反応を聞き、いまいちよくわからなかったので、不安に思っていたことを単刀直入に聞いてみた。
「あのさ、剣くんのその就職というかアルバイトの件ってさ、トランスジェンダーでも大丈夫なのかな?」
「え?それは全然関係ないよ。実際にうちの会社にもいるし。仕事ができれば何も問題ないよ」
 俺はほっとした。もしダメだったらもう一度卓三の会社に乗り込んで、あの卓三の上司の村上に直談判しようかと思っていたところだった。
 すると今度は、卓三が困惑した感じで質問してきた。
「あとさ、これは僕の想像というかあれなんだけど、たかこさんて、あの田中君と続いてるの?」
「え?なんでまた・・・」
 俺は瞬時に迷って、決断した。
「・・・ご名答でございます」
「そうかぁ!何だかどうなんだろう?喜んでいいのかね?」
 俺はどういう気持ちで卓三が言ったかわからなかったが、声の感じからネガティブっぽくなかったので、率直に答えた。
「たかこさんは凄い幸せそうだし、喜んでいいんじゃない?田中の方は何か元々夫婦仲はダメだったらしいよ。嫁が子ども生まれてから女捨てちゃったみたいでさ」
「そうなんだ・・・じゃ良かった!」
 その声には卓三らしい優しさが籠っていて何だか、ほんわかした気分になった。
車は、環八から首都高へ入り走行している。
 するとまた何か真剣な雰囲気で、卓三が話しかけてきた。
「あと一ついいかな・・・なんていうかこれが一番のメインで、凄い言いにくいことなんだけど・・・」
 俺が軽い感じで「何?」と聞いても、卓三からの返事がない。
「いやいや、何でも話してくれて大丈夫だよ。これでも俺は卓三さんの性格を少しは理解しているつもりだからさ」
 それでも若干言いにくそうにしていたが、やっとこ卓三が重い口を開いた。
「あの・・・もしかしたら連くんの復讐までは、お付き合いできないかもしれない・・・」
 俺は何を話すんだろうと思っていたが、それを聞いて拍子抜けした。
「なんだそんなことかぁ!全然大丈夫だよ。元々俺の復讐にはみんなを付き合わすつもりはないしさ。それに俺は元々みんなにはこれからの人生を楽しく生きてほしいと思ってて、卓三さんに、たかこさん、そして剣くんもそうなってくれて、本当に良かったと思っているんだよ。あとはりんにもそうなってくれたら、俺はそれだけで大満足」
「連くん・・・」
 そうこうしているうちに車は首都高を降り再びテレビ局の近くまで来たので、俺は話をこれからの予定に切り替える。
「ところで今日なんだけど、とりあえず富谷が家に着くまで白いポルシェを追おうと思ってるんだけど、大丈夫かな?」
 卓三は何かを思い出し、カバンから何やら小さい粘土の塊みたいな物を取り出した。
「これさ、中に小さいGPSが入ってて、これを富谷がどこか車を停めた隙を見てナンバープレートに付けようよ。それで結構な日にち追えるからさ」
「おぉ!マジ?さすが卓三さんだ。それで行こう!」
 車はテレビ局の近くに到着し、俺は朝とは違う出口専用付近に車を停めた。
時刻は二時ちょっと過ぎ。生放送が二時に終わるため、丁度いい時間だ。
そして、三十分が過ぎた頃、出口から白いポルシェが出てきた。
 ここからが緊張の場面。その後のスケジュールを知らない俺たちにとって、白いポルシェを絶対に見失ってはいけないからだ。
あいにく俺たちは向こうにとっては全くの赤の他人であるため、すぐ後ろにつけても問題はない。さっそく俺はポルシェのすぐ後に車を付けて走行した。首都高に入り用賀まで行き、そこから東名高速に乗り換えて横浜方面へと進む。
おそらく横浜にある違う局のスタジオに向かっているのだろうと、卓三が言った。
 ポルシェは東名高速の横浜青葉出口から降り、国道246へと入る。そして数十メートル走った所で側道へ入り、チェーン店のファミレスへと入って行った。俺たちも三台後に居たので、すぐにその駐車場に入り富谷の車のすぐ近くに車を停めた。
富谷とそのマネージャーらしき人が出て来て、ファミレスへと入って行くのを確認。俺はすぐに車を降りて富谷の車の後ろに回り、ナンバープレートに粘土で覆われたGPSを貼りつけ、これで今日の仕事は終わった。
 車に戻り、とりあえず俺たちも軽く食事をしようと提案したが、卓三が一人で残してきた剣が若干心配とのことだったので、すぐに車を出す。帰り道、卓三がパソコンで確認すると、富谷の車はさっきのファミレスの場所を示していた。
 俺たちは東名高速から東名川崎インターで降り、一般道で調布から西東京市へと帰った。午後4時前に家に着くと、すぐにりんが俺に近づいてきて、耳元で剣の様子がおかしいとささやいてきた。
見ると珍しくソファでぼーっとしている剣の姿が。
状況を知らない卓三が荷物を降ろして剣に声をかけ、自分がいなかった間に起きたことを聞いた。剣はそれにはハキハキと答えたが、卓三との話が終わって卓三が機材部屋に行くと、そのままソファで大きくため息をつき、またぼーっとした。
 今度は俺が話しかけてみる。
「どうしたの?何かあった?」
「え?あぁ・・・」
 剣が周りを見まわした。卓三は機材部屋へ行っており、たかこも二階で休んでいるらしくこの場にはいない。
りんは居たが、気を利かせたらしく普段は一人では行かないスーパーへと買い物に出かけて行った。
 それを見た剣が静かに話し始めた。
「実は色々三崎君のことを調べていくうちに気がついたんだけど、三崎君の作品は三崎君の作品だよ」
「ん?どういうこと?」
 俺がよくわからずに聞くと、剣はわかりづらかったことを謝り、話しを続けた。
「ようは、三崎君は自分の才能でここまで這い上がってきたんだよ。才能があるのになんで学生時代に僕の作品を、なんていうか利用したのかよくわからなくなって・・・それで今日、本人に聞こうと思って三崎君の事務所に電話したんだ」
「えぇ?そうなの?」
 俺は意外と行動力がある剣に驚いた。
「でも始めは全然取り合ってくれなくて・・・何度も電話して最後に学校と僕の名前を伝えてくれと頼んだら・・・」
 ここで剣は言葉を詰まらせる。そして一呼吸して言った。
「そんな名前の同級生は居たかもしれないが、よく覚えていないと伝えてくれと言われたって・・・結局、僕は何だったんだろう・・・あの時僕の作品を盗らなくても三崎君は今の地位を築いていたと思うと、何ていうかさ・・・」
 剣が再び言葉を詰まらせた。俺は剣の肩をポンと叩いて、一気にしゃべった。
「っていうかさ、三崎のことはもうどうでもいいことだよ。剣くんは三崎のことをすでに乗り越えてる。だってそうでしょ?本当なら剣くんの全てを奪ったあいつを、とことんまで追い詰めたいと思っただろうけど、あの程度の復讐で許したんだよ?それは剣くんの純粋で綺麗な想いから許したんだから、もうそれでいいんだよ。その時点で人として剣くんの勝ち。だからもう三崎のことなんか忘れて、剣くんは卓三さんの会社で楽しい仕事を楽しく頑張ればいいんだよ」
「連くん・・・」
 俺はもう一度剣の肩を叩き、卓三の居る機材部屋に入ろうとすると、卓三が若干興奮して出てきた。
「連くん。あっ剣くんも、小門が強制性交等罪容疑で再逮捕されたよ!」
「マジ?さすが日本の警察!証拠が揃えば逮捕が早いね!良かった。これで剣くんの復讐も終わったよね?ね?」
 俺が剣に言うと、剣は大きく深呼吸をしてから「うん!」と元気に返事をした。
 それからりんが買い物から帰り、たかこも疲れが取れたのか二階から降りてきたので、剣の復讐完了パーティーが行われた。
相変わらず、りんが剣の復讐が甘いだのなんだのと文句を言い、それを俺が何度も制するといったパーティーとなった。
そして、パーティーが終わり夜も更けった頃、卓三から富谷の家が判明したとの報告が入った。
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