第1話

文字数 1,250文字

子どもがもう一人欲しいけど、ダンナはお金がかかるので、うちはこれ以上は無理だと言う。
たしかに子どもを育てるにはお金がかかる。
子どものために、自分たちの人生を充実させるためのお金を犠牲にしすぎるのもいかがなものか。
しかし、子どもを持たない選択をする夫婦もいる中、少子化の時代に好き好んでまだ子育てをしてもいいと思っているのに、まったくもったいないことだとも思う。
まあ、妊娠期の体調不良と授乳期の乳腺炎、両期間を通じての食事制限を思い返せば、もうたくさんとも思うのだが。
また子どもが増えたら、私の獣化に拍車がかかるだろうし、これ以上私がイライラするのも、口が悪くなるのも見ていられないというのもダンナにはあるだろう。
それなのに、不思議なことにまた子どもを授かりたいと思う。どうしたものか。
そこで思いついてしまった。
金銭面で厳しいというのなら、他の人の子どもをみごもって、養育費をその人に出してもらえばいいんじゃないか?
ただし、誰でもいいというわけではない。さすがにそこは慎重に選びたい。私には結婚願望のない元彼がいて、いまだに独身である。彼に他の人と結婚する気があるなら何も言うことはないが、もし独身を貫くというのなら、彼の子をみごもり、養育費を毎月出してもらい、子どもは彼の戸籍に入れるというのはどうか?
みごもることが不倫というなら問題ない、今の時代には体外受精がある。不倫にはならないはずだ。ダンナと別れるつもりはない。体外受精の費用も向こうに出してもらおう。
独身の彼は子育てにはおそらく性格的に向いていないので、生まれた子どもは、子どもの相手が上手なダンナと今の子どもといっしょに育て、元彼が会いたい時に自分の子どもに会わせたらよかろう。大きくなって子どもが父親と暮らしたいと言えば、そうさせたらいい。後に思い返しても記憶がごっそり抜け落ちているような激動の幼少期は、私(たち)が引き受けよう。こんな提案を実現させてくれるなら、私も必死に温厚であるように努めよう。
将来的には元彼はおそらく自分の子どもに老後の面倒をみてもらえるだろうし、いいことだらけじゃないか?
…と考えてみたが、これはまるで現実的でなく、ダンナや元彼の気持ちをまるで考えていない。思いついたままに書いてみたら、なんという自己中ぶりだろう。二人とも絶対に嫌がるだろうし、こんな話をしたらダンナに離婚されてしまう。
二人の承諾を得たとして、自分たちの親にどう説明するのか?向こうの親御さんにどう話すのか?誰も喜ばないだろう。
ダンナから今日も残業で遅くなると連絡があった。了解、とペンギンの絵文字をつけて返信し、先ほどのアイデアを念力で送ってみる。
体外受精で子どもができるとも限らないし、元彼に貯金がないかもしれないし、私が早死にするかもしれないし、双子かもしれない。世の中思い通りにはいかないものだ。この案は、何もかもが未知数すぎる。現状では、とりあえず私も仕事をがんばるしかないか。こんなこと、とんでもなくて、誰にも言えやしないけど。
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