文字数 769文字

『白い女』。
最近流行っている都市伝説だ。
体中真っ白の、髪が長い女。
目撃者が多発していて、それを見た人たちはみんな、「寒かった」と言う。
今は七月で、最高気温がどんどん更新されていく。
小学五年生の僕は夏休み前の短縮授業に入っていた。
この時期に合わないそんな言葉に、全メディアがのっかった。
丁度夏だからなのもあるんだろう。
午後の番組はほとんど『白い女の謎』になっていた。
学校でも、その話題ばかり話していた。
放課後の帰り道。
終業式の二日前だから、ランドセルにはいろんなものが詰め込まれている。
がしょがしょ音を立てて、通学路を進む。規則正しいリズムが心地いい。
がしょがしょがしょがしょ。音が鳴る。
僕は歩く。何も考えずに。足が道を覚えている。
ほとんど手入れされていない公園を抜ける。近道だ。
抜ける途中で、僕は…誰かとと目が合った。
反射的に、僕は立ち止った。
風が鳴る。木が生い茂っていて暑さが和らぐ。
木と木の間から、誰かが僕を見ていた。
誰かはわからない。けど見られていた。
こういうときにどうすればいいかわからなくて、僕は立ち止ったままだった。
見つめあったまま、時間が経つ。といっても、せいぜい五分程度だったが。
そろそろ歩き出そうと思ったところで。
急に、誰かの目玉が落ちた。
そのまま。ポロリと。
ゴロゴロと転がっていて、足元に当たった。
目玉は生々しく太陽を反射していて、しかし黒目は汚く濁っている。
「・・・っっ!!」
本当に驚いたとき、人は声が出ないのか。
代わりに思いきり足を動かしてしまい、目玉を蹴飛ばす。
あまり転がらなかったが、おかげで形が少し歪んでいた。
「・・・」
いきなりのこと過ぎて、また動きを止めてしまう。
遠くから車のエンジン音がして、僕は我に返った。
早歩きで家へ向かう。
目玉を蹴った感触が残っていて気分が悪い。
無理やり足を動かして、公園を抜けた。
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