第1話

文字数 1,835文字

 どちらかというと不器用な人間だ。昭和の大スターが言っていたような台詞だけど あれは多分、生き様みたいなもので 僕の場合は手先の話である。自分で不器用とは言ったものの プラモデルはきちんと作れるし、目玉焼きだって綺麗に焼ける、でも玉子焼きは上手く焼けない。中学生の頃、技術の時間にラジオを製作したことがある。もちろんラジオ番組ではなくて レシーバーとしてのラジオだ。僕の作ったラジオはきちんと電波を受信したけれど それを長く使い続けようとは思えない出来ではあった。数年後の大掃除の際に処分したはず。

 遊びに出掛けるとゲームセンターに立ち寄ることが多い。昔は純粋なゲームばかりのどこか薄暗い印象しかなかったゲームセンターだけれど 今は店内も明るいし、何よりメインとして置いているのはUFOキャッチャーやプリクラで 誰でも気軽に入れる雰囲気になっている。僕が学生の頃のUFOキャッチャーのプライズなんて 誰がこんなぬいぐるみ欲しがるんだろう、と首を捻る様なものばかりで今とは景品の質も雲泥の差だ。本当に良い時代になった。景品の質が高くなると やはり獲得するのも難しくなる。基本的に不器用なので奇跡を起こすか大金を注ぎ込むかでしか獲得した記憶しかない。最近では ツメで挟み込むようなUFOキャッチャー以外にも色々な機種が現れた。一本ツメでプラスティックの輪をちょっとずつずらしていくものとか、一筋縄ではいかないものばかりだ。一筋縄で思い出したけれど 垂れている糸をハサミで切る機種は割と得意。その時だけはきっと僕の背後からはスタープラチナが見えていると思う。

 ときどき姪姉妹と遊びに行くことがある。ショッピングモールの中にあるゲームセンターに アンパンマンのポップコーンマシンがあって彼女たちは決まって ポップコーンを買う。テイストも バターに 塩、たまにキャラメルなどのフレーバーがあって 出来上がるのを待っている間は左右にあるハンドルを回しながら 液晶画面のアンパンマンとその仲間たちと一緒にポップコーンを作る設定になっているのだ。一~二分くらいで熱々のポップコーンが出来上がるのだから凄い。ただ僕はポップコーンの美味しさが今一つわからないので彼女たちが夢中になる気持ちは理解出来ない。この間は出掛けた先で 妹の方がポップコーンよりも厄介な物を見つけてしまった。

それはまるでロケットのような円柱形、半透明のオレンジ色をしたボディ、高さは脚の部分も入れると一メートル強くらい。内部はすり鉢状になっていて中央に筒状の穴があいていた。どうやら綿菓子を作るマシンらしい。姉妹は二人揃って、当然のように綿菓子を食べたいと主張した。軽い気持ちで了承してみたものの どうやら僕が綿菓子を作る係らしい。しかし僕は生まれてこのかた綿菓子など作ったこともない。ただ縁日などで店主が作っているのは何度か見たことがある。割り箸をマシンの中でくるくると回せばどういう仕組みなのかはわからないけれど付着していき大きくなるのだろう、程度に思っていた。実際に綿菓子マシンの上部にもそれらしい作り方が書いてある。脳内でイメトレを済ませて 二百円を投入口へ。すると上部から中央の筒へ何かしらが音を立てて落下してマシンが動き出した。ドライヤーのような音を立てながらマシンが動き出す。常備されている箸を持って機械の中へと差し込み、縁日の店主のような気持ちでくるくると回した。確かに綿菓子の繊維のようなものがマシンの内部を漂っているのが見える。箸に絡めていくとみるみる内に箸に綿菓子がまとわりついてきた。やれば出来るじゃないか、テンションは上がるが 肝心の綿菓子は思うように膨らんでいかない。完成したのは 細かな部分を掃除する事に適しているあのマツイ棒が少し膨らみを持っただけの綿菓子とは遠い物体だった。綿菓子の完成を心待ちにしていた姉の目から光が消えたのが分かった。マツイ棒もどきの綿菓子を何か言いたそうな彼女に手渡す。けれど僕には落ち込んでいる時間は無かった。まだ妹の分が残っている。ここで完璧な綿菓子を作れば 汚名返上、名誉挽回出来るはずだ。
 
 結論から言えば考えが甘かった。出来上がった二本目のマツイ棒もどき以上に甘かったと思う。内緒の特訓をしたいのは やまやまなのだけれど 練習で作った綿菓子を誰が食べるのか、という問題点をクリアにしない限り特訓は始められない。僕は綿菓子もどちらかといえば嫌いだからだ。
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