文字数 1,268文字

 うす明るい曇り日の空を眺めていると、雪がひらひら降っていて、それがまるでお花みたいにうつくしく、思わず腕をのばしても、窓ガラスにすら届かない。ただ、虚しく宙に浮かぶばかり。それでもめげずに、肩が痛くなりながらも、ぷるぷる腕を震わせながらも、まえへ、まえへ。
「なにしてるの」
 優しい声のするほうをみると、ママは指をしおりのように本にはさんで閉じ、ジッとわたしの顔をのぞいてた。すぐにわたしは腕を引っこませた。腕がうちがわからジンジンと痛む。
「おはな、みてた」
 そう答えると、ママはくちびるに指をあて、クスクス笑いだした。本からぱたんと静かな音がきこえる。わたしは腕をコタツに戻し、それからコタツの裾の部分を握りながら、ぐるっと半回転したら、景色がさかさまになって、今度は雪が天へともどっていく。おはなが咲きました。冬に、立派なおはなが咲きました。ママの手が、やさしくわたしのお腹をなでた。コタツのなか。汗が服を湿らせている。そのなかに、ママの手が入ってきた。わたしのお腹をなでる、くすぐったくて、あったかい、ママのおてて。

 ゆきや こんこ あられや こんこ
 ふっては ふっては ずんずん つもる
 やまも のはらも わたぼうし かぶり
 かれき のこらず はながさく

 わたしが口に出して歌うと、ママもつられて歌いだした。わたしのほうが少しだけ高い声。ママは少しだけ低い声。あわない。あわない。でも、歌っていると、ときどき、あう。それが、たまらなくうれしい。うれしくて、一段と高い声がでてしまう。あわなくなった。
 ずんずん、つもって欲しいな。そしたら、外へ出て、ママと遊びたい。なにして遊ぼう。かまくら、作ってみたい。小っちゃくても、ママと、わたし、縮こまりながら、からだをガタガタと震わせて、ふたり、いっしょにかまくらの中にいられたら、うれしい。雪だるまは、いいや。わたしが大きく、大きく、雪を転がせて、わたしのおなかくらいの、まんまるの大きい雪玉を作って、自慢しようって、ママの元へと持っていくと、ママはきっと、わたしのより、うんと大きいの、作ってる。ママの腰くらい大きなもの。わたしの背と同じくらいのもの。それに形もきれいだと思う。まんまるの。ママの雪玉をみたあとに、わたしのを見たら、蹴りこわしたい気分になっちゃうだろうな。雪だるまは、いいや。かまくらが作りたい。いっしょに、同じものを作りたい。どっちの方が大きい。どっちの方がきれい。そんなことを考えないで、いっしょに、一つのものを作りたい。それがどれだけ醜くても、それがどれだけ小さくても、わたしたちのお城だと、むねを張って言えるもの。
 窓の外、コンクリートの地面。雪は、地面にあたると、音もたてずに溶けていく。夏祭りの日、ママから買ってもらった綿あめ。手をすべらせてしまって、それを池に落としたとき、綿が池の底まで沈んでいくんじゃなくて、すぐに溶けてしまった。あのときみたい。さみしい。花火が、音をたてて、夜に溶けていくみたいに、雪も、綿あめも、誰かに気づくように溶けてほしい。
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