滞在期間は未定です。

文字数 720文字

「真白さん、今回の『橙の華』は結構スリリングな展開でいい感じですね。」
「僕も書きながら汗だくになりました。でも表紙や帯も躍動感のあるものにしていただいて、ほんとおつりが返ってきちゃいますよ。いつもありがとうございます。」

担当編集者の片岡詩織(かたおか しおり)は晴れやかな顔をしていた。
発行元の出版社であるアポロ書房の一室で、僕の新刊を前に彼女と向かい合って座っている。
「早速ですが、今日でちょうど発売日の1ヶ月前になります。今日は少し早いですがサイン本の作成とプロモーションの打ち合わせをしたいと思います。」
「よろしくお願いします。」
見本はだいぶ前にもらっていたが、帯が巻かれた完成品を見ると改めて自分の手元からいよいよ巣立っていくのだという何とも言えない気持ちになる。手にとってしばし表紙を眺める。僕は表紙についてあまり注文を出さず、担当してもらうイラストレーターの感性に任せることにしている。今回はオレンジ色の龍が大胆に描かれた迫力あるものに仕上がっていて、店頭でも目を引くだろう。

表紙の龍を堪能し、裏表紙へと目を移す。こちらは中央に主人公の少年の後姿がシンプルに描かれているはずだ。
・・・・ん?

「どうかしましたか?何かお気に召さない点でも・・・?」
訝しげな顔をして裏表紙を凝視する僕を見て片岡詩織は不安げな声をあげた。
「もらった見本ではここにアルの後姿があったはずなんだけど・・・」
「はい、そのはずですが・・・あれ?!ちょ、ちょっと他のものを確認してきます!申し訳ありませんが少しお待ちください!」
血相を変えて部屋を出て行く彼女を見送ると、残された僕は誰もいない裏表紙を見つめるしかなかった。



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登場人物紹介

鏡 真白(かがみ ましろ)


小説家。

中高生向けのファンタジー小説『白の国』でデビューし、一躍人気作家に。

自身も子供の頃はファンタジーに夢中な文学少年だった。


アル


真白が書いた物語の主人公。

コンプレックスを持ちながらも、困難に立ち向かえる勇気ある少年。一度言い出すと意見を変えない頑固な一面も。

片岡 詩織(かたおか しおり)


真白の本を出版しているアポロ書房の編集者。真白の担当。

甘いものに目がない。

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