第1話

文字数 1,585文字

むかしむかし。
やまの ふもとの むらに、おどりの じょうずな サキという おんなのこがいました。
サキは、やまのしゃめんでも ちょうちょうのように おどることが できました。
もうすぐ、むらびとたちが やぐらをかこんで、おどりつづける おまつりがあります。
やまの おんせんでとれた しおを おそなえして ごせんぞさまに かんしゃするのです。
「さいごの おどりは、サキに やってもらおう」
むらの おさの ことばに、サキが うなずきました。
そのひの ゆうぐれ。
あたりいちめん、つよいかぜが ふきました。
てんぐが やまから、おりてきたのです。
おおきな はなをつけて まっかなかおを しています。
きに そびえ たつ おそろしい てんぐをみて、こどもたちは なきだしました。
「まつりなんて、やめちまえ。ぜーんぶ、ふきとばしてやる」
 てんぐが うちわをあおぐと、むらびとたちが すってんころりん。
「おいらが つかまえてやる」
 きのぼりめいじんの おとこが よじのぼると、えだがゆれて すってんころりん。
「きから おとしてやる」
 ちからじまんの おとこが きを ゆらしても おおかぜが ふいて すってんころりん。
「どうしたものか……」
むらびとたちは、こまりはてました。
「わたしに いいかんがえがあります。むらにつたわる おかめの おめんと、ひとふくろの しおを もたせてください」
 むらには、おめんをつけた むすめが しおをまいて まものを たいじしたという いいつたえが あるのです。
つよいかぜが ふきつづけて みっかかん たつと、むらの おさが たいせつな おかめの おめんを もたせてくれました。
「きをつけるのよ」
サキは おかあさんから しおを うけとると、てんぐのいる おかに むかいました。
ビュー、ビュー、ゴーー、ゴーー 
きの うえから、てんぐがうちわを あおいでいます。
「てんぐさん、ここですよ」
おかめの おめんを つけた サキがいいました。
「なんだあ、おまえは」
てんぐが うちわをあおぐと、サキが くるくると まい おどりました。
みぎに ひだりに うちわをあおいでも、サキは かぜに のって くるくるくるりん。
「しぶといやつめ!」
「どんなに かぜが ふいても へいきよ」
サキは、ゆうがに おどりつづけました。
「ふんっ、こむすめが。なまいきな!」
てんぐが らんぼうに うちわを あおぐと、サキが こまのように くるくると まわりました。
「そんな おめん、とばしてやる!」
てんぐが いきおいよく うちわを あおぎました。
「ごせんぞさま、どうか ちからをかしてください」
サキが あたまのうしろで むすんだ ひもを ほどくと、おめんが そらたかく まいあがりました。
「それ、みたことか。きの えだに おめんが ひっかかってらあ。ワッハッハー」
てんぐが はらをかかえて わらっています。
「ねぇ、おめんを とってきて!」
 サキは そでに かおを かくすと ないたそぶりを しました。
 てんぐが もういちど うちわを あおぐと、
「いまだわ!」
 サキが こしに つけていた ひとふくろのしおを かぜにのせて まいたのです。
「うわっ、しおっからい。なんだ、このかぜは! み、みずを くれーーっ」
てんぐが のたうちまわると、うちわが じめんに おちました。
 サキが いそいで うちわを ひろうと、
「やまに かえりなさい」
ちからいっぱい うちわを あおいだのです。
てんぐは、とおくのやまに とばされてしまいました。
「ああ、よかった。ごせんぞさま ありがとうございます!」
むらびとたちは、てんぐが やまにかえって おおよろこび。
 ピーピー、シャララ ピーヒャララ
 ピーピー、シャララ ピーヒャララ 
まつりがはじまると、むらびとたちは おかめの おめんを つけて ひとばんじゅう おどりあかしました。
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