信じてた自国の政府に戦争犯罪者認定されまして

文字数 1,646文字

「ちょっと待ってくれ〜っ‼ 俺は国の為に戦ったんだぞっ‼ 何だよ内乱罪ってっ‼」
「はい、はい。御不満は判りますので、そう云う事は弁護人に言って下さいね」
 C国のすぐ近くに有りながら、A国の同盟国だった我が国に、C国軍が攻め込んで来た。
 特務部隊の中隊長だった俺は、部下を指揮してC国軍に立ち向かった結果……()()()()()()()()()内乱罪で逮捕された。
 一体全体、どうなってるんだ?

 世界最強の軍事超大国Aと、それに次ぐ軍事超大国Cが、よく判らない理由で戦争を始めた。
 最大の問題は、どうやら、2つの軍事超大国が「相手の国を直接攻撃せずに、あくまで他国を戦場にする」「相手の国を完全には潰さず戦争を長引かせる」と云う「紳士協定」を結んだ上で戦争を始めたらしい事だ。
 要は、八百長だ。
 ……あぁ、そう言や、2期目を迎えたばかりのA国の大統領は大のプロレス・ファンだったな。
 A国とC国の同盟国が地獄と化している最中、当のA国とC国は軍事景気でウハウハだったらしい。

 望ましからざる戦争の勃発後半年ほどで、我が国の政府は、あっさりC国に降伏し、望ましからざる戦争と同じぐらい望ましからざる平和が勃発した。
「小職が貴官の弁護をする事になりました。貴官の容疑は先の戦争中に違法な軍事行動を行なった事です」
 戦後すぐに内乱罪容疑で逮捕された俺は軍事裁判にかけられる事になったが……一応は、軍の法務官が弁護人になってくれた。
 しかし、検事も軍の別の法務官で、裁判官もこれまた軍の別の法務官。……八百長戦争が終ったと思ったら、俺は八百長裁判で被告人席に御案内される羽目になった。
「そんな……今の法律で過去の行為を裁くなど……」
「いえ、裁判は、当時の法律に基いて行なわれます」
「なら、私の無実を証明するなど簡単ですよね」
「あらかじめ言って起きますが……貴官の裁判については、罪を認めて、反省の意を示し、減刑を求める方が合理的です」
「ちょっと待って下さい……そんな……」
「あの……それと、貴官が戦時中に関わった軍事作戦が合法なものである根拠は、絶対に小職に教えないで下さいね。例えば、貴官が『上からの命令に従っただけだ』と主張したい場合であれば、その命令が、国内法や戦時国際法に抵触していないと判断した根拠などです」
「はぁっ? それで、どうやって私の弁護をするんですか?」
「そもそも、貴官の部隊は、かなり特殊な……早い話がエリート部隊ですよね? 小職が、そんな部隊についての詳細情報を知っしまった時点で……貴官と小職の両方に軍事機密漏洩の容疑がかけられる可能性が有ります」
「そ……そんな馬鹿なっっっっ⁉」
「そう云う事です。貴官が仮に無実だとしても……合法的な方法で、それを証明する事は……ほぼ無理です。貴官が御自分の無実を証明出来た瞬間に、貴官は別の容疑で次なる裁判にかけられます」
「八方塞がりですか?」
「ついでに、貴官が受け取った作戦命令書に誰の署名が有ったかも言わない方が良いです。その方々も、畏らくは同じような裁判を受けているので……下手に漏らせば、軍の元高官の怨みを買う事になりますよ」
 なるほど……俺は……喩えるなら、「欺瞞だらけの平和」と云う名の魔物を召喚する黒魔術の儀式の生贄の内の一匹なのか。

 数年後、俺は軍事刑務所から出て来た。C国の一部と見做されるようになった我が国は、A国とC国の「紳士協定」により、戦場ではなくなっていた。
 だが、他の国々では、まだ、無辜の人々がA国とC国のせいで次々と死んでいっているらしい。
 そして、久し振りに見た我が国の「娑婆」は、C国の軍事景気のお(こぼ)れのお蔭で復興……いや、戦争前よりも豊かになっていた。
「これで、よかったのかな?」
 俺には、町の人々の笑顔が、心からのものか、作りものなのか、これっぽっちも判らなかった。
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