第2話 透明文字盤とともに…

文字数 1,064文字

 ALSの患者さんは症状が進むと表情筋と眼球運動のみでコミュニケーションを取らざるを得なくなります。何故なら呂律不全に構音障害、人工呼吸器装着のために気管切開をしたのならば声を失うからです。
 そこで重宝するのが透明文字盤。透明な下敷きのようなものに50音と数字が記されており、自分の伝えたい文字を注視してもらい、利用者さんと介護者で目と目を合わせて一文字ずつ伝えてもらい文章にしていく…というコミュニケーション方法です。これが難しくて習得するのに数ヶ月を要します。
 恥ずかしがり屋で人と目が合わせられない…という方は全くコミュニケーションをとることができないと思います。どれだけ相手の目線としっかり合わせるかが習得のポイントとなります。
 ALSの方は必死に文字を伝えようとされます。最初はその目力に圧倒され怖いとさえ思ったこともありました。怖いと思うと視線を合わせられずますますコミュニケーションが取りづらくなる。で、焦ってしまい文字盤が読めなくなって…。ALSの方と関わり始めたころはよくそんな事がありました。
 文字盤を使って話す会話と言ったら…「頭の向き変えて」「膝立てて」「肘外側に向けて」等々身体のポジションに関する事が多い気がします。ALSの方は自分で寝返りを打ったり枕の位置を変えたりできなくてゴロンと寝っ転がったままの状態になってしまいます。もちろん手も足も動きません。なので身体の位置を整えて安楽に過ごしたいという思いを伝える言葉が多く見受けられます。本当に、大袈裟ではなく数ミリ単位で調整していくのでなかなか大変です。ポジショニングに長時間要することも多々あります。
 おっと話が逸れました。ポジショニングはまたの機会に詳しく書きますね。
 透明文字盤での会話…今までで印象に残っているのは「むかいのいえもえた」と突然言われた時。
 えっ、施設のお向かいさんが燃えたって焦りました。でもよくよく聞いていくとご実家のお向かいさんが火事なのを偶然ニュースで見たとの事でした。
 会話や筆談ができたらすぐに伝えられる事ですが透明文字盤になるとこういう雑談もなかなか時間がかかってしまいます。
 雑談を諦めてしまっているALSの方もいらっしゃいます。私達も本当は時間をかけて透明文字盤でお話したいのですがどうしても日々のケアに追われてその時間も作れず…業務改善していかなければと反省しています。
 透明文字盤。なかなか普通の生活で出会わないとは思いますがもしも機会がありましたら恥ずかしがらず目と目をしっかり合わせて下さいね。


 
 
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