悪の勢力に洗脳された者

文字数 940文字

「あの……大統領……この前の選挙……先日の大統領選挙で行なわれた選挙不正疑惑の件で改めてお尋ねしたい事が……」
 副大統領は、間も無く大統領府を去る事になる現大統領にそう聞いた。
「ああ、何度も言ってるだろ。俺が負けたのは、ヤツらの不正とマスゴミによるフェイクニュースのせいだ」
「ところで、H州の知事が、こんなモノを公開しまして」
 副大統領はスマホを操作しながらそう言った。
『おい、お前の州の選挙の集計不正の証拠を何としても見付けろ』
『いや……待って下さい。もし無かったら』
『見付けろ』
『証拠を捏造しろと言われてるのですか?』
『はぁ? 誰がそんな事を言ってる? 必ず見付けろ。どうやるかはお前が自分で良く考えろ』
『他人に何かを強要する奴は、いつも「お前が自分で良く考えて決めろ」と言うモノですな』
『おい、何が言いたい?』
『私も自分の身が可愛いんでね。万が一の場合、貴方に切り捨てられずに済む保証が欲しいんですよ。改めて聞きます「必ず見付けろ」とはどう云う意味ですか?』
 スマホから流れてきたのは、大統領とH州知事の声だった。
 大統領の顔には引き攣った笑みが浮かんでいた。
「お……おい……こんなモノ、マスゴミの捏造に決って……」
「声紋鑑定の結果、大統領とH州知事の声だと云う結果が出ました。コンピューターなどで合成されたものでない事も、ほぼ確実なようです」
「あははは……何かの間違いに決って……」
「そうですね……。大統領の言われる通り、敵対勢力の陰謀が有ったのでしょうね」
「そ……そうだ……そうに決ってる」
「つまり、大統領御自身が、自分で墓穴を掘るような真似をしたと云う事は……敵対勢力に洗脳されているのは……」
「おい、何が言いたい?」
「おい、すぐに全員来てくれ。大統領御自身が何者かに洗脳されている事が確実になった。手配した病院に入れて時間をかけて治療を行なえ」
 副大統領はスマホで何者かにそう連絡した。
「な……何をする気だ、おい?」
「御安心下さい。大統領職は、当分の間、私が代行します」
「当分って……お前、もうすぐ、俺達は、ここを出て行かなけりゃ……」
「ご心配は無用です。既に全土に戒厳令を発令する手筈は整っていますので。大統領閣下は、安心して脳改造……いえ、治療に専念して下さい」
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