第１話　家族のアルバム

「ねぇ、これ初めて動物園に行ったときの写真だよね？」
　私はアルバムに貼られた写真を指差して笑う。母が笑顔で頷いた。
「茉莉(まり)はキリンさんがお気に入りだったのよね」
「そうそう。あ、こっちは幼稚園の運動会だ。懐かしいなぁ」
　今夜は私がこの家のひとり娘として過ごす最後の夜。明日は私の結婚式だ。
「茉莉、そろそろ寝た方がいいんじゃないか？」
「えー、父さんだって写真見るの楽しいくせに」
　父が目尻を下げ「まあな」と笑う。私は父と母が四十代になりもう子供を授かるのは無理なんじゃないかと諦めかけていた頃に生まれたという。それもあってか両親は私に溢れんばかりの愛情を注いでくれた。
「そういえば幼稚園に意地悪な男の子いたよね？　リョウタとかいう」
「そんな子いたかしら？」
　母が首を傾げる。
「いたよぉ。あと、意地悪といえば小学校にもいた！　よく赤いジャンパースカート着てた、ユミちゃんだっけ？」
　その子も覚えがないわ、と母は笑う。
「二人ともすぐに転校したか何かでいなくなっちゃったような気がするけど」
　いなくなった、という自分の言葉から当時話題になっていた事件を思い出す。
「そういえばあの頃子供がいなくなっちゃう事件があったよね」
「そうね、心配でよくあなたを迎えに行ったわ」
「母さん心配症だもんね」
　ふと時計を見ると二十三時を過ぎている。
「さ、そろそろ寝ようかな」
　私は立ち上がり、両親に向かって深々と頭を下げた。
「お父さん、お母さん、本当に……お世話になりました！」
　最後涙声になってしまい急に照れ臭くなった私は「おやすみ」と言い逃げるようにして自室へ向かった。最後ちらりと見えたのは目を真っ赤にした両親の笑顔。明日はきっといい結婚式になるだろう。私はそっと涙を拭きベッドにもぐりこんだ。