1日目―1

文字数 1,481文字

 いきなりだがドッペルゲンガーに遭遇した話をしようと思う。何を言ってるんだと思うかも知れない。だが俺は本当にドッペルゲンガーに会っちまったんだ。

 ある夏の木曜日、俺が高校から帰宅したときのことだ。そのときいつものように玄関をくぐって「ただいまー」と言ったんだ。すると居間から母さんが出てきて言ったんだよ。「どちら様?」って。いやいや、冗談はよせよ母さん、って言ったら今度は「冗談を言ってるのはあなたでしょうが!見ず知らずの人を母親呼ばわりなんて全く最近の若い子は…」ってな感じで理不尽な説教を喰らった。この時点でちょっと気が動転しだしたけどそれでもめげずに聞いたよ。ドッキリなんでしょ?って。そしたら父さんまで出てきて「いい加減にしないと警察呼ぶぞ!!」って物凄い剣幕で怒鳴りつけてきたもんだから、思わず「何なんだよ2人とも…こんな家出て行ってやるよ!…」って涙交じりに弱々しい捨て台詞を吐いて家を出たんだ。そしてここからが本題、家を出るとき、俺の部屋から誰かがこちらを見つめているのが見えた。はっきりは見えなかったが、なんとなく誰かに似ていた気がする―そう、俺に。

 そりゃさ、俺も誰か(もしくは何か)を見間違えたんじゃないかとも思ったよ?でも、そもそも我が家は俺と父さん母さんの3人暮らし、つまりあの部屋に誰かがいるのはおかしい。それに俺の部屋に人間と見間違えるようなもの、例えば人間と同じ大きさの人形なんてないし、そもそもそんな趣味はない。

 とりあえずまずは警察に事情を話して親を説得することにした。ふざけた冗談はやめろって。そして警察と親の言い争いが始まった。ところが親は「そんな子はウチにはいない」の一転張りで一歩も引かない。正直驚いたよ、流石に警察が動いたらこんな悪ふざけ止めるだろうと思っていたからね。そしたら親は痺れを切らせて俺の部屋の方向を見て呼んだんだ。俺を。
「おーい、達海(たつみ)ー、出て来ーい。」
 だからその達海って俺のことだろ!!って声を荒げて言ったが、両親はどこ吹く風だった。すると奥から出てきたんだ。俺にそっくりなやつが。
「どうしたんだい?父さん、母さん。」
 俺にそっくりなやつが両親にそう尋ねた。両親は事情を話し出す。と言っても変なやつが押しかけてきた、みたいなノリでだが。警察がざわつき出す。そして父さんが警察に言った。
「見ての通り、ウチの息子、広瀬達海はここにいますよ?これでその少年のいたずらだと分かったでしょう。」
「た、確かに嘘はついていないみたいだ…妙にこの少年にそっくりだが…ところで、お宅の達海くんは双子だったりしますか?」
 年配の警官がそう聞くと父親は呆れたように応えた。
「双子なんていませんよ。そもそもウチの達海とその少年はちっとも似てないでしょう。」
 警官たちが驚いた様子を見せた。俺自身も驚いた。だって本人の俺が認めるレベルでそっくりなんだぜ?俺とそのそっくりさん。それこそ、俗に言うドッペルゲンガーじゃないかってレベルで。そしたら一瞬だがドッペルゲンガーが何やら青白い光を放った気がした。そして先程の年配の警官が言った。
「ああ、確かに全然似てませんな。先程から重ね重ね失礼いたしました。」
 結局警察は頼りにならなかったどころか、その後こっぴどく注意された。未成年なこともあって今回は見逃すけど、本来は公務執行妨害で捕まってもおかしくないぞって。
「なんで家を急に追い出された俺が警察に説教されなきゃいけないんだよ糞ったれ!!…」
 不意に口からこぼれた虚勢まじりの怒声が人通りのない静かな路地裏に虚しく響いた。
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