第1話

文字数 500文字

 石動藩に竹光職人が一人。名は竹蔵。彼の削りは、まさに研ぐと言った有様で、ただの模造刀に魂が込められる。
 しかし、それを求めるのは、困窮し武士の魂を捨てようという者達。
 誰もがその精魂を鼻で嗤った。

 幼馴染の梅木松陰のみが、違う。
「俺にはわかるよ。士魂が、金がない、なんて理由で捨てられていいはずがないものな」
 友は藩の重役で、竹光なぞ必要としない男だった。けれど、竹蔵はその言葉ゆえに、精魂を賭けた。

 その松陰が患いで足を悪くした。
 まともに刀を差して歩けず、禄を失うしかない男を、誰もが哀れんだ。
 竹蔵、刀工・石動竹光のみが違う。
「松陰様、この刀を」
 差し出された竹光は、松陰の体に合い、腰に差しても重心が揺るがない。
 張り付けた銀紙の照り方は、刃の重さを持っていた。
 躊躇する松陰に、刀を抜きはらい、己の腕を切りつけて見せた。
 血が、滴る。
「刀の鋭さを持たせております。病ごときで、あなた様の士魂が捨てられていいはずがありませぬ。いざ粗相あれば、お腹を召していただけます」

 五年。
 梅木松陰は病を押しているとは思えぬ力強さで、藩政に関わり続け命数を使い切った。
 竹には、魔除けの力があるという。
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