規約違反につき貴方の小説を削除します

文字数 1,635文字

 小説投稿サイトに投稿した自作小説が、よく判らない理由で削除された次の日、俺は、警察に「参考人」として呼び出された。
 なお、ここで云う「参考人」とは「弁護士を呼ぶ権利のない事実上の容疑者」の意味だ。
「おい、早く、仲間が誰か、洗い浚い吐け。そうすりゃ、すぐに釈放してやる」
「え……と……仲間って?」
「舐めてんのかッ⁈」
「まぁまぁ……落ち着いて……。貴方が『抗ゾンビ化薬に効果は無い』と云うデマを信じた挙句、そのデマを撒き散らしているのは判ってるんです。でも、貴方を洗脳したのが誰かを正直に言ってもらえれば……情状酌量は有りますよ。ええ、最悪でも執行猶予は付きます」
 典型的な「善い警官と悪い警官」だ。
 ご丁寧にも「悪い警官」の方が警官だと知らなければヤクザのように思える、そして「善い警官」の方は子供を怒鳴る事さえ無さそうな温厚そうな小学校の先生に思える外見だった。
 多分、これを何時間も繰り返せば、俺は知っている事を洗い浚い吐いたし、家族や恋人だって警察に売り渡すだろう。
 いや、家族とは疎遠になってて、学生時代に当時の彼女と半月で破局して以降、恋人なんて居ないが。
 だが、どんなに老獪な手段をもってしても、俺に自白させる事は出来ないだろう。
「あ……あの……? 何を言ってるんですか?」
 何故なら、俺には警官達の質問の意味が、さっぱり判らなかったのだから……。

 俺は、事実上は「容疑者」でも、あくまで表向きは「参考人」だった。
 つまり容疑者なら認められる権利は無いと云う意味だ。
 容疑者であれば、検察か裁判所にバレたら、確実にクレームが来るような扱いを……これまた、容疑者だったら、とっくに勾留期限が過ぎてるであろう期間、受け続け……そして、警官達の誘導尋問のままSNS上でフォローしてるが良く知らない人達を……「自分を洗脳し、デマを撒き散らすように指示した反『抗ゾンビ化薬』集団」として告発した。
 釈放されてからすぐに……俺は警官達による洗脳が解けた……。
 そして……ひょっとしたら、真の悪とは「愚か者が力を持ち続ける状態」かも知れないと思うようになった。
 あの警官達は、自分達が俺を洗脳した事に気付いていない……。そして、俺の自白が自分達の誘導尋問の結果だと云う事に気付かぬまま、真実だと思い続け……上にも、そう報告したのだろう。もしくは、警察にとっては「真実? それがどうした?」なのかも知れないが……。
 もちろん、俺が「密告」してしまった人達のSNSアカウントは削除されていた。

 勤め先からは馘だと云う連絡が入った。最後の給料だけは振り込まれるが……退職金は出ないらしい。
 何がどうなっているかは判らない。
 絶望的な気持ちのまま、俺は警察に身柄を拘束されていた間に来た大量のメールを確認していた。
 その時、ふと、小説投稿サイトの運営から来たメールが目に入った。
『お問い合わせが有った貴方の小説の削除理由ですが、現在、問題となっている「ゾンビ禍」についてのデマを広めるものであった為、ゾンビ禍対策法と、それに伴なって新たに追加された当サイトの規約に基き、削除を行ないました』
 へっ?
 いや……削除された小説は、パンデミックものだったけど、ゾンビとは関係ない普通の伝染病の話だぞ……。
『貴方の小説に出て来る架空の病気は「変異株が次々と出現する為、ワクチンがあまり効かず、むしろ、ワクチンを打つよりマスクをしている方が予防効果が高い」と云う設定でした』
 ああ、確かに、その通りだ。だが、それに何の問題が有るんだ?
『これは「ゾンビの咬合力は厚手の布程度で防ぐ事が可能で、抗ゾンビ化薬の接種より、厚手の布で作られた露出の少ない服装をした方がゾンビ対策としては有効」と云うトンデモ主張の暗喩と判断せざるを得ません。つきましては、貴方の小説を削除した事と、ゾンビ禍対策法のデマ規定に基き警察への通報を行なった事について、御理解いただくよう、お願いいたします』
 おい、何だって?
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