第1話

文字数 73,602文字

 朝、目覚まし時計が鳴っても、目が覚めなかった。冬本番の2月が過ぎ、3月も3日になっていた。雛祭、そんな事、子供が居ない、八祖島には、関係が無かった。
 目が覚めたのは、朝十時、取り敢えずやる事が無い、冷蔵庫から、ビールを3本程だして、テーブルに並べてみた。
 八祖島ヤスシ、本名は安島だ。国家公安・生活安全課の、課員で、ここ十数年、隠密任務に携わり、公安からの報酬で、二年間無職の男、前とした暮らしに飽いて居た。
 この年で、49歳になる。元ロサンゼルス市警の、刑事だったが、強盗事件を追う課程で、犯人を追い、犯人を追い詰めた時、その黒人の少年は銃を、至近距離で八祖島に向けた。
 八祖島は、得意とする空手で、犯人が発砲する前に、黒人の少年を、撲殺した。
 撲殺された少年の親族は、八祖島を、訴えたが、裁判は、八祖島の正当防衛が立証されて、無罪を勝ち取って、損害賠償及び、懲役刑は免れた。
 しかし、八祖島は、ロサンゼルス市警を辞職して、日本に舞い戻ってきた。
 当時、八祖島は、ちょっとした有名人になり掛けて、東京には住まず、九州宮崎で、隠遁生活を送っていた。
 そんな八祖島に、公安生活安全課が接触を計ってきた。
 ー是非、君の様な有能な男が必要だ、ウチで働いてみないか?ー
 八祖島は、正直、金に困っていた。1も2も無く、公安のスカウトマンの口車に乗り、国家公安生活安全課の課員になった。
 金はまだ有る、リッチだ。しかし、このまま無職の様な暮らしをしていたのじゃ、感も、体も鈍る。この八王子のマンションのローンが残っている、早く職場に復帰したい。
 八祖島は、一人モーニングのトーストと、アメリカンコーヒーを飲み、暇潰しのパチンコに出掛けて行った。
 日が暮れ掛けていた。高速道路にヘッドライトの光芒が、幾重にも重なって、明滅していた。東北自動車道白河PAに、野中正男が愛車にしている、トヨタ86は、水平対向エンジンの音を、響かせて、パーキングゾーンに入る。
 野中正男は、IT企業GOYOO〈ゴヨー〉の人事部を預かる専務で有り、昨年1月に、完成した、GOYOO社・中目黒支社の、専務役員になっている。IT企業GOYOOは、日本での草分け的存在で、インターネット回線から、プロバイダー業、出版と多岐に渡る事業を展開し、その裏の顔は、国家公安生活安全課の、協力者、そして、秘密警察機構で有った。その中でも、野中は、最も有能な特殊刑事、逮捕権と、拳銃所持許可が下りている男で有った。
 その銃の早抜きは、世界屈指のスピードを誇ると言う。
 PA内は、春の行楽シーズンと有って、お年寄りのカップルや、家族連れで賑わっていた。野中正男は、トイレに立ち寄る為に、車を止めてコクピットから這い出た。
 五分ほどで、用を足し、PA内の土産物屋を散策していると、白河PA内に、街宣車が入って来た。右翼の街宣車だ。野中の86の前で停まり、演説をし始めた。
 【日本は、このまま滅びの道を辿って良いのか、米中の圧力に屈した軟弱腰抜けだ。核武装するべきだ、お国を守る、自衛隊員の給料を上げるべきだ。国民よ目覚めよ、さぁ立ち上がれ我が同志達よー】
 野中は、86のコクピットに座り、思い切りフォーンを鳴らす。街宣右翼は、マイクを持っている男を中心にして、6人野中の方を睨む。野中は更にフォーンを鳴らして、ヘッドライトを点けてパッシングした。
 街宣右翼は、野中のトヨタ86の前に立ち、口々に何か喚く。野中は、前に立つ男を、車のATシフトをDレンジに入れて、スッと前進させて跳ね飛ばす。
 前に立つ二人の男は、後ろへ転倒して頭を軽く打つ。
 残った、4人の男は木刀を引っさげて、トヨタ86を包囲する。
 「やい、てめぇ、俺らの仲間轢きやがったな、喧嘩売ってんのか、お~?」
 野中は、コクピットから出て来て、ショルダーホルスターから早抜きで、S&W・チーフスペシャルを抜き、一発街宣車の、ボディーを撃ち抜く。
パーン。鈍く甲高い発射音と共に、街宣車の装甲に、弾丸がめり込む。野中は、拳銃を左手に持ち替え、木刀を持った男達を、滅多打ちにして殴りつける。
 男四人は、謝りながら街宣車に乗り込み、逃げて行った。
 野次馬が二十数人、白い目で野中を見つめていた。気にも止めずに、トヨタ86のコクピットに座り、走り去っていった。辺りは暗闇になり、ハロゲンヘッドライトを、頼りに東北自動車道を、180㎞まで上げて走り去る。車は美女木ジャンクションに、差し掛かり、ETCゲートを潜る。車とペアリングしている、警察から支給されている、ー特殊警察携帯電話ーが鳴り、着信を知らせる。
 〈ルルルルールルルルールルルルルー〉
 3コールで野中は出る。車内のスピーカーから、公安生活安全課の田宮刑事の声が響く。
 〈ハァ~ィ、野中さんお元気ですかぁ?〉
 野中は、今夜は不機嫌極まりなく、この田宮を、どう虐めてやろうか考える。
 「何だ、田宮か、元気で悪いか?」
 野中は、ハンドルを握る手を緩めずにマシンを、直進させる。
 〈野中さんのイケづ、あ、それより、福島県警から、捜査二課に、問い合わせが有ったんですが、三十分位前に、野中さん、白河のPA居なかったですかね?〉
 田宮は、夕食のスーパーで買ってきた、ソース焼きそばを食べながら、連絡を入れて来た様だ。車内スピーカーから、蕎麦を啜る音を聞く。
 「居たが、それがどうした?」
 〈Nシステムや監視カメラに映ってたンスけど、右翼と揉めなかったですか〉
 「なぁ~に軽く遊んでやっただけよ、アハハハハ」
 軽く笑い、田宮は「ハァ~」と、溜息を付き、相変わらず野中の御守は、大変だとつくずく感じる。
 〈それがさ、車のナンバーも、福島県警に控えられちゃったんです、発砲までしたとか?〉
 「アハハハ、相手はヤクザだ、鉄槌を加えてやった」
 〈目撃者が多いのですよ、始末書じゃ、済まないっスよ、まあいいや、ウチで何とか始末着けて、揉み消してしまうから、もう止めて下さいね・・・発砲・・・・・・〉
 「で、相手はどうなった?」
 〈肋三本折ったとか、顔面打撲傷とか、まぁいいや、又飲みに行きましょう、バイチャ〉
 田宮は、一方的に電話を切ると、野中は画面の点いてない、カーTVの音声を聞く。
 車は、都内に入って居て、道は渋滞気味で、車列はノロノロ運転で有った。
 三月中旬の在る日、八祖島は、市ヶ谷に在る、公安生活安全課の分室に訪れていた。別に用があるわけでも無く、特別なミッションが有る訳でも無かった。
 八祖島を見て、皆一様に驚いていた。2年前、東北に根を張る宗教団体、神秘荘園と言う、団体を調査して、それっきり、公安のトップが切っていたと思っていた。
 田宮は、来客用ソファーに座った八祖島を、歓迎し、コーヒーを汲んでやった。
 八祖島は、田宮に軽く会釈をして、礼を言いコーヒーをすする。
 調度その時、外出から帰ってきた、山王公安生活安全課課長が、八祖島を見て、「おう」と反応する。
 「八祖島君来て居たのか、君の顔を見たら思い付いたのだが、調度良い仕事がある」
 山王課長は、タブレット端末と、一冊の資料を持って、八祖島の座る応接用ソファーの前へ、ドカリと座り、資料とタブレットをてわたし、八祖島の顔を見る。
 「八祖島君、単刀直入に、言おう、浅草に在る、労働斡旋所ー一夜会ーに潜り込んで内情を調査して貰いたい」
 八祖島は、タブレット端末を開き、一夜会を、ウェブで検索してみる。三千件ヒットして、ウィキペディアをクリックして開いてみる。
 NPO法人一夜会は、2003年に発足。
 初代会長は、大室金次。業務内容は、労働者斡旋業、人材派遣業。現会長は、大牟田定次。所在地は、東京都江東区亀戸X-XX-X東行ビルディング201・302。労働斡旋所は浅草に在るらしいと分かった。
 山王は、八祖島の顔色を見て、資料を差し出す。八祖島は、紙のA4用紙にコピーされた、資料をはらりと捲る。表紙には、㊙と付いて有り、題名は、第2012号と示してあり、一ページ目をめくると、ゼネコン大手、-神能建設ーの、初代会長から、現会長、三代目、熊谷元示の事が、略歴として記されてあった。
 「まぁ、資料は帰った後で読んでくれたまへ」
 八祖島は、もう一杯コーヒーが運ばれて来、事務の山下友奈に軽く礼をする。
 「実は、神能建設で雇った労働者が幾人も、行方不明なんだ、そして最近、3名程山梨県の塩山で身元不明の遺体として、上がって、その三人は恐らく、山梨県のリニアモーターカー敷設現場の労働者だろうと思われている。そして、その元締めは、現場を差配する、大建吉美組と分かっている。行方不明者を捜すために、吉美組の現場管理組織、NPO法人一夜会に潜り込んで、証拠を挙げて貰いたい、この仕事は報酬三百万出そう、やってくれるか?」
 八祖島は、少し考える素振りをして、一度廊下へ出てラークマイルドで一服する。
 山王も一緒に廊下へ出て来、八祖島から、一本タバコを貰い、大きく吹かす。
 「質問ですが、そこまで分かっていて、何故警察は踏み込まないのですか?」
 「それがね、僕にも分からないんだよ、上層部に進言した所、確たる証拠が有れば、摘発すると言っている。どうも、この件に、上は二の足を踏んでいるようだ、そこで君の出番だ」
 山王課長はもう一本タバコを、八祖島から貰い、大きく吸い吐く。紫煙が、喫煙所に充満し、八祖島は、目をしょぼ付かせる。
 八祖島は、不承不承仕事を受けた。
 それから2時間後、株式会社・IT企業大手の、GOYOO中目黒支社、専務、野中正男のもとに一本の電話が入った。
 警察から支給されている、特殊警察携帯電話、略して〈特携〉にエマージェンシーコールとして着信が有った。
 特携とは、警察情報に有る、日本国民及び、在日外国人、そして海外犯罪者の、データを、警視庁が提供する特殊バンドの電波帯で受信し、情報が得ることが出来る。更に、警察無線の代わりに、従来一般、Cメール、Eメールと違う、電波帯に乗せ、ポリス用メール、Pメールを送受信できる。提供端末以外で、この電波を傍受されそうになった時は、警察のシステムエンジニアによって、ブロックする事が可能で有る。その際、全特携の電波を遮断することも有る。一時的に使用不能になる場合が有る。そういうリスクを踏まえて、日々進化をしている。
 ブーブーブー、と、野中正男の特殊携帯電話に着信が有る。スマートフォーン型、特携に公安田宮と、表示されている。
 電話に出た。野中は専務役員室で、タバコを吸っていた。
 「ハイ野中だが」
 野中GOYOO専務は、この年49歳、田宮は3つ下の46歳で有った。野中は、GOYOO人事部専務になって早20年近くになる。1990年代、GOYOO社の前身トムポと言った時代、国家公安生活安全課は、警察当局の調査により、一万社以上の国内の会社から選ばれ、当時社長だった、金氏に依頼して、国費30億円を使ってトムポ社を、国家公安の秘密警察に仕立て上げた。その後、相次ぐ犯罪、思想団体を、監視し、時には摘発して、犯罪の温床を叩き潰してきた。
 言わば、現代版の隠密である。特携同士の繋がりは良く、音声もクリアーだ。
「ハイ、野中さん、今からそちらに行っても良いですか?」
 田宮は、開口一番軽口を叩くと、思っていたが、案外真面目な声音で、答えたので野中は仕事の依頼が来たと、思った。
 「来ても良いが、何分で来れる?」
 「二十分見て貰えれば、即行で行きます」
 野中は、OKと一言言い、通話終了のボタンをタッチパネルで叩く。
 十五分後、街道を真紅の平たいマシーンが目黒の街道を高速で走り抜ける。そのマシーンは、ランボルギーニ社製の、ミウラで有った。その赤いマシンは、オールクリアになった中目黒の街道を、210㎞オーバーで走り抜ける。左ハンドルのコクピットには、公安生活安全課・田宮刑事がマシンを操り、GOYOO中目黒支社の手前、500m付近で急減速をし、支社の直前で60㎞で、カウンターステアリングを、当て駐車場へ入って行く。
 田宮の操る、ランボルギーニ・ミウラは、来客用専用駐車スペースには、入れず、役員用の広いパーキングゾーンへ入る。
 田宮は、マシンから降りると、左座席から降りて、地階・社員通用口から中へ入る。
 まだ夕暮れ時で、社員通用口には業務中なので、iDカードのみで中へ入れる。通用口を潜ると、窓口があり、警備員が顔を覗かせて、田宮の顔を見て敬礼する。
 エレベーターホールから、偶数回だけ止まるエレベーターに乗り、最上階にある、役員専用ロビーに降りる。田宮は、ロビーの真中に立っている、ゆるキャラ、GOYOOのマスコット、〈御用だちゃん〉の人形を触り、頭を撫でて、携帯スマホで写真を撮って、コの字型に切れれた廊下のエレベーターホールから、逆側に位置する、野中専務役員室へ向かう。
 ドアーをノックすると、野中専務役員室の扉が開く。野中が自らドアーを開き、珍しいものを見た様な顔で、田宮は、呆気にとられる。何せ、野中自らドアーを開いて出迎えるのは、過去皆無であった。
 田宮は、専務役員室に通されて、応接用ソファーに座る。野中は、手ずからコーヒーを入れて田宮の前へ出す。田宮は恐縮し、出されたキリマンジャロコーヒーを一口すする。
 「で用件は何だ?」
 野中は、ジッポーでマルボロに一本火を点けて大きく吸い込む。何せこのご時世タバコは禁制の様な物で、何処へ行ってもお仕着せの、健康促進で、禁煙、禁煙と、クソ下らない連中が多い。タバコを我慢して、ストレスを、溜めた方が余程不健康だと野中は思っていた。
 そんな、野中を田宮は見て、自分もポケットから、ウェストミンスターを出して、カルチェのライターで火を点ける。
 「あの、仕事の件なんすけど・・・」
 田宮は、一冊の資料ノートを出す。資料は、A4コピー用紙に100枚程の厚さが有った。野中はそれを取り、ページを、パラパラと捲り、内用を吟味した。
 「何だこれは、ゼネコンの何が有るんだ?」
 田宮は、待ってましたとばかり答える。
 「実は、山梨、長野、のリニアモーターカーの現場が、噂によると、随分異常何です。最近、山梨の塩山の山で出た遺体が何等か関係してるようなんですよ」
 「ホウ?」
 野中は、トーストを焼きに席を立つ。何せ昼から何も食べずに、業務をこなしていた。
 「そこで、ウチの八祖島さんが中に入って調査することになったんですよ」
 「八祖島って例の、ロス市警に居た奴か?」
 野中は、トースターから、2枚トーストを出して、皿に載せ、マーガリンと、イチゴジャムを冷蔵庫から出してそれを塗る。
 「ハイ、本名安島康雄、年齢49歳、性別男、出身地、新潟県三条市、現在稼働しています」
 田宮は、一気に喋り、額の汗を拭い、野中の食べるトーストを、羨ましそうに見つめる。野中は、トーストを齧りながら、田宮から貰った資料を見る。
 「で、この神能建設って言うのが元請なのは分かるが、吉美組って例の米沢大鉄の?」
 「ハイ、その吉美組何ですが調べると、色々と問題が浮上して来まして、その下部組織の、一夜会、これが問題が有りそうです」
 「で、その一夜会を洗えと?そんなものは警察の別の課でやる仕事じゃ無いのか?」
 野中はトーストを食べ終わると、「分かった」と一言言い、マルボロに火を点ける。
 「分かりましたか、ウチの山王が、この件が気になりまくってるんすよ、何せ山王さんは、大の鉄道ファンで、リニアの工事の進捗具合が気になってるとか・・・」
 野中は、タバコを吸い、今度の仕事の報酬について切り出した。田宮は少し戸惑い、野中から視線を外す。
 「一応、ウチの予算から八百万円出せます、まぁ支度金見たいな物で、事件が解決したら、二百万上乗せ出来ますがどうです?」
 「駄目だ、一千万位じゃ、人件費位しか出ない、横水ともう一人使ったら赤字だ」
 田宮は、天井に向き、何か考え事をしている風で有った。二人は、5分程沈黙して、田宮の方から切り出した。
 「分かりました、もう一千万出る様に、経理の羽田野さんにお願いしますが、一千万出たら、私にキックバックで二百万出してくれませんか?」
 野中は、渋面を作り、経理の羽田野の顔を思い出していた。羽田野にまた、接待をし、女を抱かせるのかと思い、気が重くなったが、GOYOO社の実入りになるから、仕方ないと思いOKのサインを出した。
 翌日、夜8時、八祖島は、自家用のベンツのAMG仕様のマシンで、GOYOO社中目黒支社に赴いた。ベンツは、中目黒支社の、来客用駐車スペースに、頭から入れる。この時間は、営業車が帰って来てい、駐車場は半分ほど埋まっている。
 八祖島は、グレーのスーツに、身を包み、小さ目のボストンバッグを右手に提げて、正面玄関から、中へ入る。正面玄関で、警備員に来客を告げると、5分程で野中の秘書、近藤が、出迎えた。二人は最上階の、専務役員室へ向かった。
 それから3日経つ。浅草の一丁目に位置する、労働斡旋所、NPO法人一夜会に、八祖島は、到着する。朝、5時45分、路上には、労働者が、30人程固まってタバコを吹かしている。八祖島は黒いジャンパーを羽織り、ニッカポッカ姿で現れた。
 背には、大型のリュックサックを背負い、ベースボールキャップを、目深に被っていた。
 男達に交じり、作業服姿の女も3人ほど居、八祖島を見てクスクスと笑っている。女達は20代で、皆髪を赤や茶に染めてい、ニッカポッカを、粋に着こなして、赤いジャンパーを、羽織っていた。
 午前6時、一夜会の窓口が開いた。路上に居た、労働者は、30人から60人程に増えていた。一夜会のスタッフ達が、札を配っている。八祖島は、34番の札を貰い、送迎バスに付いて、説明を受ける。
 番号札順に、建設現場への行き先が決まり、1~20、21~30と言った具合に十人単位で行き先が決まる。その日の行き先は、番号札によって決まり、送迎バスに乗るまで分からなかった。
 本日、八祖島は、初日、日当は1万2千円、現場は、川崎市の麻生区に在る、マンション工事で有った。この工事は、マンションのメンテナンス作業で有り、新築では無かった。
 「ハイ、20番から30番こっち来て下さい」
 「ハイ、31番から40番までこっちね」
 現場へ行くバスに乗る前に、バスの運転手の手配により、雷門通りに停まっている、マイクロバスの場所まで歩いた。女の子3人組の内一人が、八祖島と同じバスに乗った。
 女の子は、労働者5人の男に引っ付かれて、あれこれ物を貰っていた。八祖島は、最後部の座席に座り、その隣に男達をあしらっていた女の子が一人座った。
 八祖島は、朝食のコッペパンを食べて、コンビニで買ったジュースを胃の中に押し込む。
 隣に座った女の子も、サンドイッチを頬張りながら、八祖島の方へ向く。
 「お早う、新米さん?今日は、このバス何処行くのかしらね?」
 「川崎らしいです、ビルメンテナンスの現場と聞きました・・・」
 八祖島と、女の子が会話すると、バスの中の男達が、一斉に八祖島を睨む。2人は、バスが発車するまで会話をしていた。
 バスが走り出していた。男達の熱気を乗せて、八祖島はバスの中の男臭さに咽せた。
 バスは、川崎の現場に着いて、皆朝の体操をさせられる。八祖島は、柔軟をして、待機していた。件の女の子は、美世と言って、横浜から職を求めて出て来たらしい。
 「八祖島は、件の美世の指名で、助手をする事になった。美世は軽々と足場に登り、八祖島は付いて行くのがやっとだった。
 「ハイ、マスクして、ゴーグル掛けてね、今日はここの外壁の塗りらしいからガン取って来てね」
 こんな具合に、午前中は時間が過ぎた。
 昼も、八祖島は、美世に引っ付かれて、男達に睨まれていた。昼ご飯のカルビ弁当を食べ終わると、遂に男3人組が、八祖島に因縁を付けてきた。
 「オイ、そこの女たらし、強そうだなお前~、一丁俺たちと食後のスパーリングするか」
 美世は、何も言わず、何時もの事だと思い、只見ているだけで有った。
 「スパーリングですか、良いですが、後で怪我してクレーム着けないで下さいね」
 八祖島が上衣を脱ぐと、獰猛な筋肉を曝け出して男3人に向かう。
 男3人は、手に手にスコップを持ち、忽ち人集りが出来る。
 「汚ねぇ~よお前ら素手でやんなさいよ」
 美世は怒鳴ると、後ろから労働者の一人に抱き付かれる。
 八祖島はファイティングポーズを、作り、先制の一撃を、スコップを持った男の鼻っ柱に入れる。前の男は一撃で伸びた。後ろの2人は大声を張り上げて、八祖島にスコップの平の部分を振り下ろす。八祖島は左後ろの男に、後ろ回し蹴りを入れ、右の男に裏拳を入れる。男3人は、忽ち倒されて地面で痛みに堪え寝転がる。
 「スパーリングにスコップは無いでしょう、今度は素手でお願いしますよ」
 美世は、八祖島にしがみ付き、笑い泣きの様な顔で手に着いた返り血を拭いてやる。
 そこへ、現場監督がやって来て、3人組を激しく叱る。
 午後は、外壁洗浄で水を多く使った。足場に居る、八祖島へ上からバケツが落下して来た。八祖島はバケツに上段受けをして、横へ吹き飛ばす。
 「危ねぇじゃないか、誰が落としたい?」
 下の作業をしている男が、上に怒鳴る。上では件の3人組が作業していた。
 午後6時、仕事が終わり、マイクロバスに乗り込み、浅草への帰途へ着いた。帰りのバスで八祖島の隣に一人の男が座った。
 名を、時田念一と言って、元保険の外交員をしていたと話す。しかし、5年前、保険会社が倒産し、家のローンと車のローンが払えなくなり、破産した。そして今は、山谷のベッドハウスに住み着き、妻と子を、東京の外れ町田市に残していた。
 そんな時田は、この年36歳、必死に働いて、再び家を買い戻し、妻と子と一緒に暮らす日を夢見ていた。
 バスは夕闇迫る、雷門通りの前へ停まる。
 件の女、美世は、あれこれと八祖島の世話を焼く。一行10人は浅草一丁目に在る、NPO法人一夜会の事務所に歩いて向かう。
 一夜会の前には、人集りが出来、80人近い労働者で溢れかえっていた。道には職人御用達の、ハイエースや、軽のサンバーが停まり、明朝の仕事の下準備をしていた。
 八祖島と、美世、時田の3人は、一夜会の事務所の前の行列に並び、本日の報酬、1万2千円を受け取り、手配師の、佐伯と言う男と話す。
 「どうだ、新人さん、明日の予約受け付けてるけど予約していくか?」
 佐伯は、作業服に下はスーツとネクタイを締めて、しきりにタバコを吸っていた。
 「明日の仕事って何スか?」
 「明日は8件程依頼が来てるんだよな、埼玉の奥秩父の、ニュータウンの造成地、ここは遠いから、特別手当で、3千円上乗せするよ、どうだ、そこの美世と組んで行くか?」
 美世は、八祖島と時田を連れて行くと言い、3人は予約の契約書にサインをして、明日使う番号札を貰った。
 3人は近くの一杯飲み屋〈どんべえ〉に入って、一日の疲れを癒やす。
 「ねぇ、八祖島さんて何処に住んでいるの?」
 美世は、ビールで乾杯して、八祖島におしぼりを取ってやる。八祖島は、おしぼりで顔を拭き、一本エコーの箱に入ってる、ラークマイルドを出す。
 「それがね、今夜の寝床に困ってんだ、山谷のベッドハウスにでも泊まろうかと・・・」
 隣に座る、時田はそれなら自分が泊まってるベッドハウス、〈ヒマワリ〉に一緒に行こうと誘う。今の時期、桜の見物に海外から、山谷のベッドハウスに泊まりに来る、外国人の学生が多く、満杯だが、時田の隣のベッドが昨日から、空いていると言う。一日四百円の、宿泊料で済むならと思い、八祖島は行くことに決めた。
 「私はこれで帰るね、八祖島さん、今度家にも、遊びに来てね」
 3人は、ビールと焼酎3杯と、焼き鳥とホルモンを食べて、店から出た。
 スカイツリーが夜空を圧する様に立ちはだかり、イルミネーションが目映い。
 二人は、山谷のベッドハウス〈ヒマワリ〉に歩いて到着する。ヒマワリの玄関先で、労働者と、外国人の女が、金の受け渡しをして、何処かへ二人歩いて行く。八祖島は、受付でベッドを借りて、一週間分の、二千八百円を支払い、荷物を持って、時田念一の隣のベッドに腰を落ち着ける。時田は、八祖島にウィンクして、布団を被り寝入ってしまう。
 夜九時、八祖島は、ベッドハウスから出て、近くの銭湯に一人で歩いて行く。銭湯〈湯舟〉と言う、風呂を見つけて中へ入る。中は老人と、中年の子連れが入って居、一風呂六百円を払い、中で服を脱ぐ。
 30分程、体を洗い、湯に浸り、風呂から出ると、隣にスーツを着た男が立っていた。
 「山本ノリ食うか?」
 男は、囁く様にして、八祖島に語り掛ける。公安生活安全課の暗号だと直ぐに看破する。
 「コテちゃん美味い・・・」
 八祖島は、暗号に答えた。男は七三に分けた、脂ぎった頭を、八祖島に向けて、握手を求めて来る。男は、コインランドリーの在る場所に八祖島を誘い、ヤクルトを4本買い、二人は服を洗濯機に入れて回し出す。
 「八祖島か、俺は、公安生活安全課の、元安と言う者だ、今後俺に連絡を定期的に入れてくれ」
 元安は、公安生活安全課の、連絡員で、年齢は38歳だと言う。本当の所、得体の知れない男で有った。元安は、ヤクルトを、4本立て続けに飲み、ゲップをして、八祖島に笑いかける。二人は十分程話し、元安は、洗濯物を担いで何処かへ去って行った。
 八祖島は、呆然と洗濯の終わるのを待って居ると、一人のフィリピン系の女が入って着る物を洗っていた。
 「こんばんは~」、女は八祖島に挨拶すると、少し離れた場所に座り、八祖島を見つめる。女は八祖島に近付き語り掛ける。
 「あの~もし良かったら、ウチの店で遊びませんか?」
 女は、名をセシルと言って、自己紹介する。八祖島は、名刺を貰い、この近くに在る、スナックーイスカーと言う店で一杯飲んで行かないかと、誘われる。
 八祖島は、明日にでも改めて行く。と言い残して、ベッドハウスに戻る。
 午前2時、八祖島は、下半身に滑るような感覚を感じ目が覚める。目を下に移すと、ブロンドの老婆が、八祖島の一物を舐めている。八祖島は、されるがままにされて、「ウッ」と引き金を引き、その婆さんにペニスを舐め取られる。老婆は、八祖島に跨がり「オーオーオー」と悲鳴を漏らしながら、アクメに達する。八祖島は、終わった後、目を静かに瞑り、再び寝入ってしまう。
 4月も終わり、5月に入っていた。連日、猛暑が続き、夏本番のような気候で有った。
 ゴールデンウィークが終わる頃、八祖島は、街で一枚のビラを貰う。
 ビラには、こう記してあった。
 【スタッフ急募・NPO法人一夜会・月給16万~37万円。性別不問、年齢23歳~60歳位まで、資格・建築土木関係優遇。頑張れば頑張るだけ皆の役に立てる。希望の持てる職場に、皆でレッツオーライ。一夜会本部事務所・担当大牟田まで】
 八祖島の目は光りを帯びて、ニヤリと笑う。八祖島は、ビラを持って帰り、元安公安刑事に連絡を入れた。元安は、夜7時過ぎにベッドハウス前に、行くと言い電話を切った。募集広告をポケットに丸めて、ベッドハウス〈ヒマワリ〉の前の路上へ出る。元安は、来てい、タバコを吹かしながら、後ろ向きに立っていた。
 「八祖島か?、一夜会に潜り込める手立てが見つかったって一体何だ?」
 元安は、そっぽを向きながら訪う。
 「このビラ見て下さい、一夜会が募集を掛けています、これで採用試験を受けようかと?・・・」
 「バカヤロウ、そう言う時は早技で話を決めるのが俺たちのやり方だろう?明日にでも早々と連絡入れろや」
 元安は、決めつけて、八祖島に命令する。
 その夜、八祖島は悶々として眠れなかった。深夜1時、八祖島のベッドに人が一人入って来たので寝たふりを決め込んだ。
 この街に来てから、八祖島の周りに、女が近寄ってきて、深夜、外国人の女に夜這いを掛けられる事はしばしば有り、八祖島は辟易していた。
 八祖島のベッドに潜り込んできたのは、男だった。下半身をヌルリとした舌で舐め回し、八祖島のペニスを丸呑みにして、舌で亀頭を転がされ、八祖島は一気に果てた。
 「念一さんよ、いい加減辞めにしないか?」
 八祖島は、跳ね起きて、念一の頭を掴む。念一は素裸の姿で、八祖島に覆い被さり、唇を被せてくる。八祖島は、念一の愛撫に応えて、後ろから念一の肛門を貫く。念一は、激しく喘ぎ、3分後夥しく射精して八祖島のベッドを濡らす。終わった後、念一は八祖島の腕枕で甘える。
 「念一さんよ、俺にはその趣味は無い、2度と辞めてくれ・・・」
 時田念一は、涙ぐみ、八祖島ともう何日かで別れなければならないと言った。
 「一体何でだ、浅草の一夜会辞めるつもりか?」
 「いえ、纏まった金が必要なので、吉美組の、リニアモーターカーの、敷設現場に一年程働きに出ようと思いまして、手配師の佐伯さんに相談したら、来週の末に、リニアの現場行きの募集が出るとのことで、当分八祖島さんに会えないと思うと切なくて・・・」
 「そうか、リニアに行くなら俺もその内行くから生きて待っていてくれ」
 八祖島は、エコーの箱に入っている、ラークマイルドを一本出して吸う。或いは、時田念一は生きて帰れない物かも知れないと思うと、背筋が寒くなる様な気がした。
 念一は封筒に入った金を、八祖島に渡して言った。
 「この金は、町田にいる妻と子の養育費です。八祖島さん俺の代わりに届けてもらえないか?」
 八祖島が中身を見て、ザッと50万円入って居る。1に2も無くOKしたが、公安の目を逃れて行く自信は無い。しかし行ってやらねば、この男の立つ瀬が無いと思い、町田市に住む、時田念一の妻が住むアパートの住所を、書いて貰った。
 翌日、八祖島は、一夜会の面接の日取りを、電話で決めて、偽で有る経歴を書き込み、履歴書を作成した。
 その日の午後3時、八祖島は単身電車に乗り、町田市の時田念一の、妻と子が住むアパートを訪ねる事にした。
 上野駅で、キオスクに寄り、三万分の一の、東京都の地図を買い、駅のベンチでページをめくっていた。向こうから、女が一人歩いてくる。八祖島は、気が付かぬ間にベンチの横の空いている場所へ女は座る。
 「山本のり食うか?」
 女は、公安生活安全課の合言葉を使い、八祖島の耳元で囁く。
 「ム?、コテちゃん美味い・・・」
 女の名は、カエデ・サンタクルース、と言って、公安生活安全課から、GOYOO社に移ってきて久しいと聞いていた。
 カエデはこの年36歳、八祖島のサポート役にして、GOYOO野中正男から送られてきた、スパイである。
 「私カエデ、覚えておいて下さい」
 八祖島は、カエデをチラリと見て、地図を開く。カエデはS&Wの、32口径のリボルバーを、油紙に包まれた状態で、八祖島に渡す。八祖島は、手に取りバッグの中に詰め込む。
 駅中を人がどこから沸いて出て来たのか人通りが多くなる。道行く人々は、連日の暑さで体力を奪われ、汗をタオルで拭きながら、フラリフラリと、街へ消えていく。この者達一体何処へ何をしに行くのか?八祖島は、一人一人尾行して、行き先を確かめたいという衝動を覚えて、股間が疼く。
 「携帯電話ちょっと貸して下さる」
 カエデは、徐に、八祖島の近くへ寄ってきて、息が掛かる位の距離で囁く。
 「む?特携しかないが・・・」
 八祖島は、バッグの一番下に二重底になっている、仕切りを外して、特殊警察携帯電話を、取り出す。カエデも自分の持っている特携取り出し、八祖島の特携と赤外線通信をし、連絡先の交換をする。
 八祖島は、特携を受け取ると、再び二重底の中へ入れて、売店で買ったコーラを飲む。
 「これから何処へ行くの?」
 「友人の用で東京の外れ町田市に金を持っていく」
 2人は山手線に乗り込む。八祖島は、何でこの女が着いてくるのかを訝しんで、カエデの方を向いて、訊いて見る事にした。列車は新宿の、プラットホームに入っていく。上野を発ってから、約20分を経過していた。
 「何で着いてくるんだ?」
 「だって、アナタのパートナーになるんですもの、SEX位しておかなきゃ」
 八祖島は、その答えに絶句し駅から見える高層ビル群を眺める。新宿駅で乗り換えるために、連絡用通路を歩いていると、スカートを履いた男子が目立ち、八祖島は、床につばを吐く。カエデは、八祖島に寄り添い左腕を掴んでくる。
 新宿の雑踏で、ある男を見た。公安生活安全課の元安刑事だ。八祖島に近づき、顎をコインロッカールームの方へしゃくる。
 3人はコインロッカールームに入り、元安が真ん中へ入り、八祖島とカエデを睨む。
 元安は口を開いた。カエデと八祖島は元安の神経質そうな口元を見ている。
 「八祖島、何処へ行く?」
 八祖島は、コインロッカールームで禁止されているタバコを出して、火を点ける。
 「はい、友人の用で町田までちょっと・・・」
 「町田に、何しに行く?」
 八祖島は、時田念一の事を話し、元安の顔を射る様にして見る。元安は、その現金をチェックすると言い、封筒を八祖島に出すように言う。八祖島は、不承不承封筒を元安刑事に渡し、元安は中身をチェックする。
 「なぁ~んだ、たったの50万円か~」
 元安は、万札を十枚数えると、それを抜き取り八祖島の方へ返してきた。
 「ちょっと何するんですか、十万も持って行かれたら、時田の家族が・・・」
 「これは、この事を、俺の腹一つで納めるって事だ、言わば口止め料さ、じゃぁ用は済んだアバヨ」
 元安は、カエデの頬にキスをして、その場から立ち去る。カエデは嫌な顔をして言った。
「あの男、元安は公安では有名なゴロ付き、八祖島、今後気をつけて・・・」
 二人は、新宿駅から、小田急小田原線に乗り換え、町田へ向かった。
 時間は、午後一時半を、少し回っていた。八祖島は、駅のバスターミナル近くで、タクシーを一台拾い、カエデと共に乗り込んだ。
 タクシーの運転手は、カエデをチラリと見てニコリと笑う。
 「お客さん、タクシー乗り場以外で拾われちゃ困るんですよ、まぁいいや、何処まで?」
 タクシーの運転手は、ヤニで茶けた、前歯を出して唇をペロリと舐める。
 「旭町の一丁目付近で下ろしてくれ」
 「一丁目の何番地か分かりますか?」
 「確か、トヨタの代理店の裏だと聞いていたが・・・」
 運転手は、メーターを上げて、ウィンカーをハザードから切り替えて、路上に飛び出していく。車は、三十分程走り、都道47号線沿いに在る、トヨタの代理店の前で停まる。八祖島は、料金を払おうとすると、カエデが、携帯電話で精算する。
 二人は、そこから歩いて、2分程の、2階建てのアパートを見つける。アパートは、外壁が、緑色に塗られており、外の駐車場には、国産の軽自動車が、数えただけで8台は止まっている。
 アパートの二階へ上がり、表札を見ると、その部屋の名義は、時田では無く、日田と書いてあり、八祖島は確認の為、チャイムを鳴らしてみる。
 「ハイ、どなた?」
 中から、中年の女の声がして、八祖島は答える。
 「あの~、少しお伺いしたいのですが、時田さんと言う方いらっしゃるでしょうか?」
 女はドアーを開けると、八十島の顔を、目を細めて見つめる。
 「ハイ、確かに私は時田ですけどアナタは?」
 八祖島は、女の顔を見て、名刺を差し出す。名刺には、一夜会に登録してある、名義、八祖島建設請負業と描いてあり、女はそれを見て、ハッとなる。
 「主人は元気ですか?、浅草の方に住んで居ると聞きましたが?」
 八祖島は、黙って、バッグから、40万円入った封筒を出して、女に手渡す。奥の方から痩せこけた青白い顔をした若い男が、顔を覗かす。
 「オイ、何ですか、アンタ等ウチの嫁に何の用ですか?」
 男の年齢は22、3歳と見て取った、八祖島は男を無視して言った。
 「奥さん、念一氏は、今必死になってお金を作っています、帰ってくるまで一年、辛抱して下さい、こんな男とは、別れた方が良い」
 八祖島とカエデはそれで、部屋の前から離れて、アパートの敷地から出て行った。
 熟れた雌の臭いがしていた。窓の外は、もう日暮れ時で、カラスが大挙して、飛び去っていく。女の割れ目に口を付けて、強烈にバキュームし、舌でクリトリスを転がす。八祖島のペニスを、女は咥え、雄のエキスを、啜り泣きながら貪っている。女、カエデは、乳房にペニスを擦り付けながら背を、グーンと仰け反らせて、八祖島の愛撫に応える。八祖島は、カエデを舌に敷き、最大勃起したペニスを、カエデのその柔肉部分に、充分擦り付けながら挿入していく。
 「くあ~ん、良いわ、YESYES~」
 「カエデ、可愛いよ、中の方も外見と一緒でとても気持ち良い、う~ん」
 八祖島が、腰を引くと、カエデの陰部の奥のヒダが、亀頭を刺激して八祖島は唸る。
 「八祖島~、すごいすごい、私のヴァギナに、おちんちんが吸い込まれる~」
 二人はそのまま、クライマックスを迎え、八祖島の男のエキスを、カエデは吸って居た。
 「ベリースウィート、キュート、素敵だよカエデ」
 「OH-オーノーYES」
 八祖島は、カエデと、深くキッスを交わし、そのまま果てた。大量に出て、カエデはイク。
 カエデ・サンタクルースは、ハワイアン日系5世だ、八祖島は、寝物語で聞いた。八祖島は、カエデの茶色掛かった髪に手をやり、そっと撫でる。
 翌朝、目が覚めると、カエデは消えて、何処かへ居なくなっていた。八祖島は少し空しく、胸の何処かにカエデの、残り香が有り、独り、ホテルの窓から新宿の街を見下ろしていた。
 春から、夏に変わろうとしていた。カエデと別れてから、一週間後、八祖島は、浅草に在る、ファミリーレストランで、時田念一と二人で、別れの宴をしていた。
 「八祖島さん、この間は有り難うございます。女房の所に居たその男、多分、近所に住んでいた日田要一って、ガキです・・・本当にすみません」
`八祖島は、ハンバーグステーキを、ナイフで切り分けながら、右手でフォークを上手く使う。時田念一は、無口な八祖島の目を見つめながら、運ばれてきたワインに口を付ける。
 「で、リニアの現場の何処に配属されるか分かったのか?」
 時田は、テーブルの下で、八祖島の足に、自らの足を擦り付けながら、八祖島の問いに応ずる。
 「いえ、何処の現場か行ってみないと分からないです・・・、でも、八祖島さん、今まで有り難うございます。山梨県の現場でまた会えたら、その時はまた抱いて・・・・・・」
 時田は語尾を濁らせて、話し、八祖島は、聞き取れずに、「ああ」と生返事をした。
 1時間後、時田念一は、NPO法人、一夜会のスタッフの集まるマイクロバスに、揺られて、山梨県へ去って行った。
 八祖島はこの四日前、NPO法人一夜会の面接を受け、筆記試験に合格していた。
 明日からいよいよ、出勤初日で有った。本日は、浅草界隈に居る、友人達と、就職祝いの酒宴を、開くため、上野の焼き肉屋【テコン】に、八人招き、八祖島が皆に奢る予定で有った。浅草寺裏に、皆が集まり、上野に繰り出した。件の女、美世とその友人、四人も来る事になった。
 「八祖島さんて良く見ると、渋くて格好良いね」
 酒宴の最中唐突に美世は語り掛けてきた。
八祖島は、笑って、美世に酒を注いでやり、その他の女の子達から、祝いのプレゼントとして、腕時計を貰う。八祖島は喜び、皆に酒を振る舞う。
 その夜、八祖島は、幸せで有った。
 翌日の朝、7時20分、浅草橋からタクシーに乗り込み、NPO法人一夜会のある事務所、江東区亀戸の東行ビルディングに着く。
 東行ビルディングは、亀戸駅から東へ約300メートル行った所の、京葉道路と、総武線の線路の間に位置する、鰻の寝床の様なビルディングで、地階は駐車場になっており、地上6階、少々古ぼけたビルで有った。
 八祖島はタクシーから降りると、東行ビルディングのエレベータホールへ入って行く。{キーンコーン}と、エレベーターの到着の音が響き、中から背の高い女性が降りてきて、八祖島に軽く会釈した。
 「これはどうも」
 八祖島も釣られて挨拶をする。東行ビルディングのオンボロエレベーターに乗り、事務所である二階の、201号に赴く。
 201号は、テナントになっており、薄いスモークの貼ったガラスの入ったドアーから、中へ入る。ドアーには、NPO法人【一夜会】と、看板が出ており、中ではスタッフが10人程デスクワークに、勤しんでいたり、チラシのポスターの制作の為、立って印刷機を回したりと、多岐にわたって業務をこなしていた。
 八祖島が入ってくると、課長の末長と言う先に面接した男が、八祖島を見出して、予め用意されていた八祖島のデスクに誘う。
 「お早う御座います、課長、今日は何からしたら良いんでしょうか?」
 八祖島は、初日からやる気を見せて、仕事の事を切り出す。
 「ウム、会長と、皆に取り敢えず、自己紹介して、それから確か君は、労働斡旋所の出身だったね、明日から浅草の斡旋所に行って詰めて貰いたい」
 八祖島は、まづ、会長・大牟田定次の居る会長室に、入って行った。大牟田定次は、痩身で背が高く、顔のしわが少ない。少し体が軟弱そうに思えるが、これで昔は柔道の選手だったと、言う。
 大牟田は、八祖島の履歴書に目を通して、色々と訪ねてきた。
 「君は空手をやると書いて有るが、段位は何段だね?」
 「ハイ、一応極限流の四段を頂いております」
 大牟田は、「ほう」と唸り、本日空手道場に行って、是非技を見せて貰いたいと言った。
 皆に、自己紹介をし、八祖島は自分のデスクの上で、伝票整理を午前中させられる。
 午前12時を、少し回った。大牟田が出て来て、八祖島に空手道場へ行こうと誘う。
 地階の駐車スペースに駐まっている、デリカステーションワゴンに乗り、大牟田、スタッフの世話人、横尾と言う男が、車に乗り込み、銀座にある空手ジム、中世流空手と言う、道場へ八祖島を連れて行く。
 本日の八祖島のスタイルは、上にGジャンを羽織り、下に白色のニッカボッカーを履いて、足首にゲートルを巻いて居た。
 銀座六丁目のその空手ジム、中世流の玄関前に、デリカステーションワゴンは停まる。
車は、道場の前のパーキングメーターに止めて、大牟田に、横尾、八祖島の3人は道場の入り口から入る。大牟田は空手ジムの受付で来訪を告げると、中から中肉中背の、中年の男が出てくる。
 「これは大牟田さん、さっき電話で話していた八祖島さんてこの人?」
 大牟田は、ここの道場主、金沢明と言う、男に紹介する。道場に入ると身が引き締まる。上座に有る、香取大明神、八幡大菩薩に、挨拶すると、上座に座る大宮という、男に一礼をして、道場中央に、車座になり座る。
 「して、この御仁が、空手4段の八祖島氏なのかね?」
 ここの道場主、金沢は、八祖島の目に見えぬ殺気を感じ少し警戒する。
 「私目が八祖島です、此処に連れて来た訳は何ですか大牟田会長?」
 「実はリニアの現場、君は知らないと思うが、度々作業員が喧嘩騒ぎを起こして、手が付けられない程、荒れているんだ、近い将来君が、リニアの現場で管理者として行って貰いたい。そこで腕っ節を試そうと思っているんだ」
 車座になっている席に、一人の強そうな青年がいた。和木田洋名と言う、この年24歳になる青年で有った。和木田は、本日、八祖島の身体能力テストとして、空手の組手を、する事になっていた。八祖島は、道着のサイズの合うのが無く、この日着ていた、Tシャツにニッカポッカ姿で、道場で、和木田と手を交える事にした。大牟田は、興味津々と行った顔で、早々試合をしろと急かす。
 十分後、八祖島と、和木田が準備運動を終えて、道場中央に立ち対峙していた。
 和木田は、京都府の出身で、この年24歳、15の頃よりこの道場に通い、段位は6段、身長は179センチ、体重は81キロと中々の体格をしている。
 八祖島は、軽く柔軟をして、和木田の実力の程を、まづ外見で推し量る。和木田は、フットワークは軽そうで、高度を捉える上段回し蹴りに要注意だと、大牟田に教えられる。
 二人は、中央で対峙し、互いに礼をし、立会人の合図の下試合が始まった。
 「ツァーィ」、和木田は、八祖島の右脇腹に、中段突きを、入れる。八祖島は、和木田の腹目掛けて、蹴りを放つ。八祖島の蹴りは見事外され、和木田は、ニコリと笑う。
 「笑ってんじゃねーぞ」
 八祖島は、和木田の首筋へ、上段回し蹴りに行った時、和木田は回転後ろ回し蹴りを、八祖島の脇腹に連打して、入れる。
 八祖島は、たじろぎ、和木田の、速攻を受けて、同情の羽目板に、追い込まれる。
 和木田は、次に、飛び上がり、八祖島の肩口へ、えんぴ、、肘打ちを入れてくる。八祖島は咄嗟にこれを避けて、右の正拳を、和木田の鼻っ柱に入れる。和木田は、悶絶し床に血を吐きながら道場生に、担がれて退場していく。
 大牟田は、大いに喜んだ。何せあの和木田に、15人挑戦させて、誰一人も勝てた事が無かった。八祖島は、道場内の、空気が殺気立ってるのを感じ、大牟田と横尾を連れて、道場から辞した。
 その頃、野中正男の元へ、一通の連絡が入った。公安生活安全課、元安刑事からの、報告で有る。元安は、野中に密かに買収されてい、公安の情報を、逐一報告していた。
 電話口で、野中は、元安の情報で有る八祖島が、一夜会に入った経過を聞いて、一安心した。元安は今日の夜八時に、GOYOO中目黒支社に立ち寄って良いか、野中に聞く。
 「来ても良いが、一体何の用だ?、八時じゃ無く九時にしてくれ」
 野中は言って電話を切る。夜の訪れと共に、中目黒には珍しい、ミミズクが、住宅街に有る電柱の上に乗り、鳴いていた。元安は、ミミズクの鳴き声に、怯え、電柱の下を通る時、小腰を屈めて通り抜けた。
 中目黒駅から歩いて十分程の、GOYOO中目黒支社のビルの前で元安は、電柱の陰に隠れて、セーラムを箱から取り出して、一息付ける。タバコの紫煙を吸いながら、体が何だか溶ける感覚に囚われて、鼻から大量に煙を吐く。
 元安は、GOYOOの専務役員室にいた。
 応接用ソファーに座り、大股を広げて、野中の秘書が汲んでくれた、キリマンジャロコーヒーを、一気に半分飲み干して、セーラムを、胸ポケットから取り出し、大きく吸いながら火を点ける。5分ほど待たされて、野中は執務机から離れて、元安の前に座る。
 「あーねぇー、野中さん、最近女が出来たんだ、今の給料じゃ安すぎるから、300万ばかり欲しいのよ、なぁ野中ちゃん」
 野中は、その言葉を無視してマルボロを一本取りだして火を点ける。
「なぁ野中さん、アンタの女関係バレるとすごーくまずいんじゃない、ホラ、この間結婚した、AKG42のサナエとの子供、アンタの子じゃないかってもっぱらの噂だよ」
 野中は、ニヤリと笑い言い切った。
 「あーあれは俺の子さ、そんな事バラされても痛くも痒くも無い」
 元安は、特殊警察携帯を出して、メモ帳を開きファイルを見る。
 「あっと、また思い出した、安部美久男、アレの娘、浮気相手アンタだってな、証拠の写真も此処にあんだよ」
 元安は、携帯の写真ファイルから、野中が、安部の娘と、ホテルに入っていく写真を見せてせせら笑う。
 「幾らだっけ?、300万か、今から用意出来ないから、明日の十時にアンタの口座に入金しておいてやろう」
 「へへへ、了解、このファイルまだネットに晒してないから、安心してな、じゃ帰ります、ヌハハハハ」
 元安は高笑いしながら、GOYOO中目黒支社から出て行った。
 深夜帯に入って居た。この夜、元安は、飲み屋を4軒ハシゴして、脇に女が引っ付いている。女は白いワンピースを着て、クリーム色のカーディガンを羽織り、元安に抱かれながら、新宿の一丁目から二丁目に掛けての酒場を練り歩く。5件目のバーに元安と女は入って行った。それをソッと、遠くから横水一也が見つめていた。横水は、静かにそしてしっかりとした足取りで、元安の入ったバー【イエロウ】に後から入って行く。バー、イエロウは、カウンターバーで有り、12席ほどのカウンターに女と元安を見出す。横水は、2つ隣のカウンター席に座り、バーボンをオンザ・ロックで頼む。
 「あのなぁ、美奈子、俺の強さ知らねーのか、アンナ、よれよれに負けるわけ無いだろう」
 時間は、十時になり、店の電灯が更に薄暗くなり、半分陰になっている横水の顔が笑う。
 「えーでも、その人専務でしょ、300万円何て本当に出すのかしらぁ?」
 美奈子と呼ばれた女は、年の頃は、二十五歳くらいに見えて、何処か派手な顔立ちに、赤い口紅がよく似合っていた。
 「300万、あのオヤジに出して貰ったら、次は沖縄に泳ぎに行こうぜ」
 「うそー、メッチャ嬉しいーん」
 横水は、初夏の旬の料理を出してくれと、言って、3000円ばかりバーテンに渡す。
 「じゃぁ、鰹のタタキ、レモン汁で食べると美味しいですよ」
 何時しか、バーテンダーと仲良くなり、横水はチラリと元安の顔を覗き見る。元安は、女のうなじを舐めて、下半身を触っていた。横水の存在など無い様な物と、思っているのか。
 「あん、ふん、元安~ん、次何処行く?」
 「次は、ホテルでお楽しみしようぜ」
 元安は、ウヰスキーの水割りを、一気に飲み干し、女は、赤いカクテルで酔っ払い、二人は30分後、会計を済ませて出て行った。
 横水も1分遅れて出て行く。元安は五百メートル向こうに、女と一緒に歩いているのを横水は見つけて、早足で近付いて行く。
 元安は、千鳥足で中野方面へ向かっていた。途中、チンピラ風のサラリーマンヤクザと、行き交い、3分ほど会話して、サッと何かを受け取り、万札を渡して、早足に歩き去る。新宿を少し出た場所に、安そうな連れ込みホテルを、見出して、元安は中へ入ろうとした時、誰かに肩を掴まれて、元安は「ギョッ」とした顔で後を振り向く。
 「何ですか?」
 元安が尋ねると、横水はホテルの脇の、路地へ元安を引き摺り込む。女は酔っ払ってホテルの入り口付近にへたり込む。鼾を掻き始めた。
 「オイ、俺を誰だと思ってんだ、俺を殴ったら、桜の大門が、黙っちゃいないぜ」
 元安は、懐から、警察の身分証明書を出して横水の鼻先にチラつかせる。
 その時、横水は、元安の襟首を掴み、足払いを掛けて、路上に転がした。
 「オイ、へなちょこ刑事、悔しかったら立ち上がって掛かって来いよ」
 元安は、脇の下から、拳銃を取りだそうとして、横水は素早く動き、その右腕に、前蹴りを入れる。取り出した、ポリス用リボルバーは、3メートル程向こうに吹き飛び、横水は、下段回し蹴りで、へたり込んでいる元安の首筋に蹴りを入れる。
 「うげ~うげ~うげ~」
 元安は、嘔吐して横水は言った。
 「オイ、へなちょこ、GOYOO社には二度と出入りするな、ホラッ」
 300万円入った封筒を横水は投げて元安の足下へ落ちる。横水を次に見たのは、300メートル程先の路上に、その人の影を見た。
 家々の軒に、盆栽が植わっている。飲食店の玄関口に、打ち水がなされてい、いよいよ初夏の到来と言った季節だった。
 この日の、予想最高気温は、32℃、5月中旬だというのに、気狂いの天気で有った。
 朝5時半に、八祖島はベッドハウス【ひまわり】で、目が覚めた。仕切りの付いている、自分の簡易ベッドで、全裸になり、濡れた手拭いで、体を拭う。簡易ベッドの前を一人の外国人旅行客、イギリス人の、24歳になる、ベニールと言う女がカーテンの隙間から垣間見える、八祖島のその逞しい筋肉を見て生唾を飲み込む。
 ベニールは、4日ほど前、バックパック一個で、このベッドハウスに泊まりに来て、東京の見物がしたいと語っていた。因みに、そのベッドは、時田念一が、山梨県のリニアモーターカーの、敷設現場へ行き、調度空いていた所、ベニーリが、入って来たので有った。
八祖島は、そんなペニーリに気付かず、全裸のまま、ベッドの脇で柔軟体操をしている。ベニールは、軽く咳をして、声を掛けてきた。日本語は、片言しか話せず、英語の出来る八祖島に、語り掛ける。
 「ヤソジマ、オハヨウ」
 八祖島は、柔軟を止めずに、股割りの態勢で、ベニーリに答える。
 朝の遅いこのベッドハウスの住人は、皆眠ってい、八祖島とベニーリの二人だけの時間で有る。
 「何だ、ベニーリ。オハヨウ、今日は何処へ行くんだい?」
 「ジェネラルトーゴーの、墓参りに、府中の多磨霊園に・・・・・・、私の曾爺さんが、トーゴーのフレンドだったの」
 「そうか、気を付けて行ってくれ」
 八祖島の、最大勃起したペニスを、ペニーリは、カーテンの隙間から凝視して、フラリと八祖島のベッド脇に、入り込む。
 八祖島は、朝立ちしているペニスを、隠そうともせずに、堂々たる格好で、ペニーリの目を見る。ペニーリは八祖島のペニスに軽く触り、徐にしゃがみ、八祖島のモノをフェラチオする。
 八祖島は、強烈なバキュームで、精液を吸われ、ペニーリの頭を撫でてやる。
 「欲しいのか、朝だから声を上げずに、我慢してくれるなら、少しだけ挿入しても良い」
 ペニーリは、履いていたスラックスを脱ぎ、パンティーを引き下ろし、八祖島は、ペニーリの割れ目にそっと手を触れる。
 「OH、ラブジュースが、溢れてきたわ、ミーファックナウ」
 ベッドに、ペニーリは寝て、大股を開き、八祖島を迎え入れる準備は出来ていた。
 八祖島は、ペニーリのヴァギナ目掛けて腰を捻りながら挿入した。
 「OHー」
 ペニーリは思わず声を上げて、口にハンカチを咬み、八祖島のピストン運動を加えられた。ブラウンの頭髪を振り乱し、ペニーリは、八祖島のペニスに翻弄されていた。5分ほどで八祖島は、イキ、ペニーリは大量に小水を迸らせる。
 八祖島は30分後、浅草1丁目の、一夜会・労働斡旋所の前に立つ。路上や、所内には、労働者が溢れ出していて、番号札が配られていた。件の女、美世とその友人達は、同じバスに乗るため、番号札を、他の労働者と取り替えて、並び順にしていた。
 八祖島は、斡旋所の中へ入り、此処の所長、新間という男に声を掛けた。
 「所長、少々遅れまして済みません」
 新間は、朝の喧噪の中、札配りを終え、八祖島の方へ向き直り、狭いから一旦外へ出てくれと言う。
 新間も、事務所の外へ出て、八祖島にバスのキーを渡す。
 「いやぁ、八祖島さん、アンタがスタッフになるとは夢にも思わなかったよ、本日から宜しくな、バスは2号車の運転をしてくれ、行き先は、手配師の佐伯に聞くといいや」
 手配師の佐伯は、忙しなく動き、労働者を送り出す、マイクロバスの方へ歩いて行く。
 八祖島は、のっそりとして、ゆっくり送迎バス2号車の、コクピットに座る。
 「あー、八祖島さん2号車ね、今日は埼玉の行田に行ってくんない、地図はコレ、ナビにインプットして、走らせてくれ」
 佐伯は、懐から、ショートホープを出して一吹かし、しながら言う。このバスの現場の世話をする監督は、大建吉美組の社員、長谷川という男で有る。長谷川は、列に並んでいる労働者達を、睨み付けて、番号札を見せて貰い、一人一人バスの中へ入れていく。
 件の、女4人組も八祖島のバスの中へ入ってきて、美世がバスの最前列に座る。
 このバスは、番号札、21番~30番までだと八祖島は知っていた。
 マイクロバスに、労働者10人と、現場監督一人が乗り込み、埼玉県の行田のマンションの現場に向け発進していく。本日の現場は、新築の建設現場で、他の業者も入っているので、喧嘩騒ぎにならない様、八祖島を付けたのだと長谷川に聞き知った。
 バスは東北自動車道に乗り、加須で降りる。後は下道を使い、スイスイと、最近渋滞の少なくなってきた、首都圏の道を行く。
 2時間30分を掛けて、行田の新築マンションの、土が山盛りになっている、敷地へとマイクロバスを突っ込ます。
 八祖島は、イグニッションをオフにして、ドライブをPレンジに入れて、サイドブレーキを踏み、コクピットから降りる。
 本日は、外壁吹き付け工事と、ようじょう張りで有る。ようじょう、とは、吹き付けの際外部に、塗料が散布されない為と、外部からの埃が塗り立ての塗膜に付着しない様にする為の、マスキングで有る。主に特大のビニールを貼り外壁を保護するのが目的で有る。
 一夜会一行10人は、ラジオ体操をし、10分の休憩を、していた。八祖島は、この現場の監督、神能建設の社員、水上広と言う男に挨拶するため、長谷川と一緒に現場事務所に赴く。
 水上広は、この年36歳とまだ若い。
 八祖島と、長谷川は、声を揃えて、挨拶する。水上は、事務所内で、3人のヘルメットを被った男達と打ち合わせのようなことをしてい、二人の声を聞いて、はっとなり、振り向く。
 「お早う御座います、一夜会の人達は今日は何人で?」
 長谷川は、本日の、手配した人員の名簿を、水上に渡して人員の配備について相談する。
 「10人じゃ、チョット多過ぎるから、まぁ良いや、他の人達、小松さんの所手伝わせるから」
 小松とは、小松組合と言う、人材派遣業者で、一夜会とは違い、NPO法人では無く、株式会社小松組合と言う、神能建設の下請け業者なのは、一夜会と変わりない。
 八祖島は、バスに戻り、エコーの箱に入った、ラークマイルドを一本出して、火を付ける。外では、現場監督の長谷川が、作業員の仕事の分担をしていた。
 「では、3人は上に上がって、三階四階の、北側を7人でやってくれ」
 小一時間が過ぎた。上階に上がった3人は、何やら防水屋と揉め出した。
 八祖島と、長谷川は、上階へ上がり、揉めている3人と、防水屋の話を聞く事にした。
 「だってよぉ、コイツ等俺達のようじょうが、邪魔だって、ひっちゃぶくだ、許せんよ」
 一夜会の、外場と言う男が文句を言う。
 「邪魔は、邪魔で、こんな場所にようじょう張るんじゃねぇーよ」
 防水職人の、布谷と言う50歳くらいの男が言う。長谷川は、最初から喧嘩腰で、布谷の襟首を掴み怒鳴る。
 「オイ、手前等、防水屋風情が、デカイ口叩くんじゃねえよ、文句あんだったら、現監の水上さんの前行って言って見ろよコラ」
 防水職人の男は、足場から降りて屋上に昇る。
 「何言ってやがる、打ちのめすぞこの馬鹿野郎」
 布谷は、長谷川に殴り掛かる。八祖島が見ても、シャープで切れの良いパンチで舌を巻いた。長谷川は吹き飛び、その場でKOされた。八祖島は、どうにか二人を宥めて、作業再開するように3人組に言った。
 「チッ、アンタの顔に免じて今日は帰ってやるが、現場で粋がるじゃねーぞ長谷川」
 昼時が来た。4人組の女子達とコンビニまで歩いて買い物に行った。
 八祖島は、昼の弁当を買い、アイスクリーム3個買い求めて、美世に笑われた。
 「八祖島さんって、甘党なの?アイス3つも食べるんだ、アハハハ」
 一ヶ月が早過ぎ様としていた。八祖島は、一夜会労働斡旋所の、所長代理の肩書きが付いた。7月に入り、気温は更に上がり、連日日光がアスファルトを焼いて、八祖島は、3日も空けず銭湯に通っていた。汗が噴き出る蒸し暑いベッドハウスの空間に、蚊と蠅が飛び交っていた。2日に一度、八祖島は、江東区亀戸に有る、NPO法人一夜会のオフィスの有る東行ビルディングに、赴いていた。
 本日は、浅草の斡旋所から人員名簿を、持ってタクシーで行った。タクシーの運転手は、現場に着くと、メーターを上げて、料金を請求した。3千2百円を払い、外へ出ようとすると、運転手は、右手を出して、チップをせがむ。この運転手は、日本人じゃ無くインド系だと八祖島は顔をマジマジと見て看破した。
「何だチップだって、日本じゃそんな風習はない出直してきな」
 インド系の男は、不貞腐れた顔で、後部ドアーを開けてやり八祖島を追い出す様にタクシーから降ろした。
 八祖島は、エレベーターに乗り込み、二階の201号室のドアーの前に立つ。
 事務所内に入ると、一夜会・会長、大牟田定次が、八祖島を見つけて声を掛けてくる。
 「ご苦労様、八祖島君、今日は君に会わせたい人が居るんだ、会長室で待っている、中へ一緒に行こう」
 二人は、会長室へ入ると、来客用のソファーに、一人の痩身の中年の男が座っている。
 顔はサングラスで半分隠されているが、頬に傷が有るのが特徴的で、黒いスーツを着、何処か凄みの有る雰囲気を醸し出していた。
 「この方は、大建吉美組の会長・米沢大鉄先生だ、これは、八祖島君と言って、仕事の差配をして貰っている男です」
 米沢大鉄は、顔を上げて、八祖島に握手を求めてきた。八祖島は、恐縮した振りをし、握手に応じた。米沢は、八祖島に用があるらしかった。
 「流石に、ガッシリとして、良い体格をしているな、君は確か空手を使うと言ったね?」
 大鉄は、ブランデーの入ったグラスに一口口を付けて、グイと飲む。顔が少し赤らいでいるのは、昼間から飲酒を日常的にしているせいだと八祖島は思う。
 「ハイ、空手4段です・・・」
 「まぁ段位など、どうでも良い、君が喧嘩に強いと聞いて、是非君にして貰いたい事が有って名、今日は一緒に来てくれるか?」
 米沢大鉄は、有無を言わさぬ迫力を声音に乗せて、大声で言う。その声を聞いて、大牟田は、身の縮む思いがして、肩をすくめる。
 米沢大鉄この年58歳。元京都の博徒団体、米沢大鉄一家の10代目で有った。嘗ては、京洛に300名を超す配下が居、その権勢は、政・財・官、に鳴り響き、巨大な米沢大鉄一家として、存在していた。
 しかし、5年前、米沢大鉄の子分3名が、府会議員、宮越育郎と、リゾート施設誘致の件で、もめ事になり、3人の子分は、宮越の身柄を浚って、山の中で射殺し、死体を遺棄してきた事件で、危機感を持った京都府議会は、翌年から【京洛の地に於いて、ヤクザは生存しては行けない】と言う条例を施行し、米沢大鉄一家は解散の憂き目を見た。
 米沢大鉄は、子分数十人を連れて、兼ねてから親交の有った、大建吉美組の社長、仁政正也を、頼り吉美組の会長職に収まった。
 そんな大鉄も年には勝てなくなり、最近は身の回りのボディーガードを、多く配置し、その中で一番恐ろしいのは、鉄砲矢代と呼ばれる、拳銃使いであると、八祖島は公安のファイルで見たのを、思い出した。
 30分程、大鉄の酒のお供として、八祖島は、会長室に居、大鉄が大牟田からぶ厚い封筒を受け取り、帰る事になった。
 「じゃぁ八祖島君、一緒に来てくれたまへ」
 米沢大鉄は、先に歩き、エレベーターで、地階の駐車場へ急ぐ。
 地階駐車スペースには、アウディの新型のクワトロが、停まっており、右座席の運転席から顔を出しているのが宮本と、八祖島は見てそれと分かる。大鉄の用心棒件、運転手の男が出て来て後部ドアーを開ける。
 「おう、宮本、待たせたのう、次は赤坂に行ってくれ」
 「ハッ」、大鉄の用心棒、宮本は、八祖島の顔を見て少し険しい顔をして睨んだ。
 車は、東行ビルから滑り出して、20分後、赤坂の料亭・みのや・と言う店の駐車場に入る。みのや・の駐車場には、高級外国車、列線を作る戦闘機の様に停まってい、そのどの車の脇にも、スーツを着たサラリーマン風の男達が、立って周囲を見ていた。
 アウディが着くと、皆一列に並び、大鉄の車の後部ドアーを、一人の男が開けてやり、八祖島が先に出て米沢大鉄がそれに続く。
 「おやっさん、ご苦労様ですや」
 どうやら、駐車場に居た連中は、大鉄の子分衆で有るらしい。ザッと見て、十五人は居ようか。大鉄は、ドアーを開けた子分に、チップとして、5万円ほどやり、宮本も車から出て来て小腰を屈める。
 料亭から、番頭が3人程、人を連れて来て、大鉄の持つ大きな鞄を持って先に中へ入る。
 「いらっしゃいませ、親分さん、中でもう酒宴が始まってます、中へどうぞ」
 「ウム、女将、今日もセクシーだよ」
 大鉄は、言って、女将の胸元に手を差し入れる。女将の胸元に、5万ほどの金が挟まれていた。
 中へ案内されて、八祖島は廊下へ控えさせられる。
 「コレは米沢のおやっさん、先にやってまっせ、で、そこの三下は誰ですねん?」
 米沢大鉄は、ザッと30人程、居並ぶ極道者の中へ入り、一番上座の床の間を背負い座る。
 「ウム、一夜会から、連れて来た、八祖島ちゅう、男やねん、皆、仲良うしてやってぇな」
 大鉄の隣に座る、色が黒く、細身で長身の男が八祖島を見て言った。
 「お前さんが八祖島か、俺は吉美組の社長、仁政正也だ、何時も現場の差配が上手って、佐伯から聞いてるぞ、どうだ、一献やるからこっち来て飲んで行け」
 「なんや、社長の知り合いか、じゃあ中へ入って飲んで下さい」
 八祖島は、上座の仁政の前に行き、仁政は水で盃を洗い、ハンカチで拭い、徳利から酒を注ぐ。八祖島は、一礼して、盃を受け取り、日本酒を一気に煽り飲む。
 「ええか、八祖島はん、リニアの現場行っても外部には一言も漏らしたらあかんぞ」
 横で見ていた、米沢大鉄が八祖島に釘を刺す。八祖島は黙って頷き、それとなく周囲に目をやる。良く知った顔が何人か居る。吉美組副社長、美濃部虎吉、常務、今川一樹、どれも米沢大鉄一家を構成していた親分衆で有ると、八祖島は知っていた。
 八祖島は、仁政に一礼して、下座の方の空いている席に座らされる。3時間ばかり、酒宴に付き合わされ、米沢大鉄と八祖島は、午後6時半頃席を立って帰った。
 米沢大鉄の乗る、アウディは、環状7号線を走り北千住の住宅街へと入って行った。
 午後7時半を少し回った所だ。北千住の外れに有る小さな畑の隣に、デンと大きなマンションが、建っている。マンションの駐車場にアウディは入っていき、駐車№3に入る。
 「ここで、一旦降りて貰おう、ワシの女が住んでいるんだ、一緒に飯でも食って行かんか?」
 八祖島は、遠慮無くマンションに寄っていく事にした。
 マンションの最上階601号室に、米沢大鉄の愛人、三吉幸子は、住んでいた。幸子はこの年23歳、大鉄との間に子が一人居る。インターフォーンを鳴らすと、中から、少女の様にあどけない、三吉幸子が赤子を抱いて、出てくる。八祖島を見ても、眉一つ動かさないで、平然としている。大鉄は、中へ入る前に、幸子にディープキスをして、赤子を自ら抱いて、中へ入る。中へ入ると、八畳ほどの居間が有り、クーラーが、良く効いていた。
 八祖島は、幸子に勧められてソファーに座る。
 「おーヨチヨチ、星羅ちゃん、良い子にしてたかな?ミルクちゃんとやってんのか幸子」
 「うん、ベビーシッターの四谷さんが、帰る前にちゃんと上げてるわよ」
 「お前夜学にちゃんと通ってるのか?」
 「うっさいわね、ちゃんと行ってるわよ」
 三吉幸子は、中卒で、この春から夜間高校・武蔵三高と言う、上野に有る高校に通っていた。その間子供は、ベビーシッターに預けているのが最近の生活で有った。
 「まぁ良い、じゃ、ビールで乾杯するか、幸子、この客は八祖島さんと言って会社の人だ、ビールを持って来てくれ」
 米沢大鉄は、TVでやっているお笑い番組を見て、「ケッ」と喉を鳴らし、リモコンで番組を変える。巨人VS広島の野球中継に変える。
 「八祖島君は野球何処のファンだね?」
 「ハァ~、ヤクルトです済みません」
 幸子はビールを、大瓶で5本持って来て、大鉄が、食器棚からグラスと栓抜きを取り出して、八祖島と自分のグラスに、ビールを注ぐ。二人は乾杯し、大鉄はバッグから、一枚のコピー用紙、A4大の用紙を出して、八祖島の前に広げる。
 A4大のコピー用紙には、マンション建設反対の、キャッチコピーが、でかでかと書いて有り、内容を八祖島が読むと、相模湖の畔に、巨大マンションの建設予定で、堀を20カ所埋めての大工事と書いて有った。その反対運動に、地元のNPO、原生林保存会そして、東京のNGO市民グリーンと言う、住民運動団体が入って居た。
 「で、このマンションの建設反対がどうしたのですか会長?」
 米沢は、渋面を作り、タバコに火を点ける。
 「この工事は、神能の受け持ちで、我が大建吉美組も、基礎工事から入って居るんだよ、で、この男とこの女」
 米沢大鉄は、2枚の写真を出して、八祖島に見せる。中年の男、元プロレスラー・貴島、とTVでお馴染みの弁護士先生の、高遠直子という女で有った。
 「この二人は良く知ってますがどうしたのですか?」
 「ウム、この二人、この反対運動で、全国でキャンペーンを打ち、神能会長の悩みの種なんだよ実に」
 米沢大鉄は、言う。この二人の内、プロレスラー貴島を、ストリートマッチで叩きのめして、格闘家としてのプライドをズタズタに切り裂いて欲しいと言う。
 その後に、高遠直子を、籠絡して欲しいとも言う。直子の場合は39歳で独身、男に飢えているから、好きに料理して良いと言う。
 「で、君のテストをする。幸子を抱いて、濡らさせる事が出来るか、後で試したいがどうだ」
 八祖島は。思わず大鉄の横に座っている、三吉幸子の顔を見る。目は死んでい、何を考えてるのか皆目見当が付かない、と言った顔をしていた。
 「この女は、不感症でな、ワシのモノでもイカせられないんだよ」
 米沢大鉄は、ズボンをパット脱ぎ、自らの一物を出して、三しごきする。その一物は、真珠が埋まっており、特大のペニスと言った感ありか、米沢のモノは大きかった。
 八祖島は、貴島と高遠の二人のプロフと行動を書いたメモ用紙を渡されて、酒をグイと煽る。
 深夜1時半になる、下で待機していた宮本が部屋へ上がってくる。大鉄の子分、銀平こと、山元銀平という男が入ってくる。
 そして、大建吉美組の社長、仁政が何時の間にか入って来ている。部屋が騒がしく、赤子が少しグズりだしてきた。
 計8人の男が部屋へ入ってきていた。
 「おやっさん、そろそろ・・・・・・」
 運転手の宮本が、デジタルムービーを持って、構えていた。八祖島はそんな事お構いなしで、タバコを吸い、全裸になる。八祖島のペニスはまだ起って無く、幸子もシャワーを浴び、全裸でベッドに横たわる。
 八祖島のペニスは幸子を見て、突如巨大化し、テラテラと赤く光っている。幸子は、ベッドに八祖島を誘い、ペニスを、甘握りして、舌の先で転がす。八祖島は、69の態勢で、幸子のヴァギナに口を付ける。何とも苦い味がして、八祖島は少し咽せた。
 「おし、カメラ回せ・・・・・・」
 大鉄の命令の下、宮本がカメラを回し出す。
 八祖島は、一向に濡れてこない幸子のヴァギナに手こずっていた。69の態勢を止め、正常位で幸子の体の彼方此方を、触ってみた。背中の真ん中の脇が、少しこっている様に思えて、手で揉んでやった。八祖島の揉み治療で幸子は、「ふぅ~」と息を漏らす。八祖島は執拗にペニスを恥丘に、擦り付けていると、少し潤み掛かって来たのを感じ、指でヴァギナ周辺を揉んでやる。
 「あっ」、思わず幸子から喘ぎ声が漏れた。
 「おっ、濡れてるぞ、八祖島入れて見ろ」
 米沢大鉄は叫び、八祖島のペニスは、元気を増して、〈チュルリ〉と、壺の中に引き込まれて行く。
 「あっ、あっ、ん、ん、」
 幸子は声を挙げてよがり声を上げた。
 「オー、信じられん」
 その場に居た一同は、目を丸くして、八祖島に貫かれている幸子を見る。何せ、この場に居る、どの男がしても、幸子は濡れずに、痛がっただけだと後に聞いた。
 「あーん、ひぃひぃ~いい~いいーもっと」
 幸子の声は段々高くなり、結合部分を大鉄が、アップで見ると、幸子の股から、ラブジュースが溢れていた。
 約15分、中で八祖島は、3回射精し、それでも衰えないペニスを、幸子は貪り食べる。終わった後、幸子は、グーグーと鼾を掻いて寝てしまった。
 八祖島は、幸子から離れて、エコーの箱に入って居る、ラークマイルドを一本取りだして、深く吸う。米沢大鉄以下一同は、八祖島を尊敬の目で見て、宮本は「兄貴」と呼ばせて貰いたいと言って聞かない。
 八祖島は、貴島〈きじま〉のことに思いを馳せた。
 一週間が経った、調布市の下石原に有る、倉庫プレジデント運輸の前で、八祖島は吉美組から借りた運転手、安本と二人で、セレナの4DW車の中から見張っていた。
 夜八時、中から貴島の運転する、ハイラックスサーフが出て来た。この時間になると、貴島は練習を終え、横浜の港北に有る自宅へ帰ると報告書に記載されていた。
 「兄貴、貴島の野郎今日は水曜日だから、六本木に繰り出しまっせ」
 安本は、セレナの4DW、日産の最新型を走らせて、甲州街道を東へ行く。
 貴島の乗った車は、40分後、六本木交差点脇のコインパーキングに入り、止める。貴島は今日は、不機嫌だった。一つ女を引っ掛けて、一発打てば、気分が良くなると、独り言を言いながら六本木の街を練り歩く。安本は、セレナを走らせて、何処かへ消えて行った。貴島は六本木3丁目の角のクラブへ、入って行った。八祖島はその後に続き入って行く。
 「オイ、ウヰスキー水割りをバケツ一杯くれい」
 八祖島は、店員が困っているのを、横でニヤニヤと見ながら貴島に語り掛ける。
 「プロレスラーの貴島さんですね、私アナタのファンでして、力士時代からの・・・」
 「あーそっう、今、プライベートタイム中なの、あっち行きなさい」
 八祖島は笑い、力士時代の10年前、当時横綱だった、極王山との一戦に付いて、話を聞きたいと言って、しつこく近付く。
 「アンタ、文屋か何か?煩くするとそのそっ首へし折るぜ」
 「へぇ、アンタの非力なプロレス技で俺の首を?アハハハ、じゃあ外でやって貰おうか?」
 貴島は、薄気味悪くなり、八祖島に言う。
 「アンタ正気か?、NWGPチャンプの俺に喧嘩売ってんの?」
 八祖島は、店内に居る客の迷惑になるから、早く表へ出ろと急かして、店の外へ出る。
 貴島は、八祖島の後から着いてきた。プロレスラーが素人に負ける訳がないと言った自信と信仰が、彼の油断を生んだ。
 八祖島は、店から出るなり後を振り向かず、裏拳を貴島の顔面へ入れる。貴島は、ヨロリとなり、鼻から血を流すが、それで貴島の導火線に火が点いた。貴島は前蹴りを入れて来た。八祖島は、懐に仕舞ってある、メリケンサックを嵌めて、戦闘態勢に入る。貴島は、足から血を吹いた。八祖島は、貴島の足を狙い執拗に蹴りを入れる。
 「ギャー」、貴島は雄叫びを上げて、八祖島に鋭いタックルで、組み付いてきた。八祖島は、2回転半して路上に転がる。貴島は、勢いに乗り、八祖島を踏み付けようと足を素早く上げて、ストンピングで踏み付けてきた。八祖島は、一撃貰い、口から血の胃液を吐く。3発目の蹴りが来た、八祖島は貴島の方へ転がり金的に、メリケンサックの付いた、右ナックルをお見舞いさせる。
 「ギャーギャー」
 もの凄い叫び声で、通行中の野次馬が、耳を押さえる。貴島は、泣きながら悶絶し、路上を転がる。八祖島は、貴島が気を失ったのを確認して、何時の間にかに路駐しているセレナに担いで行き、走り去る。警察が到着した時は跡形も無かった。
 セレナは、八王子の高尾山口の駅前で止まり、八祖島は車から、手錠で拘束している貴島を蹴り落とす。
 「ウ・・・一体何しにこんな所まで・・・」
 「今から、念書を作って貰う、お前のサイン一つでOKだ」
 その念書には、【二度とマンション工事には反対しません】と書いて有り、NPO法人原生林保存会及びNGO、市民グリーンに配られる筈で有った。
 貴島は、念書にサインして、立川の国立病院の前で下ろされて、セレナの4WD車は何処と無く去って行った。
 赤坂ニュープリズンホテルで、パーティーが有った。高遠直子は、主賓で、この2時間前、近くの講堂で、約三百名を集め、最近の自然破壊についての、講義をした所で有った。
 八祖島は、高級スーツに身を包み、赤いハンカチを、胸ポケットから垂らしていた。直子とは、一週間前、有料チャット【弁護士の夕食】と言うインターネットチャットで、3時間ほど親しく会話をした。直子は、インテリジェンスの有る楽しい会話を、八祖島として、一目惚れの様に会いたくなって、このパーティーに招待したので有った。目印は、胸ポケットから垂らしている、赤いハンカチであった。
 宴もたけなわになった、午後八時、立食パーティーのバイキング形式の食事になった。
 八祖島は、寿司バーで一杯やっていると、後から高遠直子が近づいて来る。直子は八祖島の隣に座ると顔を赤らめながら、声を掛けてきた。
 「あの、八祖島さんで?」
 八祖島は、直子の方に振り向き、ニコリと笑い、「はい」とバリトーンボイスで答えた。
 直子は、更に顔を朱に染めて八祖島の方へ撓垂れ掛かる。
 「今夜私暇なの、一緒に何処か温泉にでも行って、環境問題に付いてお話ししませんか?」
 「これは初対面にしては、とても大胆ですね、君と温泉で抱き合えるなんてとても光栄だよ」
 「まぁ・・・・・・」
 八祖島は、高遠直子のうなじに、息が掛かる程の距離で口を付けて囁く。
 直子は39歳の女としては、男関係が少なく、八祖島に初対面でゾッコンになり、八祖島の事を心底信用していた。
 パーティーの席上、主賓の高遠直子は忙しなく、来客者の所へ行ったり来たりしていた。女が一人、八祖島に接近してきた。
 「山本のり食うか?」
 女は、八祖島に公安の暗号を囁き、八祖島は女に見向きもしないで答える。
 「コテちゃん美味い・・・」
 女は、カエデ・サンタクルースだと、見向きもしないで八祖島は看破した。女は八祖島の方へ向き直り小声で言葉を交わす。
 「八祖島、一体何してるの?、米沢大鉄の仕事してるって、報告が入ってるけど何の仕事?」
 カエデは、赤いラメの入ったドレスを着て、胸元が開ける程の開襟率に男達の目は、釘付けになっていた。
 「神能から依頼された調査の一環何だ、まだ自由にさせて貰いたい」
 八祖島は、それだけ言うと、北欧のワインを飲み干して、代わりのバーボンを注ぎロックで飲み干す。
 午後11時、八祖島は約束していた、ニュープリズンホテルの駐車スペースで、高遠直子を、待ち構える。10分程すると、高遠直子が酔った顔で、八祖島に抱き付く。八祖島は、直子の唇に深くキッスして、直子はお抱え運転手のところに行き先に帰る様言う。八祖島は、メルセデスのAMG仕様のマシンに乗り、エンジンをレーシングさせて、Dレンジで目一杯アクセルを踏み、左足でブレーキを踏み、ロケットダッシュをして、ホテル・ニュープリズンの駐車場から出て行く。
 「何処行きます?」
 八祖島は、ラークマイルドのBOXを開けて一本フィリップをして、火を点ける。
 「草津に行きたい、私群馬県人なの、今夜は可愛がってね」
 八祖島は、国道から関越に乗り、200㎞でクルージングをし、3時間かけて群馬県・草津温泉に辿り着く。二人はモーテルに泊まり外を見る。草津の町並みを眺める。
 「私ビール飲む」
 高遠直子は、ホテルの備え付けの冷蔵庫から、キリンラガービールの大瓶を、出して栓を抜く。
 「なぁ、直子さん、思い出に俺の携帯でSEXを撮影して良いか?」
 「あ、ん、良いわよ、二人の将来に乾杯しましょう」
 高遠直子は、すっかり八祖島に心服して、抱かれるのが今か、今かと、期待に胸を膨らませていた。直子は12年、SEXしていない女だと八祖島の調べで分かっていた。
 八祖島は、直子の横に座り耳元で囁く。
 「君の瞳に乾杯だ、今夜はたっぷり可愛がってやるぜ」
 言うや、八祖島は、直子の唇を塞ぎ、パンティーの中へ手を差し入れる。充分濡れていた。陰毛が薄く、パイパンに近かった。八祖島は、前戯もなしに勃起したペニスを挿入する。腰を回転させ直子の膣内を良くかき混ぜる。夥しくラヴジュースが迸り、八祖島は、処女を抱いている様な錯覚に囚われる。
 二人は、上になったり下になったりして、SEXを楽しんだ。八祖島は、ぬめる様で居て、吸い付いてくる、直子の中身を堪能して、大量のザーメンを注入する。直子は、口から泡を吹き、三分ほど痙攣していた。
 直子は、3分ほど失神して、目が覚めると、八祖島は、ラークマイルドを吸って居た。
 「ねぇあなた、今度何時会ってくれるの?」
 「一つ話がある、君の活動内用を、インターネットで見たが、NGOの市民グリーンの幹部を辞めて貰いたいのだが?」
 「ねぇ、何で?私は本気で市民達の事を守りたいの、人助けが嫌いなの?」
 八祖島は、スマホを取り出して、着信履歴を見る。30件のメールやメッセージが入って居た。
 「嫌い何だよ、ああ言う組織的圧力団体が、俺の家の庭も改築の時、圧力を掛けられて工事を中止してるほどだ」
 「でも、とても良い人が多いのに?」
 直子は、シャワーを浴びる前にもう一回して欲しいとせがむ。八祖島は言った。
 「市民団体の幹部の嫁さん貰ったんじゃ、僕のパパに顔向けできない、辞める様にしてくれ」
 八祖島は、太股を直子に擦り寄せて囁く。
 「分かったわ、辞めるからもう一度頂戴・・・」
 八祖島は、もう一回戦して、果てる。もう精嚢の中身は空になってい、空砲を放つ。
 次の日、高遠直子は、八祖島の言いつけ通り、反対派の集まりから身を引いた。
 八祖島は、それっきり電話にも出ないし、自宅を訪ねて行ったら、只のサラリーマンの家で有った。直子は八祖島を探して気が狂って、半年後自殺した。
 神能建設の、リニアモーターカーの敷設現場への、人の買い入れが相変わらず、行われていた。吉美組が一人頭30万円で、リニアの現場に送り出し、巨利を貪ってるのは明白であった。NPO法人一夜会の勧誘により、労働者は支度金10万円を貰い、その派遣する労働者、一人30万円のキックバッグでリニア現場へと送り出していた。
 リニア現場から帰ってきた者はまだ一人も居ない。
 八祖島は、吉美組の会長、米沢大鉄から報酬の、400万円を貰い、吉美組の若衆達4人と、銀座の最高級レストラン【ニルス】と言う店へ入っていった。5人はサーロインステーキに、ロースハムカツを食べながら、歓談していた。
 「兄貴、流石ですね、俺尊敬しています、あの後反対派の市民団体は、解散して今は赤丸派の残党5人で、バリケートを守っているって。今日は祝いですね乾杯しましょう」
 5人がワインで一杯やっていると、痩せこけた、高級スーツを着た男が、向こうの席からゆっくりと此方へ歩いてきていた。
 元安刑事だ。元安は、拳銃のホルスターを、腰に吊り、得意そうな顔をして、チャラチャラと体に付けた装備を鳴らしながら近付いてくる。
 「よう、八祖島、景気良さそうだな、俺にも一杯奢ってくれよ」
 周りに居た、吉美組の若い衆は、スワッとなり、目付きが鋭くなり、元安を睨む。元安は、八祖島の懐からサッと近付き、ぶ厚い財布を取り出して、口笛を吹く。
 「何するんですか、アンタはたかりか?」
 元安は、財布の中身の札を取り出して、半分抜き内ポケットに仕舞う。
 「オイ、そこの三下、兄貴の金返せやい」
 「三下だと、これでも喰らいな」
 元安は、ホルスターから、ニューナンブリボルバーの、旧警察採用拳銃を抜き、チンピラの一人の頭を叩く。
 元安は、銃の威圧でチンピラ達を一発ずつ殴り付けて後ろを向く。
 「八祖島、裏切ったら処刑してやんよ、覚えておけ」
 八祖島と、4人組は、悔しがり、八祖島は。「気にするな」と皆を宥めて金が少ないので、深夜営業をしている、ラーメン屋で一杯やって帰った。
 翌日夕方、NPO法人一夜会の仕事が終わり、八祖島は休憩の為、外で一服付けていた。
 そこへ、元安刑事がやって来て、八祖島へ近付く。元安を知っている若衆の一人が、それとなく見ていると、八祖島がまたしても、財布の金を抜き取られている所であった。
 「都合10万か、ひぃー渋いね、お宅の会社ーアハハハハ」
 若衆の一人が、元安の後を着けて行く。元安は、喫茶店に入ろうと、自動ドアーを、潜り中へ入っていった。元安は、テーブルに座り、最近またブームになっている、旧レトロゲームの平安京エイリアンと言うゲームに腰を落ち着けて、30円入れてプレイしていた。
 若衆の一人、市元と言う男は、懐には入っている、短刀を鞘ごと抜き、元安の背後に回る。元安は、ゲームに夢中で後には気付かない。
 「オイ」
 若衆が、元安に声を掛けると、元安は振り向く。その首筋に短刀を突き入れて、血が店内に噴出する。元安は、一分程もがいて、手足をばたつかせて絶命する。
 「あんだって、刑事なんか刺したんだ?」
 取調室で、若衆の市元は悪びれずに言った。
 「兄貴の恩に報いるためです、あそこで奴を殺さなきゃ、兄貴が可哀想です・・・・・・」
 「公安刑事だって知らなかったのか、バカヤロウだなお前は・・・・・・」
 八月になっていた、世間は夏休み、お盆まで後一週間、野中正男は、暇を持て余して、埼玉県川越市の、ゴルフ場、埼北カントリークラブに来ていた。今日は接待のゴルフだが、お得意様の立松組谷建設の社長・保呂井信男の話を聞くためで有った。
 第一コースで保呂井は、パーを出して上機嫌で野中は、アンダーパーと出だしは良かった。コースを回る、傍ら、保呂井社長は野中に、ポツリポツリと話をし出す。
 「野中さん、小岩の新開発の現場で、大変な事になっているのですよ・・・・・・」
 「ホウ、小岩のショッピングモール建設の件ですね?」
 野中は、ダブルイーグルで回り、少し保呂井を、圧倒していた。
 「さっきの話の続き、小岩のモール建設現場に、他所の土建業者が雇った、右翼が毎日来て大変なんですよもう・・・ー」
 保呂井は、+5で回り、野中は-1で回っていた。保呂井は、尚も話を続けた。
 「その街宣右翼は、私どもが調べましたらね、神能建設が使っている自動車修理工場の、公儀会と言う団体だと知ったのです」
 野中は、話を聞いて、「ウム」と唸る。公儀会は、任侠右翼で、土建業を昔はしていた。1970年代の、暴力団追放運動で、その時ヤクザ渡世から足を洗い、現在の車の修理工場になった。
 公儀会の嫌がらせは1年以上続いていると言う。二人は午後二時、コースを回り終わり、二人でゲストハウスで、お茶の時間にする事にした。
 ケーキが運ばれてきて、保呂井は紅茶を一口飲む。
 「野中さんの所に頼みたい仕事って、公儀会の事なんですよ、お宅の横水さんを、貸してくれないかな?」
 「何で、横水なんですか?」
 野中は、グレーのサングラス越しに保呂井を見て、「フンッ」と鼻を鳴らした。
 Goyooさんの裏の仕事は、私は一応知ってますからね。横水さんのクラッシャー振りは、経済連で何人か知ってますから、時々その有士達で話題に上るんですよ」
 「では、報酬は幾ら頂けますかね?」
 「三千万と行きたい所だけど、成功報酬五千万円でどうですか?横水さんに一時我が社に来て貰って、借り受けたいだけですから」
 野中は、腹の中で、一人で五千万なら、二人付けた方が良いと思い、
 「もう一人、女を付けて良いですか?」
 「ハァ、良いですよ」
 保呂井は、秘書の金谷に携帯電話で連絡して、手付けの3000万円支払う事にした。
 「近日中に、Goyooの、野中さんの口座に振り込んでおきますよ」
 横水一也は、東京駅八重洲口にある、コインロッカーの、キィーを手渡されて、ロッカールームに赴く。コインロッカーを開くと、一つの油紙に包まれた、ナンブポリスリボルバーのショートバレルタイプが、入っていて、油紙の他に、小さな30㎝四方の、段ボール箱を見出す。段ボールを開けると、実包が50発入りの箱に入ってい、横水はニヤリと笑い、銃と実包を持って来た、ボストンバッグに仕舞う。その足で、日本橋にある、立松組谷建設に、タクシーで向かい、途中車を停めて貰い、ハンバーガーで昼食を摂る。日本橋にある、古い高層ビルの隙間を歩いていた。後から誰かに着けられてる気配を感じ、近くに在るビルの脇を、通り過ぎていく。その後から横水は、その影を追う。
 中肉中背の中年の男で有る。横水は、「チッ」と舌打ちしてその男に声を掛ける。
 「オイ、佐野警部追いかけっこは、止しましょうぜ」
 佐野警部は、公安2課の、やり手刑事で、その昔、テロリスト教団イーゴン神秘教に潜入した時、横水は、大いに助けられたのであった。
 その佐野は現在閑職に追いやられて公安部から干されていた。
 「横水さん、参ったなぁ~、何で分かったの?」
 「あんな足音立てての尾行じゃ直ぐ分かるでしょ、で生活安全課の用?」
 佐野は言った。2課の山城課長が、横水が拳銃を持って又殺人事件に発展するから、それを監視しろと。又、公儀会の会長、二谷英心を暴いて、殺さず生け捕りにしろと。
 「そんな事は知ったこっちゃない、二谷を捕らえたきゃ勝手にやるが良いさ」
 横水は言うと、立松組谷建設の有るオフィスビルに向かって歩き去る。
 日本橋の、中心部に在る、立松組谷建設のオフィスビルは、直ぐに分かった。デカデカと屋上に看板が出ていた。ビルの中へ入るとロビーになっており、建設重機のミニチュアがショーウィンドウに並んでい、端の方にソファーが有り、そこに一人の女が座って横水の来るのを今か今かと待ち構えていた。
 「横水さん、30分の遅刻、上の社長室で、保呂井社長がもう首を長くして待ってるわよ」
 この女、二宮色香と言って、Goyooの野中専務の秘書にして、密偵の役割もこなす、便利な女だと以前横水は、野中から聞いた事が有った。
 「すまん、ちょっとヤボ用が有ってな、それより色香ちゃん、昼飯食べたのか?」
 「まだよ、お腹すいちゃったけど、ダイエット中だから良いわ」
 二人は、早々12階に有る社長室に向かった。
 八祖島は、その健康で居て、豊満な乳房を揉みし抱き、口を付けて乳首を強烈にバキュームする。その女、美世は、口から唾液を垂らしながら大きな声で喘いでいた。
 「あんあん、いい、八祖島さん気持ち良い~」
 八祖島は、美世の唾液を舐め取り、糸が引く。八祖島と、美世は一体となり、十分ほど経っていた。美世は、八祖島の唇を求め、舌と舌とで唾液の交換をする。
 更に5分、八祖島は、精液を大量に放出し、美世の子宮内に注ぎ込む。
 美世と八祖島は、上野のモーテルで、愛を交したので有った。美世の旦那は、米沢大鉄一家と、仲の悪い、公儀会の若頭補佐で、美世とは籍を入れてないが同じ屋根の下暮らしていた。
 終わった後、美世は放心状態になり、八祖島は、ラークマイルドに火を点けて、美世に咥えさせた。美世は意識を取り戻し八祖島に甘える。
 「ねぇ、美世、とっても良かった、もうこんな関係嫌、結婚して」
 美世は、八祖島のペニスを、甘握りをして、また大きくなって行くのに驚いて、喜びの声を上げた。
 「しかし、美世ちゃん君の旦那は、公儀会の若頭補佐だろ、今、事を構えて良いのか?」
 美世は、八祖島の頬に軽くキッスをして、
 「早くあんな野郎、追い出してよ、私、ああ言うの嫌い、毎日働かなくて家でゴロゴロして、夜になるとどっか出掛けるだけの男」
 八祖島は服を着けて、ラヴホテルから、一人出て行った。十分ほどしてから家路についた。
 美世は、この年24歳で、建築関係の専門学校を出、神能建設の事務として2年働いた。当時付き合っていた彼が、金に困り、公儀会の佐藤と言う男から、三千万円の借金をし、結婚を前提に付き合っていた美世は、自ら志願して、現場作業員として、現場に出る様になった。
 実入りは良かったが、とても金利が高い借金返済には追いつかず、ある夜、当時同棲していた男に、美世は公儀会の下島と言う、30過ぎのヤクザに、売られた。美世は、下島に散々犯され、慰み者にされ、下島の女として、飼われる様にして、同棲していた。美世の実入りは、月収35万円、神能の社員を辞めて、仲間の友人達と作った、職人会社の取締役をしていた。社員は5人、皆、女の子であった。
 八祖島は、次の日、一夜会労働斡旋所の、所長と話をしていた。夕刻近い、労働者は皆帰ってきて、本日の日給を取るために、行列を作り、並んでいた。そんな時、一台のBMWが、一夜会の前に止まる。八祖島は、「そら来たか」と思い、無視を決め込み、所長と話を続けて居た。脂ぎった色白の男が出て来て、八祖島を、睨み付けている。
 「オイ、美世はどこでぇい、八祖島とか言う三下はどいつだ?」
 その男、下島は、労働者達に声を掛けて大声で虚勢を張る。
 「俺が八祖島だが、何か用か?」
 下島は、一瞬八祖島の眼光に怯み。2歩ばかり後退した。八祖島は、「フン」と鼻で笑い下島の近くへ寄る。
 近くで、金の受け渡しをしていた佐伯が、寄ってきて八祖島と一緒に、下島に近寄っていく。
 「あ、あの~美世はもう帰ったのかな?、八祖島さんて、アンタ?」
 八祖島は、ラークマイルドに火を点けて、この猪豚野郎と、心の中で罵り、下島に言った。
 「オイ、余りウチの美世を呼び捨てにすんじゃねぇーぞ、所でアンタ何者?」
 下島は、皆の注目を浴び、中にはナイフを出して睨む者も居た。
 「オ、オゥ、俺は公儀会の下島ってモンだ、アンタが八祖島か、美世と出来てるんだってな、人の女をたぶらかして、キッチリ落とし前を付けさせてやるぜ、この野郎」
 八祖島は、下島の目を射る様にして睨み、一発軽くローキックを入れてみた。
下島はよろけて、路上に転倒して、労働者達の笑い物にされた。何時の間にか、美世が八祖島の背後に立ってい、転んで痛がる下島に言った。
 「下島、私この八祖島さんと結婚するの、私のマンション早く出て行って頂戴、じゃなきゃ私、八祖島さんのところに行くわ」
 「え、美世、見捨てないでくれ~」
 その夜、美世は、八祖島のベッドハウス【ひまわり】に来て、一緒に寝た。
 八月の太陽がサンサンと、降り注ぐ。小岩のショッピングモール建設現場に、今日も又、右翼系ヤクザ・公儀会の街宣車が来て、工事の妨害をしに来ていた。
 【我らの街を~、その汚い金権まみれのまみれの、手で、利己主義な、開発開発で~自然を破壊する、立松組谷建設に正義の鉄槌を加える~】
 現場監督や、作業員が出て来て、現場の外を取り巻く、街宣車に、ホースで水を掻ける。
 街宣車は、音楽を大ボリュームで掛け始めて、又もや水を掛けられる。
 反対住民運動の市民達も、シュプレヒコールを、送り、現場周辺は騒然となる。
 「ショッピングモール建設反対~建設反対」
 遠巻きに見ていた、江戸川警察は、時々サイレンをパトカーで鳴らして、反対住民に解散する様注意する。
 横水一也は、二宮色香と共に、反対運動の、住民達の後方で、特殊警察携帯で、動画を撮って見ていた。
 「ねぇ横水さん、これどうしたら収まるのかしら?」
 横水は、ペットボトルのポカリスウェッドを、一気に飲み干して、額の汗を拭う。
 「うーん、デモ潰しは俺得意じゃ無いな」
 その日の夕刻、横水と、二宮は、日本橋に有る、立松組谷建設の本社ビルに帰った。横水は、帰社するなり、社長の保呂井と、会長の合力松太郎に、面会を求めた。
 社長の、保呂井は外出中で、在社して居なかったが、折しも出社していた合力には会う事が出来た。
 最上階の、会長室へ二人は通される。二宮色香は、会長に手土産のモナカのギフトセットを手渡す。会長室は、殺風景で、日本刀の大小が、2振り刀掛けに飾ってあり、応接用ソファーと、執務机が置いてあるだけで有った。会長は、タバコや葉巻は吸わず、酒も程々しか飲めないと言った、人種で、経済界では堅物として、有名で有った。
 横水と、二宮がソファーに座ると、会長合力は、にこやかにコーヒーと、ショートケーキを秘書に出させて、2人に勧める。
 「さて、横水さん、何の用かな?」
 合力は、出されたケーキとコーヒーそして。色香から土産で貰ったモナカを出して、クチャクチャと入れ歯を鳴らして食べる。
 「コレは美味、浅草の犬屋のモナカですね」
 「ハイ、会長がそこのファンだと聞いてまして・・・・・・」
 横水は、反対運動そして、街宣右翼の公儀会の妨害活動について語った。会長は、一々、「ふむ」と唸り、目の光が鋭くなる。
 「あそこは、立島屋のショッピングモール予定地として、ウチが正当な値段で土地を買った筈だから、住民に文句言われる筋合いは無いと思うがね・・・・・・」
 「住民運動の黒幕は、元連盟赤軍の、革新派の東堂と言う男だと、ウチの野中の調べで分かってますよ」
 「ホウ、その東堂と言う男は、何の商売をしてるのかね?」
 「ハイ、神田の神保町の出版社で、フリーライターをしてるとか・・・・・・」
 横水は、一気に話、アイスコーヒーを、ガブリと一気に飲み干す。
 「これ、南瀬さん、横水さんにコーヒーのおかわり入れてあげなさい」
 「で、その革新派と、つるんでいるのが、公儀会、若頭の、川島直次と言う、52歳になる男です、住民反対運動を指揮しているのが、地元商店街の、肉屋の、松川と言う男で、幹部はまだ数人居ます」
 会長合力は、「うーむ」と唸り、
 「どうすればその者達を、説得できますか?」
 横水は、アイスコーヒーを飲み、今日はヤケに喉が渇く日だなっと思い、続けて言う。
 「まず、住民運動を潰すのに、銭が必要です、反対住民に金をばらまいて、松川と革新派を、籠絡する事が肝心です、つまり買収を掛けるのがてっとり早いかと」
 合力会長は、会長権限で、約六千万円用意すると言って、横水には、期待してるよと言い置き、金庫から百万円の束を、60本だして、アタッシュケースに詰め込む。
 野中正男は、神能建設の株を買い漁り、5%程集めた。野中はいっそ、神能をGoyooの傘下に置き、思う様に操ろうと考えていた。関西を拠点にする、上島ファンドを使い、神能建設の株を虎視眈々と狙っていた。
 野中は、小さな株から入り、何れ大枚の利益を、手にしようと夢見ていた。
 そんな頃、GOYOO社の、金会長に呼び出された。最上階の会議室には、常務の渡、の顔も見える。野中は、悪びれた様子も無く、渡の座る正面の椅子に腰掛ける。
 金会長は、野中の正面に座り、小言の一つでも言ってやろうと身構えていた。
 「野中専務、何で神能の株何か、買い漁っているのですか?」
 野中は、金会長の目をしっかりと見て答える。金会長は、禿頭の頭に薄く汗を掻き、ハンカチで拭う。何せこの所、35℃を超す、天候が続いていて、とてもやり切れなかった。
 「会長、神能建設程の会社を傘下に収めれば、ウチの建設事業は発展し、米沢大鉄の息の根も止められるかと思ってます、神能の株を、買うのを許可して下さい、きっと、GOYOOはもっと大きくなれると思います」
 「しかし、君、勝算は有るのかね?」
 野中は言った、神能の株主で大きいのを落としていけば、何れ乗っ取りが出来る物と。金会長は、渋面を作り、好きにやりたまへ、と許可を下す。
 そして、金会長の横に座っていた、渡常務が話を切り出す。
「八祖島は、何時になったらリニアモーターカーの現場に出るんだ、もう待てないから、ウチの山崎をリニアの現場に行かせたぞ」
 野中は、「フンッ」と、笑い、山崎などに何が出来るか、と腹の中で思い、笑いながら言う。
 「好きな様にして下さい、公安生活安全課の、捜査員がそんなに信用出来ないとはね」
 横水一也は、六千万円の入ったアタッシュケースを持ち、金曜日の夜八時、二宮色香と、一緒に、江戸川区小岩に有る、公民館で反対派と、立松組谷の現場責任者との話し合いの席に顔を出していた。
 「では、議題に入ります、只今、工事着工されている、ショッピングモールは、店舗二百、飲食店、二十三の規模を持つ、近代的、ショッピングセンターになります。地階には、スーパーイレブンと言う店が入る予定です、着工は、もう始まってますが、来年の2月3日を目処に新規オープンしたく存じます」
 立松組谷の広報担当が、反対派住民40数名を相手にして、一歩も引かない姿勢で居た。
 「しかし、俺達の商店街が、廃れていくのは明白だ、それにモールが出来ると、渋滞が起きる。市民生活に影響が出る、それにスパ温泉が有るって言うじゃ無いか、地元の銭湯を潰す気か、オイ」
 広報の大矢がそれには答えず、1人演説をし出す。
 「何言ってやがる、個人の営業努力が足りないのを棚に上げて」
 立松組谷の営業部長、堀北がボソリと呟いた。
 「何だってぇ~?貴様等の汚いやり方に対して営業努力もクソも有るかい」
 場内怒号が飛び交い、説明会の場は、荒れに荒れて行った。午後の九時になって、説明会は、解散し、皆各々家路につく。
 二宮色香と、横水一也は、反対派のリーダー、肉の松川店主、松川洋次の後を付けた。
 松川は、何処にも寄らずに、家路についていた。2人は30分ばかり、小岩駅の中華料理屋、耒陽軒と言う店へ入り、冷やし中華を食べてから、肉の松川に赴く。
 松川は、商店街の真ん中に位置してい、シャッターが閉まっていた。松川の裏口から、インターフォーンを鳴らす。犬が玄関先で、吠え狂っていた。インターフォーンを押すと、中からこの店の娘で有ろう、17、8の女が顔を出す。
 「あの、立松組谷って会社の者なんですけど、お父さんいらっしゃる?」
 二宮色香が、優しい声で話すと、その娘は、安心した様な顔をして中に声を掛ける。
 松川は、明日の肉の仕込みで、忙しそうに白衣を着て、肉を切っていた。
 「何だって、立松組谷?中へ入れてあげなさい」
 2人は中に入る。肉の血生臭い臭いが充満してい、フライヤーで唐揚を作っているらしく、香ばしい臭いが漂ってくる。
 「何だね、立松組谷が今時分、何?」
 松川は、不機嫌そうな顔をして、二宮を睨む。二宮は名刺を出して松川に手渡す。
 「何だね、買収でもしに来たかアハハハ」
 横水は、無言で居たが唐揚げの臭いに吊られて、フライヤーの中を覗く。
 「腹減ってんのか、5個くらい食うか唐揚げ?」
 横水が無言で居ると、松川は網で唐揚げをすくい、8個ばかりを、皿に盛り、2人に箸を渡し、食って見ろという。
 二宮色香が、一口食べると、ジューシーでいて、こんがり焦げてる、衣と肉のバランスが絶妙でとても、美味しかった。
 「松川さん、この唐揚げとても美味しいです、一昨年、ミシュランに載ったのは不思議では無いですね」
 二宮は、食べながら、言い、横水も横でウンウンと頷く。
 「松川さん、ショッピングモールの中へ、是非アナタの、お店の肉と唐揚げの店出して欲しいと、モールの立島屋の社長も言ってるんです」
 「えっ?それは初耳だな、俺の店が立島屋の中へ入れるのかい、空きはあるのかい?」
 松川は、乗り気になって、店に続く奥の六畳間に、2人を通す。松川は手と顔を洗い、座敷へ入ってくる。
 「松川さんが、その気なら、今此処で、契約書がありますから、約款を読んでサインを頂ければ、モールのテナントとして、入れます、立島屋もそれを望んでますし・・・・・・」
 松川は、契約書をじっくり読んで、ウンウンと頷く。
 「しかし、この小岩に、俺、40年くらい住んでいるんだ、5歳の時からだからそうだな、仲間を裏切る何て・・・・・・」
 横水は、アタッシュケースから、1千万円の束を出して、4百万程、テーブルの上に置く。
 「こ、これは?」
 「松川さんが、この商店街を出なければ、危険だというのは本当だ、支度金として400万、少し離れた所にでもマンションを借りれば良い、車でモールに通えば無問題でしょ」
 松川は、冷蔵庫から冷酒を出して、コップになみなみと注ぎ、一気に飲み、徐に契約書にサインを入れる。
 秋になってもこの暑さが止まらない。
 9月3日の日、八祖島は、江東区の亀戸近くの、マンションを買い、美世と入籍し、家庭を49歳にして初めて持った。
 八祖島は、美世との結婚で人間が少し丸くなった様な気がしている。美世の男だった下島は、打ち捨てられて、マンションの家賃が払えなくなり、姿を暗ませて行方不明になった。
 いよいよ、八祖島にリニアモーターカーの、敷設現場への赴任の日が近付いてきた。
 一旦、山梨のリニアの現場へ入ると、飯場から外へ出れなくなり、美世との甘い新婚生活など、夢見て居られない程、その現場は隔離されていると聞く。
 八祖島は、東京に居る間は、美世を、目一杯可愛がろうと努めていた。
 九月の初旬、八祖島はまたしても米沢大鉄に呼び出された。
深夜1時足立区の北千住にある、米沢大鉄の愛人、三吉幸子の住むマンションへ、ベンツのAMG仕様車で赴いた。駐車スペースには大鉄の車、アウディクワトロの最新型のマシンが停まっていた。
 オートロックを開けて貰い、幸子の部屋へエレベーターで昇り行く。
 あの日から幸子とは会っていなかった。
 大鉄に、遠慮してか知らずに足を向けた事は無かった。玄関ドアーを軽くノックして、勝手に中へ入る。大鉄は寝間着に着替えて居間でビールをに見ながら、パイプタバコを吸っていた。
 「あら、いらっしゃい八祖島さん、待ってたわ、ウチの親分も用があるらしいけど、私もアナタに用があるの、あの日以来忘れられない・・・・・・」
 八祖島はソファーに腰を下ろし、ラークマイルドに火を点ける。
 「今晩は、八祖島さん、今夜は折り入って頼みが有るんや、まぁ幸子の用を、済ませてからでええよ」
 米沢大鉄が言うには、八祖島が幸子の濡れない下腹部の事を、解決して貰ってから幸子は八祖島を求めて止まなかった。
 「アレのオメコ、もうワシのもんじゃない、八祖島さんこの女に援助はするが、もう、虚しくてやり切れん・・・・・・」
 八祖島は、真剣な顔で大鉄の話を聞いていた。続けて大鉄は言った。
 「だから、八祖島はん、この女嫁にしてもらおかと思ってはりましたが、アンタ、結婚なんてする何て殺生な~、愛人でええから来てやってくれ」
 八祖島は、黙って頷くと、幸子が手を引っ張って、奥の寝室へ八祖島を連れて行く。
 幸子のヴァギナは既に濡れていた。そのまだ初々しい粘膜は、ピンクに光ってい、八祖島のペニスを求めて止まない。
 その淫らで淫靡な、ヴァギナは、八祖島のペニスが軽く入り口付近で触れただけで、獣の雌の臭いを発散させて、中へ八祖島を誘う。八祖島は突き上げてくる欲情に動かされて女自身の解放と、心気を養って、アクメに直ぐ達した、幸子を上から下から、更に横から突き上げる。
 2時間ほど、2人は、まぐわい、八祖島は精を吸い取られて、下半身が力無く垂れていく。服に着替えると、八祖島は大広間の中へ出て来、ビールで一杯やりながら、詰め将棋に夢中になっている、大鉄に声を掛ける。
 「終わったか、八祖島はん、ワシは正直言うと、おまはんが憎い、憎くてしようが無く、いっそ殺してやろうかと思ってたんだが、男として、おまはんに負けて殺しに掛ける何て、只男を下げるだけやと思ったから、お前ら2人許したったんね」
 八祖島は、頭を下げて大鉄に謝った。
 「まあええ、それより一つ、頼みたい事があってん、そこに座りな」
 2人は、ビールを飲みながら、目と目を合わす。一枚の写真を大鉄は、八祖島に渡す。
 「これは、江東区にある人材派遣業の、活き活きワーク、ちゅう所の金森ちゅう男や、年齢は32歳、上砂から新木場辺りが奴のテリトリー何やがな、何を勘違いしたか、一夜会の者を、最近引き抜いてるんや、コイツを何とか黙らせりゃええねん、しかしコイツは強くてウチの若い者が、6人やられている、空手使って1人は失明させられてんねん、早い内に片付けんと、わし等商売あがったりや、やってくれ」
 八月下旬の、水曜日、立松組谷建設のショッピングモール建設現場には、反対派住民の仮設テントが張られてい、見張りの住民5人の主婦が詰めていた。横水一也と二宮色香は、反対派住民の仮設テントに、住民の振りをして、寄ってみる事にした。雨が、ポツリポツリと降ってきていた。真夏独特のスコールの前触れの様だった。2,3分すると、土砂降りの雨が路面を濡らす。横水と二宮は、小走りに走って、テントに駆け込む。
 ジャー、と大量の雨が天を圧する様に降ってきて、忽ち路上が冠水し、走っている車もスピードを落としワイパーを回し始めた。
 横水と二宮は、テント内に駆け込んだ。
 「いや~済みません、ちょと軒を借りさせて貰います」
 横水は、タオルで体を拭き、二宮は被っていた帽子をパタパタ振り雨水を落とす。
 「あら、アナタ達、最近良く見かけるけどこの辺の方ですか?」
 主婦の一人、峰岸沙由理と言う、40に手の届く年頃の女が2人に声を掛ける。
 峰岸は、商店街でパン屋を営んでおり、モールが出来ると、客が寄りつかなくなるのじゃ無いかと、心配し、反対運動に参加していた。
 「いや~、私は都内でフリーライターをしていまして、コイツが助手の二宮です私は横水と申します」
 「ハァ、物書きの方ですか、どう言った事を書いてるのかしら?」
 答えたのは、主婦の峰岸では無く、この反対テントの主催者の、革新派、東堂の愛人、小宮悦美と言う、57歳の女であると横水も二宮も、承知していた。
 「ハイ、私どもは、移ろいゆく、下町の情景を写真と文で載せています」
 「あら、何処の雑誌かしら、もし良かったら教えて下さる?」
 小宮は、横水に親近感を覚えたらしく、横水に近付き、ポットから紙コップにお茶を注ぐ。
 雨はまだ本降りで、ショッピングモールの作業は、一時中断してる様だ。
 「ハイ、東京住民と言う、雑誌で書かせて貰ってますが、私共の文は載せるのは不定期でしてー」
 横水は、予め用意して有った、名刺を差し出す。名刺は、本物で、横水のサイドビジネスであった。そして、小宮も名刺を出す。
 「私、神田の神保町で出版社を主催している小宮と申します。雑誌月刊木曜日と言うのを出してます」
 横水は、「おお」と驚く振りを大袈裟にして、
 「良く知ってます、月刊木曜日さんは愛読書の一つです」
 2人は雨が小降りになってきたので、その場を辞しようとしたが、小宮が今夜2人を食事に連れて行きたいと言う。
 2人は、午後5時までテントに居た。5時過ぎ、小宮に迎えの車・トヨタプリウスのハイブリットカーが、やって来る。運転してるのは、元革新派で、この反対運動の主催者、東堂平蔵である。
 「やぁ待たせたね」
 東堂平蔵は、その年にも見えない若々しく、見た目は50代の男だが、年齢は、70を8つ超していた。
 小宮は、横水と二宮を東堂に紹介し、プリウスの後部座席に誘う。
 「いや~、初めまして、私は、フリーライターの、東堂平蔵と言う者です」
 東堂は、気さくに話し掛けて、時折冗談を交えて、二宮を笑わす。横水は、東堂の略歴を、特携で見ていた。
 東堂平蔵ー19XX生まれ、和歌山県新宮市出身。地元和歌山県立三高校を経て、明応大学露文科を卒業。学生時代、反社会運動には参加せず、卒業後、友人の木藤誠の紹介により、連盟赤軍・重光八重の下へ通う様になった。卒業後の職業は、大阪紅旭新聞の社会部記者として活躍。199X年に、紅旭新聞を退職。公安の調べでは、重光の逃走を手伝い、資金的援助をしていたとの疑いがある。支持政党・共明党。
 現住所、新宿区高田馬場4ーXー2・開明ビル402号室。
 ここまで読んだ時、車は葛飾区の亀有に来ていた。車は亀有の駅のコインパーキングに入る。
「ここから、5分くらいの所に在る、中華料理の美味しい店が有るの、少し歩きますがどうぞ」
 小宮悦美は、2人をエスコートして、ハイヒールの踵を鳴らして歩き出す。東堂もそれに続く。見た目より意外に長身だなと、横水は思う。
 店は、駅前ロータリーから少し外れた路地に有り、4人はその小さな中華料理【円楽】と描いてある見せに入る。
 店内は狭く、壁には虎や龍の絵が飾られて有り、墨書で、漢文、長々と何か書いて有った。横水は黙って水を飲む。
 「あの、このお店何が美味しいのでしょうか?」
 二宮は、東堂の目を見て問う。
 「何でも美味しいけど、四川風焼き蕎麦がお勧めだね」
 ウェイトレスは、片言の日本語で話す娘が、注文を取りに来る。
横水は、唐揚げに広東麺を、頼む。二宮は、東堂の勧めに従って、四川風焼き蕎麦と、チャーハンを頼む。
 今日は、2人共、昼食を抜いているので、腹が減って、仕方が無かった。
 「横水さん、あの現場に何しに、行ったんです?」
 東堂平蔵は、チンジャオロースーを、食べて、老酒をグイと一盃煽る。
 「ハイ、小岩のまだ残っている、自然を、ウォッチして、スケッチしようと思いまして・・・・・・」
 横水一也は、在り来たりの事を言い、その場を納める。唐揚げが、妙に辛くて、老酒で、口の中を洗浄する。老酒で舌が正常に戻ったかの様に感ずる。
 「あの現場は、その自然を破壊して、企業の思う様に利益のみを追求する、エゴの権化みたいな奴等の遊び場です、そう思いませんか横水さん?」
 2人は目を合わせて、議論を講ずる。
 帰り際、東堂は、横水に何とか同士になってくれないか、と懇願する。横水は、話を半分で聞いてい、新宿駅から自宅の有る、東京都郊外の小平市に帰った。
 次の日、横水は、野中正男の元へ出向いた。折しも野中は出社しており、六本木のGOYOO社、専務役員室へ向かった。
 役員室に入ると、野中は、スマホで何かをしているので、横から覗いてみると、パズルゲームに興じていた。横水は、いい歳して、又ゲームかよ、と胸の奥で呟く。
 その時、野中は此方を振り向き、ニコリと笑い、「このゲーム面白いぞやって見るか?」
 横水に勧めるが、断り、報告に来たと言う。
 「でその東堂と言う男と、会食したと言うのか?」
 「ハイ、昨夜、二宮と反対派小屋のメンバー、月刊木曜日の小宮悦美とか・・・」
 「で、奴の頭を押さえて欲しいのですが」
 横水は、持っていた、アタッシュケースから、二千万円を出して、野中に差し出す。
 「頭というと、共明党の世良田議員か?」
 共明党参議院議員の、世良田は、兼ねてから都市部の乱開発に反対の姿勢を、取っており、西東京での人気が高く、東京都あきる野市の、ビル工事現場の前で、何時も頑張っている程の、表向きは自然保護の立場を取っていた。
 「ご名答です、その、世良田議員の、買収お願いします、それと、肉屋の松川は、足立区に越しました、これで残るは、公儀会の若頭川崎直次を、始末すれば運動が収まります」
 野中は、机の上に置かれた二千万円を、床に置いてあるボストンバッグに仕舞い、横水と打ち合わせを2時間していた。
 新木場は、0メートル地帯の江東区の海沿いに有る昔からの埋め立て地で有った。新木場付近を縄張りとする、人材派遣業、活き活きワークの社長、金森竜也は、毎日深夜まで、オフィスで仕事現場の差配をして、明け方4時に、近くの自宅マンションに帰り仮眠を取るのが日課で有った。
 有限会社・活き活きワークは主に、建設現場の軽、重機、重機の取り扱い、ダンプの手配と言った多岐に渡る、業界に人材を派遣していた。
 創立は、1999年の9月、社長の金森が、20代前半で興した会社だ。金森は、16歳の時から現場に出て、重労働に耐えて、19歳の時には月収40万円を稼いでいた。そんな金森は、20歳の時に結婚をし、子供を恋人だった女に産ませた。金森は、会社を設立するまで、一年に三度しか休まないと言う超人的な、仕事ぶりを見せていた。主に取引企業は、ゼネコン大手で、立松組谷、神能建設、上総組と言った、大手三社が、お得意先で有った。バックに極道も居なく、金森は大のヤクザ嫌いで有った。
 八祖島は、一夜会の本部オフィスから出て来て、近くの亀戸駅前のスナック・ポニーリン・と言う店へ入って行く。
 店のママが八祖島が久し振りに入って来たので、嬉しくて、サービスして、ジンロを出して水割りを作る。ポニーリンの、常客は、主に、NPO法人一夜会のスタッフ達で、今夜は、会長の大牟田定次が顔を出していた。
 大牟田は、八祖島に最近無視されている様で、八祖島の事が気になって仕方が無いと言った風情だ。
 「八祖島君、活き活きワークに今日も5人程労働者を取られたよ・・・・・・」
 大牟田定次は、苦虫をかみ潰した様な顔をして酔って、八祖島に絡む。
 「大体だね、現場の差配する君たちが、怠慢何だよ、従業員一人一人をだな親切に教えないからー」
 八祖島は、終始無視を決め込んで、大牟田の怒りは沸騰する。八祖島は、誰とも会話せずに、金を払ってから、スナック・ポニーリン・から出て行った。大牟田は。八祖島を追い掛けて引っ付いてきていた。
 「会長、今夜はヤボ用で忙しいんだ、一人で帰ってくれ」
 大牟田は、それでも八祖島に着いてきて、新木場まで遂に来てしまった。
 新木場の駅の近くに、有限会社・活き活きワークが、有った。八祖島は、午後11時を回ろうとしている時間帯に、活き活きワークの入ったビル・東平ビルディング・の三階の事務所へ入ってゆく。このビルは、鰻の寝床の様な又しても狭いビルで、出入り口付近に、元一夜会の雇っていた、男達が5人程、ウロウロしてい、八祖島を見て、スゴスゴと街へ散って行く。ビルの狭いエレベーターを使い、三階のオフィスの前に立つ。
 ノックを二回した。コンコンと音がして、事務所の中から、八祖島ほど背丈があろう色黒の男が出て来た。
 「一夜会の八祖島って者何だけど、アンタが金森さんですか?」
 男は、出入り口付近で、右手にコーヒーカップを持ち、左手に書類を掴んでい、手が使えない状態で有った。
 八祖島は、徐に金森の顔面へ、右のストレートを放つ。金森は吹き飛んだ、持っていたマグカップが、床に落ち、ガラスが四散した。
 「ウグ、いきなり何すんだ野郎」
 八祖島は、立ち上がり様の、金森の首筋に右のミドルキックを、入れた。
 「くぅ~痛え痛え、一体一夜会が・・・・・・」
 次に八祖島は顎目掛けて、前蹴りを入れて、社長金森をKOする。
 大牟田は、後で一部始終見ていて、調子に乗り金森の顔に小便を掛ける。
 「ウ、プゥ~、く、くさい・・・・・・」
 金森は、目が覚めて、八祖島の方へ向き、立ち上がろうとして、腰が抜けていた。
 「オイ、金森とか言うの、もう浅草付近で、労働者の勧誘を辞めて貰おう、今度は命が無いぞ」
 大牟田は、酔った勢いで倒れている、金森の腹へ蹴りを入れる。
 「ナハハハ、弱い癖にもう粋がるなよ」
 八祖島は、金森が机の上に出していた、現金200万円を掴み、ポケットに仕舞う。
 金森は涙を見せて、大の字に床に寝そべる。この日から一週間後、活き活きワークは、池袋に移転して、八祖島は警察の指名委手配を受けた。
 9月の中旬、野中正男は、赤坂の料亭、【このみ】という店へ、夜の八時に着いた。社用車のトヨタセンチュリーの、後部ドアーを開けて、店の玄関口に立つ。女将の、美奈巳と言う、30代半ばと思われる年頃の女が、野中を店内に招く。野中は手荷物を人には渡さず、大事に抱えて、奥の座敷の間に通される。座敷の上座の床の間に、共明党参議院議員、世良田が芸者を上げて、酒をチビリと飲んでいる。野中は世良田に人払いを頼み、芸者は下がって行く。
 もう一人人が居た。自文党衆議院議員の、竹内誠と言う70代を超えた男だ。世良田は、秘書も下がらせて、野中に相対する。
 隣の部屋には、購買新聞の主筆、辺川幸男が、控えてるのを野中は看破していた。
 「これは、GOYOOの、野中さんでしたっけ、今日は何用で、私を呼んで下されたのですか?」
 口火を切ったのは世良田からで有った。
 「いや~ネットの広告バナーに、世良田先生の顔でも載せてほしいと思いましてアハハハ」
 これには、竹中誠も苦笑して、野中に一献差し向ける。
 「私めが、GOYOOさんのバナーに顔写真が載る程人気が出ると良いですな」
2人は中々本題を切り出さない、自文党の竹中は合いの手を入れた。
 「最近小岩のショッピングモールの、建設が滞って進みませんな、立島屋さんも、大変だろうに」
 世良田は、懐からスマートフォーンを出して、何処かへ電話を掛ける。野中は出されている、鯛の塩焼きを、箸でつまみ、日本酒で一杯やる。
 「あー俺だが、革新派の根川を出してくれ、え、そう世良田だ」
 5分程沈黙が続き、世良田は再び声を上げて話し出す。
 「根川か、小岩のショッピングモールの件だが、住民運動を終結してくれ、アソコはもう何しても駄目だ、三日以内に撤収だ、分かったな、代表にも伝えてくれ」
 野中は、世良田が電話を切るのを見計らい、金500万円を、世良田の前に置く。自文党の竹中は、「ヤレヤレ」と、呆れ顔で野中から、謝礼の200万円を受け取り、領収書を切ってもらい、名目はGOYOOモバイル通信料と言う、物になった。
 「野中さん、今夜は朝まで付き合ってください」
 世良田は、上機嫌になり芸者を、又呼んで盛り上がった。
 その翌日、横水と二宮は、立松組谷建設ショッピングモール反対運動の仮設テントに入って、お茶を飲んでいた。その場に東堂平蔵と、小宮悦美もやって来ていた。
 「横水さん、我々の戦いは終わった。上からの命令で、我々の闘争は終わったが、まだまだ日本には、火種が残っている。ユートピア建設に是非力を貸して貰いたい」
 東堂が話すと、周りに居る反対派住民達は涙ぐみ、その敗北を悟らされた。
 「東堂さん、この件は終わったし、諦めた方が良いかと・・・・・・」
 この三日後、反対派住民の会は解散した。
 銀座二丁目の目抜き通りを一人で歩いていた。右翼団体公儀会の若頭、川崎正次は、この夜、神能建設の常務、渡来次男から、小遣いと称して、金三百万を受け取り、都営丸ノ内線のホームに立っていた。
 〈快速が入って来ます、乗客の方は白線の内側にお下がり下さい〉
 川崎は深夜帯と有って、人気の特に少ない、前部車両に乗り込もうとした時、背中にヒヤリとした銃の塊を、突き付けられた。
 「オイ、死んでも恨みっこなしだぜ」
 小声で男が、そう言ったかの様に聞こえた。
 次の瞬間、サイレンサー付きの、そのトカレフ自動拳銃から、弾丸が2発、体に食い込んだ。心の臓を抉り、1発で即死した。
 殺し屋の、男は、死体を蹴飛ばして、車両に蹴りを入れて、何処と無く去って行った。
 列車は死体を乗せて走り出している。
 八祖島は、現在指名手配食っていた。
 その件も有り、一時一夜会から離れ、大建吉美組の差配する、山梨県のリニアモーターカーの工事事務所の有る、都留に飛ぶ事になった。
 新妻の美世は驚き、リニアの現場行きには泣いて反対したが、八祖島は、暴行傷害罪と、窃盗犯として、警察に追われていた。まず、山梨に行く前に、大阪に飛んで、人員を集めて、改めて山梨県の、リニアモーターカーの現場に入る事になった。
 八祖島は、米沢大鉄に、謝礼として200万円貰い、全額を美世に渡した。大阪へは、大牟田定次一夜会会長と、野本と言う男と三人で向かう事になった。
 大阪へ行く前日、八祖島は、連絡員のカエデ・サンタクルースに、報告をし、又もや銃を手渡された。銃は、三連発のデリンジャーピストルで、八祖島は不承不承受け取りポケットに仕舞った。
 「カエデ後は何か有るか?」
 「GOYOO社の、渡常務の手の者が、リニアの現場の中へ入って居るから、接触しても喧嘩しないで・・・・・・」
 「渡常務と言えば総務の人か、邪魔しなければ良いが・・・・・・」
 少し不安があったが、カエデの言い付けを守る事にした。八祖島は、ポケットの中のデリンジャー銃を触ってみる。小さいが重くてズッシリとした肉感が有り、35口径の弾丸が装填出来る。予備の弾丸は10発貰っていた。
 「八祖島、それに・・・・・・」
 「それに、何だ?」
 「欲しいの、アナタが、今からホテルに行きましょう」
 八祖島は、承知して、ホテルへと2人は入って行った。
 「ねぇ、マッドガードナーって御存知?」
 二人は、燃える様な、SEXをして、ベッドに横たわっていた。八祖島もカエデも、精も根も尽き果てた顔をして、ベッドの枕元に有る、水差しのミネラルウォーターを飲む。
 「マッドガードナー?、一体何だそれは?」
 「大建吉美組の、雇っている、ガードマンよ、リニアの現場に百人程居るの、とても危険で、汚い奴等、米沢大鉄の子分達と、そして刑務所帰りの犯罪者、犯罪を犯して、山に籠もった連中の集まり、色々武器を持ってるらしいわ、それに拳銃も・・・・・・」
 八祖島は、初耳だなと思い、そいつらが、リニアモーターカーの現場作業員を痛めつけて、虐めてるのか?と考えてみる。それにしても、カエデのSEX好きには、辟易している。まだ、八祖島の股間を甘く握り、離さない。又口に含んできた、男が回復し来て、勃起が止まらない、この女は・・・・・・。
 八祖島は、上野の駅前を歩いていた。後方からスーツを着た男3人、前から3人、「チッ、囲まれたか・・・」、思った時には、6人の男達に、それに、遠くから制服の警察官も、やって来ていた。計16人程の、警察官に包囲されていた。見物の人集りが出来て、私服の刑事が、何か紙を見せて、近付いてきた。
 私服の刑事は、八祖島を見て、笑いながら近付いて来て言った。
 「八祖島安志だな、暴行傷害と、強盗の容疑が掛かってます、コレ逮捕状、一応手錠は掛けます、同行して下さい」
 近くに、停まっている、パトロールカーに乗せられて、上野警察署に、連行されて行った。
 それが、大阪行きの二日前で有った。
 八祖島の身柄は、署長の命令で、上野署から、警視庁本庁に移されて、公安生活安全課へと、移送させられた。
 本庁の地階で、生活安全課の、山王課長に、会う事になった。
 「どうだった、一夜会の様子は?」
 山王課長は、八祖島へ、その太った顔を綻ばせて笑いかける。
 「ハイ、カエデに報告した通りです、報告書読んで下さい」
 八祖島は、事務の女の子の入れたコーヒーを、一気に飲み干し、ラークマイルドに火を点ける。
 「カエデの報告は、聞いている、しかし少々荒っぽすぎないか?」
 山王は、紅茶にしてくれと、事務の女の子に怒鳴り、テーブルに乗っているセンベイを、ポリポリ音を立てながら食す。
 「活き活きワークの金森の事ですか、何せ、米沢大鉄の命令は絶対ですからね」
 「そうか、でわ帰って良いよ」
 山王は、ゴトリと、ホルスターに入った、デリンジャーピストルと、予備弾10発入りの箱を渡し、八祖島を解放する。
 翌日、八祖島は、新妻の美世に見送られ、マンションの部屋から出る。前夜の美世は、飽きる事無く八祖島を求め、精を吸い尽くされて今日は、腰に力が入らないほどで有った。
 江東区の亀戸に有る、NPO法人一夜会の事務所へ、赴く。既に一緒に同行する、会長大牟田と、スタッフの野本が、地階の駐車場で、出発の準備をしていた。八祖島は、スタッフ達に、挨拶をして地階の駐車場に降りて行く。
 「やぁ遅かったね、後10分くらいしたら出るから、荷物をバックヤードに積んで」
 大牟田定次は、日に焼けた黒い顔綻ばせて、八祖島に笑いかける。
 九月だと言うのに、残暑どころでは無く、34℃と正に焼け付く様な暑さだ。
 野本が運転する、ハイエースワゴンは、首都高速を経て、東名自動車道へ入る。遠く飛行機が、ジェット雲引いて飛行していた。
 「八祖島君、半年間だが、リニアの現場監督よろしくね、まずは、2ヶ月間見習いだけど、給料の方は監督並みに出すから、奥方にも安心する様に言っておいてくれ」
 「ハイ・・・・・・」
 車は、3時間ほどで、名古屋を過ぎ、近江国、滋賀県へ入る。
 「この第二東名の工事もウチでやらして貰った事有るんだよ」
 大牟田定次は、名神自動車道に入っているのに気付いてない。
 運転する野本は、伊吹山パーキングエリアに、入って行く。そろそろお腹がすいてきて、昼食の時間で有った。車はパーキングエリアに入り、三人は、レストランの中へ入る。三人は、安上がりのビーフカレーを食べて、直ぐさま車に戻り、タバコを吸う。
 「野本君、愛心グループの若宮さんに、今日到着するってちゃんと連絡入れた?」
 大牟田は、ハイライトを3本吹かして、ようやく落ち着いたらしく、口を開く。
 「ハイ、一週間前に確かに」
 野本は、八祖島がジッポーの石が切れたらしく、カチカチと、何度も点火を失敗しているのを見て、二百円ライターを貸す。
 車は、名神自動車道を走り、大阪府内を走り、高速を降りる。下道を使い、南海本線・天下茶屋駅を通り過ぎ、西成区の住宅街へ入って行き、花園町の辺りに有る、地上5階のビルの前に着ける。ビルの脇に有る駐車場に、ハイエースはバックで入って行く。
 三人は、荷物を持ち、大阪愛心グループ本部ビルに入って行く。
入り口のウィンドウに、職業斡旋、訓練、人材派遣、各種資格取得、と書いて有り、八祖島はチラリと見て記憶した。
 大牟田は、エレベーターを待ちながら、ロビーでタバコを吹かしていた。
 エレベーターに乗り、3人は、二階の事務所へ昇る。時間は、午後2時と有って人が疎らにしか居なかった。
 「今日は、東京の一夜会の、大牟田です、今着きました」
 スタッフ八人程が、大牟田一行を迎えて、笑顔で答える。
 「今日は、今会長呼んでくるさかい、待ってて下さい」
 3人は、応接ソファーに座り、十分程待たされて、会長の、若宮佐貴子が、上階の会長室から一人の女子スタッフを連れて降りてくる。
 「ほんに、お待たせしましたわ、この子、案内人の田中美奈巳です、宜しくね」
 会長若宮は、この年38歳、前会長の、故若宮育郎の、長女で、5年前跡を継いで、今日に至る。離婚歴有り、現在3人の子供を育てながら働いている。
 しかし、八祖島が、事前に特携で調べてみた所、裏で暴力団と繋がっていて、今、山工組系、夕月一家の、代貸、宮本と言う男と同棲している。八祖島は、注意深くこの女を観察してみる事にした。
 「これが今回、世話人になった八祖島君です、リニアに連れて行く方の人員の手配は、出来てますか?」
 大牟田は、ハイライトを、燻らせながら灰皿に灰を落とす。
 「ハイ、10日前に志願者15名、3日後にマイクロバスを手配し、出発予定ですわ」
 「で、この子が案内人か?」
 「田中美奈巳って言います、宜しゅうお願いします」
 田中美奈巳は、24歳、リニアの現場まで着いてきて、八祖島の世話をする。半年間で、報酬が、五百万出ると、噂に聞いていた所で有った。
 「良い娘だね、八祖島君、ウヒヒ、夜が楽しみになって来たろう、ヒヒヒ」
 大牟田は、言って下卑た笑いを浮かべ、田中美奈巳女子は、下を俯いて、赤面する。八祖島は、そっぽを向き、ラークマイルドを大きく吸う。
 「ほんま、田中さん、良い人そうで、良かったわね、この子、リニアに行くのは初めて何ですわ、八祖島さん宜しくね」
 若宮会長は、八祖島に、笑顔を向けて、語り掛ける。八祖島、「こちらこそ」と一言言い、出されたアイスティーを飲む。
 三人は、大阪愛心グループ本社ビル、四階に有る、宿泊施設に荷を下ろし、少し仮眠を取る事にした。三人は別々の部屋で寝ていた。
 夕方6時、三人はスタッフの一人、一関秋保に起こされて、夕食を取る事になった。
 「何や八祖島はん、焼き蕎麦好きや言うから、駅前の【コテ焼き】言う店から、美奈巳ちゃんが、お持ち帰りで買ってきたんやて」
 秋保は、給仕をしながら、アレやこれやと、八祖島に話し掛ける。
 「あの会長、Hであきまへんね、ウチのお尻ばかり見てん、気持ち悪うて仕様が無いわぁ、その点八祖島はんは、凜々しくて無口で、頼もしいわぁ、ウチ美奈巳ちゃんと代わりたい位やアハハハ」
 「そうか、じゃ、仕事何時に終わるんだ?」
 八祖島の目が光り、秋保は、一瞬体をピクンとさせて首を竦めながら言った。
 「ウチ?亭主いてるねん、でも、8時から10時まで何時も自由時間やよ、何処か連れてってくれるん?」
 秋保は、八祖島のコップにビールを注ぎ、流し目を送る。八祖島は、牛のヒレステーキを頬張り、ビールで流し込む。
 「何処か、良い場所有るのか?、俺は大阪は初めて何だ、暇だから何処かへ行っても良い」
 秋保は、「うん」と頷いて、八祖島にビールをもう一杯注いでやる。秋保は36歳だと言う。子供は2人居て、中学を卒業していた。
 旦那は、愛心グループ関係の土建屋の事務をしており、子供の大学進学までの、経費が大変で、共働きで暮らしていた。
 何故、八祖島が声を掛けてきたか、秋保は首を傾げたが、まだ、若さと美貌には自信が有る積もりで、火遊びをその時企んでいた。秋保は、仕事が終わったら、一階ロビーで待つと言って、顔を赤らめながら、次の間に控えてる、野本の給仕をしに行く。
 食事を終えて、八祖島が、寛いで居ると、後片付けをしに、田中美奈巳が入ってくる。八祖島はビールを一杯、煽り美奈巳に焼き蕎麦の礼を言う。美奈巳は、八祖島の浴衣の裾に、糸くずが付いているのを見つけ、取ってやる。
 「美奈巳ちゃんは、仕事楽しいか?」
 「うん、私建設現場とか好きやし、人が働いて幸せになってんのが、見てると嬉しいのん」
 八祖島は、「そうか」と言い、美奈巳の頭を撫でてやる。美奈巳は、恥ずかしそうにして、食器を片付けて部屋から出て行った。
 十五分程すると、大牟田が部屋にやって来て、明日のスケジュールに付いて打ち合わせをする。大牟田は、7時になると急にそわそわし出し、八祖島に、ミナミにでも繰り出そうという。
 「夜は、別に用があるから、又の機会にさせて貰います」
 「あ~そう、付き合い最近悪り~なぁ女でもこっちに居るの?」
 八祖島は、ハァ~と溜息を付いて、床にごろりと寝転ぶ。大牟田は、諦めて野本の部屋へ移動する。
 午後8時になる。八祖島は、グレーの高級イギリスの生地のスーツを着て、ソフト帽被り、一階ロビーに降りる。秋保は同僚の男子スタッフ達と、タバコ室で会話をしていたが、皆に「お疲れ様」と言い、喫煙室から出て来て、八祖島に声を掛ける。秋保は、白い薄手のジャンパーを羽織り、首にネッカチーフを巻き、ブルージーンズを履き、八祖島の腕を取って、ロビーから出て行く。一緒にタバコを吸っていた男子スタッフ達は、無言になり沈黙していた。
 秋保と連れ立って、南海本線・天下茶屋駅まで歩き、列車で天王寺まで行き、夜食をとる事にした。
 「八祖島さんはお腹一杯でしょ、ウチも余り空いてへんの、軽くお茶でも飲みましょうか?」
 2人は、ミオ本館に有る、和食レストランに入り、窓辺の席に着いた。燃える様な瞳を持つ八祖島に、平凡な主婦秋保は、好意を抱いた。
 「俺は、イクラ丼を食う、秋保さんは酒くらい飲めるだろう、付き合え」
 「うん、ウチビール大ジョッキ」
 ウェイターに2人は注文すると、3分でビールが出て来て、2人で乾杯した。
 「八祖島さんて、一夜会入る前、何してたん?」
 「ウム、アメリカに10年ばかり居て刑事をしていた・・・・・・」
 秋保は、それで八祖島にメロメロになり、
 「ウチ、八祖島はん見たいな人とSEXしたいわ、こんなおばちゃん嫌かしら?」
 八祖島は言った、
 「君みたいな女は、今までろくな男が居なかったに違いない、今夜は女の悦び教えてやる」
 天王寺のホテル・ビューパーク・で、2人は縺れ合う様にしてベッドに倒れる。八祖島は、スーツをはらりと脱ぎ、ブリーフ一枚の姿になる。鍛え抜かれた、八祖島の筋肉を見て、秋保は息を呑む。
 「ハァハァ、ウチの八祖島さんになって」
 ブリーフをとると、そそり立つペニスを見て、口に銜える。
 「銜え無くてもお前のあそこに入れば熱くなって溶かしてやんぜ」
 「あ、ハァ、ハァ」
 秋保は、ショートヘアーの髪を、八祖島にソッと撫でられて、喉の奥までペニスを、咥え込む。吐息が漏れ、ジュルジュルと、液体を発する雄の性汁を、口の中一杯に、含む。秋保が、ペニスを口から離すと、性汁が、唇から糸を引いて垂れる。八祖島は、ベッドに秋保を押し倒し、深くキッスをする。
 秋保は、身悶えしながら服を一枚一枚脱いで行く。2人は全裸になり、八祖島は、秋保の濡れたヴァギナに挿入する。その時秋保は、体を浮かせて背を仰け反らせる。
 「アはぁーん、うーうーうーあーひぃー」
 秋保は、八祖島の律動する腰に手をやり、次第に腰をグラインドさせる。八祖島は、抜かずに秋保を、後から貫く。
 「どうだ、男の味を知ったか、この淫乱女、お前の中で俺の息子が、嬉しがってるぜ」
 八祖島は、秋保の上半身を持ち上げ、貫きまくる。秋保は、大量に小水を発して、八祖島の下半身を濡らす。
 「ヒィーヒィーあん、あそこが熱い、もっと言うてぇ、ウチH好きやねん、八祖島さんの亀頭が子宮に当たるーん、気持ちええわぁ」
 八祖島は、秋保の粘膜が赤く腫れる程、貫き、20分後果てる。
 9月の下旬、東京地方は太平洋高気圧で、熱気に押されて、秋雨前線が、大陸に上がっていた。この暑さは何時まで続くので有ろうか、誰も知る由も無かった。
 野中正男は、関西上島ファンドを使って、神能の株を、18%まで保有していた。
 そんな頃、神能建設の株主総会が、東京九段下の、二宮会館と言う、大講堂で行われていた。野中正男、横水一也は、野中の運転する、トヨタ86のFRマシーンで、二宮会館の、大駐車場へ赴く。午前9時の事で有った。株主総会は、10時から始まる予定で、神能建設は総会屋、そして、子飼いの米沢大鉄率いる、吉美組のチンピラで固めていた。
 野中が、会場へ入ると、一番前の席に座る。
 後方の席に、横水一也が、大講堂の全体を見下ろす様に座る。前列の席には、米沢大鉄、吉美組社員、仁政正也、大株主の、熊谷元示、そして8%保有している、落語家の四流亭一楽、一族の熊谷一平。他、多数関係者が詰め掛けていた。野中の野望は、神能を乗っ取り、GOYOOの建設部門の、拡充を図る事に有った。
 「神能建設第74回の株主総会を開きたく存じます、まず、以前議題に上がった、リニアモーターカー建設工事の、前年度からの収支を報告します」
 「おうぅ、赤字やったら株捨てるどコラ」
 客席から、脅しの言葉がいきなり発せられる。前列左隅に、赤いスーツを着た、20代後半の女性が見守っている。脇にガードマンと思しき男が座っていた。
 「あの、あそこに座る女性は、何者でしょうか?」
 野中は、隣に座る初老の男に尋ねてみた。
 「何だ知らんのかね、四輪商事の、女常務、田安美香だ、アレでやり手で持ち株が12%有るんや」
 「ホウ、あの三商を乗っとった女か・・・」
 「では、二兆二千万円の収支に対して云々」
 壇上では、神能の常務白鳥が、熱弁を振るって、会場を沸かせていた。
 野次、怒号で、白鳥の声が聞こえ難い。
 米沢大鉄は、横に座る、側近の一人、成元工矢に囁く様にして口を開く。
 「あっこに居てる、男何者や?」
 「はぁ、あの男、野中正男ちゅーて、最近ウチの株を買い漁ってるんです、今18%の神能の株を保有してはりますねん」
 「ホウ、アレがGOYOOの野中か・・・」
 質疑応答が終わり、会は滞りなく終わった。
 野中は、帰り支度をしていると、米沢の側近、成元工矢が、近付いて来て、声を掛けてくる。
 「野中はんでっしゃろか?今日ウチの親父っさんが、是非食事を一緒にしたいと言ってはりますが、ご都合の方は?」
 「この後、2時間ばかり用事があるが、夜6時からならフリーだ、一体何処の親分で?」
 「あそこにおわす、米沢大鉄親分です、では、今夜7時に、浅草の日本料理屋、葉月楼で、待たせて貰います、宜しゅうに」
 夜6時45分、野中正男は、浅草の、日本料理【葉月楼】に着いた。店の前に車を停めると、下足番が車に乗って、専用駐車場に、トヨタ86を入れる。先程横水と別れて、野中は単身、浅草に赴いた。
 葉月楼は、昭和の40年代から有る、比較的古い料亭で、現在女将は、4代目で有る。
 駐車場付近には、スーツを着て、眼鏡をかけた若衆が、5人程待機している。
 料亭の中へ入ると、板敷きの廊下がピカピカに磨かれており、塵一つ落ちていない。
 壁には、北斎の日本画が掛けられてい、仲居が忙しなく走っていた。
 野中は、仲居の一人に、案内されて、一番奥の部屋、水神ノ間と言う、部屋へ通された。
 米沢大鉄は、一人で酒を煽っていた。野中が敷居を跨ぐ前に一礼すると、大鉄も頷き、席を勧める。
 「ワシが、元京都の博徒・米沢大鉄10代目じゃ、アンタは野中はんやろ、一献差し上げたくて呼んだんや」
 「私はGOYOO社の人事部専務、野中正男です、以後お見知りおきを」
 野中は大鉄の酌で、一献特級酒を飲む。
 「単刀直入に言おう、君の持っている神能の株、ワシに譲らんかね?」
 野中は少し、天井を見て考え込んだ、18%の株を、易々と大鉄の手には、渡せないが、有る一つの事を思い付いた。
「では、こうしましょう、GOYOOの持っている、神能の株と、大建吉美組の株を、トレードしてくれればOKです」
 大建吉美組の会長で有る、米沢大鉄は、大建吉美組の株を49%保有していた。
 従って、このトレードには損は無いし、大鉄の株を手に入れれば、吉美組を傘下に収める事が出来た。
 大鉄は、「ウム」と唸り、十分ばかり沈黙が続いた。アジフライを食べて酒を手酌で飲んでいた。
 「良かろう、野中君、君の株保有率18%とワシの神能の持ち株合わせれば、50%近くなる、これで神能を我が物に出来る、野中君恩に着るよ」
 野中と大鉄は、固く握手をした。
 大阪滞在二日目、西成区の千本北に有る、労働斡旋所と、職業訓練所に見学に赴いた。
 その名も、愛心センターと言って、主に失業者や、ホームレスの人達がメインだ。
 愛心センターは、1階が、日雇労働者の受付と、従業員の詰め所で有った。
 2階が職業訓練所、主に、重機の扱い方、フォークリフト、大型自動車、特殊などの、講議の、教室になっている。講義料金は、後払いで、職業に就いた後で、給料から差し引かれる形式を取っている。
 大牟田以下三人は、このセンターのスタッフ、大野大造と言う、責任者から案内された。
 大野は三人に事細かく説明し、午前中は重機の取り扱いについて、講義を開いた。
 生徒は20名居て、只で昼食が支給され、皆で昼食のすき焼き弁当を食べた。
 三階はスタッフ達の詰め所になっており、八人程のスタッフが、立ち働いていた。
 午後六時、マイクロバスに分乗していた従業員達が、帰ってきて、現場で責任者から、配られたサインの入った札を、ここのスタッフに見せて、本日の給料を貰う。
 「お疲れさん」
 スタッフ達は皆口々に言い、一日の労をねぎらう。大牟田、八祖島、野本は、一階の休憩室で、労働者達と語らう時間を作る。タバコを吸いながら、計6名の労働者達が、酒を持ってきて、テーブルの上に、紙コップを出して飲み始める。
 「何や、あんたらどこの者や」
 労働者の一人、キネさんと呼ばれている中年の男が、八祖島を見て言った。
 「ハイ、東京の一夜会って所から来てます」
 「そういや、大牟田はんがおるな、又リニアモーターカーの人集めか、あっこは、女少ないさけぇ、行きとうないわ、噂によるとガードマンが、偉い乱暴やそうやないか、駄目だ」
 キネさんは、この労働斡旋所の、組頭的存在で、何もかもお見通しと言った男で有る。
「キネさん、リニアは危険じゃ有りませんよ、一度行ってみてごらんなさい、金になるから現地の女にモテまくりだよ」
 大牟田は、必死に抗弁するが、労働者達は、笑って相手にしない。労働者達の仲間、ヒロさんと呼ばれる男が、ボツリと呟く。
 「最近、大友の友吉が、顔出さないけど、何してん?」
 「あーあの東京もんか、奴は博多でビル工事する言うて、一週間前にワシのテント小屋に挨拶に来てん、心配ないやね」
 三人は、タバコを3本吸い、喫煙所から出る。二階で本日愛心グループのスタッフ面接が有ると言う。どうやら、夜勤のスタッフ募集で、3名程来ると聞いて、見学する事にした。
 二階の講習室に、3名の面接員に混じり、大牟田、八祖島、野本の三名も面接員の席に座る。
 一人目が、ドアーをノックして入って来た。
 「中へ入らせて貰いますわ」
 1人目は、身長170㎝位の中肉中背の男で有った。ザッと配られた、履歴書のコピーを八祖島は目を通す。
 北九州小倉出身。36歳、九州学園高等学校卒業。職歴・22歳から小倉北警察署勤務。現住所・大阪府東淀川ー。家族構成・妻一人、子供一人。資格・大型二輪、大型自動車、大型特殊、玉結び、英検2級、珠算検定1級。
 特技・空手2段、剣道3段、柔道初段、合気柔術少々。語学・韓国語、フィリピン語他
 八祖島は、名前の欄を見てみた。横山友気。
 直ぐさま、特携を何気なく出して、検索して見た。「やはり・・・・・・」八祖島は思わず唸る。特携にはこう示してあった。
 20XX年12月、北九州市小倉で連続婦女暴行事件が、判明した。横山友気は、2軒の犯行は認めた者の、余罪があると見て現在も捜査中。実刑四年三ヶ月、現在大阪府東淀川に、アパートを借りて住んでいる。現在係争中。押収物件に、児童ポルノ多数、輸入禁止ポルノ本も含まれていた。
 面接員の質問は、続いていた。ハキハキしていて、大牟田はとても好感が持てる若者だと、見て取った。横山曰く、退官した理由は、上司との意見の相違だと言っている。
 八祖島は、何も無い様な顔をして、何気なく横山を観察していた。面接が終わると、横山は深くお辞儀をして、部屋から出て行った。面接員の、仁藤と藤本と言う、女性スタッフは、ニコニコして話をし出す。
 「資格持ってるしぃ、あの人ええ人に見えますね、ウチは警察やってた人結構見てるけど、一番爽やかで好感触やわ」
 2人目は、20代後半の女性であった。
 面接は、始まろうとしていた。
 新藤理穂・28歳。現住所・大阪府西成区ーサンデンアパート201号。大阪府立特命館高校卒業。大阪示大院大学英文科・現在院生として、語学を習得中。資格・英検1級、教員免許、漢字検定2級、ソロバン2級、普通自動車AT限定、以上。
 特技・趣味ー英、仏、中、韓国語。ドライブ、喜劇鑑賞。
 自由欄ー労働者の力になれる様、皆様と一緒に楽しく仕事がしたいと思います。子供の頃から人のために、働けたら、と思ってました。人一倍、自分は良い人だと思う。
 面接は続いていた。八祖島は、又もや特携の、人物検索エンジンで、新藤理穂を検索した。
 新藤理穂は、大阪府に2人居て、西成区の方をクリックしてみた。
 新藤理穂・28歳、大阪示大院大学卒業。
 現在無職。3年前、大阪ミナミで、ドラッグパーティーが催された。大学生16人逮捕、その中に新藤理穂も含まれており、他に、売春容疑も掛けられていた。懲役3年執行猶予2年の刑に処せられる。
 現在、西成区のアパートにおいて、半グレグループの大野優大と、同棲中、現在も麻薬を使用している可能性有り、要注意人物。
 八祖島は、何食わぬ顔で、新藤理穂を見つめる。少し言葉に、変な訛りが有るが、裏を知らなければ普通のお嬢様にしか見えない、八祖島にとっては、どうでも良い事で有った。
 「で、親御さんとかは、どないしてはるの?」
 面接員の藤本女史が、新藤理穂の顔を見て尋ねる。
 「はい、京都に引っ越して、住んでます」
 面接はそれで終わり、3人目に移るインターバル中、藤本女史と仁藤女子が、新藤理穂について評する。
 「何か、お嬢さんお嬢さんしてて、頼り無げやわぁ」
 「でも、ちゃんと学校出てる見たいやし、指導員には向いてそうよ」
 真ん中に座っている、川路と言う面接の責任者が、次の3人目の面接者を呼ぶ。
 次に来たのは、少しポッチャリして大柄な女だ。コピーで渡されている履歴書を見る。
 氏名・井岡敬奈・年齢22歳、出身地、大阪府。学歴・府立南泉高等学校卒業・鬼島デザインスクール中退。資格・大型自動車、自動二輪、以上。
 八祖島は、特携で検索を掛けてみた。履歴書以上の物は何も出て来なかった。
 「で、ウチの会を選んだ理由はなんでっしゃろ?」
 藤本女史は、舌鋒鋭く、井岡敬奈に迫る。
 「はい、ダンプ転がしててぇ、建築現場によく行くので、慣れてるからですぅ」
 井岡敬奈は、面倒臭そうに答える。
 「履歴書を見ると、加瀬通運と書いてはりますが、週に何日くらいですやろか?」
 「ハイ、日曜除いて、月から土曜ですぅ」
 「じゃぁ、もし採用になったら、そこお辞めになるのかしら?」
 「ハァ、土曜だけダンプ転がして、稼ぎたいと思いますぅ」
 仁藤女子が咳払いして、渋面を作る。
 「で、井岡さんは将来どうしたいのでしょうか?」
 八祖島は、二人に代わって、初めて言葉を掛ける。
 「ハイ、将来はウチ、絵で食っていこと思いますぅ」
 「絵の方は、お金になるのかな?」
 八祖島はなおも続けて聞く。
 「はい、うちまだセミプロやねんて、名前が出るのは時間がかかるんです」
 一通り面接が終わり、三人は帰って、6人で選考に掛けた。
 藤本と仁藤は、元警察官の横山友気を押す。
 川路は、履歴書を睨み考えている風で有った。大牟田は、興味無さ気にハイライトを、プカプカ吹かす。川路は、元警察は、何かと規制されてて、煩いので女子2人に絞って考えていた。
 「八祖島さんは、誰がええと思います?」
 藤本女史は、八祖島の方を見て笑顔で話を振った。
 「ハァー、前の2人は残念ながら、何か訳ありですね、最後の井岡敬奈が宜しかろうと・・・・・・」
 藤本女史と、仁藤女子は顔を見合わせて、履歴書をもう一度見直す。
 「やはり、八祖島さんもそう思いましたか、あの前の2人は、経歴ばかり立派で何かがあると私も思いました所です」
 川路は、八祖島の感を信じると言って、又明日の日に、改めて選考すると言って、面接は、解散した。
 三日目の朝が来た、今日は少し涼しく、雨がぱらついていた。朝起床したのは、7時で有った。八時頃、朝食が運ばれてきた。今朝は、一関秋保が、給仕をしに来ていた。
 「八祖島はん、お早う御座いますぅ、昨日は良く眠れましたか?」
 八祖島が見ると、秋保は肌の色が艶やかになり、腰つきが妙に艶めかしく見える。八祖島は、朝の勃起を抑えきれずに、ご飯を茶碗にくんでいる、秋保の押さえ押し倒す。
 「あ、今駄目やわぁ、向こうに大牟田さんと、野本はんが居るしぃ」
 「じゃ、俺の物を口で収めてくれ」
 秋保は頷き、ゆっくりと、浴衣の隙間から覗く、八祖島のペニスを口に銜える。
 午前10時、3人は、2階の事務所に、降りて行く。本日は、愛心グループから派遣される、労働者15名と、八祖島の身の回りの世話をする、田中美奈巳が、山梨県の都留に有る、リニアモーターカーの、敷設現場に赴く日で有った。
 大阪愛心グループ会長、若宮佐貴子が、待っていて、八祖島と、田中美奈巳に、訓示を述べて、大牟田一夜会会長に、ぶ厚いA4大の封筒を渡し、野本に謝礼と書いてある、百万円は入って居るだろう封筒を手渡す。
 「では、大牟田さん、それに八祖島さん、美奈巳ちゃんも宜しくね」
 4人は、愛心ビルの、専用駐車場から、東京から乗ってきた、ハイエースワゴンに乗り込み、千本北に有る、労働斡旋所、愛心センターまで走る。
 「美奈巳ちゃん、パンティー新しいのに履き替えて来たかい?ウヒヒヒヒ、八祖島君に嫌われない様にしないとねエへへへ」
 大牟田は、軽口を叩き、田中美奈巳は舌を俯く。車は、5分ほどで、愛心センターの正面玄関に着ける。
 愛心センターの前には、10人程の、労働者がタバコを吹かし、屯していた。
 マイクロバスが、白と紫のラインを見せて、愛心センターの前に止まって、運転手の木山と言う男を、大牟田は見出す。
 ハイエースワゴンから、大牟田と八祖島が、出て行き、運転手の木山に近付いて行く。
 「何や、大牟田はん、随分早かったのう」
 「早かったって言っても、集合時間まで後10分程じゃないか」
 木山は大牟田に、本日連れて行く、人員15名の、名簿を手渡す。そして、八祖島に、手渡す。
 組頭・只野雄次〈44〉、補佐・西山敬示〈36〉、その他、田中米造〈36〉、世良大助〈46〉、今森一平〈53〉、ヨナさん〈62〉、コウジさん〈77〉、前山昇〈56〉、手島公造〈62〉、風助〈41〉、助山仁平〈61〉、金田総鉄〈39〉、三吉幸江〈42〉、中山の勝さん〈41〉、横山世菜〈36〉、何れも手に職の有るスタッフである。
 八祖島は、屯している労働者一同に、名前を呼んで点呼を取る。2人まだ来て居なかった。風助と呼ばれる二つ名の、ホームレスと、コウジさんと呼ばれるベテランが、まだ来て居なかった。
 「あの、この2人の行き先、心当たり有りませんか?」
 八祖島は、組頭の、只野に尋ねる。
 「あー、多分そこの立ち飲み屋で管巻いてんんのやないのけ?」
 補佐の、西山敬示が走って、近くの立ち飲み屋から2人を連れて来た。2人は、ズタ袋を引っ提げて八祖島の前に現れて、悪びれもせずに、「ご苦労」と言って、勝手にマイクロバスに乗り込む。手には一升をぶら下げて居た。
 マイクロバスに乗る前に、八祖島は、皆に挨拶をした。
 「これから、俺がリニアの現場で差配する、現場監督の八祖島だ、酒を飲んでも良いが、程々にしないと、大けがの元だぞ」
 それだけ言うと、皆マイクロバスに乗せて、八祖島と大牟田は、野本の運転する、ハイエースに乗り込む。いよいよ出発で有る。
 この労働者達は、支度金10万円を貰い、1人に付き、神能建設から、愛心グループに、30万円が入る。車は、小雨交じりの、街道を走り去って行った。
 深夜になっていた。中央自動車道を、名古屋から入り、長野県を経て、山梨県大月で降り、下道を使い、山梨県都留に有る、リニアモーターカー・建設村と言う、授業員が眠る、宿泊施設に入った。建設村は、高い塀で囲まれ、東西南北にゲートが有り、マイクロバスと八祖島を乗せた、ハイエースワゴンは、正面ゲートから、闇夜をゆっくりと、入って行く。この宿舎は、約千名が寝泊まりし、その警備に当たる者は、約百名、通称マッドガードナーと呼ばれる、神能建設の警備保障会社の社員で有った。
 ハイエースワゴンは、先頭に立ち、正面ゲートを守衛する、マッドガードナーの、立ち番の者に、入門証を提示して、中へ入って行く。
 建設村には、そこかしこに、ガードマンが立ち、特殊警棒で、宿泊民を威嚇し、見回っている。
 八祖島一行は、第2棟特別寮と呼ばれる、棟に入り、八祖島の部下になる、15名は、第10棟の空き部屋に入っていく。
 「じゃぁ、お荷物を降ろしたら、寝て下さい、お疲れでしょう、307号室が八祖島さんの部屋です」
 寮を預かる、責任者の、久元と言う、中年の男が、部屋の鍵を、八祖島に渡し、大牟田と野本は、ゲストルームに消えて行った。
 八祖島と、田中美奈巳は、307号室へ、荷を運んで入って行く。
 「今日は、疲れたろう、もう寝ても良いぞ、仕事は明後日からだと聞いた、お前の部屋は、そこの6畳間が有るから、ベッドでぐっすり寝れば良い」
 部屋は、3LDKになっており、田中美奈巳は、6畳間を与えられて、荷を運び込む。
 八祖島は、荷を放置して、ベッドに横たわる。気が付くと、3時間ほど寝ていた。朝の3時になっており、大阪からこっちの疲れが、少し癒えてきていた。朝立ちをするペニスを見て、八祖島は苦笑を漏らす。この年になっても、まだ女を欲して止まない自分の性に、反面呆れていた。
 朝6時まで、備え付けのTVを見ながら、手荷物に入って居た、ブランデーをチビチビ飲みながら見ていた。
 何時しか、又眠っていた。8時頃、部屋へ現場を管理する、大頭の新田と言う、中年の男が訪ねてきた。八祖島は新田と会い、木曽谷の工事について、話を聞いた。
 9時、美奈巳と2人で、少し遅い朝食を食べた。美奈巳は、終始無言で、ホームシックにかかってる様に見える。八祖島も無言で、ケロッグのコーンフレークを食べる。
 昼になった、大牟田と、野本は、これで帰ると言って、挨拶をしに来た。
 「いや~、八祖島君に美奈巳ちゃん、私め等はこれで帰るので、2人仲良くやってくれ、これ、少ないけど給料出るまでの足しにしてくれ」
 大牟田は、ポケットから、封筒を出して、テーブルに置いて行く。後で中身を見てみたら40万円入って居た。
 大牟田と野本に、八祖島と美奈巳は、礼を言い、2人は東京のNPO法人一夜会に、帰って行った。
 昼過ぎに又、八祖島、眠った。旅の疲れか、妙に体がだるい。美奈巳の姿が見えないと思って、トイレに立つ。バスルームで、鼻歌を、歌いながらシャワーを浴びている音がする。
 「そろそろ、女にしてやらなくちゃ可哀想か」
 八祖島は、苦笑を漏らしながら、バスルームの前で全裸になる。そそり立つペニスは健在だ。49歳にして、この精力は何処か異常か?いや、男の証だ。八祖島は、自分に言い聞かせて、バスルームの扉を開く。
 「あ、八祖島さん・・・キャッ」
 八祖島は、美奈巳が処女で有る事に気が付いていた。後から抱き付き、そそり立つペニスを、胴体に密着させて、うなじを舐め回す。
 「あん、やめて・・・・・・下さい・・・」
 「いつかこうしなきゃ、駄目なんだ、一緒に暮らして行かなきゃならないからな」
 美奈巳は、納得した様で、八祖島の愛撫を受け入れる。バスマットの上に、美奈巳は横たわる。八祖島は、美奈巳のデルタ地帯に、ペニスを擦り付けて、美奈巳の口を、激しく吸う。滑る、舌と舌、ペニスとヴァギナが激しく交錯し、徐々にゆっくりと、亀頭を、潜入させていく。
 濡れて来た、八祖島は、思った時、一気に貫く。
 「あ~ふ~ん、ハァハァー」
 美奈巳の口から吐息が漏れる。
 「う~ん、とてもスウィート、マイベイベェ」
 八祖島は、腰のピストンを早めて、膣壁とペニスの粘膜結合を味わう。
 美奈巳は、ラヴジュースを大量に、垂れ流して、バスマットを濡らす。
 美奈巳は、雌の臭いを、発散させて、八祖島は、美奈巳の中に、放出する。まだペニスは起っていた。
 「あはぁ~あは~、八祖島さん、ウチ大好きやねん」
 その時、美奈巳の中が強烈に締まる。
 八祖島は、言った。
 「美奈巳、愛の証を、注入してやる、ウッウッ」
 その時、八祖島の性液が、大量に射出されて、美奈巳は笑いながら、眠った様な顔になる。八祖島も、美奈巳の上に仰臥する。
 2人は、手を繋ぎ合い、バスルームで浅く眠った。シャワーが落ちてくる、その湯が何とも心地よかった。
 台風一過が過ぎ去った。十月の良く晴れた日、野中正男は、株主として、大建吉美組の、会長・米沢大鉄に、退任を要求した。この不信任は、社長・仁政正也、重役数人に依って、決議され、GOYOO社から、楊・宗男と言う、GOYOO建設の前会長が、新たに吉美組の会長に、収まった。楊はまず、吉美組の重役3人を、解雇し、社員23名をリストラした。事実上、米沢大鉄の勢力は、一掃された。元請けで有る神能建設から、顧問として、創業一族の熊谷安春を、迎え、これで吉美組は、心機一転し、GOYOO社のグループ企業になって行った。
 NPO法人一夜会は、そのまま独立して存続し、八祖島は、現場監督として腕を振るっていた。八祖島は、連日トンネル工事、レール敷設と、多忙を極め、宿舎に帰ると、美奈巳の激しい性欲に、翻弄されて疲れていた。
 此処に来て、半月余り、余り自分の時間が持てなくて、ある土曜の夜、仲間と町に繰り出していた。
 山梨県大月にある、スナックに、同じ現場のスタッフ数名と、酒を飲んでいた。
 そんな時も、美奈巳から携帯電話に、引っ切りなしに、電話が掛かってきていた。
 「おう、今大月で、仲間と飲んでいる、もうすぐ帰る、ん、女?居ない店だ安心しろ、うむ分かった・・・・・・」
 八祖島が電話を切ると、隣の現場の責任者、根川、そしてその助手山田が八祖島を冷やかす。
 「いやぁ~参ったね、愛妻家振りには、毎晩大変だろう、あんな可愛い娘じゃ、俺の所の女なんか、あそこがただれて、嫌なんだよナハハハ」
 根川が笑い、山田も吊られて言う。
 「女何かね、河口湖辺りに、ピクニックに来てるの、ナンパしてりゃ良いのよぅアハハ」
 3人は、午前0時まで飲み、建設村へ帰った。深夜門限が過ぎていたが、平気で車で乗り入れようとした時、正門を守るガードマンに、ゲートを閉められて、車を停止させられた。根川は怒って、車から飛び出していく。
 「オイ、何だよ、第六班の根川だ、何で車停めるんだバカヤロウ」
 「あ~第六班の根川さん、門限破りですよ、規則忘れたのですか?」
 根川は、ガードマンに殴り掛かり、ガードマンは、特殊警棒を出して、根川の後頭部を殴る。八祖島と山田も降りて来、ガードマンと乱闘になる。八祖島は3人倒し、根川は、10人やって来たガードマンに押さえつけられ、連行されて行った。山田も同様に何処かへ連れられて行く。何故か八祖島だけは宿舎に帰された。
 その日から、根川と山田の姿が見えなくなり、八祖島は、深夜ガードマン本部の回りを探索して見た。ガードマン本部は、西側の甲府方面に有り、建物には、(株)神能ガード保障と看板が出ており、色んな施設が揃っていた。八祖島は、中へ侵入できないのを見て知り、裏の方へ回ってみた。
 裏の方は、大きな焼却炉が有り、八祖島は、近くへ置いて有った、火箸で掻き混ぜてみた。下の方の灰から人骨の破片が出て来た。八祖島はそれを、特殊警察携帯のカメラを、赤外線に切り替え、シャッターを押す。
 裏に見回りに来た、警備員3名に見付からない様、走って裏口の方へ逃げた。
 それから1ヶ月が経ち、在る日曜日、八祖島の宿舎に、面会したいと言う労働者が、1階ロビーに現れた。何時かの浅草で一緒に、【ヒマワリ】で寝泊まりした、時田念一で有った。念一は、黒く日に焼け、黒々とした髭を蓄えていた。八祖島の顔を見ると嬉しそうに笑顔を作る。
 「久し振りです八祖島さん、木曽谷のトンネル工事から、長野の方面に現場が移って来ました」
 「ほう、下谷さんの所か?、あそこは、一番過酷だと聞いたぞ、俺が班長に話し付けて、俺の下でやるか?」
 念一は、八祖島の下での作業を希望して、翌日、山梨県の駅工事の、作業員の一人として入った。
 八祖島は、時田念一を、大頭に頼んで、助監督として抜擢した。念一は嬉々としてその木曽谷の工事での経験を、生かした。
 時田念一が、助監督として働く様になってから、約一ヶ月、十一月の寒気が、シベリアから運んでくる高気圧で冷たい日、部下の一人、米山と言う男が、神能建設のガードマンと些細な事から言い争いになった。
 米山は、面会に来た妻を、現場事務所に入れて、お茶を出していた所、ガードマンはそれを見とがめて、関係者以外の立ち入りを禁ず、の規則を破ったとして、米山をガードマン事務所に連れて行った。
 「何やアホ、ちょっと中へ入れただけやんけ」
 ガードマンは、責任者の田川という男が出て来て、三人掛かりで米山を、殴打した。米山は後頭部に一撃貰い、救急病院に、搬送された。その夜脳内出血で、八祖島が見舞いに来た所、この世を去った。
 八祖島は、この事件の事で、神能警備、第12班の責任者、田川に猛抗議しに、山梨県の山村に有るガードマン詰め所に押し入った。田川は、知らぬ存ぜぬ。
 「あの男は、階段で足を滑らせて、頭を打っただけだよ」
 その言葉に、激怒した八祖島は、国土交通省に、この現場の実態調査をする様に、タレコミの電話と、長文に渡る手紙を書いて、調査を依頼した。他の現場監督も連名で、従業員の署名も添えて出した。
 2週間後、厚生労働省の役人と、国土交通省の役人の査察が入った。
 約13名の調査チームが、来る予定で有った。その事は、以前から週刊誌や、月刊木曜日と言った、告発雑誌でも取り上げられており、密かに話題になっていた。
 八祖島と、有志8名の現場監督は、その夜、NPO法人一夜会の会長、大牟田定次の来訪を受けた。建設村のゲストハウスの食堂で、NPO法人一夜会のスタッフ6名と会い話し合いの場を設けた。
 まず、八祖島が代表になり、大牟田に事のあらましを説明した。しかし、大牟田は、神能警備保障の側に立つ人間で、八祖島の言い分など一向に聞いていなかった。
 「しかし、現実問題、我々スタッフ、作業員の、行方不明者は、後を絶たない、これは、一体どう言ったことで?」
 八祖島は、出されたビールを飲み干し、ゲップを漏らす。大牟田がそれに答える。
 「それは、君の勘繰りすぎだ、行方不明者と思われる、作業員達は、ちゃんと病院に入院している、警備会社の人達がそんな事するわけは無いだろう」
 他の監督達は、一様に首を捻り、山形という監督は、入院したなど、一言も聞いてないと言う。労災の手続きが有ったのは、此処半年で、3件しか無かった。
 「それは、私共にもあずかり知らぬ話だ、労災の事は神能に聞いてくれ」
 この月の、在る月曜日、大建吉美組は、株式会社・御用建設と名を変えて、新しくスタッフも送られてきて、神能建設と一体になり、事件隠しをしていたと、八祖島は考えた。
 厚生労働省、国土交通省の、査察の日が来た。神能建設、大建御用建設の、重役達が同行し、平穏な現場、完成間近の施設など、関係の無い現場を見せて、一日目の視察は終わった。その夜、役人達を迎えて、甲府の街で、乱交パーティーを催した。その中に、野中正男の顔が有り、この視察チームのリーダー、釣野洋樹と言う男と、VIPルームで談判した。釣野は、建設畑一筋で、金に転んで、何度かゼネコンに丸め込まれているとの情報を、野中は得ていた。
 「して、GOYOOの野中さんが私に何用かね?」
 釣野は、今年で54歳、脂が乗り切った、苦み走った風貌の持ち主だ。
 「この件は、今後私共の社の方で、改善して行きます、これを納めて下さい、税金の掛からない金です」
 野中は、アタッシュケースから、八千万円の金を出し、百万円の束を、テーブルに積んで、釣野はそれを黙って、秘書にバッグに詰めさせた。この金は、神能建設と、折半して、出させた金で有る。
 「ウム、この金の名目は何?」
 釣野は、今年で国土交通省を退官し、参議院選挙に打って出ようと目論んでいた。
 「名目は、口止め料です、八祖島の書いた事は本当ですが、この金で黙って居て貰いたい、会社の体質はこれから改善していくつもりです」
 野中と、釣野は談合し、次の日の査察はおざなりの、見学になった。
 八祖島は、この事を、厚生労働省の草加部と言う、官僚から査察最終日に愚痴として聞いた、特携で録音させて貰った。
 GOYOO社の、御用建設を追求するかどうか迷った。
 秋も深まり、11月の風が吹いていた。米沢大鉄は、神能建設の株を52%程入手し、いよいよ神能建設の会長一族の、追い落としを目論んでいた。まず、米沢は、株主会議を開き、神能建設会長、熊谷元示の追い落としに掛かった。会議は平行線に終わり、会長の退陣は、一度の会議では実現できなかった。米沢は、更に株を買い集め、62%と乗っ取りに成功したと言っても過言では無かった。
 米沢大鉄、悠々自適に暮らし、神能乗っ取りの、絵図面を描いていた。
 神能建設会長の熊谷は、在る日GOYOO社の野中正男と、会食していた。
 「野中さん、米沢大鉄は、怪しからん男でのう、我が社を食い物にしようとしてけつかる」
 「ホウ?大株主になって次は何を企んでるのですか?」
 「勿論、我が社を乗っ取りワンマン企業にして、又、関東で博徒団体を形成したいとの噂じゃ、あ、コレはこの間借りた、BDディスクじゃ、時代劇は楽しいのう、これでワシは帰る、米沢の件は、アンタに任せたよ」
 熊谷元示は、大きなアタッシュケースを置いて、残したまま、料亭の座敷から出て行く。
 野中が、アタッシュケースを開けると、一億円程の金が入っていた。「ウム」と唸り、料亭で一人、チビリチビリと酒を飲んでいた。
 3日後、米沢大鉄の乗る、アウディクワトロは、銀座の街を走行し、首都高に乗る。
 渋谷に出るために、分岐点で車が渋滞する。新宿方面に行く車と、車の間に、大型ダンプが走っていた。大型ダンプは、約160キロ程の、スピードで、右車線から、渋谷方面渋滞の車列の中に止まっている、アウディクワトロ目掛けて突っ込んでくる。周りに居た10台を巻き込み、米沢大鉄の乗るアウディに直撃した。運転手の宮本は即死、米沢大鉄は重体になり、30分後お茶の水に有る、国立病院に救急搬送された。
 その夜、一人の看護師の女が、救急治療室に近付いて来た。顔面半分が潰れた、米沢大鉄の、酸素ボンベのスイッチを切る。米沢大鉄は、2分後あの世に旅立っていった。
 一体誰が、酸素吸入器のスイッチを切ったのか?は、病院側も不明のまま終わった。監視カメラに映った女は、病院の人間じゃ無かった、警察の追求にもかかわらず、この事件はうやむやに、終わった。
 米沢大鉄の持ち株は。京都に居る、本妻の米沢明美と、東京に住む、米沢の愛人、幸子に遺産分けされた。幸子はこの株を売って、足立区に一軒家を建てて、一人で暮らしていた。
 米沢大鉄一家は、十一代目、浅加一平が跡を継ぎ、組員は全国にバラバラになっていった。事実上米沢大鉄一家は、解散に近い状態になっていった。
 在る一月の夜、八祖島は、甲府の街へ車を走らせた。米沢大鉄十代目の惨殺、そして、神能建設と、官僚の裏金問題、更に、ガードマンの殺人事件の証拠を持って、カエデ・サンタクルースに、証拠の入った特殊警察携帯を持ち、喫茶店、スター・ボックスで待ち合わせした。喫茶の前で車を乗り捨てて、中へ入る。中には客が疎らにしかいなく、5人ほどの客の中に、公安生活安全課の、課員、大矢英樹と言う、若手の男が座っていた。
 八祖島は、近付いて行き、暗号の合言葉を言う。
 「山本ノリ食うか?」
 男はそれに答えず、BOX席で座っていた。
 「オイ」八祖島が、大矢の肩を揺すると、ドサリと、床に倒れて、口から血の塊を吐いた。死亡していた。八祖島は、恐怖に駆られて、表に停めてある、現場から乗ってきた、三菱社製・ジープに乗って走り逃げた。後方から誰も追って来ないが、何か魔物でも居るかの様な錯覚に囚われて、アクセルを目一杯踏む。気が付くと、八王子の自宅マンションの前に立っていた。
 自宅の在る、402号室へ、鍵をポケットから取り出して入って見る。中から、ムッとした熱気とも、冷気とも付かない、何とも言えない空気が八祖島を襲ってくる。何せ半年以上この八王子のマンションを空けていたので空気が籠もって生臭い。
 「美世・・・・・・」
 八祖島の頭に、別れて暮らしている、妻の名がよぎり、直ぐに打ち消した。光熱費は全部銀行引き落としなので、部屋の電気は点いた。中は、半年前と変わらぬ風景、者の置き場所も移動されてない。
 八祖島は、寒気を感じ、部屋のエアコンで熱気を入れる。冷蔵庫に、入って居る、肉類や卵は、腐って萎びていた。好物の、魚肉ソーセージを出して、ワインで一盃やる。
 TVを点けて、衛星波でやっているニュース専門番組を見る。スター・ボックスでの殺人事件のニュースはやって居なかった。
 特殊警察携帯を取りだして、着信履歴を見る。着信は13件、どれも野中正男からで有った。
 「ハイ、こちら八祖島です・・・・・・」
 八祖島は、野中正男の特携に、エマージェンシーコールで発信してみた。
 〈野中だが、急用が有ってな、八王子のマンションに帰ってるらしいな・・・・・・〉
 「ハイ、流石野中さんですね、で、電話では話せない用件ですか?」
 野中は咳払いをして、今から八王子のマンションに行く、とだけ言って切る。
 深夜に入って居た。1時半、野中のトヨタ86がマンションの来客用スペースに入って来た。八祖島は、窓辺に佇んで、ラークマイルドを燻らせていた。
 3分後野中が、入って来た、マンションの部屋の鍵は開けておいた。野中はリュックにボストンバッグ、買い物袋を持ち入って来た。
 「いや~八祖島、腹減っただろう、今夜はすき焼きの用意をしてきた、2人でゆっくり飲もう」
 八祖島は、台所から、底の深いホットプレートを出して来て、冷蔵庫に有ったビールを出して、まずは乾杯した。
 30分後、二人で野菜と肉を切り分けて、大皿に乗せて、ホットプレートにラードを引き、肉と野菜を交互に火を通す。
 ビールを入れて、砂糖と醤油で味付けしていく。生卵を小皿に入れて、半生の牛肉を二人で突く。
 「現場の方はどうした?任務は終わったのか?」
 「一応、一通り調べてみました所、責任者は、言い逃れをし、マッドガードナー、神能の警備員の事です・・・・・・」
 「それは知っている」
 「マッドガードナーの殺人事件は、皆うやむやに、誰かに闇に葬り去られてしまいました」
 野中はそれには答えず、ボストンバッグから一千万円の束をポンと座敷に置く。八祖島は疲れていた、野中の顔を睨み据えて言った。
 「この手で、役人を黙らせたのですか?」
 「この金で海外へ行ってくれ、お前の名義の、偽造のパスポートもここに用意して有る」
 野中は、パスポートを、ポンと八祖島に放り、ビールをかぶりと一気に煽る。名義は八祖島安志・年齢は46歳となっていた、その他全て、偽造の物だが、日本国の政府が発行していた。
 ーつまり、俺は生きている幽霊なのか?全て、名前も、戸籍も消されてしまって、日本人安島は何処にもいないのか?ー
 「分かりました、コレが目当てでしょう?」
 八祖島は、特殊警察携帯電話を、野中に渡す。メモリーカードを3枚も付けてだ。
 「ウム、良く分かってるじゃ無いか、3日経ったら、自由に行動してくれ、お前のワイフの所に行っても良い、とにかく国内から出て行って貰いたい」
 野中は、朝方4時まで居て積もる話をして帰って行った。
 翌日、夕方に目が覚めた。特殊警察携帯も、警察の身分証も、野中に渡し今は任務から離れていた。
 深夜2時、埼玉県の新座市に赴いた。山王課長の自宅の前で、ジープを停めた。尾行は着いていなく、何度も後ろを振り返り、人影を探すが野良猫が一匹歩いているだけで有った。
 深夜なので山王宅の玄関から入らず、塀を乗り越え庭から侵入した。三角割りで、居間のガラスを割り、ドアロックを外す。
 居間からヒタヒタと、侵入して、嘗て知った山王家の、課長の寝室に入る。ベッドでぐっすり寝ている、山王の額に、ペットボトルから水を垂らす。
 「ウム?誰だ貴様は?」
 「私です、八祖島です・・・・・・」
 「おう、生きていたか、何だこんな夜中に、しかも強盗の様な真似をして・・・」
 山王課長は、電気を点けて、妻を起こさない様に、応接間に八祖島を通す。
 「何か火急の用事でも有るのか?君の命は日本国政府の一部の者が狙っている、野中君に海外に逃がして貰ったんじゃ無いのか?」
 山王は棚からブランデーを出して、2つグラスに注ぐ。
 「ハイ、最終報告に来ました、このマイクロSDカードに、神能のやった事は、データとして入ってます、予め自分のスマホにコピーして取っておいた物です・・・・・・」
 山王は、小さな包みに入って居る、マイクロSDカードをポケットに仕舞い、ブランデーを傾ける。
 「で、君は、今後日本には居ない方が良い、横須賀の、スティーブという男に、君の身柄を預ける事を今思い付いた、彼はCIAのエージェントを昔していた、早い内に行ってくれ、私の身も危ないからな、アハハハ」
 山王は、紹介状を英文で書いてくれて、地図と住所も渡されて、八祖島は、山王家から辞去した。
 その足で、三菱ジープを駆り、江東区の美世との愛の巣に行った。八祖島専用駐車スペースに、トヨタ86、野中の車が停まっているのを遠目で見て、諦めて横須賀へ向かった。
 早朝6時、横須賀の山間に有る、スティーブの自宅へ八祖島はジープで乗り付けた。高級住宅街に有る、スティーブの自宅は、CIAの退職金で、今は悠々自適に暮らしていた。横須賀の街中で、サイドビジネスとして、日本蕎麦屋を営んでいた。八祖島は、スティーブ家のチャイムを、朝の8時半を待って鳴らす。出て来たのは20代前半の、スティーブ家のホームヘルパーの女で有った。山王からの、紹介状を見せて、元CIAの大佐、ジョーン・スティーブの家に上げて貰った。スティーブの居間十畳ほどの、暖炉の有る部屋へ入り、八祖島に握手を求めた。
 「話は分かった、2日後、横須賀から本国に帰る、駆逐艦・セントレールと言う船が有る、それに密航して、ステイツに入れ、一週間後着くはずだ、私が手配してやる、ヤソジマ」
 八祖島は2階の1室を宛がわれた。ホームヘルパーの、諸星アカネと言う女に、世話をして貰って、スティーブも夫妻に手厚く迎えられた。初日の深夜、諸星アカネは、バスルームに入って居た。八祖島はトイレに立ち、女の喘ぎ声を聞いて、コッソリバスルームの中を覗いた。アカネは自慰にふけってい、八祖島は可哀想になり、全裸になりバスルームに入る。
 アカネは、八祖島のそそり立つペニスを見て、「ウフフ」と含み笑いを漏らす。八祖島は、良く濡れきって熟れている、アカネをバックから犯す。尻を上に突き出して乳液の様な愛液を迸らせて、八祖島のペニスの味をアカネは味わう。アカネは脳天から手足に電流が走り、一気に小水と共に愛液を出し、イク。八祖島は腰をグラインドさせて膣壁を丹念に愛撫した。
 「あんあんはぁーん、八祖島さん私嬉しい、ああ良くなってきた、アナタの物が一目見た時から欲しかったのーあー気持ち良い~」
 八祖島は、バックオンリーで雌の臭いを発散させている、アカネを犯した。15分後八祖島は、果てた。
 「ウム、また俺の方も良くなってきた、ヒダが亀頭にからんで・・・・・・」
 八祖島は、抜かずに5回は、気をやる。
 次の日は、良く晴れた。スティーブの庇護の下、八祖島は安心して、近くの鎌倉へ一人で見物に出掛けた。
 その頃、スティーブの家へ、一人の青年が訪れていた。保険の外交員だと名乗り、スティーブも暇を持て余して居たので家へ上げる。
 家へ上がった途端、男はベレッタの自動拳銃を抜き、まず、ホームヘルパーのアカネを射殺した。まだアカネの息が有るので持っていた、ジャックナイフで、喉元を切り絶命させる。その音に気付いたスティーブは、妻を二階に避難させて、棚に飾ってある、S&Wのリボルバーを取りに後を向く。その時ベレッタから3発の銃弾が発射されて、スティーブの心臓に一発入り、絶命した。スティーブの首と胴を切断して切り離し、庭に首を投げる。庭で飼っていたドーベルマンがこれを食ってペチャペチャと血をすする。
 スティーブの妻は2階からロープで首を吊られて、眼球が飛び出し、舌を垂らして脱糞して死亡した。
 八祖島は、この惨状を見て、恐怖に駆られて、その場から逃げ出した。
 5日程経った、八祖島は、大枚を積んで、福岡の港の漁師の舟を雇った。その舟、一平丸は、中規模な船体を持ち、海外脱出には持って来いのの船と見て取った。船長の黒田は、八祖島から500万円渡され、韓国釜山の港への脱出を手伝う事になる。
 「八祖島さん、今夜出港するバッテン、時間には間に合う様にしてくんしゃい」
 八祖島は「分かった」、と一言言い残して、博多の街をブラついていた。
 街中で、後から銃を突き付けられてビルの隙間に、引き摺り込まれていく。
 「八祖島さんですね、今日はアナタの命日です」
 男は、ベレッタの銃をスライドを後退させて一発薬室に装填させる。その時、八祖島は後蹴りで男の金的を蹴り上げて、悶絶させる。男はベレッタを取り落とした。八祖島はポケットから3連発入りのデリンジャーピストルを出して、その男を射殺した。
 その夜、午後八時、八十島は船に乗り込んだ。八時半、船はゆっくりとした速度で港から離れていく。
 波頭が白い飛沫を上げて船を凪ぐ、船首にカモメが羽を休めて一息ついて居るのを見る。
 「八祖島さん、明日の深夜一時頃には釜山に着きますバイ、ゆっくり眠って居てくんしゃい」
 八祖島は、キャビンに入り、浅く眠って居て、深夜小便をするためにデッキに出ていた。
 その時、船首に衝撃が走った。魚雷が二発、一平丸目掛けて、水中を飛来してきた。
 三発目、船長は面舵を取り、魚雷を躱そうとしていた。
 その直後、一発、船体に命中して、木っ端微塵に吹き飛んだ。八祖島は空中に投げ出された。
 「ああ、俺の人生って何だったのか?野中に復讐するまで死ねない・・・・・・」
 気絶しながら海へ落下していく。
 約8キロ向こうで自衛隊の駆逐艦が演習をしていた。
 野中は、八祖島の死亡のニュースを知らされていなかった。政府要人・倉田勝に、その話を聞いて、皮肉な笑いを浮かべた。GOYOO社はこの件から手を引いていたので有った。                終
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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