第1話

文字数 1,110文字

「僕さ、カレーラーメンが大好きなんだよね。大好きだからこそ、カレーラーメンで失敗したくないんだよね」
 思いの外、残業が早く終わったので、この後なんか食べていこうかってなったときに、同期が急に自分語りを始めた。カレーの話すらしてないのに。どちらかと言えば、今日は肉系が食べたい気分なのに、急にカレーラーメンの話をされた。

「分かる。好きなものは失敗したくないもんな。失敗したくないといえばさ、最近できたスペイン料理屋のチキン南蛮、成功者の味がするんだって」
 あいにく、カレーラーメンの話なんか興味はない。カレーうどんどころか、カレーライスですら、年に2回程しか食べない俺が、カレーラーメンに興味を持てるわけはない。話題を変えるため、チキン南蛮という料理を頼った。

「結構、珍しいって言われるんだよな。カレーうどんの愛好者はいるのに、カレーラーメンの愛好者ってなると、真冬に半袖半ズボンで散歩する若手俳優くらい少ないんじゃないのかな」

 えっと、話聞いてた?
 こっちは、成功者の味がするチキン南蛮の話をしたんだけど。成功者の味がするチキン南蛮だよ? 美味しいチキン南蛮ならまだしも、成功者の味がするチキン南蛮って聞いて、食べたくならないもんかな。俺だったらそんなもん、興味しかわかないね。

「……チキン南蛮ってさ、唐揚げに比べたらさ知名度低いかもしれないけれど、うちのとおちゃんの故郷の郷土料理だからさ、俺大好きなんだよね。とおちゃんはさ、本当はアイドルになりたかったみたいなんだけど、かあさんと出会ってその夢を諦め、一般企業に勤めることにしたんだって。アイドルになることだけが、成功ってわけじゃないけど俺自身も成功者とは言えないからさ、知りたいんだよ成功者の味ってやつをさ」

「カレーとラーメンを組み合わせた人っていったい誰なんだろうなって時々考えることがある。だってさ、その人がいなければ僕がカレーラーメンと出会うことも、カレーうどんに嫉妬することもなかったわけだからさ、ある意味、カレーラーメンっていうのは成功者が作り出した食べ物だと思うんだよね。だって、カレーライス、ラーメンという完成された料理がありながら、その2つを掛け合わせようとした人がいるんだよ」

 ……ダメだこいつ。話通じない。

 結局、俺が折れてカレーラーメンを食べに行くことになった。スペイン料理屋の隣の隣にある味噌ラーメンが有名なお店で、2人してカレーラーメンを食べた。
 温泉玉子とチーズと白髪ねぎと大蒜をトッピングした。同期が奢ってくれるなんて言うもんだからお言葉に甘えて、贅沢に4品もトッピングした。

 感想は一言
「めちゃくちゃ美味しいやんカレーラーメン!」 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み