第1話

文字数 1,094文字

笛が鳴る。それと同時に動きだす民衆、指揮する王はいない。理由は簡単、遊びだからだ。

 ぼくはこの遊びが嫌いだった。だって上手くいかないんだもん。いつも上手いやつだけが、偉そうな態度をとるんだ。早く終わってしまえばいい、そう思いながら開始されたのだった。
 すかさず、ぼくの目の前に"丸"が来る。思い入り遠くに飛ばそうとするも、まるでぼくらは「埼玉の田舎の舞踏会」のように、ギクシャクしたステップを互いにする。すると、周りから小鳥のさえずりが聞こえてくる。溜息を付きたくなる気持ちを押し殺し、またいつでも綺麗なステップができる態勢を整える。

"今度こそは"

 その願いも虚しく、舞踏会はいつでもやってきた。小鳥の鳴き声は更に大きなものへとなっていった。長いようであっという間だった、のかもしれない。鎧兜を深く被り、次の笛が鳴るのを外で待っていた。
 
「さぁ、他の奴らはどんな感じかな」

 笛が鳴り始まる。ただ淡々と進んでいった。淡白すぎる卵白であった。周りの小鳥もすっかりと元気を無くしていた。ぼくがやった遊びより高度でありながらも、場は白く染まっていた。どうしてだろう、彼らのステップは、ぼくより遥かに綺麗だ。
 16歳の眉毛の太いぼくは気づけた。ぼくのステップは埼玉の奥地でやる民族ダンスなんかじゃなかった。フランスのパリ、ましてや凱旋門前で歓声を浴びられるものだったのだ。気分は上場、一流企業さ。我慢できず、カパカパと鎧兜を音立てながら歩き、近くにいた小鳥に自慢する。


 しかし、小鳥はこう言った。
「違うよ。君のはパリでもフランスでも、ましてや埼玉なんかでもない。ただの吉本だよ。」

 理解できるけど、理解したくなかった。ぼくが民衆を、そして小鳥たちを楽しませ、笑顔にさせているんじゃなかった。させてなんかいなかった、されていただけだった。その日、一度も鎧兜を浅く被ることはなかった。16歳の眉毛の太いぼくは気づけなかった。



 ただの球蹴り大会。ただの学校の行事。しかし、ぼくにとっては重要だった。新しい環境は男子だけの空間ではなかった。ここで決めれば、みんなの注目を引ける大チャンスだった。結果、ガチャは大爆死。地位は一気に下になった。
 しかし、1人の小鳥が興味を持ってくれた。勿論、吉本呼ばわりしたアイツではない。小鳥自身も、どうして興味を持ったのかは分からないらしい。ぼくに球蹴りの才能なんかは無かった、けどそれでいいんだ。ぼくらしく生きていたら、見てくれている人はいた。鎧兜だっていらない、捨ててしまえ。

ありのままで生きる。

ぼくは、眉毛の太い人間だ。


 
  


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