第1話

文字数 1,134文字

みなさん、こんばんは。
私は彼と同じ病室だったミゼフというものです。

もしかしたら、私の事をどこかで見たことがある方がいるかもしれません。仕事上、私はテレビに顔を出さなければなりませんから。
私が世間の皆様の嫌われ者であることも、十分に承知しております。それは私自身が選んだ生き方ですので、今更言い訳をするつもりはありません。
しかし今日、この場所だけはどうかその肩書きは捨てて、ただの一介の老人の言葉と思い聞いてくださると幸いです。

私は彼との思い出を多く語ることは出来ません。彼と初めて話したのは、今から三ヶ月前。私たちは出会うのがあまりにも遅すぎました。
ですのでこの場では、この三ヶ月で私と彼がやったことの話をさせてください。


お互いの寿命が残りわずかだと分かったとき、私たちが最初にやったことはやりたいことを紙に書くことでした。
それがこの紙です。
ここには私と彼が三ヶ月でやったことがびっしりを書かれています。

『ベットに埋まるくらいのたくさんのお菓子を食べたい』✓
『飛行機に乗ってみたい』✓
『家族みんなで遊びに行きたい』✓
『世界一の美女とハグ』

ああ、失礼。これは私が書いたものですね。
とにかく、私たちはここに書いたことを時間の限り二人で実行していきました。
ベットから溢れるほどのお菓子も食べたし、医者に無理を言って飛行機にも乗りました。
あの時間は何にも変えられない、素晴らしいものでした。
もうどこにも行けないと言われていたのに、私たちは海を渡ることが出来たのです。

気づいたときには、私の生きがいはこの紙にチェックを入れていくことに変わっていました。
日に日に埋まっていくリストを見ると、充実感と達成感が私の心を満たしていきました。そして次第に死に対する恐怖も次第に薄れていきました。
それは彼と出会う前の私からでは想像も出来ないことです。

『朝起きてやりたいことが一つでもあれば、それだけで生きていくのが楽しみになる』と彼は言いました。
全くもってその通りです。

身勝手に聞こえたら、残念なのですが、
彼の人生最後の数ヶ月は、私にとって最高の日々でした。
彼は人生の恩人です。


最後にこれを見てください。

『奥さんと仲直り』

これは彼が私の知らないところでリストに追加したものです。
多分彼は私が一人で死んでいくのを心配してくれたんでしょう。
今日はこれともう一つの項目にチェックを入れてから、話を終えたいと思います。

『奥さんと仲直り』✓
『世界一の美女とハグ』✓

彼のご家族と親族の皆さんに深い感謝を申し上げます。
私をこの場所に立たせてくれて本当にありがとう。
私に残された時間はわずかではありますが、死を恐れている時間は私にはありません。
前を向き、今できることを懸命にこなして生きていこうと思います。
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