第1話

文字数 1,529文字

いつも愛されるのは可愛くて笑顔が素敵で小柄で心優しい女の子。
その隣に立っている背が高くて態度も大きい女になんか、誰も目を向けない。

「あと、胸が大きいといいのかもしれない。」
「・・・・・・は?」

私の呟きにトランプを睨んでいた男が眉間にしわを寄せる。
その男の向こうでは、一組のカップルが楽しそうに騒いでいる。

「あんたも巨乳が好きなんでしょ。」
「なに言ってんだよ。頭おかしくなったのか。」
「学年主席の子よりは、すごいね、知らなかった、って褒めてくれる女の子の方が好き?」
「さっきから訳わかんないこと言うなよ。」

もうすぐ四時になる。
旧校舎の三階、元理科室。ところどころぼろくて、歩くたびにギシギシ音が響くような場所。
ババ抜きをしようと言い出した張本人は、早々と抜けて彼女とイチャイチャしている。
笑顔が絶えない二人を見て、息を吐いた。

「さっさと引いてよ。」
「うるさい。これで負けたら、ジュース奢りだろ?ふざけんな、小遣いもまだ貰ってないし、給料日もまだ先なんだよ。」

目の前の男が貧乏揺すりを始める。机が揺れるからやめてほしい。
私達はこう見えて、親友だ、たぶん。
私は可愛い女の子の、こいつは黒髪が似合う男の親友でもある。
そして、当て馬でもある。
積極的で真剣になると止まらない男は私の親友に恋をした。
物静かで色気と爽やかさを持ち合わせる男に私は恋をした。
そして、私が好きになった男は私の親友に恋をして、うぶな男が恋をした私の親友は切れ長の目をした男に恋をした。
三角関係にならなくてよかった、と振り切れた今ではそう思える。
まあ、親友が彼に恋をした時点で、私に勝ち目などなかった。
男みたいだと笑われることが昔から多かった。
父さん譲りの濃い顔と高い身長のせいだ。名前も女か男か分からないからちょっと嫌だったこともある。

「・・・・・・仕方ないよねえ。」
「お前、病院行くか?」

私達の学校生活が少女漫画か恋愛小説なら、結ばれるのは親友と彼だと最初から決まっていたはずだ。
かよわい子を置いて、強気な女とイケメンが結ばれる話なんて見たことない。
仕方ない、仕方ない。
まあ、私は吹っ切れた。人のものには興味無いのだ。
けど、目の前で私の心配をし始める男はどうなのか知らない。
当て馬同士、慰め合ったこともある。
私の親友は思わせぶりなところがある。だから、こいつはよく勘違いしていた、可哀想に。
それに比べて彼は、分かりやすい。誰が好きなのか、誰を愛しているのか。一目瞭然だ。私は変な期待をせずに済んだ。
そういうところも好きだったことは誰も知らない。

「ねえ、二人でジュース買いに行かない?」
「は?」
「二人きりにさせてあげないと可哀想じゃん。」
「・・・・・・ああ、なるほどな。」

男はあからさまにため息を吐く。

「当て馬って辛いなあ。」
「うん、仕方ないよ。だって、あの子が二股するのも嫌でしょ?」
「それはそうだけどさ・・・・・・。」
「分かってるなら、そんな落ち込まないでよ。」
「・・・・・・。」

男は唇を尖らせながら席を立つ。
その音に反応した二人がこちらを見る。

「勝負、決まった?」
「あー、いや、決まりそうにないから、二人で買ってくるね。」

私の言葉に親友は嬉しそうに口角を上げた。
可愛い。私が本当に男だったなら、簡単に落とされていた気がする。
男が顔を背けた。あからさまだ。茶髪から覗く耳は少し赤くなっていた。
ほら、愛されるのはいつだって、可愛い女の子だ。
誰も、私なんか視野に入れてくれない。

「行ってくるね。」
「行ってらっしゃい。」
「ほら、行くよ。」

男の手を引く。
わざとらしくため息を吐いてみたって、なにも言わない。
触れる手が熱い。
可愛らしく言えたらいいのに。
次の恋に切り替えてみたら?ほら、私とかどう?って。
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