第1話
文字数 1,967文字
まだ夜が明けない暗い駅のホーム、私は一人佇んでいた。大学に進学が決まり、田舎街から朝一番の電車に乗って都会に出るのだ。3月、早朝のホームは吹きさらしの風が強く、口から漏れ出る白い息が風に溶けていく。
私が都会の大学に決めたのは、この街での思い出を捨て、遠く華やかな所に行きたかったからだ。
私は幼馴染で一歳上の従兄、遥斗に振られた。いや、振られる以前の話かもしれない、告白すらしていないのだから。遥斗は私の親友である和葉に告白された。私は以前から和葉が遥斗のことを好きなのは知っていた。相談されていたからだ。私は彼女に自分も遥斗が好きなことを言い出せず、つい、応援するよ、と言ってしまった。
そして、二人の事は、私が仲立ちしたことが大きい。自分で自分の首を絞めるとはこのことだ。
遥斗と私は、家が近所で親同士の仲がいいこともあり、小さい時からいつも一緒だった。優しく、頼りがいのある遥斗は、私には眩しく、憧れの存在でもあった。引っ込み思案で泣き虫の私をいつも庇ってくれ、「瑞希、僕がいつもいるから大丈夫だよ」と、頭を撫でてくれた。私にとっての遥斗は王子様で、ヒーローで、幼心にも愛しい人だった。
中学生になり、私は遥斗と一緒にいることが恥ずかしくなってきた。私の中に変な色気が出てきたのだろう。遥斗は今まで通りに私に接してくれていたのだが、私の方が避けてしまった。
遥斗は急におかしくなった私の態度に少し困惑したようだったが、私を問い詰める事もせず見守ってくれた。そんな遥斗に対し、なんで無理やりにでも私と一緒にいてくれないのだろう、などと勝手なことを思っていた。そして遥斗は結構人気者なので、いつも周りには友達がおり、その様子を見てまた私はヤキモチで塞ぎ込んだ。
そんな中、私は体調を壊して学校を休んだ。自分で蒔いた種ではあるが、精神的な負担もあったのだろう。天井を見上げながら、このまま学校に行けなくなるかな、とふと思ってしまった。
すると部屋のドアがノックされ、遥斗が入ってきた。
「瑞希…、大丈夫か?どこが悪いんだ?」
心配そうに私の顔を覗き込む遥斗を見て、私は恥ずかしくなり布団にもぐった。
「う、うん…、ただの風邪だよ」
「そうか…。何かして欲しいことは無いか?」
「特には…」
抱きしめて欲しいなんてとても言えない。それに、私は昨日からお風呂に入っていない、それも恥ずかしく、遥斗の顔が見られなかった。
「遥斗…、私、お風呂入って無いし、恥ずかしいから…」
帰って、と言おうとした時に、遥斗がニッコリ笑って言った。
「わかった、体拭いてやるよ」
「ば、ばか!」
「なんだよ、俺たちの仲だろ」
遥斗は部屋を出ていき、しばらくして洗面器とタオルを持って来た。
「さ、拭いてやるよ」
「ちょ、ちょっと!」
「なんだよ。風呂だって一緒に入ってただろ。ほら起きなよ」
遥斗は私を抱き起すと、パジャマのボタンを外し始めた。
「だ、だめ!エッチ!」
「何がエッチだよ、ホレ」
遥斗の手が私のパジャマを剥ぎ取った。私は慌てて胸を隠し、遥斗に背を向けた。
「じゃ、じゃあ、背中だけ拭いて」
「はいはい。あれ、瑞希、ちょっと痩せたか?ちゃんと食べろよ」
「うん…」
しかし、心配そうにしている遥斗には、女を磨くためにダイエットしてるとは言えなかった。きっと、遥斗はそんなことしなくていい、と言うからだ。
この見舞いをきっかけに、私はまた遥斗と一緒にいるようになった。変に意識することをやめ、昔のように、自然体で。
高校、私は遥斗がいる高校を目指し、合格した。高校生の遥斗は、より素敵になっていた。女子は遥斗に憧れを抱いていたが、遥斗は私には特別な笑顔をくれた。私も遥斗に素直に頼るようにしていた。
しかし、親友の和葉が、遥斗のことを好きだから協力して欲しいと言ってきた時から、私の想いは乱れた。そして気が付けば、私は遥斗の横から去り、和葉にその位置を与えていた。
遥斗は地元の大学に合格した。私は遥斗への想いを断つため、都会の大学を志望し、そして合格した。
遠くから電車の音がする。これに乗れば私は変われる、そう思った時、涙が自然と出て来た。
遥斗に、会いたい…。
「瑞希!」
ホームを走る音と、私を呼ぶ声が聞こえた。
「遥斗!どうして…」
「お前こそ、俺に黙って…」
「だって、和葉が…」
「あの子とは恋人じゃない。友達でいいからと言われただけだ。お前が勝手に誤解して…」
「だって、和葉は何も」
「俺とあの子とどっちを信じるんだ。瑞希はいつだって勝手に決める。俺は昔言ったはずだ、そばにいるって」
「でも…」
遥斗はいきなり私を抱きしめた。
「いいから、行くな!」
私の目からまた涙が溢れた。哀しいものではなく、幸せな涙が…。
私が都会の大学に決めたのは、この街での思い出を捨て、遠く華やかな所に行きたかったからだ。
私は幼馴染で一歳上の従兄、遥斗に振られた。いや、振られる以前の話かもしれない、告白すらしていないのだから。遥斗は私の親友である和葉に告白された。私は以前から和葉が遥斗のことを好きなのは知っていた。相談されていたからだ。私は彼女に自分も遥斗が好きなことを言い出せず、つい、応援するよ、と言ってしまった。
そして、二人の事は、私が仲立ちしたことが大きい。自分で自分の首を絞めるとはこのことだ。
遥斗と私は、家が近所で親同士の仲がいいこともあり、小さい時からいつも一緒だった。優しく、頼りがいのある遥斗は、私には眩しく、憧れの存在でもあった。引っ込み思案で泣き虫の私をいつも庇ってくれ、「瑞希、僕がいつもいるから大丈夫だよ」と、頭を撫でてくれた。私にとっての遥斗は王子様で、ヒーローで、幼心にも愛しい人だった。
中学生になり、私は遥斗と一緒にいることが恥ずかしくなってきた。私の中に変な色気が出てきたのだろう。遥斗は今まで通りに私に接してくれていたのだが、私の方が避けてしまった。
遥斗は急におかしくなった私の態度に少し困惑したようだったが、私を問い詰める事もせず見守ってくれた。そんな遥斗に対し、なんで無理やりにでも私と一緒にいてくれないのだろう、などと勝手なことを思っていた。そして遥斗は結構人気者なので、いつも周りには友達がおり、その様子を見てまた私はヤキモチで塞ぎ込んだ。
そんな中、私は体調を壊して学校を休んだ。自分で蒔いた種ではあるが、精神的な負担もあったのだろう。天井を見上げながら、このまま学校に行けなくなるかな、とふと思ってしまった。
すると部屋のドアがノックされ、遥斗が入ってきた。
「瑞希…、大丈夫か?どこが悪いんだ?」
心配そうに私の顔を覗き込む遥斗を見て、私は恥ずかしくなり布団にもぐった。
「う、うん…、ただの風邪だよ」
「そうか…。何かして欲しいことは無いか?」
「特には…」
抱きしめて欲しいなんてとても言えない。それに、私は昨日からお風呂に入っていない、それも恥ずかしく、遥斗の顔が見られなかった。
「遥斗…、私、お風呂入って無いし、恥ずかしいから…」
帰って、と言おうとした時に、遥斗がニッコリ笑って言った。
「わかった、体拭いてやるよ」
「ば、ばか!」
「なんだよ、俺たちの仲だろ」
遥斗は部屋を出ていき、しばらくして洗面器とタオルを持って来た。
「さ、拭いてやるよ」
「ちょ、ちょっと!」
「なんだよ。風呂だって一緒に入ってただろ。ほら起きなよ」
遥斗は私を抱き起すと、パジャマのボタンを外し始めた。
「だ、だめ!エッチ!」
「何がエッチだよ、ホレ」
遥斗の手が私のパジャマを剥ぎ取った。私は慌てて胸を隠し、遥斗に背を向けた。
「じゃ、じゃあ、背中だけ拭いて」
「はいはい。あれ、瑞希、ちょっと痩せたか?ちゃんと食べろよ」
「うん…」
しかし、心配そうにしている遥斗には、女を磨くためにダイエットしてるとは言えなかった。きっと、遥斗はそんなことしなくていい、と言うからだ。
この見舞いをきっかけに、私はまた遥斗と一緒にいるようになった。変に意識することをやめ、昔のように、自然体で。
高校、私は遥斗がいる高校を目指し、合格した。高校生の遥斗は、より素敵になっていた。女子は遥斗に憧れを抱いていたが、遥斗は私には特別な笑顔をくれた。私も遥斗に素直に頼るようにしていた。
しかし、親友の和葉が、遥斗のことを好きだから協力して欲しいと言ってきた時から、私の想いは乱れた。そして気が付けば、私は遥斗の横から去り、和葉にその位置を与えていた。
遥斗は地元の大学に合格した。私は遥斗への想いを断つため、都会の大学を志望し、そして合格した。
遠くから電車の音がする。これに乗れば私は変われる、そう思った時、涙が自然と出て来た。
遥斗に、会いたい…。
「瑞希!」
ホームを走る音と、私を呼ぶ声が聞こえた。
「遥斗!どうして…」
「お前こそ、俺に黙って…」
「だって、和葉が…」
「あの子とは恋人じゃない。友達でいいからと言われただけだ。お前が勝手に誤解して…」
「だって、和葉は何も」
「俺とあの子とどっちを信じるんだ。瑞希はいつだって勝手に決める。俺は昔言ったはずだ、そばにいるって」
「でも…」
遥斗はいきなり私を抱きしめた。
「いいから、行くな!」
私の目からまた涙が溢れた。哀しいものではなく、幸せな涙が…。