その必要は、もう、無いみたいですね

文字数 1,131文字

 震度6強の地震と季節外れの超大型台風が、ほぼ同時に首都圏を直撃してから約1ヶ月。
 社会インフラは何とか回復し、日々の生活も元に戻りつつ有った。
 繁華街の駅前のビルに設置されている大型モニタでは、TVニュースが流されていた。
『都知事……災害中の「災害による混乱に乗じて、オタクが性犯罪をやろうとしている」と云う発言が差別的だとの指摘が有りますが……』
『そんな過剰なポリコレが当り前になったら、言いたい事も言えなくなるだろ。君は報道機関の人間なのに、表現の自由への侵害を肯定するのかね?』
『そう云う問題ではなくて……その……』
『あの発言を不快に思った人が居れば、そりゃ、お詫びもするよ。でも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()
 俺は、その都知事の発言を聞いて、心臓が高なり、呼吸は荒くなり、目の前は真っ暗になり……。
「あの……大丈夫ですか?」
 パニック障害を起こして、その場に座り込んだ俺に、通行人が声をかけてくれた……。
 だが……。
「お巡りさんっ‼ この人、オタクですっ‼」
 えっ?
「WEBで写真を見た事有ります。twitterに『いつまでも女どもが、俺達オタクじゃなくてウェ〜イどもばかり選んでると、いくら温厚な俺達だって最後には怒るぞ』とか『エロコンテンツを規制すると、その内、性犯罪が増えるぞ』とか、犯罪予告を書き込んでた人です‼」
 あ……し……しまった……。犯罪予告では絶対に無いが、思い当る書き込みは山程……。
「おい、手は頭の後に……膝をつけっ‼」
 ま……待て、どうすればいいんだ?
「逃亡すると、射殺するぞ‼」
 だから逃げてな……いや……ひょっとして……あっ……。
 どうやら、俺は、無意識の内に走り出していたらしい。
 大慌てで走っていた俺は、交差点で、横から突っ込んできたトラックに跳ねられ……。
 あれ? このまま異世界転生なんて都合のいい事は起きないよな……。
 たしかに、都知事の言ってる事は正しいかも知れない。
 オタク差別の発言をしたって、不快に思うヤツは少なくとも首都圏には……居たとしても極少数だろう。
 だって、都知事のあの発言のせいで、災害による混乱の最中に、首都圏のオタクのほとんどは……性犯罪者予備軍として警官や「自警団」に狩られたか……さもなくば、身の危険を感じてオタクから足を洗ったのだから。
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