第2話 虫との対峙 その2

文字数 1,820文字

 虫がとても苦手な人は読まないでほしい。
 第1話よりゾワゾワさせてしまうと思う。

 では本題。
 時を遡ること3年前。2018年冬。平昌オリンピックの頃の話である。
 私は冬季オリンピックではカーリングの試合を見るのが好きだ。私自身はカーリングをやったことはないし、普段も試合を見ることはない、にわかファンで語るのも忍びないのだが…とにかくオリンピックとなると熱心に応援させてもらっている。平昌オリンピックでは、女子チームが話題を集め、「モグモグタイム」とか「そだねー」などの言葉も流行ったので記憶に残ってる人も多いのではないだろうか。
 女子チームの試合のある日、私は実家に帰っていた。試合は夜だったかと思う。その夜は妹も帰ってきていて、2人でテレビに見入っていた。
 そのうちに私も何だかカーリングをやりたくなり、家にあったクイックルワイパーをブラシに、ガムテープをストーンに見立てて、CM中など試合が進んでいない間に妹となんちゃってカーリングを始めた。私も妹も成人した良い大人だ。ただのアホである。どうも妹と一緒になると小学生みたいなことをしてしまう。
 妹はガムテープを手に持ち、片膝を立ててしゃがみ込み、ガムテープを前に送り出す真似をする。もちろん氷を上ではないので、ガムテープは滑っていかない。というか、畳なので全く動かない。そのため妹はしゃがんだまま小刻みにちょこまかと足を動かしてガムテープを前に進める。そして、今度は私がクイックルワイパーでガムテープの前の畳を擦りながら、私たち以外には見えないハウス(ゴールというか的)を目指す。
 ノリのいい妹は「うおー!うおー!」「やー!」とか掛け声をかけてくる。それに合わせて私も必死に擦る擦る。(…畳が傷つくからやめてください。)私たちは本物の試合も見守りながらも自分たちの試合にも大盛り上がり。キャーキャー笑いながら楽しい時間を過ごしていた。
 だが、突然その楽しい時間を一瞬で消し去る刺客が現れた。今度は私がガムテープを前に送り出す体勢に入った時だった。ガムテープの先に突然黒い何かが降臨した。え…。突然のことで何が起きたかわからない。何かいる!しかし、瞬間的に目を逸らしてしまい、一度目は確信が持てなかった。嫌なのにすぐにもう一度目を向ける。で、出たーーー!!!
 Gだ!!!!Gと言う言葉は恐怖を招く。少しでも柔らかく描写したいので以下「じさま」と表現することにする。なんだかどこかのお爺みたいで怖さが半減しただろうか。「じさま」といえばわかる人はわかるかな。秋から始まる2期が楽しみ。鋼牙と菖蒲ちゃんまた出てきて欲しいなあ。…話がズレすぎた。本題に戻る。
「じさま」と私との距離20センチ程。突然、しかも至近距離での対峙。私は叫んだ。が、ぱくぱくしてしまい、大きな声は出ない。さらに次の瞬間、しゃがみ込んでいた私の背中に何が乗った。お、重い!!
 正体は妹である。すぐ隣でクイックルワイパーを握っていたはずの妹が私に覆い被さるように乗ってきたのだ。お、重いよ!!この状況から逃げたいのに身動きが取れない。妹も「じさま」に気が付いたのか、パニックになっていて私の背中にしがみついて、ギャーギャー!言ってる。
 おいおい、なぜ私の上に乗るのだよ。
 キッチンにいるはずの母を必死に呼ぶ。「ママー!!!来てー!!!早く!!た、助けて…」だが、母がなかなか来てくれない。私の息絶え絶えのSOSが妹の絶叫にかき消されて届いていないのだ。何度も呼ぶ。必死に掠れ掠れ呼び続ける。ようやく母が来てくれて、指を指して伝える。母はすぐに理解し、どうやったかはわからないがささっと片付けてくれた。妹が覆い被さって暴れているので顔が上げられなかった。
「なんで早く来てくれないのー!」と母に対処してもらっておきながら文句を言う私。「ぎゃーぎゃー煩くて、ただふざけてるのかと思ったけど、あんまりうるさいから近所迷惑になるからやめなさいって言おうと思って来たのよ」と母。
 ちなみに、母が見た時は「じさま」はすでに死んでいたらしい。私たちがあまりに煩くて真冬なのに天井から落ちてきたのだろうか。よくわからないが、とにかく怖かった。
 でも、一番よくわからないのは妹。
「じさま」を一瞬たりとも見なかったらしい。
 私の異変に気付いて状況を読み取り、恐怖に駆られて私に覆い被さったらしい。見てもないんかい。それでよくもあんなに叫べるわ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み