第3話

文字数 1,617文字

 この国の人口推移は、生まれてくる子供の減少と高齢者の激増に偏在していて、経済を支える現役世代の負担は増すばかりだ。「百年安心プラン」といわれた年金システムは、いずれ崩壊するか破綻するかもしれない。
 政府は、高齢者が老後に必要な資金を二千万円は必要だと言って警鐘を鳴らしていたが、最近は四千万円に数値が変化して、国民の不安を助長させている。政治屋の無能ぶりを自分自身で訴えて恬淡として恥じることがない。あるいは官僚の掌の上なのかもしれない。所得倍増がいつの間にやら資産所得倍増へと変質して市場への投資を勧めているが、それで国民の資産が減少したとしても、政府は知らぬ存ぜぬをつき通すだろう。投資と投機の違いやリスクを説明することもなく、その違いもわからないままに、国民の資産は吸い上げられていく。減少した資産は補償されることはない。つまりは、自己責任なのだ。
 今現在金銭的にゆとりがあるのは高齢者だろう。若者は日々生活していくのに汲々としていてあまり余裕がない。若者の親世代のそのまた親の世代は団塊の世代と呼ばれている。団塊の世代と呼ばれた第一次ベビーブームの子供たちは団塊ジュニアと呼ばれ、これは第二次ベビーブームの子供たちのことを指すのだが、大人になり結婚をして、子供を産み、育てるのが当たり前だった世代の話だ。
 今の子供たちは生まれた時から不景気で、それをずっと引きずったままで、バブルなどといわれて浮かれていた頃の話など昔話のようにしか思ってはいないのではないか。昨今、史上最高の株高や円安も手伝って、大手輸出産業界は空前の収益を上げており、一喜一憂している大人を見ていると、とても浮かれてなどいられる状況なのかと冷めた目で見てしまう。株の値が上がったとしても、なんら新しい技術を生み出したわけではないし、円の価値が下がり続けるのも一部投機家が金利の安い日本円を投げ売りしているだけでしかない。とても喜んでいられる状況では決してないと思うのだ。
 少年は考えていることがあった。近未来の世界を舞台とした映画やアニメや漫画などを見ていると、手首に時計のように巻いた端末で中空にホログラムが表示され、様々なデータを表示したり、相手と話をしたりできるモノのことを。これが今現在ある技術で製造し、実用化できるほどの性能を有したモノを完成させることが叶えば、更にすべての人がこの端末を利用するようになれば、世界を動かすくらいのゲーム・チェンジャーになり得るのではないか。そうなれば、スマートフォンは駆逐されるだろう。そのような日が来れば、ジャパン・アズ・ナンバーワンといわれた過去の栄光をふたたび手に入れ、誇りを取り戻し、世界から賞賛される国になれるかもしれない。
 偉大な先達たちの空想の産物の実現は、現時点では不可能なのだろうか。冷静に考えれば夢物語だなと少年は思った。自分は単なる夢想家なのかもしれないと呆れてしまった。可能ならば、すでにできているはずだ。できていないのはできないだけの理由があるのだろう。明確で異論を差し挟む余地がないほどに、技術の進化がまだそこまで達していないのだ、と。
 少年は大きく息を吐き出した。
 少年の思考はいつもこのようにとっ散らかってしまう。一つのことを考えていると、際限なくあちこちに飛び火してしまい、最初はなにについて考えていたのかまで忘れてしまうことがよくあった。少年は自分がなにを考えていたのかを思い出すことにした。
 たしか、夢のことを考えていたはずだ。いや、違う、そのことはもう片がついている。あの既視感をともなった記憶は、今の自分が見ていた夢なのだ、と。そうだ、それでいい、はずだ。しかし、と少年は、また余計なことを考えてしまいそうだった。
 とにかく今は学校だ。これが現実だという証拠を一つでも多く見つけ出すことに集中すべきだろう。そうすれば、不安もいくらかは治まるはずだ。
 少年は深く頷いた。
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