第1話

文字数 928文字

 クリスマス料理は好きになれない。年寄りには脂っこい。肉もケーキもピザも。

 クリスマスイブ、俺は清掃の仕事を終えた後、スーパーを見ていたが、目立つ所はケーキの山。惣菜コーナーはチキンとピザの山だった。

 正直、俺も妻もこういうハイカラなものは好きではない。

 妻は最近膝の具合が悪く、少しでも元気付けたいのだが、何を買って帰れば良いのやら。

 店内は「もろびとこぞりて」もかかっているが。

「主はきませり、主はきませり♪」

 歌詞をよく聞くと、どう考えてもイエス・キリストを待ち望んでいる歌だ。多くの日本人には関係ないはずだが、これで良いのだろうか。

 そんな事を考えても、買うものが決まらない。寿司や天ぷらは年末年始に便乗値上げしているのも気が引ける。

「うーむ」

 スーパーよりコンビニ行っても良いかもしれない。コンビニに売っているおにぎりと納豆巻きも案外美味しいし。

 店内から出る。「もろびとこぞりて」の音も遠ざかっていくが、駐車場にフードトラックが出店しているのに気づく。

 焼きそば専門店のフードトラックだった。真っ赤な車体が派手だが、ソースのいい匂いがする。

 クリスマスに焼きそばってアリか?

 チキンにケーキ、ピザが苦手な俺はアリだと思う。妻も焼きそばは好きだったし。

 値段はちょっと高いが良いか。フードトラックというレア感、それにクリスマスムードで財布の紐が緩む。「もろびとこぞりて」の明るい曲調は、やはり気分は上がるものだ。

「どうも、ありがとうございます」

 店員から二人分の焼きそばの入った袋を受け取る。出来立てを透明なフードパックにぎゅうぎゅうに詰めて入れてくれた。焦げたソースの香りが鼻をくすぐる。

 袋の中身をチラリと覗くと、焼きそばの上の紅生姜と青のりが見える。この赤と緑のコントラストは、クリスマスらしい。焼きそばだって十分クリスマスのご馳走ではないか。

「さて帰るか」

 二人分の焼きそばを持ち、冬空の下を歩く。まだ焼きそばは温かい。冷める前に早く帰らなければ。

 焼きそばの紅生姜で口は真っ赤になるだろう。青のりで歯も汚れるだろう。

 でも、そんな事を気にせず一緒に食べる相手がいるのは、幸せな事だ。

 早く家に帰ろう。

 妻の喜ぶ顔を一刻も早く見たかった。
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