第1話

文字数 799文字

 こうして毎晩一緒に過ごすようになって三年になるかしら。体は大きいけれど無口なあなたが面白くて、ベッドに誘ってみた。はじめは、そんな悪戯心だったのに、今はわたしの方がどうしようもなく惹かれている。どうして、ここまで深く愛してしまったのだろう。あぁ、わからないふりはしないわ。いままで誰もわたしの心の奥深くまで想ってくれる人なんていなくて、とても寂しくて。誰かに本気で愛されたくて。抱かれたくて。抱きたくて。わたしだけに向けられる愛の言葉が欲しくて。今でも、あなたに抱かれるとき以外は嵐の中を彷徨っている気分なの。わたしが本当はとっても弱いオンナノコだって知ってるのって、たぶんあなただけだわ。あなたがいたから生きてこられたって言ってもいいくらい。ありがとう。愛してる。これからも、ずっと傍にいてね。あなたの優しい腕があれば、どんな嵐の夜も乗り越えていけるわ。
 ところで、最近のわたしが冷たいだなんて思わないでね。もっとベッドが大きければいいとは思うのだけど、そもそも部屋が狭いからどうしようもないのよ、わかるでしょ? だから、一晩に何度もあなたをあちこち移動させちゃって、ごめんなさいね。いまさらだけど、あなたの体が大きすぎて、それで睡眠不足なわたしがいるってのも本当なんだけど、だからってわたしの愛が縮んだわけではないのよ。だいたい、あなたの肌触りって最高に気持ちよくて、だから眠れなくても一晩中でもずっとお喋りできちゃうの。友だちは、いい加減にあなたから卒業しなよって言うけど、ぬいぐるみ愛好家のわたしが見つけた最高な肌触りを持つあなたを手放せるものですか! この世で一番心に優しいクマさん型の抱き枕、その名も「クマさん」! 好きで好きでどうしようもないクマさん。運命の出会いは三年前、それはネット通販のぬいぐるみ専門店で……ふわふわでしっとりがうたい文句の……あぁ、それは素敵な出会いだった!
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