第7話

文字数 831文字



「魔女」
 自分を抱きしめる腕のぬくもりを、こどもはぺたぺたと幼い手のひらでたどって確かめる。
 
「心配をかけたね」
 魔女がかざした杖に、大波は見る間に縮こまり――、おとなしく河面に戻っていく。

 見る間に河の流れはいつもどおり穏やかに、滔々と――。


 魔女はこどものうなじのにおいを嗅ぎ、おやと声を漏らした。
「おまえ、外のにおいがするよ。森の外に出られたんだね」
「エリンがおくすりをくれた」
 こどもは涙をこらえ、早口にしゃべる。

 魔女はこどもを抱えたまま立ち上がった。
「バカな子だ。出られたのなら、還ればよかったんだよ」
「でもね。こども、外にいくと、また失くしちゃう。だからすぐ、ここにもどってきちゃうよ」
「おまえは、なにを言っている?」
「こどもは“失せもの”をみつけたよ。わからない?」
「……さぁねぇ」
 こどもは魔女の首を、彼女が抱きしめてくれたより、もっと強く抱きしめる。



 魔女はこどもの血まみれの服を脱がせ、長い爪でつまんで河の流れに放りこんだ。
 自分のクロゼットから引っぱりだしたローブを、こどもにかぶせる。
 袖もすそも引きずって、服が歩いているようだ。

 魔女が余分な布を、ハサミで断ち切ってくれる。
 こどもは作業台の上で足を遊ばせながら、うふふと笑う。
「魔女でもわからないこと、あるんだね」
「この世は、分からない、難しいことばかりさ」

 ハサミの音が、しゃき、しゃき、心地よく耳に響く。

「そう。たとえば、おまえになんて名をつけるのがふさわしいか――。一番の難問だ」
「こどもに、なまえ!?

 魔女は下からこどもを覗き込み、くしゃりと笑う。

「そう。おまえに名を与えていいかい。私が」

 こどもは顔を太陽の陽ざしほどに輝かせた。
 魔女はまぶしそうに眼をすがめる。

「いいよ! なら、こどもも魔女になまえをつけていい?」
「いいよ。おまえとわたしだけで呼びあう、ふたりきりの名前だ」

 魔女はハサミを置き、飛びこんできたこどものつむじに、頬をのせた。

 外の世界のにおいがする。

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登場人物紹介

魔女に拾われた子ども

子どもを拾った魔女。性別年令不詳。

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