ホップ・ステップ

文字数 2,000文字

 私は手芸部に所属している朝野紬。

 部室に招待した同級生へ、私が作った衣装を見せていた。

これ、ぜんぶ朝野さんが作ったの?

ロリータ系は私が作りましたが、他は先輩たちが残した作品です

へー……他の部員は?

それが……

年々入部希望者が減り、今年は私しかいないんです

よく廃部になってないね

いえ、廃部になるんです

このままでは

 そう告げると、同級生はすぐに口をつぐんだ。

 そして同情した様子で、私を見ている。

……残念だね

こんなに上手なのに

私、まだ諦めてません!
でもいないんでしょ? 部員
だからこそ、これから入ってもらえるように活動するんです!

文化祭で!

 私の言葉に、同級生は首をかしげた。
ランウェイを開きます!

部室いっぱいに椅子を用意して!

そりゃ朝野さんの衣装は凄いけど、それで部員が増えるかな?

世の中、手先が器用な子ばかりじゃないし

そこなんです! 入部希望者が少ない理由は!

でも手先が器用じゃなくても良かったら、どうですか?

……どういうこと?
簡単な話、手芸が出来る必要は、ないんです
じゃあ手芸が出来ない部員は何するの?
衣装を着てもらいます!

私は高い敷居を、服を着るのが好きな人に入部してもらうことで

低くすることにしたのです!

でも、手芸しない部員ばかりになったら意味ないんじゃ?
正直、私がいる間に潰れなければいいので、

その辺りは考えてません

すごい自分本位だ
私は衣装を作りたいだけなので、

その為ならば自分本位であろうと頑張ります

まあ、その考え自体は嫌いじゃないけど……
そこで貴方に、お願いがあるんです
 私は誠心誠意、同級生へ頭を下げる。
どうか文化祭で、

モデルをやってもらえませんか!?

嫌です
そんな!

こんなに可哀想な感じなのに!

いや、朝野さんには同情するけど、

よく考えてみて

僕、男なんだけど
 私は首を傾げた。
それがモデルと、なんの問題が?
そりゃモデルに問題はないけど、

朝野さんが作ってるのって、女の子向けばかりだよね?

……体格は合わせますよ?
そういうことじゃない
 なかなか首を縦に振ってくれない同級生。
だいたい、どうして僕なわけ?

他にもいたでしょ、可愛い女の子

それは……
 言い淀む私に、同級生は怪訝な表情を見せる。

 少しまごつきながら、私は同級生に対する気持ちを話した。

一目惚れだったんです!
……え!?
初めて見た時から
 私の発言に、同級生は顔を赤く染める。
覚えていないでしょうが、

あの時からずっと、貴方の姿が忘れられないのです

きゅ急にそんなことを言われても!

いったい、いつ!?

…………三日前
最近じゃないか!
私は生地を買いに出かけていたのですが、

そこで貴方の姿を見かけました

 私は脳裏に浮かび上がる、彼の姿を口にした。
……長い金髪
あれ?
長い睫に、可愛らしい口紅
そういえば……三日前って……
 次第に顔色を悪くする同級生に、私は笑いかける。
服のセンスも素敵だったので、

思わず待ち受けにしちゃいました!

……ぎゃああ!?
 スマホの画面を見せた途端、同級生は大慌てでスマホに手を伸ばし、私はすぐさま手を引っ込めた。

 画面にはウィッグを付けて化粧を施した、同級生の女装姿が収められている。

…………それ、僕じゃないです
今の反応で取り繕うのは無理がありますよ
てか、なんで撮ってんの!?
見かけた瞬間「あれ? 同級生の子だ」と、

確認する為に思わず

しかも即バレ!?
安心してください

私以外に気づいた様子はなかったです…………たぶん

不確定要素残すな!

それに……脅すつもりなら、乗らないから!

 同級生の発言に、私は笑ってしまった。
そんなことはしませんよ!

この写真は、本当にただ確認の為に撮っただけですし

……どうだか

さっき部の存続の為なら何でもする的なこと言ってたクセに

もちろん、それくらいの気持ちで挑むつもりです
だったら、なんで!
……可愛い服、好きなんですよね?
それが何か?
この時とても楽しそうにしてたので驚きました

学校では、つまらなそうな顔しか見たことなかったし

……よく見てるな
人間観察が趣味なんです

それに、そういった喜びの感情などが、いっそう服を引き立てるんですよ

だから私は、

そういった人に、モデルを任せたいと考えていたのです

…………理由は分かったけど、

それなら尚更、女の子で良かったでしょ?

だから言ったじゃないですか
なにを?
一目惚れだって
…………え、あれ本気だったの?
だって素敵だったんです!

可愛い服で楽しそうに出歩く貴方が!

貴方も、本当は堂々としていたいんじゃないですか?

 すると図星だったのか、同級生は黙り込んでしまう。

 私は、もう一押しと思い、同級生へ語り掛けた。

当日は勿論メイクしてもらいますし、

仮にバレても私にさせたと言ってください

ただ貴方は、堂々としていれば良いですから!

な、なんでそこまで……?
そう聞かれ、私は即答する。
可愛い服を好きな人に、悪い人はいませんから
…………なんだそれ
 そう告げると、同級生は小さく噴き出したのだった。
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