春と山と

文字数 330文字

透明な春
窓を閉め切った部屋に
あなたは種をまいた

   山に登ろう
  少しでも神様に
 近づけるかもしれないから

白いたすきを首から下げると
風の麓に蝶々が集まってきた
靴を脱ぐと川の冷たさが伝わってくる
長い年月をかけて錆びついた自惚れが足首
 掴んでくる

空一面を覆う
青いビー玉のように
私の虚栄心は透き通っていった

頂きで涙を流すあなたは
視線のその先に
白いもやを見たと言う
その瞬間
春があの部屋に流れ込んだ気がした
せせらぎのように
風の音にかき消された
あなたの声のように

 胸の高さ
  光の速さ
   その重さ

蛇と大木と鳥居の世界で
ただそこに「在る」という世界で
問われた覚悟と
生まれた感情を
私たちはどうしても言葉にできないでいる

夕暮れ
不透明な燃え滾る赤
私はお前をいつか夢で見る気がする
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