第1話
文字数 1,324文字
「誕生日おめでとう」
「ありがと、先生!」
「君ももう中学3年生か、早いもんだな」
「そうだよ。1年後には16歳の高校生! 楽しみだなぁ~!」
「高校生は、自由度が今までよりもずっと広がるからね」
「うん! いろんなこと、やってみたいな。ねえ、先生。16歳になったら、バイトができるようになるんだよね?」
「ん? まあ、高校によると思うけど、そうなんじゃないかな?」
「先生は? 先生は、16歳のときってバイトしてたの?」
「いや。僕の高校は進学校だったからね、校則で禁止されていたよ。もっとも、許可されていても勉強と部活でいっぱいいっぱいだったけどね」
「ふうん。でもわたし、バイトしてみたいなぁ。おしゃれなカフェで、おしゃれな制服着てさ」
「いいんじゃないか? 君は明るくてかわいいし、接客業に向いていそうだ」
「えへへ、ほんと?」
「ほんとほんと」
「先生にそう言ってもらえるの、うれしいな。……あっ、そうだ! 16歳になったら、女は結婚できるんだよね? わたし、先生と結婚したい!」
「残念ながら、少し前に女の子も結婚は18歳からになったんだよ」
「えー、そんなぁ。もうちょっと早く生まれてきたかったな。あ、でもそうしたら、先生と出会うことなんてないか……」
「……18歳になったら、考えてやるよ」
「18歳、か。……ねえ、先生。わたし、16歳になれるかな?」
彼女はいつもと変わらない、明るい調子で言った……つもりなんだろう。
だけど、僕は気づいてしまった。
彼女の声が、瞳が、不安げに揺れていることに。
……そうだよな、怖いに決まっている。
中学生になってすぐ、彼女の13歳の誕生日に、彼女は余命3年の宣告をされたのだから。
研修医としてこの病院に来た時から知っている。
彼女はいつも明るく振舞っているけれど、それは周りに心配をかけないようにするため。
本当は不安で、病院のベッドの上で一人泣いている、そんな子だ。
それでも未来に希望を持って、懸命に生きようとしている。
ああ、何も考えないようにしていたのに。
そんな彼女に、僕は強く惹かれてしまったみたいだ。
『絶対に、大丈夫』
そう言って、励ましてやりたくなる。
だが、医者という立場上、不確定なことを断言はできない。
だから、なるべく感情を込めずに淡々と述べる。
「さあね。僕だって、元気に明日を迎えられるとは限らないさ。1年後のことなんて、誰にもわからない」
「……そっか。そう、だよね」
その寂しそうな声色に、胸が痛む。
それでつい、言い訳のような言葉を並べながら、言ってしまった。
「……この言葉は、医者としてではなくあくまで一人の大人としてのものだが……、信じていれば、きっと大丈夫だ。余命なんて、あくまでも予測でしかない。大事なのは、生きようとする気持ちだと、僕は思う。そしてそれは、君はもう十分に持っているんじゃないか?」
そうしたらもうあとは、祈るしかないだろう。
僕は普段、神なんて存在は毛ほども信じちゃいない。
言霊なんて非科学的なものも、あてになんかしていない。
だけど、今日だけは信じて、祈ろう。
「君もなれるさ、16歳に」
彼女が、16歳の今日を、迎えられますように。
大丈夫。信じていれば、きっと。
「ありがと、先生!」
「君ももう中学3年生か、早いもんだな」
「そうだよ。1年後には16歳の高校生! 楽しみだなぁ~!」
「高校生は、自由度が今までよりもずっと広がるからね」
「うん! いろんなこと、やってみたいな。ねえ、先生。16歳になったら、バイトができるようになるんだよね?」
「ん? まあ、高校によると思うけど、そうなんじゃないかな?」
「先生は? 先生は、16歳のときってバイトしてたの?」
「いや。僕の高校は進学校だったからね、校則で禁止されていたよ。もっとも、許可されていても勉強と部活でいっぱいいっぱいだったけどね」
「ふうん。でもわたし、バイトしてみたいなぁ。おしゃれなカフェで、おしゃれな制服着てさ」
「いいんじゃないか? 君は明るくてかわいいし、接客業に向いていそうだ」
「えへへ、ほんと?」
「ほんとほんと」
「先生にそう言ってもらえるの、うれしいな。……あっ、そうだ! 16歳になったら、女は結婚できるんだよね? わたし、先生と結婚したい!」
「残念ながら、少し前に女の子も結婚は18歳からになったんだよ」
「えー、そんなぁ。もうちょっと早く生まれてきたかったな。あ、でもそうしたら、先生と出会うことなんてないか……」
「……18歳になったら、考えてやるよ」
「18歳、か。……ねえ、先生。わたし、16歳になれるかな?」
彼女はいつもと変わらない、明るい調子で言った……つもりなんだろう。
だけど、僕は気づいてしまった。
彼女の声が、瞳が、不安げに揺れていることに。
……そうだよな、怖いに決まっている。
中学生になってすぐ、彼女の13歳の誕生日に、彼女は余命3年の宣告をされたのだから。
研修医としてこの病院に来た時から知っている。
彼女はいつも明るく振舞っているけれど、それは周りに心配をかけないようにするため。
本当は不安で、病院のベッドの上で一人泣いている、そんな子だ。
それでも未来に希望を持って、懸命に生きようとしている。
ああ、何も考えないようにしていたのに。
そんな彼女に、僕は強く惹かれてしまったみたいだ。
『絶対に、大丈夫』
そう言って、励ましてやりたくなる。
だが、医者という立場上、不確定なことを断言はできない。
だから、なるべく感情を込めずに淡々と述べる。
「さあね。僕だって、元気に明日を迎えられるとは限らないさ。1年後のことなんて、誰にもわからない」
「……そっか。そう、だよね」
その寂しそうな声色に、胸が痛む。
それでつい、言い訳のような言葉を並べながら、言ってしまった。
「……この言葉は、医者としてではなくあくまで一人の大人としてのものだが……、信じていれば、きっと大丈夫だ。余命なんて、あくまでも予測でしかない。大事なのは、生きようとする気持ちだと、僕は思う。そしてそれは、君はもう十分に持っているんじゃないか?」
そうしたらもうあとは、祈るしかないだろう。
僕は普段、神なんて存在は毛ほども信じちゃいない。
言霊なんて非科学的なものも、あてになんかしていない。
だけど、今日だけは信じて、祈ろう。
「君もなれるさ、16歳に」
彼女が、16歳の今日を、迎えられますように。
大丈夫。信じていれば、きっと。