第8話

文字数 1,196文字

言いたいことが三つある!一つ!このあいだのことを謝ろうと思ったけど生徒会に連行された!二つ!パンツとTシャツを返しにここにきた!三つ!ここへ来る途中滑って水たまりにダイブした!結果!お風呂貸して!!
僕は吹き出し、盛大に笑った。


だって、意味がわからなすぎるから。
よかったーウケて
岡田どこかは安堵した様子で微笑む。
早くお風呂行きなよ
岡田はあの無邪気な笑顔を僕に向けると、風呂場へ向かった。


一人立ち尽くし、僕はまた笑った。


淀んだ自意識の海の中。
轟音とともに呼び覚まされ、
扉を開けるとびしょ濡れの岡田。


あの時と同じ。


でも同じじゃない。


僕は風呂場へ向かおうと一歩踏み出した瞬間、今までとは違う「何か」を感じた。


脱衣場につき、パンツとシャツ、バスタオルを用意する。
ここに置いとくから。


返しに来たのにごめんな

ほんとだよ、と意地悪に答えた。

すりガラスの扉の向こうからシャワーを浴びている岡田の笑い声が水の音に混じって聞こえて来る。
シルエットがぼやけ、ただそこに岡田がいることだけがわかる。

僕は扉を見つめる。
僕が時々落ち込んでた理由教えるよ
うん

けたたましく鳴っていた水の音が止み、ピチョンピチョンと水滴が等間隔で落ちる音だけが聞こえる。


岡田がシャワーを止めたのだ。

僕の声を、言葉をちゃんと聞くために。


こういう小さな心遣いが岡田らしい。


僕、昔男の子のことを好きになったんだ
ピチョン。


自分でも驚くほどストンと口からこぼれた。

ゲイってこと?
わからない。でもそうかも。
さっき、謝ろうと思ったって言ってたけど謝らないといけないのは僕の方だよ。岡田が僕を元気付けようとしてああいうことをしてくれてるのはちゃんと分かってるし、今までも頭を撫でてくれて本当に助かってたんだ。でも、僕がゲイだって知ったら・・・もうこういうことはしてくれないだろうとか、・・・僕が僕のことを内緒にしていることがだんだん苦しくなって。・・・だって友達がゲイって気持ち悪いじゃん。今まで黙ってて本当にごめんなさい。
今まで自分の中でしか紡いでこなかった言葉たちが我先にと溢れて止まらない。


それに伴い、いつからか僕の目からは大粒の涙が溢れていた。

気持ち悪いついでに言っちゃうけどさ、あの時僕ちょっとだけドキッとしちゃったんだよ。ほんと。ごめんねこんなこと言って。
僕は気恥ずかしさと罪悪感を笑ってやり過ごす。
そういうことだから、岡田が謝ることなんて何もないし、無理して僕と一緒にいようとなんてしないで。気持ち悪かったら僕のことなんて無視してさ、あ、でも学校では僕のこと内緒にしてくれたら嬉しいかな
僕はその場から逃げ出し、部屋に戻ってベッドに倒れこんだ。


言いたいことは全部言った。
心の重荷を全てぶっ壊したのだ。
清々しく、心に風が通る感触が懐かしい。
僕は笑った。


ただ涙が止まらなかった。
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登場人物紹介

西寺ハヤテ

高校2年生。

同性を好きになった過去があり発作的に自己嫌悪に苛まれる。

岡田マモル。

高校2年生。生徒会会長。

誰にでも優しく少しバカ。

砂地アヤノ。

高校1年生。生徒会書記。

背が小さいが岡田よりも威厳がある。

金山アケミ。

26歳。西寺、岡田がいるクラスの担任教師。音楽担当。

生徒から「姉ちゃん」と呼ばれ親しまれている。

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